§モンスター・リプレイ[2-1]§

聖カンスの祝祭・準備篇

大役請け負う妖魔たち

　レムリア大陸オムスク地方オレンブルク王国の王都オレンブルク。その南には、人外の領域が広がっています。
　ひとが踏み入れることのない森の中、沼のほとりの開けたところに、ダークエルフ、ゴブリン、インプなどの妖魔たちが住む、大きな集落がありました。
　いま、集落の妖魔たちは、忙しく働いています。
　木材を組んで櫓や舞台をこしらえる者、捕まえた鳥や獣をさばいて料理の下ごしらえをする者、その獲物たちの髑髏で装飾を作る者……みんな、２日後に控えた“カンス祭り”の準備にいそしんでいるのです。
　それを監督するのは、ダークエルフで族長のマレイツさま。
　マレイツさまは、少しご機嫌がななめです。というのも、寝坊して、作業に参加してない妖魔が２匹いるからです。
　その２匹とは、120歳のダークエルフの男性アヤと、10歳の雄ゴブリンのキラです。
　アヤとキラは、マレイツさまの前に呼び出されました――。

【ＧＭ】 そんなわけで、キミたちは、族長のマレイツさまの前に畏まっています。
【アヤ】 「眠いわ〜」って思ってるねん。半分、寝てる。
【キラ】 それを横から小突いて起こす。
【ＧＭ】 「さて、明後日には、いよいよカンス祭りなわけだが――」
【キラ】 カンス祭りっていうのは何？
【ＧＭ】 レムリア大陸の南に浮かぶエルフの島に、カンスさまという、ダークエルフの族長が住んでいる。
　カンスさまは、ただの族長じゃない。現在のレムリア大陸において、ダークエルフの頂点に位置する偉いお方。比類なき偉大なキング・オブ・ダークエルフ。

　レムリア暦518年以降しばらくの時代、レムリア大陸の妖魔たちは、大きく３つの系統に分けられます。
　クラリオン大戦以前からレムリア大陸に土着していて、エルフの島の大族長カンスを頂点とする妖魔たち、“カンス派妖魔族”。
　クラリオン大戦で、“魔王”クラリオンと共に妖魔界からやって来て、レムリア大陸に残ってしまった妖魔たち、“クラリオン派妖魔族”。
　どっちでもない“無党派妖魔族”。
　その３つの系統の中で、さらに細かく派閥が分かれているようです。専門の研究家以外の人間からすれば、どれも同じ妖魔に過ぎず、単なる敵でしかありませんが。
　アヤやキラが所属する部族は、“カンス派妖魔族”です。
　人間たちが国家間で戦争をするように、もしかすると、妖魔たちも派閥の間で争いをするかも知れません。今はまだ、そのような例はないようですけど。

