≪REV / EXIT / FWD≫

§銀月の歌:第19話§

精霊の山

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン 地図:もよ
▽ 消えたティガーの事 ▽ 真夜中の精霊の事 ▽ 山頂の花の事

消えたティガーの事


 『天の心』のありかを示すと思われる古文書に記されている、「禍つ神の像の目を――」という一文。
 ティガーは、少年時代、育ての親のリザロークから「そんな伝承が残る古代遺跡を探索した」と、聞かされたことがあるのを思い出した。
 リザロークを訪ねれば、古文書の地図が示す場所に何があったか、詳しい話を聞かせてもらえるかも知れない、と思った冒険者たちは、ティガーが育ったリバル村へ行った。
 リザロークの話によると、そこには、宝玉を背負った竜の形の水晶の像があったらしい。
 『天の心』の古文書に書かれている、「竜が背負いし宝玉を捧げ」という文に、何か関係があるのだろうか?
 水晶の像は、当時リザロークが所属していた組織に納められ、その組織が消滅した後、ロットバイル王国か、旧カルファン王国の城のどちらかに保管されていそうな気配だ。
 冒険者たちは、いったんオレンブルクの街に戻り、今後の対策を練ることにした。

【GM】 キミたちは4月20日の夕方にオレンブルクに戻り、昨日1日休養して、4月22日の朝を迎えました。
 起きてみると、ティガーのベッドはもぬけの殻。ヒデヨシもいない。部屋のテーブルには、置き手紙らしきものが残されている。
【メイユール】 読んでみる。
【GM】 「きょう」で終わってる。書きかけでやめたみたい。
【メイユール】 三文字で終わり? もうちょっと書こうよ、って感じやな。
【GM】 なんか、ニワトリと争った形跡がある。たぶん、ヒデヨシの羽根をペンにしようとして、ケンカになったんでしょう。
【シルヴィア】 どこに行ったんやろ。
【サテラ】 とりあえず、酒場で朝ご飯を……。
【GM】 では、キミたちは1階の酒場に降りて、朝食をとった。いつもはオムレツをばかばか食ってるティガーがいないので、ちょっと寂しい食事やね。
 さて、朝食を終え、ミフォア茶を飲みながらくつろいでると、表で馬車が止まる音がした。
 そして、冒険者の酒場にはあまりに場違いな、高貴な身なりの中年男性が入ってきたよ。護衛を2名従えたその男性は、まっすぐキミたちのテーブルにやって来ます。
【メイユール】 「何ですか?」
【GM】 「レギト王子はどちらに?」
【シルヴィア】 「今、ちょっといませんけど」
【GM】 「国王陛下が、レギト王子に折り入ってお話があるとのこと。その方らは、レギト王子の従者だな。すぐに王子を城へお連れしていただきたい」
【メイユール】 なんか、ヤな感じィ。
【シルヴィア】 「どこに行ったのか、心当たりがあり過ぎて、見当がつかないんですけど」
【GM】 「とにかく、陛下がお会いしたいとおっしゃっているのだ。早急に探してまいれ」と言って、中年男性は護衛の男にアゴをしゃくった。
 すると、お付きの男が、金の入った小袋をテーブルの上に置いた。
「そなたら冒険者は、金さえもらえば何でもするのだろう? それで、必ずレギト王子を城へ寄越すのだぞ」
【メイユール】 ヤな奴〜。
【GM】 男性は2名の護衛を従えて、店を出た。男性を乗せた馬車の音が、遠ざかる。
【シルヴィア】 袋にはなんぼ入ってるの?
【GM】 3000フィスやね。
【サテラ】 ひとり1000フィス。
【シルヴィア】 まあ、探してみるだけ、探してみようか。心当たりがあり過ぎるのも困るな。
【メイユール】 いちばん、いそうなのは彼女のとこやと思う。あと、高級レストラン。
【GM】 ちなみに、高級レストランが開くのは夕方。
【メイユール】 店の前で待ってそうやん(笑)。
【シルヴィア】 レストランに行くにしても、ファンリーを連れてくでしょ。とりあえず、ミフォア大神殿に行ってみよう。
【GM】 では、キミたち3人は、ミフォア大神殿にやって来ました。信者たちが掃除したり、畑の世話をしたり、忙しく働いています。
【シルヴィア】 近くにいる適当なひとに、「ファンリーいますか?」と尋ねる。
【GM】 いないよ。
【サテラ】 え?
【GM】 目撃者の話によると、今朝早く、ファンリーが数人の同僚とともに神殿の前の通りを掃除しているところに、街のほうからブチ馬に乗った若い男がやって来た。
 男はファンリーをブチ馬に引き上げると、そのまま街へとって返した。後には転がるほうきだけが残されたとか。
【メイユール】 あーあ、朝いちばんに誘拐されたんか。
【シルヴィア】 どこに行くとか、伝言はなし?
【GM】 疾風(はやて)のように現れて、疾風(はやて)のように去っていったから(笑)。

