≪REV / EXIT / FWD≫

§烙印の天使:第13話§

メロウの都市ジャカレパグァ

著:龍神裕義 地図:もよ
▽ 真夏の航路の事 ▽ アクアマリン家の秘密の事 ▽ ペネホプに会いに行く事

真夏の航路の事

【GM】 さて、キミたちはウィスからブレインに渡るため、船上の人となったわけやね。
【ティガー】 ブレインで焼肉を食うためやな。
【ジーネ】 違うでしょ。
【GM】 頭上にまぶしい太陽、水平線の彼方に入道雲、真夏の風を帆に受けて、アイリス級輸送戦艦マーク3『シートラスト号』は、光おどる海面を滑る。マスト付近にはカモメが舞って、ついて来る。
【シルヴィア】 いいねぇ、のどかで。
【GM】 キミたちは、船倉に押し込められている。ここは通常荷物を積むところだけど、今は客室として使用されている。
【ジーネ】 わざわざ改装したのね。
【GM】 んなわけない。だだっ広いところに毛布を敷いて、大勢で雑魚寝する状況。
 とうぜん、風通しも何もあったもんじゃないから、まさに上下左右に揺れる蒸し風呂状態。汗くさー、男くさー、って感じやな。
【ティガー】 やってらんねぇ〜!
【GM】 そういうわけで、荷物を置いて寝る場所を確保したら、ジョン・スミスことファンリーは、さっさと甲板に上がってしまう。
【ジーネ】 私もついて行くわい。
【GM】 ちなみにファンリーは、乗り物酔いする質なので、甲板に出ると日陰でのびている。
【ティガー】 俺も外に行こっかなぁ。船倉には、人がいっぱいおるの?
【GM】 少なくはないよ。向こうではカードに興じる4、5人の集団があって、一喜一憂している。
「ブレイン・カジノの前哨戦である!」「隊長っ、がんばるであります!」
【ティガー】 どっかで見たな(笑)。ポンと肩を叩いて、「よく会うねぇ」と声をかける。
 んで、一緒にカードゲームして、隊長をいじめてよっと。
【GM】 「うるさいのである! 向こうに行くのである!」
【ティガー】 「俺もカードやるぅ〜」
【シルヴィア】 僕はトレーニングでもしてるよ。
【ティガー】 暑苦し〜!
【GM】 周囲からも同様のブーイングが起こる。「外でやれぇー!」
【シルヴィア】 しょうがない、甲板に出るよ。
【GM】 外に出たシルヴィアは、甲板をデッキブラシで一所懸命こすっている、50代ぐらいの肌色の悪いおっさんに気づいた。
 その背に負われたニョムヒダの像が、弾みで「にょ〜、にょ〜」と泣いている。
【ティガー】 サンチョスか……どんな船やねん!(笑)
【シルヴィア】 隊長、サンチョスと、オールスターやな。
【ジーネ】 カバンタがおらん。
【ティガー】 この船のどこかにいるかも。椅子がかじられてたら、絶対乗ってる。
【シルヴィア】 船につきものの舳先に座ってるじいさんが、じつはカバンタとか。
【ジーネ】 いるの、そういうじいさん?