【ＧＭ】 で、そのカンスさまが、むか〜し、むかし、ペットの子山羊に、暗黒神クートラを降臨させてみたことがあるんやね。
【アヤ】 子山羊に？(笑)　成功しちゃったん？
【ＧＭ】 成功しちゃった。
　それ以来、カンス派妖魔族は、その日を“聖カンスの祝日”と定め、１年に１回お祭りをするようになったそうな。
　今年はちょうど300周年ということで、すごく趣向を凝らした祭りになるらしい。
【キラ】 へえ。
【ＧＭ】 だから、準備は大忙し。マレイツさまは、寝坊したキミたちにおかんむり。
　キミたちは、みんながイヤがった、きつい仕事を言いつけられそうな気配です。
【アヤ】 なに？　カンスさまを連れて来る？
【ＧＭ】 それは、さすがにムリかな。カンスさまにおいでいただくなんて、恐れ多くて、とてもとても(笑)。
【アヤ】 じゃあ、出向い……いや、何でもないです(笑)。
【キラ】 で、僕らは何をしたら、よろしいんで？
【ＧＭ】 いま、あっちのグループが作っている動物の髑髏を飾りつけるための、木が欲しい。
【アヤ】 木？　クリスマス・ツリーみたいにすんの？
【ＧＭ】 そうそう、そんな感じ。
　候補の木自体は、偵察のインプとゴブリン・シャーマンが、すでに見つけてくれている。
　西へ２時間ほど行ったところのシースギ山麓の森にある、樹齢300年の立派な木。森の精霊王エントが宿っている、たいへんめでたい木だそうです。
【アヤ】 そんなん、切れないよ。俺、ひ弱やし。
【ＧＭ】 「切ってはいかんよ。木が死んじゃったら、何もならんでしょ」
【アヤ】 抜いて持って帰ってこい、と？
【ＧＭ】 「そう」
【アヤ】 自分でやれよ、と思ってる(笑)。
「見つけたひとがやるもんじゃないんですかねぇ？」って言ってみる。
【ＧＭ】 「あぁ？」と、マレイツさまは言う。その背後に、バルキリーが現れたよ。
【キラ】 横からアヤのわき腹をつつきまくったるわ(笑)。
【アヤ】 「こそば〜」って笑う。
【ＧＭ】 「では、さっさと行ってきなさい」と、マレイツさまは言った。
【アヤ】 ふたりで？　重ぉ〜。
【ＧＭ】 だって、他のひとたちは、他の作業で忙しいし。花壇を作って黒い花を飾りつけたり、タマネギ剥いたり。
【アヤ】 タマネギ、剥く剥く剥く！
【ＧＭ】 それは雌の仕事やで。
【アヤ】 あれぇ？
【ＧＭ】 雄は、タマネギとかを取ってくるねん。
【アヤ】 取りに行く、取りに行く！
【ＧＭ】 だから、それはもう、他のひとがやってるって。
【アヤ】 あれぇ〜??
【ＧＭ】 キミたちは寝坊したから、誰もやりたがらない仕事しか残ってないよ。
【アヤ】 うっそ〜ん……。
【キラ】 あいやー。
【アヤ】 「で、どうやって、木を持って帰ってきたら、いいんですか？」
【ＧＭ】 「自分で考えなさいよ」
【アヤ】 無理だよ(笑)。
【ＧＭ】 「方法はキミたちに任せる。私が求めるのは、結果だけだ」
【キラ】 あいた〜。
【ＧＭ】 「まあ、大変な仕事であるから、みごとに結果を残した暁には、ブタの丸焼きをおまえたち２匹に与えよう」
【キラ】 やりぃ。
【アヤ】 ブタの丸焼きは欲しいけども！(笑)
【ＧＭ】 「ハトの丸焼きもつけよう」
【アヤ】 ハト?!　おいしいんかな??
【ＧＭ】 「ツバメの巣のスープもつけるぞ」
【アヤ】 あ、それ、欲しい！
【キラ】 豪勢や。「行くッス〜」
【ＧＭ】 「よし。祭りは２日後だから、急いでな」
【キラ】 西へ２時間のところやから、まあ、何とかなるやろ。
【ＧＭ】 あ、言い忘れてたけど、その木って、近くの村の人間たちが、御神木として崇めてる木やねん。
【アヤ】 はあ!?　えらい木に目ぇつけたもんやな。
【ＧＭ】 「だから、持って帰ったことがバレないようにな。バレたら、人間ども、盗まれたとか因縁をつけて、冒険者を送り込んできよるから」
【アヤ】 そんなん、バレるわ！(笑)
【ＧＭ】 「頭を使いなさいよ。エントの木を取った後に、見た目が似たような木を置いてきたらいいじゃないか」
【アヤ】 そんな都合のいい木なんか、ないじゃないか！
【キラ】 カンス祭りのほうに、見た目が似たような木を持ってくるのは？　……あ、エントが宿ってないと、アカンのか。
【ＧＭ】 そう。いんちきしたのがバレたら、すごい目にあうよ。何がどうなることやら、それはもう、恐ろしいよ。
「人間に感づかれないように、うまいことやりや？　じゃあ、もう、行きたまえ」
【キラ】 あいた〜。
【ＧＭ】 では、キミたちは族長の前から退いた。
【アヤ】 ……どないするぅ？
【ＧＭ】 ――と、腕組みして思案しながら、他の妖魔たちが忙しく働く中を、キミたちはトボトボ歩いております。
【アヤ】 俺とキラのふたりで行くしかないんやんね？
【ＧＭ】 うん。他の妖魔たちは、みんな、自分の仕事をせんといかんからね。
【アヤ】 とりあえず、スコップを借りてくる。誰が持ってそう？
【ＧＭ】 花壇の手入れをしてる、パスというダークエルフの男。
【アヤ】 「スコップ、貸して〜」
【ＧＭ】 「いいよ〜。後で返せよ〜」と、スコップを貸してくれた。柄のところに、『パス』って名前が書かれてる。
【アヤ】 消したれ(笑)。
【ＧＭ】 悪いやっちゃな。
【アヤ】 じゃあ、エントの木のところに行く。
【キラ】 しょうがないから、ついて行く。
【ＧＭ】 では、移動しましょう。キミたちは、２時間ほどかけて、エントの木の前にやって来ました。
　今は昼前です。天蓋のように空を覆う木々の葉の隙間から、まぶしい太陽の光が、細い筋となって森の底に届く。ときおり響く小鳥たちの楽しげなさえずりが、ことさら森の静寂を強調する。
　そんな森の中に、エントの木はそびえてます。しめ縄を巻かれた太いごつごつした幹、深い緑の苔がむした根元、なんだかとっても偉大そう。鳥居とか、賽銭箱とか設置されてるしね。

