≪REV / EXIT / FWD≫

§銀月の歌:第20話§

国王からの依頼

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン 地図:もよ
▽ ストト村のオムレツ大会の事 ▽ 冒険者たち、大冒険を引き受ける事 ▽ 遥かなる旅路の事

ストト村のオムレツ大会の事

【サテラ】 でも、オムレツ大会って、なに?
【GM】 腕に覚えのある者たちが自慢のオムレツを作って、そのうまさを競い合うコンテストみたいなもので、“オムレツ王子”が、世界一のオムレツを決めるらしいよ。
【メイユール】 ハァ??
【GM】 その他、村のあちこちにオムレツの屋台が出て、いろんなオムレツが食べられるそうな。
【シルヴィア】 その大会って、いつあるの?
【GM】 明日が本番で、明日の夕方に閉幕する。今夜は前夜祭。出場者は、仕込みで大忙しやろけどね。
【シルヴィア】 明日、その大会に行ってみる? ティガーを連れて帰らなアカンし。
【メイユール】 なんかその大会、すごい気になる(笑)。
【シルヴィア】 GM、ここからストト村まではどのぐらいかかるの?
【GM】 馬で南東へ2時間行ったところ。ワギー村とは、山を挟んで反対側の場所にある。ワギー村で東に見えていた山々が、ストト村からは西に見えるということになるね。
【シルヴィア】 じゃあ、僕らはストト村に行くから、パチモーンとはここでお別れやね。
【GM】 闇司祭はどうすんの?
【シルヴィア】 ストト村に連れて行くよ。自分らの手で官憲に突き出したいし。
【GM】 なら、徒歩の速度の移動ということで、ストト村までは4時間ね。
 では、翌日になりました。パチモーンは「それじゃ、また!」バサーッと、パーティから外れてオレンブルクに帰っていった。
【メイユール】 そんじゃ、オムレツ大会に行こう。
【GM】 キミたちは馬に跨り、闇司祭を引き連れて、オムレツ大会が開催されているストト村への道を進んだ。
 と、あと少しでストト村ということろで、変な生き物がキミたちの目の前を横切り、草むらの中に逃げ込むのを見た。顔はカエルみたいだけど、体は灰色で黒の縞模様のトカゲ。体長1メートルほどの爬虫類だったよ。
【シルヴィア】 サテラ、調べてみて。
【サテラ】 (ころっ)成功。
【GM】 なら、あれはコンドゥオというトカゲであることがわかった。
【メイユール】 おー!
【GM】 それと同時に、コンドゥオが飛び出してきた道はずれから、「そいつを捕まえてくれ〜!」という、男性の声がする。
【シルヴィア】 『そいつ』って、コンドゥオのこと?
【GM】 そう。コンドゥオが逃げ込んだ草むらからは、カサカサと草を踏み倒して移動する音が聞こえる。
【シルヴィア】 「ムリ」と、答えてあげよう。
【メイユール】 捕まえられるの?
【GM】 レンジャー技能があれば、試みれるよ。殺すか、生け捕りにするかで、難易度を変えるけど。
【メイユール】 殺さない。生け捕りにする。
【シルヴィア】 タブリアでおびき寄せるとか。1本、持って来てるんやろ?
【メイユール】 そうそう。じゃあ、タブリアを使って、一本釣りしてやろうか。
【GM】 一本釣りは難しいけど、メイユールがタブリアを出すと、その香りに釣られて、コンドゥオが草むらから出てきたよ。
【メイユール】 やった〜。
【GM】 そして、メイユールの手のタブリアを、パクリと食べてしまった。
【メイユール】 あーッ!
【GM】 コンドゥオはぼへ〜っとなって、卵を1個産み落とした。
【サテラ】 雌か。
【GM】 「捕まえてくれ」と叫んでた男性が、息を切らせながら、キミたちのところにやって来た。20歳ぐらいの青年やね。
【シルヴィア】 「これ、あんたのコンドゥオ?」と、聞いてみる。
【GM】 「はい。というか、卵を手に入れようと思ってしかけた罠に、さっきようやくかかったんですよ。罠からはずすときに暴れられて、逃げられたんです」
【シルヴィア】 「卵なら、さっき産んだよ」
【メイユール】 タブリアを食べられてもた。
【GM】 「本当ですか! しかも、タブリアを……その卵、ぜひ私に譲ってください!」と、青年は道に土下座して頼む。ストト村に向かう旅人たちが、何事かと振り向いてる。
【サテラ】 このひとも、オムレツ大会に出る?
【GM】 そのつもりらしい。
 青年の名前はマイカ。彼は村長と娘といい仲で、いよいよ一緒になろうというところまでこぎ着けた。