【GM】 いるよ。「間もなく嵐が来る〜」とか言ってる、小汚いじいさんなら。
 そんなこんなで時間は過ぎて、夜になりました。夜になると、まあ、居住性は最悪だけど、船倉に戻って寝てもらうことになる。
【シルヴィア】 じゃあ、戻ろう。
【GM】 いちおう、船倉には、ランタンがいくつかぶら下がってる。だけど、小さな明かりが、半端に室内をほの暗く照らすもんだから、余計に不気味な雰囲気だったりする。
【ティガー】 うわ〜い。
【GM】 そのうえ、夜になっても、蒸し暑いのは変わらない。
 幾度も無意味な寝返りをうって、ようやく寝つけるかと思ったら、耳元を蚊が「プ〜ン」と飛んできたりする。その羽音がすぐ間近で消えたりすると、反射的に自分で自分の顔を叩いてしまう。
【ティガー】 でも、「プ〜ン」って逃げていかれて、「はずれか!」って思うんやな。
【GM】 まあ、そんな状況下でも、寝れる奴は寝れるらしい。向こうのほうから盛大ないびきや、豪快な歯ぎしりの音が聞こえてくるから。
【ティガー】 たぶん、隊長や。
【GM】 そういうものすべてを包んで、船は夜の海を滑る。
 船体の揺れに合わせて、室内のランタンもぶらぶら揺れる。アイリス級輸送戦艦は腰が軽い娘なので、簡単に波に煽られて、前後左右に身をよじる。
 だんだん揺れは激しくなり、ファンリーは、たまらず甲板に向かった。晩飯に食べたものを、魚に与えに行くんやろね(笑)。
【ジーネ】 同じく私も行きます。いま、ファンリーをひとりにはできない。彼氏もついてこんかぃ!
【シルヴィア】 ティガーは、めっちゃ寝つきよさそうな気がするけど。
【ティガー】 うん、たぶん寝てるで、こいつは。寝言とか言ってそう。
【GM】 「むにゃむにゃ、ファンリー」とか、おもいっきり本名言うてそうやな(笑)。
【ティガー】 たぶん言うてるけど、寝てるから知らんねん。寝言は治外法権。
【シルヴィア】 シルヴィアも寝てるやろな。トレーニングして疲れてるから。
【GM】 ということで、男ふたりは寝てるわけね。でも、たぶん、じきに目が覚めると思うよ。元からひどい船の揺れが、さらにひどくなってくるから。
 外に出たジーネは、よくわかる。生ぬるい風が、徐々に強くなってきている。
【ジーネ】 台風かぃ!
【ティガー】 爺ぃの予言が当たったんや。
【GM】 ジーネの鼻に、温かい雨がポツンと当たった頃には、風がありとあらゆる方向から吹き荒れるようになっている。
【ティガー】 じゃあ、起きてみる。そんで甲板に出ようと、扉を開ける。
【GM】 その途端、狂ったような風が吹き込み、雨と波しぶきが船倉に飛び込んできた。
【ティガー】 「うわ〜、濡れた〜。なんじゃ、こりゃあ!」
【GM】 そのとき、カンカンカンと半鐘が叩き鳴らされ、船倉の奥の船室から、たいまつやランタンを手にした船員たちが飛び出してくる。デッキブラシのおじさんも、ダッシュで続く。
【ティガー】 ニョムヒダを背負いながら?
【GM】 背中のニョムヒダは、はずみで「にょ〜、にょ〜」と泣いている。それを見た船倉の冒険者たちは、「なんだ、あの像は?」と、ざわついたりしてる。
【シルヴィア】 僕は半鐘の音で目を覚ましたよ。ティガーが甲板に出ようとしてるのを見て、船員たちに続いて、甲板に出ようとする。
【GM】 さて、すでに甲板にいたジーネとファンリーは大変や。
 荒れ狂う波間を木の葉のように舞う船は、右へ左へ、垂直になったんちゃうかと思うほどにかしぐから。
 さて、ここで確認しとくけど、丸腰で甲板に出たというひとは、正直に手を挙げてください。
【ジーネ】 こんな他に冒険者ばかりがいるところで、丸腰なわけないやんか〜。しっかり、フル武装しとります。
【GM】 チェイン・メイルも着てるんやな? 鎧なんて、着るのにかなりの時間がかかるはずやけど。まさか「鎧を着たまま寝てた」なんて、寝言を言わへんやろな(笑)。
【ジーネ】 何と言われようと、着とる!