走りまわる妖魔たち

【アヤ】 とりあえず、賽銭箱の中身を覗いてみる。
【ＧＭ】 30フィス入ってる。
【アヤ】 あ〜、安い。
【ＧＭ】 あと、おまんじゅうが御供えされてたり――。
【アヤ】 おまんじゅうは食べる。
【ＧＭ】 ――食べられちゃった(笑)。
【アヤ】 おまんじゅうを食べながら、「どうしよっかなぁ」って、エントの木を見る。ふたりで持って帰れと言われても、ちょっとムリそう？
【ＧＭ】 見るからにムリそうやね。
【アヤ】 ムリか〜。……っていうか、このおまんじゅう、いつのやったんやろ(笑)。
【キラ】 食べてから思うんや。あんた、ホンマにダークエルフか？(笑)
【アヤ】 120年生きてるけど、なんか、アホっぽい。
【キラ】 キラはゴブリンやし、いちおう、それなりの敬意を払ってるつもりなのに。
　とりあえず、エントの木と見た目が同じような木を探してみるよ。
【ＧＭ】 森の中をうろついてみるわけね？　じゃあ、レンジャー技能と知力ボーナスで、探索してみようか。
【キラ】 (ころっ)出ない。知力が低いからなぁ。
【アヤ】 木ぃ、あるかな〜？　(ころっ)知力が高いのに、出ない。
【ＧＭ】 キミたちは、エントの木にそっくりな木を探してるうちに、森から出てしまい、シースギ山に入ってしまった。
　シースギ山に背の高い木は生えてなく、草や低木が生い茂る風景が広がってる。
　じゃあ、もういちど、同じ判定をしてみて。
【アヤ】 (ころっ)今度は成功。
【キラ】 (ころっ)今度も失敗。ゴブリンに知力を使わせるのはつらい。
【ＧＭ】 それならアヤは、そこいらに大きな足跡がいくつも残されてるのに気づいたよ。
【アヤ】 なんだ？　人間？
【ＧＭ】 人間型ではあるけども、人間サイズじゃないね。巨人のようです。
【アヤ】 でか〜。……あっ、そいつにエントの木をひっこ抜かして、集落に持って行かせる！
【キラ】 それはいい案やけど、どうやって協力させるかやね。
【アヤ】 えっとぉ、おまんじゅうは全部食べちゃったな〜。30フィスで手を打ってくれへんかなぁ。
【キラ】 とりあえず、その巨人を探して会ってみよう。
【ＧＭ】 すると、［足跡追跡］やね。じゃあ、レンジャー技能でチェックしてみて。まあ、大きな足跡なので、見失うことはほとんどないでしょう。
【アヤ】 (ころっ)うん、見失った(笑)。
【キラ】 (ころっ)同じく。
【ＧＭ】 足跡は山の上のほうに向かってたみたいやけど、雨で消されたのか、途中でかすれて見えなくなってしまっていた。
【アヤ】 足跡、どっかいったぁ！　む〜……。
【キラ】 知力ボーナス、プラス３もあるくせに。
【アヤ】 そうやねんけど、おまんじゅうのことばかり考えとった。「いつのやったんかな〜」って(笑)。
【ＧＭ】 そんなに気にするんなら、食べる前に気にすればいいのに(笑)。
【アヤ】 しゃあないから、その辺をうろつく。「ジャイアントさまぁ」って言いながら。
【ＧＭ】 (ころっ)キミたちがそんなふうにうろついてると、向こうのほうから、体長２メートルはある巨大なトカゲが、のそのそと現れた。
【アヤ】 トカゲ??
【ＧＭ】 そう。その名もジャイアント・リザード。「呼んだか〜？」って言ってる。
【アヤ】 「呼んでないねん。キミじゃないねん。リザードじゃないほうのジャイアント。人間っぽい形のほう」
【ＧＭ】 「“山の主”さまを探してんのん？　何の用なん？」
【アヤ】 「木ぃ抜いて欲しいなぁって」(笑)