 ところが、物事そうそう思い通りに進まない。愛する娘をつまらない男にくれてやりたくない村長さんは、簡単には結婚を許してくれず、ひとつの条件を出した。
 それは、今回のオムレツ大会で優勝すること。
【メイユール】 村長さん、厳しいなぁ。
【GM】 厳しいよ。しかし、マイカの料理の腕前は凡庸なもの。ケチャップ作りには定評があって、“ケチャップのマイカ”と呼ばれてるらしいけど。
【シルヴィア】 村の中ではいちばん、というレベルやな。
【GM】 しかも、得意なのはケチャップだけやし。
 だから、名のあるオムレツ職人が集まるコンテストで優勝するなど、レベル1の冒険者にドラゴンに勝てというようなもの。だけど、レベル1の冒険者でも、脅威のマジック・アイテムでガチガチに武装すれば、なんとか勝負になるかも知れない。
 そのマジック・アイテムというのが、幻の珍味と言われる、伝説の『コンドゥオの卵』。
 こいつでオムレツを作り、ただひとつの取り柄であるケチャップで、勝負をかけようというわけやね。
【シルヴィア】 なるほど。
【GM】 ケチャップは2ヶ月かけて、全身全霊を込めたものを作り上げた。
【メイユール】 人生かかってるもんな。
【GM】 その一方で、コンドゥオの雌を捕らえるために罠をしかけ、奇跡が起こるのを待ち続けた。
 今朝、土壇場で奇跡は起き、コンドゥオの雌を捕らえることに成功した。が、あまりの幸運に小市民マイカの手は震え、せっかくの奇跡を取り逃がしてしまったんやね。
 今また、ここに奇跡が起きてるわけやけど。
【メイユール】 わたしら、奇跡の使者やで。
【シルヴィア】 どうする。卵を譲ってあげるかい?
【メイユール】 わたしは別に譲ってもいいよ。
「これで、おいしいオムレツを作って、村長の娘をゲットしてください」
【GM】 マイカは地面に膝をつけたままメイユールの右手を両手で握り、「ありがとう、ありがとう」と、何度も頭を下げた。道行く旅人が、何事かと注目してる。
【シルヴィア】 それじゃ、感激してるマイカさんは放っておいて、ストト村に行こう。
【GM】 ほどなくして、キミたちはオムレツ大会の開催地、ストト村に到着した。ストト村は今、普段の人口の何倍ものひとに溢れ、とてつもない賑わいを見せてます。
 メイン会場は村の広場だけど、村の中にひとが収まりきらず、外にまでオムレツの屋台が建ち並んでる。
【メイユール】 村中、オムレツの匂いがプンプンしてそうやな。
【シルヴィア】 村どころか、コンドゥオを捕まえた辺りから、オムレツの香りが匂ってきてた(笑)。
【サテラ】 ティガーはメイン会場?
【GM】 たぶんね。そこで審査されてるらしいから。
【シルヴィア】 じゃ、メイン会場に行ってみよう。
【GM】 メイン会場に来たよ。舞台の上の主賓席に、ティガーとファンリー、そしてヒデヨシが並んで座ってる。
【サテラ】 ヒデヨシまで?!(笑)
【シルヴィア】 えらいこっちゃ。
【GM】 彼ら3人と、村長さんが審査員なんやね。ティガーは山と積まれたオムレツをバクバク食べて、メモ用紙に点数をつけたりしてる。
【メイユール】 それ、審査になってるの?(笑)
【GM】 まあ、同じひとが何回もチャレンジしてるみたいやしねぇ。
【サテラ】 マイカさん……大丈夫かな。
【シルヴィア】 ティガーに事情を話して、手心を加えてもらおうか。
【GM】 ティガーはキミたちに気づいて、「みんなも食べようよ」って手を振ってる。
【メイユール】 いい、いい。オムレツの山を見ただけで、気持ち悪くなってる(笑)。
【シルヴィア】 じゃあ、ティガーに近寄って、「かくかくしかじかというわけやから、何とかしたって」と言うよ。
【GM】 ところが、ティガーはそれをきっぱり断った。「オムレツには嘘をつきたくないんだ」とかなんとか。
【メイユール】 なにぃ!? 変なとこで強情やな。
【GM】 すると、ティガーとシルヴィアの背後から、「うむ、よくぞ申した!」と声がした。
 振り向くと、キミたちの腰ぐらいまでの背丈の、変なお爺さんがいる。
【サテラ】 は?
【GM】 地面まで届きそうなほど長い髭を生やしたお爺さんで、オムレツ型の笠をかぶり、仙人みたいな杖を手にしています。
「それでこそ、“オムレツ王子”じゃ」
【メイユール】 誰、その爺さん。
【GM】 さあ?
 お爺さんは、「そなたに、よいオムレツがあらんことを」と言い残して、舞台から降り、人ごみの中に消えてしまった。
【シルヴィア】 「いったい、何やったんや」と、呆然としとこう(笑)。