【ティガー】 俺は、カルファンの剣は持って出た。でもな、暑いから、鎧は脱いだままやった。
【シルヴィア】 僕はソフトレザーだから、即座に着用できるでしょう。それにメイジ・スタッフを持って、サンチョスに続いてます。
【GM】 現在、甲板上にいるのは、ジーネとファンリー。ティガーは、扉を開けたところ。
 では、船が大きく傾いたところに、甲板を洗う滝のような波が、上から降ってくる。波の直撃を受けたジーネとファンリーは、踏ん張っていられたかどうか、ダイスでチェックをしてみよう。
【ジーネ】 (ころっ)失敗したよ。
【GM】 じゃあ、荒れ狂う海に落っこちた。
【ティガー】 チェイン・メイルで?
【GM】 「着てる」と明言したからね。そりゃ、もう、即座にまっすぐ、とどまることなく沈んでいく。
 ちなみに、ファンリーも失敗してるので、一緒に落ちた。ファンリーの装備はクロースだけど、彼女は泳げないので、やっぱり溺れる。
 甲板への出口にいるティガーの耳に、「女がふたり、海に落ちたぞーッ!」という、船員の怒鳴り声が聞こえる。
【ティガー】 「きっと、ファンリーや」と思って飛び込む。
【GM】 飛び込むのね。飛び込んでから気づいたけど、辺りは真っ暗で、何も見えませんぜ。
【ティガー】 明かり〜。
【GM】 いちおう、ティガーの後ろにいた船員たちが、照明を持って出たから、かろうじて周りが見えるかな。
 向こうのほうで、ファンリーがもがきながら、浮き沈みしてる。ちなみにジーネの姿はなく、ジーネが落ちた付近で、泡がポコポコ浮いてくるだけ(笑)。
【ティガー】 とりあえず、ファンリーを助ける。近づける?
【GM】 彼女までの距離は、約15メートルほど。いつもなら何でもない距離だけど、状況が状況だけに、3ラウンドはかかると思ってくれ。
 というか、その間にティガーでさえも、溺れる可能性があるけど。
【ティガー】 がんばる。
【シルヴィア】 僕は甲板に出れた?
【GM】 出られたよ。シルヴィアの直前に甲板に出たデッキブラシのおじさんは、「む! ファンリーさんが危ない!」と叫んで、かっこよく海に飛び込む。その背では、ニョムヒダの像が涙を引いている。
【ティガー】 雨か涙かわからへん(笑)。
【GM】 おじさんは、ちょうどティガーの近くに着水した。で、「ティ、ティガーさん、助けてください!」と、溺れながら叫んでるよ。
【ティガー】 何しに来てん!
【ジーネ】 沈みながらでも、鎧は脱げる?
【GM】 試みることはできる。
【ジーネ】 じゃあ、脱ごう。でもなあ、このチェイン・メイル、後で回収できるかしら?
【ティガー】 絶対、無理。
【ジーネ】 紐で縛って、持って行こうかな。
【ティガー】 それって、紐に重りがついただけ(笑)。引っ張られて沈んで行くで。
【シルヴィア】 錨やな。
【GM】 ジーネは、鎧を脱ぎたいのなら、まずは成功ロールをやってみてくれ。
 ──それは失敗やね。では、鎧は脱げずに、さらに沈んでゆく。
 その頃、甲板には、荒れる波の第2撃が襲いかかってくる。シルヴィアは、踏ん張れたかどうかのチェックをどうぞ。
【シルヴィア】 (ころっ)失敗。
【GM】 あらら、これで全員、海に落ちたな。んじゃ、もういいや。
 全員、波に呑まれて溺れた! やがて意識を失って、世界が暗転する……。

アクアマリン家の秘密の事

【GM】 (ころっ)ジーネとシルヴィアは、目を覚ましたよ。
【ジーネ】 私もおるの? すごいな〜、どんどん沈んでいったはずやのに、どうやって引き上げられたんやろ(笑)。
【GM】 『引き上げられた』? 何のことかね?
【シルヴィア】 GM、僕たちは、どこにいるの?
【GM】 少なくとも、空気があるところ。見回してみると、どうやら部屋のようやね。天井が青白く光っている。
【シルヴィア】 ジーネ以外の仲間は?