【ＧＭ】 「はあ??　……肉、持ってる？」
【アヤ】 「えっ?!　肉、ない」
【ＧＭ】 「オレ、“山の主”さまの家、知ってるねんけど」
【アヤ】 「肉を持ってきたら、教えてくれるのん？」
【ＧＭ】 「案内してあげるよ」
【アヤ】 「何の肉？」
【ＧＭ】 「鶏肉ぅ！」
【アヤ】 「鶏肉ぅ〜……何個？」
【ＧＭ】 「１個でいいよ」
【アヤ】 「じゃあ、この辺にいてね」
【ＧＭ】 ジャイアント・リザートは、近くの大岩の上に寝そべって、日なたぼっこをはじめた。日が沈むと、帰ってしまうからね。
【アヤ】 ＯＫ〜。……けど、どうしよっか？
【キラ】 狩りをするとか。弓矢がいるけど。
【アヤ】 そんなんねえや。ダガーならあるけどね。なかなか当たらへんで。
【キラ】 大きい鳥なら、的がでかいから当たりやすいかも。
【アヤ】 ロック鳥とか。そんなん、ムリ！(笑)
【キラ】 ということで、人里に行ってニワトリでも盗ってくるのが、確実そうやねんけど。
【アヤ】 そうですな。この近くに、ひとが少なそうな村はある？
【ＧＭ】 村はふたつあるけど、規模は人口100人程度で、どっちも似たようなものかな。例のエントの木を、御神木として崇める人間たちが住むウト村と、シースギ山を挟んで反対側にあるニサギ村のふたつ。
【アヤ】 じゃあ、御神木の村の近くに行く。
【ＧＭ】 はい。では、ウト村にやって来ましたよ。
【アヤ】 見つからんように、ちょっと様子を覗いてみる。
【ＧＭ】 今はお昼頃。村人たちは農作業の手を休め、あぜ道に集って座り、お茶を飲んだり、おにぎりなどを食べたりしながら、談笑してます。
【アヤ】 「いいなぁ」って、指をくわえて見てよう。
【キラ】 「おちつけ〜」(笑)
【ＧＭ】 さっさとお昼ご飯を食べ終えた子供たちは、お手玉してたり、鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり、元気に遊んでます。
　のんびりとした、ある農村の穏やかな日常のひとコマやね。
【アヤ】 見えるところに、鳥はいる？
【ＧＭ】 民家のわきに、ニワトリ小屋があるみたい。鳴き声が聞こえるよ。ニワトリ小屋の上では、猫が昼寝してたりする。向こうからは、牛の鳴き声も聞こえる。
【アヤ】 大変そうだな〜、これは。ひとがいるのはなぁ。
【キラ】 暗くなれば何とかできるかも知れんけど。
【アヤ】 日が沈むと、あのトカゲは帰ってしまう。
　……村人のかっこうをして近づくとか。「いま渋谷で人気のガングロで〜す♪」
【ＧＭ】 いつの時代の人気よ？(笑)　キラはどーなんの？
【アヤ】 ……「ナマハゲで〜す♪」
【ＧＭ】 「悪いごはいね〜が〜!?」――って、組み合わせメチャクチャやん。
【キラ】 バレるっちゅーねん(笑)。「それはまずいと思うで」と、忠告してあげる。
【アヤ】 あれ??　目の上とか、白く塗り始めてたのに(笑)。
【ＧＭ】 というか、アヤって男じゃなかった？
【アヤ】 ホンマや、忘れてた(笑)。
　どうしよっか。「旅の牧師です」っていうのは、マゾ・インプのとき（モンスター・リプレイ『求めるは大根の地・前編』）にやったしな〜。
【キラ】 僕らの集落では、ニワトリを飼うてたりせえへんのかな？
【ＧＭ】 飼ってたのか、人間から『借りてきた』のかは知らないけど、料理されてた。
【アヤ】 あっ！　そっちでもらって来るほうがいいやん。
【キラ】 ニワトリをもらいに戻ろう。