 かくして、公正に行われたオムレツ・コンテストの優勝者は、コンドゥオの卵を用いたマイカだった。
 重要なのは、オムレツそのものだけではなく、ケチャップの質と量だったという。
 そう、ティガーの好みは、ケチャップがたっぷりかかったオムレツなのだ!(SWリプレイ『烙印の天使』第1話「ミフォアの司祭と黒ずくめ」参照)
 かくして、ストト村のオムレツ大会は幕を閉じ、冒険者たちは、ティガーとファンリー、そして捕らえた闇司祭を連れて、オレンブルクに帰還した。

冒険者たち、大冒険を引き受ける事

【GM】 現在、4月25日のお昼です。
【シルヴィア】 闇司祭を詰め所に突き出す。
【GM】 「はい、ご苦労さん」と、パーティに恩賞金250フィスが与えられた。
【メイユール】 はした金やな。ティガーをお城へ届けよう。
【ティガー】 なんか、届けられるらしい。
【GM】 護送車に乗せられてな。
【ティガー】 たぶん、喜んでるね。絶対、ドナドナの歌とか歌ってる。
【GM】 では、オレンブルクの王城クインサンクフルにやって来ました。
 ややこしい手続きなどの途中の描写は飛ばして、キミたちは、第8代国王メッサー・フォック・ローレス・オレアーナ陛下や宮廷魔術師プリシラシェル・パメラルース・オレアーナ、その他、大臣や将軍といった方々と共に、会議室のテーブルを囲んでいます。
【シルヴィア】 すごいな。
【メイユール】 わたしらもいていいの?
【GM】 いいよ。
【ティガー】 で、何で届けられたん?
【GM】 国王が、レギト王子に会いたいと言ってたから。レギト王子にというより、レベル7冒険者ティガーに用事があるらしいけど。
【ティガー】 「なに?」って聞く。
【GM】 グラランボンバーに関わることについてやね。
【シルヴィア】 あれから、事態は好転してないの?
【GM】 してない。調査の結果、グラランボンバーを服用した者は、オレンブルク国内において多数いるらしい。だけど、肝心の抗グラランボンバー剤の開発の目処は、まったく立っていない状態。
【シルヴィア】 ピーター博士を失ったのが痛かったね。
【GM】 もちろん、後任の研究者たちが昼夜を問わず努力してるし、これからも努力し続けるけど。
 キミたちの報告から、次に暴走が起こるのは、今年の11月15日と予想される。あと、7ヶ月と20日(230日)。それまでに抗グラランボンバー剤を開発して、国内のグラランボンバー服用者全員に飲ませられるという保証はない。
【メイユール】 そうやろな。
【GM】 そこで、二重三重に対抗策をめぐらすことにした。
「高名な冒険者であらせられるレギト王子に、月へ行っていただきたい。月の裏の塔へ行き、滅びの歌を奏でる竪琴を破壊していただきとう存ずる」と、国王陛下は言う。
【サテラ】 はあ……。
【GM】 キミたちが、月へ行くための手がかりをいくつか持ってることを、国王は知ってるからね。
【シルヴィア】 なるほど。でも、まだまだ何か集めなアカンみたいやけど。
【GM】 そうやろね。その集めなアカンものを集めて、月へ行って欲しいわけ。
「成功のあかつきには、可能な範囲で、思いのままのお礼を差し上げ申そう。我が国にて生活なさるなら、生涯不自由なきを保証いたし、カルファンの再興を望まれるなら、オレンブルク王国の支援を約束いたす」と、国王。
「もちろん、レギト王子の仲間の方々にも、それぞれ望む恩賞を与えよう」
【シルヴィア】 すごくスケールがでかい話になったな。
【GM】 大臣が部下に申しつけて、宝石がゴロゴロ入った袋を差し出した。ざっと、20万フィス相当の財宝やね。
「お引き受けいただけるなら、これを当面の路銀として使っていただきとう存ずる」と、国王は言った。
【メイユール】 20万?!
【シルヴィア】 ちなみにティガー、今の理解できた?
【ティガー】 うん。暴走を止めればオムレツが食い放題、ということはわかった。
【メイユール】 かなり曲解してるで。
【GM】 黄色くなるで、そのうち。
【ティガー】 いいねん、タマゴ病で死ぬから。「動脈硬化で死ぬんかなぁ」って思ってる。
【シルヴィア】 えらい飛び過ぎや(笑)。
【メイユール】 よだれ垂らして、「あ〜」って妄想してるんやな。
【ティガー】 黄色い未来が見えてるわ。オムレツ王国とか。
【シルヴィア】 後ろから、こっそりティガーをつつく。妄想から帰ってくるように。
【ティガー】 じゃあ、帰ってきた。で、「あ、やります」って言うた。「何か知らんけど」と思いながら。
【メイユール】 条件反射や。危険や。
【シルヴィア】 授業中、居眠りしてるところを、先生にあてられた感じやな。
【GM】 なら、家臣が盆の上に20万フィス分の宝石が入った袋を載せて、畏まってティガーに差し出した。
【ティガー】 「え、何これ?」と思って見てよう。みんなの顔を、不安そうに見てる。