【GM】 そばで横たわってるよ。ティガー、ファンリー、デッキブラシのおじさんがいる。
 部屋の奥には、ジーネのチェイン・メイルとモーニングスターとスモール・シールド、ティガーのツヴァイハンダー、シルヴィアのメイジ・スタッフ、そして、ニョムヒダの像が立てかけられている。
【ジーネ】 チェイン・メイルはなくならなかったのね。ラッキー♪
【ティガー】 隊長はいないの?
【GM】 いないよ。隊長は、船倉で「うわ〜、嵐であるー!」と叫んでいて、衛兵Aに「隊長、だいじょうぶであります!」と、励まされてたから。
【シルヴィア】 部屋の様子はどんな感じ? 仲間と装備品以外に、何かある?
【GM】 いや、何もない。窓も扉もない。部屋の隅っこの床に、下におりる階段があるぐらいかな。
【シルヴィア】 みんなを起こしてあげよう。
【ティガー】 じゃあ、起こされてみた。
【GM】 ファンリーも、デッキブラシのおじさんも起きたよ。
【ティガー】 「なんでサンチョスがいるねん!」って、まず、つっこむ(笑)。
【GM】 「い、いえ、わたしはサンチョスなどでは、ありません。わたしは新たに生まれ変わり、ズバンチョとなったのです」と、おじさんは言う。
【シルヴィア】 でも、元はサンチョスやろ?(笑)
【GM】 「ズバンチョです。そう呼んでください」
【ジーネ】 サンチョスでも、ズバンチョでも──どっちでもええわぃ。
【GM】 さて、あのとき甲板に持って出た装備品以外の持ち物──つまり、この部屋にある物以外は、すべてなくなってしまってるからね。アイテム欄から消して。
【シルヴィア】 ああ〜、せっかく、いろいろとウィスで買いそろえたのに〜。お金はどうなるの?
【GM】 身につけてたんなら、持ってていい。
【ティガー】 持ってるわけないやん。
【ジーネ】 ちょっと待ってよ、お金ぐらい持ち歩くやろ〜。
【シルヴィア】 僕も、貴重品は、肌身離さず持ってます。魔晶石も、いつでも出せるように、懐に入れてるから。
【ジーネ】 同じく。
【GM】 なら、ジーネとシルヴィアの所持金は、そのままでいい。
【ティガー】 俺にとっての貴重品は、カルファンの剣だけ。
【GM】 ファンリーが227フィス持ってるから、それをティガーに渡しとこう。
【シルヴィア】 とりあえず、階段をおりて、下に行ってみようか。
【GM】 ──と、思って階段に行くと、その階段は、途中から水に沈んでるんやわ。
【ティガー】 なんじゃ、そりゃ。覗いてみるぅ。
【GM】 ちょうどそのとき、水の中から、きれいな若い女性が顔を出した。
【ジーネ】 水の中から??
【ティガー】 みんなに「人魚が住んでる〜」って言う。
【GM】 まあ、人魚といえば人魚かな。ただ、下半身は魚じゃなくて、イルカです。背中の腰のちょっと上あたりに、小さな三角のフィンがあったりする。
 この種族について知りたい方は、セージ技能でチェックしてみてください。
【ティガー】 たぶん、知らないんちゃうかなぁ。(ころっ)あ、俺、知ってるわ。
【シルヴィア】 (ころっ)僕は知らない。
【GM】 なら、ティガーには、彼女が『メロウ』と呼ばれる種族であることがわかった。
 基本的には、マーマンと一緒。マーマンの亜種だと思ってください。違いは下半身がイルカというだけ。泳法はもちろん、ドルフィン・キック。
 彼女はキミたちを見て、「あ、気がついたのか」と、言ってます。
【ジーネ】 言葉は通じるのかな?
【GM】 いちおう、そのメロウの女性は、共通語をしゃべっております。
【ジーネ】 助けてくれたのは、そのひとかな?