　というわけで、２匹は、沼のほとりの妖魔の集落に戻ってきました。

【アヤ】 族長をみつけて、わ〜って行く。
「なんか、ニワトリがいるんです。スコップはいりません」
【ＧＭ】 「ニワトリ？」と、マレイツさま。
【アヤ】 「必要経費です」
【ＧＭ】 「なら、ジョセフィーヌに言って、もらってきなさい」
【アヤ】 じゃあ、スコップをパスに返して、ジョセフィーヌにニワトリをもらいに行く。
【ＧＭ】 スコップを受け取ったパスは、「あー！　名前が消えてるぅ」って怒ってる。
【アヤ】 「ごめ〜ん、消しちゃったぁ」(笑)
【ＧＭ】 さて、調理場のほうは、雌のダークエルフやゴブリンやインプなどが忙しく働いていて、まるで戦場のような喧騒です。
　そんな中、でっぷりと肥えた体格のいい雌のゴブリンが、大きな声でみんなに指示を出したり、叱ったりしてる。そのひとが、料理の責任者ジョセフィーヌさんです。
「そこ、もたもたすんじゃないよ！」って、ちょっと怖そうなおばちゃんやね。
【アヤ】 「いや〜ん」って思って見てる。
【ＧＭ】 叱られた雌のインプは、カラっと揚がった鶏肉を大きな中華鍋で転がして、甘辛いあんを絡めてる。
【アヤ】 あーっ、鶏肉ぅ。できたら、生のままのがいいな。
【ＧＭ】 あっちで、まだ絞められる前の材料たちが、たむろしてるよ。あ、いま、１羽のニワトリが絞められる寸前。
【アヤ】 「それ、絞めるの待って！」って言う。
【ＧＭ】 「なんだい、あんた！　つまみ食いかい!?」と、ジョセフィーヌさんが言う。
【アヤ】 そんなでかいの、ムリ！(笑)
「族長に言われて来ました。なんか、ニワトリが１匹いるらしいです」
【ＧＭ】 「しょうがないね」と、ジョセフィーヌさんは、絞められそうになってたニワトリを渡すよう、部下に言いつけた。
【アヤ】 ニワトリを手に入れた。
【ＧＭ】 命を助けられたニワトリは、「こけぇ」と、アヤになついてる。

山の主と妖魔たち

【アヤ】 「わ〜い」ばさばさばさーって、ニワトリと遊んでる。
【ＧＭ】 アヤとニワトリは、かなり仲良くなったよ。
【アヤ】 「２時間ぐらい、命を長らえたね」(笑)
【キラ】 じゃあ、ジャイアント・リザードのところに戻ろうかい。

　２匹の妖魔は、ジャイアント・リザードが待つ、シースギ山に戻りました。

【アヤ】 「トカゲさま〜！」
【ＧＭ】 日はだいぶ傾いてきてるけど、トカゲさまは、まだそこにいた。
【アヤ】 「ニワトリはお好きですか？」
【ＧＭ】 「好きー！」
【アヤ】 「じゃあ、はい、これ」って、ニワトリを差し出す。「これでいい？」
【ＧＭ】 「うん、欲しい！」
【アヤ】 「はいっ」って、トカゲさまにあげる。
【ＧＭ】 トカゲさまは、アヤが差し出したニワトリを、背中からパクっと咥えた。
　アヤとすっかり仲良くなっていたニワトリは、「こけ？」という顔で、アヤのことを見てるよ。
【アヤ】 「バイバイ」って、ダークエルフらしく満面の笑みで手を振る。お別れするとき、あんまり涙を流すのはねぇ(笑)。
【ＧＭ】 ニワトリは、失望と絶望とあきらめの瞳でアヤを見ながら、トカゲの口の中に消えていった……。
【アヤ】 すげ〜、ひと呑み。
【ＧＭ】 ジャイアント・リザードは、「うまい、うまい」って言ってる。
【アヤ】 いまので味わかったん？(笑)
【ＧＭ】 わかるみたい(笑)。
【キラ】 じゃあ、巨人がいる場所を教えて。
【ＧＭ】 「ついといで」と言って、ジャイアント・リザードは、山の奥へ向かってのそのそ歩き始めた。
【アヤ】 「背中に乗ってもよろしいでしょうか？」って聞いてみる。
【ＧＭ】 「別にいいけど〜？」
【アヤ】 わ〜い！(笑)
【キラ】 僕は横を歩いてるよ。
【アヤ】 「俺、偉いっぽいね」って思ってよう。