「これ、もらっていいの?」
【シルヴィア】 とりあえず、引き受けたんやから、受け取っとこうよ。
【メイユール】 オムレツは買わないよーに(笑)。
【シルヴィア】 ところで、人的なサポートはあるの? 何かを依頼すれば、引き受けてもらえるとか。
【GM】 それは、先ほど渡した資金をもって、冒険者を雇うなり何なりしてください。
【シルヴィア】 そうじゃなくて、たとえば魔術師ギルド長に何か頼んだりできるかどうか、ということ。
【GM】 う〜ん、偉いひとに何かしてもらうのは、ちょっと難しいかな。偉いひとは偉いひとで、解決すべき問題に取り組んでるからね。他のことに手を回してる余裕はなさそう。
 だからこそ、名高い冒険者のキミたちが抜擢された。
【シルヴィア】 僕らがオレンブルク王国の命を受けて動いてる、ということを公にしても、問題なし?
【メイユール】 「わたしら、月に行くね〜ん」とか。
【GM】 まあ、問題ないでしょう。国家機密というわけじゃないし。あ、グラランボンバーのことは、秘密にしといたほうがいいかも。パニックになるかも知れんからね。
 王国に騒乱を引き起こすようなことは控えてくれ、という程度かな。どこまで公にするかは、オレンブルク王国はキミたちの判断に任せます。
【シルヴィア】 他に禁則事項とかはある?
【GM】 とくにない。「ぜひとも成功させてくれ」というぐらいかな。
【シルヴィア】 失敗したら、後が怖そうや。
【メイユール】 「20万フィス返せ〜」って言われたりして。
【ティガー】 それは大変や。イヤや。
【メイユール】 この20万フィス、大切に置いとこう。
【GM】 なんか、おかしな話してるな。失敗するつもりでおるの?
【シルヴィア】 そんなつもりはないけど(笑)。
【GM】 他に質問はない? じゃあ、キミたちは城を後にして、城下の貴族街を抜け、宮廷広場に出てきました。
【ティガー】 じゃ、ひとり5万フィスに分ける。
【GM】 広場ですんなよ、そんなこと(笑)。
【メイユール】 大金、持ち慣れてないから(笑)。
【シルヴィア】 周りのひとが、「なんや!?」って思って見るやろな。
【GM】 さて、これからどうしますか?
【サテラ】 「月に行く」って、具体的にどうしたら……。
【シルヴィア】 とりあえず、『月へ行く船』ってのを探すしかないやろね。前に調べた話やと、『天の鍵』『天の心』『天の衣』を見つけて、どこかの砂漠に行かんとアカンらしい。
 んで、前髪が見つけてきた古文書が、『天の心』のありかを示してそうな感じやった。
【メイユール】 そこに行って、宝探しするしかない。
【GM】 ということは、ロットバイル王国の旧カルファン王国領キャフタに向けて、旅立つんやね?
【メイユール】 ティガー、里帰りや。
【ティガー】 ほんまや。故郷の見学や。
【GM】 とりあえず、オレンブルクからキャフタまで、片道で少なくとも3ヶ月以上かかるよ。馬を使っても、40日以上の旅になる。
【メイユール】 馬で行くから、往復で80日?
【シルヴィア】 移動だけで、けっこう時間をくってしまうね。
【GM】 では、長旅に備えて、何か買い物などあったら、しといてください。
【ティガー】 とりあえず、宿屋に戻ってオムレツを食べとく。
【メイユール】 いつもと変わらんやん(笑)。
【GM】 ティガーが『青い波の美し亭』でオムレツを食べてると、「むっ、これはいかん!」というおじいさんの声がした。
【ティガー】 なに?
【GM】 見ると、テーブルほどの身長のおじいさんが、鼻をヒクヒクさせて立っていた。
 床まで届きそうな長い髭を蓄え、オムレツ型の笠をかぶり、背より高い仙人みたいな杖を持ってます。
「このオムレツは、暗黒面に覆われておる」と、老人は呻いてるよ。
【ティガー】 マジで? ヨ○ダみたい。
【GM】 おじいさんは「とお!」とジャンプして、オムレツが載った皿を杖でコンと叩いた。そして、はずみで飛び上がったオムレツを、宙でパクリと食べてしまった。
 しゅたっと床に降り立ったおじいさんは、「オムレツと共にあれ」と言い残して、酒場から去っていった。
【ティガー】 なんやねん、自分が食いたいだけやろ!(笑)
【GM】 それと入れ違いで酒場に入ってきた剣士が、「やや。今のお方は、“オムレツ仙人”ムーレですな」と言った。
 ティガーは、その剣士を知ってるよ。
【ティガー】 誰?
【GM】 7人のカルファン騎士のひとり、“ヒゲ”ことペドロ・チャベス。
 その後ろに、生え際がピンチな“チビ”こと地理オタクのトム・クリステンセンの姿もあり、「ムーレは、バウツェンの南の“白の湖”のさらに南の庵に住んでおり、その庵で、財宝を守っていると噂されてます」と、うんちくを垂れてる。
【ティガー】 どーせ、ロクな宝じゃないと思う。