【GM】 そのとおり。「そこのひとがライアスに似てたからね」と、シルヴィアを指して言う。残りのメンバーは、おまけで助けたらしい。
【ティガー】 ライアス? ……って、誰やろ。その前に、そのひとの名前は?
【GM】 キュレペといいます。
【シルヴィア】 そのキュレペさんに、「ライアスって誰?」と、聞いてみる。
【GM】 彼女の話によると、ライアスというのは、今から55年前、キミたちと同じように、この海底都市ジャカレパグァに落ちてきて、彼女と彼女の姉のペネホプさんに助けられた、人間のことらしいです。
【ジーネ】 海底都市〜!?
【GM】 そう。もちろん、メロウが築いた都市ではなく、古代の魔法帝国時代の遺跡だけどね。
 魔法的な力がバリバリに残ってたりするので、都市のところどころに、巨大な水泡があったりする。キミたちは、そこに落ちていたらしい。
【シルヴィア】 メロウは、水のないところでも生きられるんやね?
【GM】 いや、基本的には水の精霊力に寄りかかって生きる種族なので、ウンディーネが働かない状況下では、生命力と同じだけのラウンドで窒息して死んでしまう。
 キミたちは水のそばに倒れていたから、偶然にもキュレペさんに発見された。
 で、シルヴィアがライアスによく似てたから、甲斐甲斐しい介護を受けることができたんやね。
【ジーネ】 しかし、まあ、よく水のないところに近づこうと思ったもんやな。
【GM】 このキュレペという人は、好奇心が強く、向学心も旺盛なので、ときどき古代遺跡の書庫に出かけたりするらしい。
 書庫というぐらいだから、もちろん空気がある。そこでケンケンで本棚まで行って、読みたい本を持って水辺に戻り、読書にふけってたりするんやね。
【ティガー】 あ、そんで共通語がしゃべれるんや。
【GM】 共通語に関しては、ライアスの連れの魔術師に教わったんだけどね。あと、本を読むことも。
 そんな彼女だから、別に水のないところを恐れない。あまりに巨大な水泡の地だと、てっぺんから落ちたときが怖いけど。横からなら、そんなに怖くない。
【ティガー】 ライアスってのも、冒険者っぽいな。
【シルヴィア】 魔術師と一緒にいたらしいからね。
【GM】 そう。ずばり、55年前の冒険者。キミたちの大先輩やな。
【ジーネ】 しかし、55年も前ってことは、いい歳なんでは?
【ティガー】 メロウって種族は、長生きなん?
【GM】 普通の妖精と同じように、だいたい200歳まで生きます。
【ジーネ】 でも、ライアスって人間やろ〜? もう、じいさんになってるか、死んでるかしてるん違うの?
【GM】 いや、キュレペさんは、別に「ライアス・アクアマリンだ」と思って、拾ってきたわけじゃないよ。単に「似てるなぁ」ってことで、興味をひかれただけのこと。
【ジーネ】 はい?
【ティガー】 あれ? アクアマリン??
【シルヴィア】 親戚かな。GM、ライアスという名に、心当たりはありますか?
【GM】 ないことはない。アクアマリン家では、母国セフェリアの歴史よりもまず、綿々と連なる冒険者家族アクアマリンの歴史を、教えられるから。
【シルヴィア】 なるほど(笑)。
【ティガー】 ライアスって、シルヴィアのおじいちゃん?
【GM】 おじいちゃんの弟。大叔父ってところやね。ただし、シルヴィアは直接会ったことはないよ。
【シルヴィア】 名前ぐらいやったら、聞いたことがある?