　“山の主”と呼ばれる巨人の住処は、シースギ山の中腹にある巨大な岩穴でした。
　ジャイアント・リザードと別れた２匹の妖魔は、恐る恐る中に入ってみます……。

【ＧＭ】 中は無人やね。どうも、出かけてるみたい。
【キラ】 もうじき夜やし、すぐに帰ってくるかな？
【アヤ】 ちょっと待ってみる？
【ＧＭ】 ――なんてことを言ってると、表から、「ドシーン、ドシーン」と、大きな足音が近づいてくるのが聞こえた。
【アヤ】 おっ、ちょっと覗いてみる。
【ＧＭ】 宵闇に覆われはじめた外は、藍とピンクがにじんだ空。大きな人型のシルエットが、山のふもとのほうから、ゆっくりと、こちらに向かってくるのが見える。
【キラ】 僕はゴブリンやから、暗視能力がある。
【ＧＭ】 その巨人は、身長５メートルの体躯を誇り、金色の髪を生やしている。体毛が濃いけど、それも金色。
【アヤ】 身長５メートル?!　でか〜！　すげぇ。
【ＧＭ】 つまようじ代わりの木の幹で、歯に挟まった食べカスをこそぎながら、歩いてくる。
【アヤ】 なんか、食事の後っぽい。
【ＧＭ】 岩穴のすぐそばまで来た巨人は、「ん？」と、キミたちに気づいたよ。
【キラ】 「はじめまして〜。ゴブリンのキラでーす」
【アヤ】 「ダークエルフのアヤで〜す☆」
【ＧＭ】 「おうおう、妖魔の客人とは珍しいなぁ」と、巨人は言ってる。穏やかな物腰のひとみたいやね。
【アヤ】 じゃあ、この辺の人間には怖がられてないの？
【ＧＭ】 “山の主”として畏(おそ)れられてるけど、それはキミたち妖魔を怖がるのとは別。神様に対する畏れに似た感じかな。
【アヤ】 じゃあ、人間と仲がいい？
【ＧＭ】 特別よくはないけど、悪くもない。人間たちは、“山の主”の領域を侵さないように気をつけてるし、巨人のほうも、むやみに人前に姿を見せないようにしてる。
　まあ、山や森で狩りをするひとは、１年に１回の謝肉祭のときに、「“山の主”さまに感謝」ってことで、お供え物を捧げたりするみたいやけど。
【アヤ】 長生きしたイノシシとかと扱いは一緒か。
【ＧＭ】 （乙事主さま？）うん、そんな感じ。
【キラ】 「じつは、お願いがあって来ました」と、“山の主”さまに言う。
【ＧＭ】 「何かな？」
【キラ】 「かくかくしかじか」と、事情を説明する。
【アヤ】 「木は抜けますか？」
【ＧＭ】 「そりゃあ、抜けんこともないが、あれは、ウト村の人間たちが大事にしてるものだよ？」
【キラ】 「ちょっと借りるだけ」
【アヤ】 「祭りが終わったら、返す、返す。……知らんけど」
【ＧＭ】 「借りるのはいいけど、人間に断ってきたのか？　黙って借りたら、泥棒だよ」
【アヤ】 代わりに、似たような木を置いていくって。
【ＧＭ】 「いや、そういう問題じゃなくてね」(笑)
【アヤ】 じゃあ、代わりの木を用意して、エントにその木に移ってもらう。
【ＧＭ】 つまり、自分たちの集落に、偽物を持って帰るってこと？
【アヤ】 そう、そう。
【キラ】 なんか、根本的に間違うとる。
【アヤ】 バレるかな、あのおっさんに。
【ＧＭ】 「……そういうことなら、協力してやれんこともないが」
【アヤ】 でも、バレたら〈バルキリー・ジャベリン〉が飛んでくるで、きっと。
【ＧＭ】 「とりあえず、エントが宿っている木の心当たりはあるぞ。樹齢は、300年ではないけどね」
【アヤ】 それって、樹齢なんぼ？
【ＧＭ】 「200年ぐらい」
【アヤ】 う〜ん……ちょっと厚塗りして、ごまかす必要が。
【ＧＭ】 バームクーヘンみたいに？(笑)
【キラ】 200年のを御神木のところに置いて、御神木を集落に持って帰ればええねん。