遥かなる旅路の事

【GM】 「王子、お久しゅうございます。お元気そうでなにより」と、ペドロは懐かしそうに挨拶した。
 彼ら7人のカルファン騎士は、カルファン王国を再興のための資金を作るために、各地に散って冒険をしまくってる。
 ペドロとトムのコンビは、冒険にひと段落つけて、約4ヶ月ぶりにオレンブルクに帰ってきたところんやね。
【ティガー】 どこに行ってたん?
【GM】 オレンブルク王国の南、ニトラ湖に浮かぶ“冒険者の島”。そこの地下迷宮に挑んで、それなりの財産を得てきたらしい。
【シルヴィア】 なんぼほど稼いだん?
【GM】 4万9000フィス。
【シルヴィア】 おお、なかなかやるね。
【GM】 あと、魔法の物品をいくつか。持ってるだけで、炎のダメージを10点まで吸収してくれる『水晶石』。それから、緑色のビー玉みたいな石。
 他に魔晶石を2個見つけたけど、これは冒険の仲間になったソーサラーにあげちゃった。
 これらの財産は、全部ティガーに差し出されるよ。
【メイユール】 危険や、すぐにオムレツに変わりそう(笑)。
【ティガー】 4万9000フィスは、どこか金庫に入れてもらっとこう。『青い波の美し亭』って、お金預かってくれる?
【GM】 うん、預かってもらえるよ。
【ティガー】 じゃ、頼むわ。水晶石は使わせてもらう。いちばん生命力の低いひとが持っとけば、いいんちゃう?
【サテラ】 いちばん低いのは、ティガー……だけど。
【ティガー】 あれっ、ホンマや!? じゃあ、俺が持っとく(笑)。
 で、緑色の玉って何?
【GM】 それは、ペドロたちも知らないらしい。
【ティガー】 「ちょっと鑑定してもうて来てや」
【GM】 じゃあ、トムが辻馬車で魔術師ギルドに行き、鑑定してもらって帰ってきた。
 これは魔力が付加されていて、何かのキーアイテムになってるらしい。
【ティガー】 何のキーアイテム?
【GM】 ミドル地方の南部に広がる“アステア大砂海”という砂漠のどこかに、『月へ行く船』が眠る塔があるという――。
【ティガー】 そこがゴール地点になるんやな。
【シルヴィア】 ミドル地方のアステア大砂海か。
【メイユール】 北に行ったり、南に行ったり、大旅行やな。
【GM】 ――で、その塔には、守護者たるドラゴンがいる。そのドラゴンに5色の玉を捧げると、資格ある者として、塔に入れるようになるらしい。
【メイユール】 銀のエンゼルを集めて、おもちゃの缶詰をもらおう、って感じやな。
【GM】 ペドロたちが持ってきた緑の玉は、そのうちのひとつと思われるとのこと。
【シルヴィア】 たぶん、僕がもらったオレンジの玉は、そのうちの1個なんやろね。
【ティガー】 比べてみたらそっくり?
【GM】 色以外は、そっくりな気がする。
【ティガー】 じゃあ、あと3つや。
【メイユール】 集めなアカンものが、いっぱいあるな。……冒険者を雇おか。