【GM】 ある。歴史の時間に(笑)。
 シルヴィアの知る歴史上のライアス・アクアマリンは、54年前、冒険を終えて、ふらりとセフェリア王国に帰ってきた。
 そして、それまで稼いだ莫大な財産のほとんどを家に残し、再び旅立ったという。
【ジーネ】 で、行方不明になったんや。
【GM】 いや、消息ははっきりしてる。
 どこに向かおうとしてたのかは謎だけど、ミドル地方ハインベル王国のポーラスの街付近で、命を落としたと伝えられている。
【ティガー】 あ、死んでしまったんや。
【GM】 ライアスは、オーガー8匹の群れに襲われていた、ハインベル王国の奴隷商隊──もちろん商人たちは、奴隷を置いてさっさと逃げていた──の奴隷たちを助けるため、たったひとりで、オーガーたちと戦った。
 それは獅子奮迅の活躍だったけど、残念なことに、最後の1匹と相討ちになってしまったという。享年26歳。
【シルヴィア】 そういうことを、歴史の時間に習ったんやな。
【GM】 そう、『大叔父さんについて』という授業でね。シルヴィアが思い当たるライアス・アクアマリンは、そういう人。
【シルヴィア】 なるほど。
【GM】 他に質問があれば、挙手のうえでどうぞ。
【ティガー】 シルヴィアに「アクアマリン?」って聞く。「知り合い?」
【シルヴィア】 「会ったことはないけどね」
【ジーネ】 その大叔父さんたちは、地上に帰れたんだよな?
【GM】 ここで半年ほど過ごした後、転移の魔法陣で帰って行ったらしい。
【ティガー】 半年も何してたんやろ。
【GM】 さあね。キュレペは、魔術師からいろいろな知識を学んでたらしいよ。姉貴はライアスと仲良くなってたそうだけど。
 ライアスは、地上に帰る際に、再び海底都市に戻ってくると、約束していたらしい。

ペネホプに会いに行く事

【ティガー】 でも、戻って来んかったんやな。
【ジーネ】 『戻って来れなかった』が正解でしょう。
【シルヴィア】 キュレペさんや、みんなに教えてあげよう。
「僕の知ってるライアス・アクアマリンだったら、かくかくしかじかという理由で、戻って来れなかった」と、アクアマリン家の歴史についての詳しい解説も交えて、切々と語ってあげる。
【ティガー】 「もう、ええわ〜。耳かゆい〜」って、俺は途中から寝てるわ。
【GM】 キュレペは、それを聞いて寂しがる。そして、すごく心配する。お姉さんのペネホプさんのことを。
【シルヴィア】 どういうことかな?
【GM】 さっきも言ったように、ペネホプとライアスは、いい仲になったんやね。ライアスの「戻ってくる」という約束も、ペネホプに向けて交わされたもの。
 で、55年の間、信じたり疑ったりしながら待ち焦がれているうちに、ペネホプは気が狂ってしまったんやね。
【ティガー】 ひぃぃ!
【GM】 最近では、ジャカレパグァのある場所にずっといて、近寄る者には、見境なくやつあたりするようになってるらしい。
【ティガー】 怖い、怖い。
【シルヴィア】 相手が妹でも?
【GM】 妹でも、ヘタに刺激すると、攻撃されてしまうね。
【ジーネ】 お姉さんには、会いに行かんほうがよさそうやな。
【シルヴィア】 いや、行くと思うで。
【ジーネ】 だって、あなたはライアスに似とるんやろ。「帰ってきてくれたのね!」って言われて、ガシっとかされたら、どないすんの?
【ティガー】 でも、展開上、お姉さんのとこに行くと思うねん。逃げられへんと思うねん。転移の魔法陣を使いたかったら、お姉様を──って感じで(笑)。
【シルヴィア】 そんな、ベタなこと言うたらアカン(笑)。
【ジーネ】 きっと、お姉さんが転移の魔法陣のところに張りついとるんやな。「いつ、帰ってきてくれるの?」って。
【GM】 よくわかったな。ペネホプは、転移の魔法陣がある小高い丘の庵の前にいて、誰かが近づくと、すごく怒るそうです。
【ジーネ】 お姉さんを正気に戻すことが、地上に戻るための第一歩というところかな。
【ティガー】 がんばれ、シルヴィア。
【シルヴィア】 がんばるよ。ライアスの亡霊として、会いに行ってあげよう。
【ジーネ】 亡霊? 足がしかっりあるのに。
【GM】 そのうえ、生命の精霊力をぷんぷん匂わせながら、行くわけやな(笑)。
【シルヴィア】 あ、お姉さんは精霊魔法が使えるの?