【ＧＭ】 「それは協力しないよ」と、“山の主”。
【キラ】 えー？
【ＧＭ】 「だから、御神木がいるのなら、ちゃんと人間に話をつけてきなさいよ」
【アヤ】 だって、頼んだってくれないよ、きっと。
【キラ】 とりあえず、樹齢200年のエントの木を抜くのは、手伝ってもらえるの？
【ＧＭ】 そっちならね。
　“山の主”が小鳥たちから聞いた噂によると、その200年の木は、シースギ山の裏の麓にある、ニサギ村という人間の集落に生えているらしい。
　最近、その根の上に民家が建てられてしまって、200年の木に宿るエントは、「足が痛い、痛い」と、苦しんでいるそうな。
「ニサギ村のほうなら、木を助けるという意味もあるし、協力してやれるが」と、巨人。
【アヤ】 うーん……。
【キラ】 御神木はあきらめるしかないか。
【ＧＭ】 “山の主”は、御神木を黙って持っていくことには難色を示す。人間に恨まれたりしたら、イヤやからね。
　それに族長のマレイツさまも、「冒険者を送り込まれたくないから、騒ぎにするな」と言ってたでしょ？
【アヤ】 ……そんなん、言ってたっけ？
【ＧＭ】 言うてたやん(笑)。
【キラ】 だから、御神木の替え玉にする木を、探したんやろ(笑)。
【アヤ】 ああ、そうか。
　……騒ぎが起こらなかったら、いいんやんね？
「御神木を貸してください」
「はい、いいですよ」……やったら。
【ＧＭ】 それなら、何の問題もないよ。すべて円満に解決できる。
「ありがとうございます〜。皆さんも、カンス祭りに来てくださいよー」ってな感じで。
【アヤ】 「これ、招待状でぇ〜す☆　アヤのお店から♪」(笑)
【キラ】 冒険者がいっぱい来るねんで。招待状、持って。
【アヤ】 ごていねいに集落の地図とかついてるし、「ダークエルフがいっぱいいるよ☆」って書いてあるし(笑)。
【ＧＭ】 至高神の聖騎士団が、大挙して乗り込んでくるんや。
【キラ】 「妖魔狩りツアーで徳を高めよう」とか言われて。……そんなことになったら、困る(笑)。
【ＧＭ】 困るから、「騒ぎにするな」とマレイツさまは言うた。
【アヤ】 う〜ん。200年の木で、うまいこと騙されてくれへんかな。
【キラ】 ヘタに隠さず、族長に相談してみよう。
【アヤ】 相談すんの??
【キラ】 うん。お知恵を拝借したらええねん。
【アヤ】 族長にぃ……？
【キラ】 族長はダークエルフやろ？　だから、ダークエルフのアヤが話を通しなさい。
【ＧＭ】 このゴブリン、自分がイヤなことを押しつけるつもりや(笑)。
【アヤ】 じゃ、ちょっと集落に戻ってみる。
【ＧＭ】 沼のほとりの集落に帰りつくのは、もう真っ暗になってからやね。
　アヤとキラは、森の沼のほとりの集落に戻ってきました。
　300周年を記念するカンス祭りの、今日の分の準備作業は終わりかけてるみたいで、後片づけを始めてる妖魔がちらほらいる。
【アヤ】 族長のところに行く。で、「今年って200周年だったらしいですね」って言う(笑)。
【ＧＭ】 「どういうことかね？」
【アヤ】 「いや、何でもないです。……え〜？　若い木とかのほうが、いいんじゃないですか？　活きがよくて」
【ＧＭ】 「あ？」
【アヤ】 「ピチピチですよ」
【ＧＭ】 「はぁ？」と、マレイツさまは言ってるよ。
「何をわけのわからないことを言ってるんだ。そんなことより、300年のエントの木はまだなのかね？」
【アヤ】 う〜ん……樹齢チェックとかするんかな？　そんなん、せえへんよな。
【ＧＭ】 ――といったところで、この続きは、また後ほど。