【シルヴィア】 それもひとつの手やね。いいんじゃない。
【ティガー】 冒険者の店に張り紙して、冒険者を募集しよう。「3ヶ月以内に、『天の衣』や3つの玉を探してきて欲しい」って。
【GM】 報酬は?
【ティガー】 成功報酬で1万フィスを出す。
【GM】 それは、4つのアイテムを見つけて来たパーティに支払われるの? たとえば、『天の衣』だけを見つけたパーティと、3つの玉のうちひとつだけを見つけたパーティがいたら、報酬はどんな感じで支払われるの?
【メイユール】 あ、ひとつのパーティだけに依頼するんじゃないんや。
【GM】 張り紙するタイプの依頼なら、それを見た冒険者のパーティが、勝手に探索を始めると思うよ。
【ティガー】 賞金首を探すみたいになるんやな。
【GM】 そうそう。
【ティガー】 じゃあ、ひとつのアイテムを見つけるごとに、2500フィスの報酬。4つとも見つけたら、1万フィスになるねん。3ヶ月以内で、早い者勝ち。
 張り紙に「レギト王子より」って書いとこうっと。
【GM】 ネームバリューがあるしね。たぶん、ピンからキリまで、数多くの冒険者が探索に挑戦すると思うよ。
 今も、前髪王子が熱心に張り紙に見入ってるし。
【ティガー】 「おまえがやんの?」(笑)
【GM】 「もちろんですよ。4つとも見つけてみせましょう!」バサーっ。
【ティガー】 「まー、がんばって」
【メイユール】 冷たいな(笑)。
【シルヴィア】 僕らは『天の心』の探索に兆戦やな。
【GM】 さて、みんな。準備は終わりましたかな?
【シルヴィア】 僕は3高品質な銀製のグレート・ソードを買うたよ。必要筋力21。
【メイユール】 わたしは、銀の矢を2個セット買ったよ〜。
【シルヴィア】 ティガーは武器とか買わへんの?
【ティガー】 前にグレート・アックスを買ったよ。ツヴァイハンダーしか使ってないけど。
【GM】 するとペドロが、「王子。予備の武器を持つなら、アックスではなく、メイスのほうがよろしゅうございますぞ」と、助言する。
【ティガー】 えっ、なんで?
【GM】 刃物が通用しない場面に遭遇したとき、剣と斧だけでは何かと不都合でしょ。予備に持つなら、打撃系の武器がいいんでないかい、ってこと。
「銀製のメイスなどいかがでしょう?」
【ティガー】 でも、鈍器で殴るのって、王子っぽくないからイヤ。
【シルヴィア】 じゃあ、とりあえず、プラス1の剣とか、銀製の剣とかを買っとけば?
【ティガー】 なんで?
【シルヴィア】 通常武器無効の敵と戦うとき、楽やんか。
【ティガー】 ああ、それでみんな銀製の武器を買ってるんか。なんか銀で統一して、おしゃれな感じにしてるんかと思ってた。
【メイユール】 「今年はシルバーよ☆」って?(笑)
【GM】 ペドロ・チャベスのアゴが、カクーンと落ちてるよ。
【ティガー】 「おもしろ〜い」って笑っとく(笑)。
 じゃあ、プラス1のロング・スピアを買った。