【GM】 いちおう、ペネホプさんはシャーマンです。ちなみに、ここジャカレパグァに住む、61人のメロウたちの長でもあるほどの実力です。まあ、事情が事情だけに、今は族長代行が一族を率いてるけど。
【シルヴィア】 それほどの実力者か。
【ティガー】 絶対、バレるな。
【ジーネ】 いちおう、私、〈サニティ〉をかけられるよ。接触しないとダメだけど。
【GM】 〈サニティ〉では、狂気を何とかすることはできないな。興奮してるのと、気が狂ってるのとは、まったく別物やからね。
【シルヴィア】 じゃあ、ライアスの子孫として、アクアマリンの一族の者として、普通に会いに行こう。
 キュレペさんに、連れて行ってくれるよう頼んでみるよ。
【GM】 キュレペは、「やめといたほうがいいと思うな〜」と言うよ。
【ジーネ】 やめといたほうがいいのなら、やめとこうぜ。
【シルヴィア】 アクアマリン家の者としての責任感で、言ってるだけだけどね。行くよ。
【GM】 それなら、キュレペは〈ウォーター・ブリージング〉の魔法をかけてくれる。
「ただし、あまり姉を刺激しないでくださいね」と、念を押す。
【ティガー】 そりゃ、もう。
【ジーネ】 って、ティガーも行くんかぃ!
【ティガー】 面白そうやから、見に行く。
【GM】 ま、行くんなら、ティガーにも魔法をかけてあげるよ。ジーネはどうすんの?
【ジーネ】 ファンリーが行くのなら、ついて行く。ちゃんと、チェイン・メイルを着てね。
【ティガー】 ファンリーは「面白そうやから、見に行ってみる」って、言ってる。
【シルヴィア】 なんか、ティガーが強引に引っ張って行ってそうな感じやけど(笑)。
【GM】 なら、ズバンチョもおずおずと手を挙げて、「わたしも行きます」。
【シルヴィア】 ひとりで残されるのがイヤなんやな。
【GM】 けっきょく、全員で行くわけか。キュレペは5倍消費で〈ウォーター・ブリージング〉をかけてくれた。残り精神力1点。
【シルヴィア】 魔晶石をひとつ、預けとこうか。魔力24のやつ。「もしものときは、これを使ってください」
【ティガー】 ズバンチョには、魔法かけんでもよかったのに。彼には、かけてるふりで。
【シルヴィア】 ひでぇ。
【GM】 ちなみに、ジャカレパグァには変な魔法の力場が働いてるから、水圧については心配しなくていい。
【シルヴィア】 あ、そうなんや。
【GM】 ただし、図に乗って遠くに行って力場から出てしまうと、一瞬でぷちっと潰れてしまう可能性があるから、注意。
 まあ、圧力がいきなり変わってる箇所は、目に見えない壁や天井みたいになってるから、簡単に通り抜けることはできんけどね。
【シルヴィア】 無理に抜けようとしなければ、大丈夫ってことやね。
【GM】 そういうこと。ちなみに、その不思議な力場、嵐のときなどにたまに狂って、遠方にまで広がってしまうことがあるらしい。
 そんなときは、普段、深海にいる魚が、えらいことになったりするという噂。
【ティガー】 破裂してしまうんやな(笑)。
【シルヴィア】 そうか、それで僕らも、潰れずにここに落ちてきたんやな。
【GM】 では、キミたちは水中呼吸が可能になったので、階段をおりてキュレペについて行く。
【ティガー】 外って、どんな感じやろ。周りを見てみる。
【GM】 外は、ぼんやりと明るい街だった。夜明け直前の、青い世界に似た感じがする。そこに白い建物が立ち並ぶ、幻想的な風景やね。
 メロウたちがそうしているのか、意外と手入れが行き届いた、きれいな街です。
【シルヴィア】 ほほう。興味深そうに、街を見回すよ。
【GM】 街路に咲く花のかわりに、海草が揺れてたり、空を飛ぶ小鳥のかわりに、魚が泳いでたりする。その魚たち、たぶん、力場が広がったときに取り込まれて、出られなくなったんでしょう。
 他に、かつての人間たちが築いた荘厳な神殿や、戦士やら神様やら竜やらの彫像など、芸術的なものもたくさんある。
 一部壊れた建造物もあるけど、それすら、街の一部として、しっかりオブジェになってたりするわけや。
【ティガー】 「すげ〜」と思って、見てる。
【ジーネ】 ああ、バード技能でもあれば、ここで歌でも作れるのに。
【GM】 キミたちは泳いで行くわけだから、まるで空を飛んでるような気分になるよ。ジーネだけは、ずしん、ずしんと歩いて行くわけやけど。
【ジーネ】 ファンリーも泳げるわけ?
【GM】 少なくとも、息はできるからね。ヘタくそな泳ぎ方だけど、ズバンチョが手を引いてあげてるから、大丈夫。
【ティガー】 「離れろ!」って、サンチョスを蹴飛ばす。
【GM】 「何するですか、わたしはズバンチョですよ!」
【ティガー】 知らんわ! とりあえず、ファンリーに近づいたら、殴る。
【GM】 「ひどいですぅ」と、ズバンチョは泣く。背中のニョムヒダも泣く。
【ティガー】 知らん〜。水中やから、涙なんか見えへんし。
【GM】 そんな感じで、ジャカレパグァの街を進む。街のあちこちでは、メロウたちが、興味深そうにキミたちを見てたりする。
【シルヴィア】 メロウって、女のひとばかり?
【GM】 いや、男性もいるよ。
 ところで、最初に言ったように、ジャカレパグァには、ところどころに水泡の地というのがあるから、泳いでる人は気をつけてな。
【ティガー】 気づかないと、落っこちるんやな(笑)。
【GM】 そうこうしてるうちに、キミたちは、小高い丘の麓に来た。
 丘には石の階段があり、頂上に続いている。どうやら、ペネホプはそこにいるらしい。
 ジーネは石段を登って行かないとダメだけど、泳いでる人には関係ないね。
【ティガー】 さぱーっと泳いで行く。
【シルヴィア】 僕はバサロ泳法で行こう。
【GM】 柱で後頭部を強打しないように。
【ジーネ】 誰も私を待ってくれないのね。離されないように、一所懸命走ってますわ。
【GM】 丘の頂上にたどり着くと、そこには、小さな石造りの庵があった。
 その建物の入口の前には、ひとりの女性のメロウがいる。それが、ペネホプさんです。
【ジーネ】 近づいて大丈夫だろうか……。
【シルヴィア】 刺激しなけりゃ、大丈夫なんでしょ。
【ジーネ】 というか、あなたの顔が刺激になるんじゃないかと、心配なんだけど。
【シルヴィア】 まあ、そこはキュレペさんに協力してもらって、何とか穏便にすませよう。
【ティガー】 俺はファンリーと一緒に、岩陰に隠れてよっと。そこから、ランディのお兄ちゃんを暖かく見守る。
【シルヴィア】 それじゃ、キュレペさん。お姉さんに呼びかけてください。
【GM】 キュレペはうなずいて、意を決したようにペネホプに呼びかけた。
 ペネホプは顔をあげ、キュレペとシルヴィアを見る──ってところで、続きは後ほど。

÷÷ つづく ÷÷
©2002 Hiroyoshi Ryujin
Map ©2002 Moyo
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お名前
ひと言ありましたら
 
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