 そして、買出しを終えた4人の冒険者は、翌4月26日の朝、ロットバイル王国の旧カルファン王国領キャフタに向けて、長い旅に出ることになった。

【GM】 キミたちは、『青い波の美し亭』の厩でそれぞれの馬に鞍をのせ、荷物をくくりつけて、出発の準備をした。
【ティガー】 ファンリーに挨拶しとこうっと。
【GM】 ファンリーは、朝靄の中、ミフォア大神殿の前の通りを掃き清めてるよ。
【ティガー】 じゃあ、「3ヶ月ぐらい出かけてくるから」って言う。
【GM】 「気をつけて」
【ティガー】 「ばいば〜い」
【メイユール】 もうちょっと別れを惜しもうよ。
【GM】 そしてキミたちは、愛馬の手綱を引き、オレンブルクの西の出口“正門”をめざして、目覚めはじめた街の通りを歩いて行く。
 行き交う人々のざわめきや、辻馬車の車輪の音、売り子の客を呼び止める元気な声や、吟遊詩人の歌声、駆けて行く子供の歓声など、いつもどおり、オレンブルクに活気がみなぎりつつある。
 キミたちが宮廷広場に差し掛かったとき、後ろから呼び止める女性の声がした。
【メイユール】 誰?
【GM】 ファンリーです。キミたちと同じように旅装束に身を包んだファンリーが、馬に乗って追いかけてきたらしい。
【ティガー】 「どしたん?」
【GM】 一緒に行くってさ。
【シルヴィア】 回復役がいてくれるのは助かるね。
【メイユール】 いい娘や。やっぱり、別れるのが寂しかったんやな。
【シルヴィア】 慌てて旅支度したんやろな。
【GM】 では、キミたちは街道をポックポックと歩きます。
 キャフタに向かうための街道は、オムスク地方の大動脈ともいえる道で、道幅も広く、石畳もきちんと敷かれてるよ。冒険者や、冒険者が護衛をしている行商人、一般の旅行者など、多くの人々が往来してます。
 2名ひと組で街道を巡視の騎兵たちとも、何度もすれ違う。彼らは、野党やモンスターから旅行者を守るという使命の他に、道の状態を監視する役目も負っている。石畳などが傷んでしまった箇所があれば、国にそれを報告するんやね。
 そういう報告を受ければ、王国が労働者を雇って、道の修繕作業を行う。その際の費用は、主に街道の通行料で賄われてます。
【サテラ】 通行料を取られるの?
【GM】 うん、取られてるよ。細かい計算がめんどいので、そういう場面描写は省いてるけど、キミたちもちゃんと通行料を払ってます。
 ちなみに、馬や馬車で道を通るときは、道の傷みを早めるという理由で、ちょっと高めの料金になる。
【シルヴィア】 高速道路で、トラックとかのほうが、軽自動車より料金が高いのと一緒やな。
【GM】 料金所はあちこちにある。橋のたもとや、街の門に設置されてる場合が多い。
 少なくても1日行けば、町や村が存在してるので、野宿の必要はほとんどない。キミたちは順調に旅を続け、5月9日には、メミンゲンに到着しました。
 ここは、ダンフリーズ・ロットバイル方面バウツェン行きの西への街道と、ニトラ湖・ミドル地方方面へ行く南への街道が交わる街で、オレンブルク第2の都市の名に恥じない規模を誇り、とても賑やかです。
【シルヴィア】 僕らが行くのは、西への街道やね。
【GM】 そう。まあ、ここで1泊して、明日から再び西への旅を続けるのでしょう。
 今日はとりあえずここまでなので、みんな、宿屋で宿帳にサインして休みましょう。ファンリーも、右手で宿帳にサインして、チェック・インするしね。

÷÷ つづく ÷÷
©2006 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2006 Jun Hayashida
Map ©2006 Moyo
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お名前
ひと言ありましたら
 
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