 3人は街に戻って、ティガーがよく通う高級レストランの周辺を調べたり、噂話を求めて冒険者の店などで聞き込みをしてみたりした。
 すると、行商人のひとりから、「オレンブルク『森の門』から、徒歩で南へ8時間(馬で4時間)ほど行ったところにあるワギーという村に、レギト王子が現れたらしい」という話を聞くことができた。

【メイユール】 あ〜、無断で外出されてしまった。本格的にやばいぞ。
【シルヴィア】 とりあえず、ワギー村に行ってみるかい? どーせ、他にすることないし。

 冒険者たちは各々馬にまたがり、『森の門』という門から、オレンブルクを出立した。
 南へ2時間行ったところで、ワギー村とストトという村に分岐するオデス村に着いた。3人はそのままオデス村を素通りして、ワギー村へ向かう。
 オレンブルクを出て4時間後の夕暮れ時、冒険者たちはワギー村に到着した。

【GM】 東西にそびえる岩の山脈にはさまれた、小さな村です。西の山脈からは、かつて銀が採掘できていたそうで、ワギー村は鉱夫やドワーフが住む町やったんやね。
 30年ほど前に銀が枯れて、鉱山は閉鎖。今は空家や廃屋がたくさん野ざらしになっている、人口60人ほどの貧しい村になっています。
【シルヴィア】 廃屋を1軒もらって、別荘にしようかな。
【メイユール】 こんな寂しい村でいいの?(笑)
【シルヴィア】 静かに考えごとするには、ちょうどいいかも知れん。
【GM】 まあ、余生を過ごすには、いいところかも。この村の取り柄は、住人が長生きすることやし。風がいいのか、60歳を越えた老人が、けっこういるらしいよ。
【シルヴィア】 そりゃすごい。
【GM】 それ以外には、何もいいことないけどね。若者は、すぐにオレンブルクに出ていってしまうし。
【メイユール】 過疎地や。
【GM】 農作物を作っても、土地がよくないので、豊かな実りというには程遠い。毒草とかは生えやすいらしいけど。
 西東の森から木を切り出し、炭を作って、何とか食うに困らない収入を得ているらしい。
 領主はおらず、村長が村をまとめている。
【メイユール】 こんなところに何しに来たんや、ティガーは。だから、「繋いどけ」って言ったのに。
【シルヴィア】 いつ言うてん(笑)。とりあえず、村の中に入ろうよ。
【GM】 では、キミたちはワギー村に入りました。夕日は、すでに西の山の向こうに隠れてる。まるで半日村状態やね。
 半ば倒壊した空家が立ち並ぶ中を抜け、ワギー村の中心に入っていくと、ある1件の家の前に、大勢のひとびとが集まっているのが見える。お爺ちゃんとか、子供とか。
【メイユール】 村人総出や。何やろ?
【シルヴィア】 声をかけてみよう。「どうかしましたか?」
【GM】 どうやら、そこは村長さんの家だそうで、そこに宿泊してるレギト王子を、窓から覗いて見物してるらしい。
「あのレギト王子が、事件を解決しに来てくれたんですよ!」と、シルヴィアが声をかけたお爺ちゃんが、歯の抜けた笑顔で嬉しそうに答えた。
【シルヴィア】 王子は中におるんやね? じゃあ、村長さんの家のドアをノックしよう。
【GM】 すると、村長さんの奥さんが顔をのぞかせた。「どちら様で?」
【シルヴィア】 「僕らはレギト王子の仲間なんやけど、王子はいてます?」と、聞く。
【GM】 「いますよ。王子様のお仲間ですか。どうぞ、お入りください」と、奥さんは招いてくれた。外の見物人たちは、「おおー」とどよめく。
【メイユール】 じゃあ、おじゃましよう。
【GM】 玄関から入ってすぐのところが居間になっていて、テーブルがある。王子は、キミたちに背を向けるかっこうで椅子に座り、村長と談笑しながらミフォア茶をすすってる。
 その足下には、目つきの怪しいニワトリがいて、「ごげ」って鳴いてる。
【メイユール】 何してんねん、ティガー(笑)。
【GM】 奥さんが「王子様のお友達が見えられましたよ」と、王子に声をかける。
 すると、王子は振り返り、「やあ、キミたち」と言って、前髪をバサーっとはね上げた。
【サテラ】 ……あれ??
【メイユール】 『バサー』ぁ?
【シルヴィア】 前髪王子かぃ(笑)。
【メイユール】 やられた!(笑) ファンリーは?
【GM】 いないよ。
【シルヴィア】 ティガーは、また別のところに行ってるんやな。
【メイユール】 ガセネタ掴まされたんか。
【GM】 ガセではなかったやん。自称レギト王子やし。
【メイユール】 偽者やんか(笑)。
【シルヴィア】 前髪は、ここで何してるの?
【GM】 説明しましょう。

真夜中の精霊の事


 ワギー村には、事件が起きていた。
 夜寝ていると、枕元に闇の中で光り輝く白馬が立っている。白馬は鼻先を近づけ、すっと消えてしまう。気がつくと、その者は年を取っていたり、若返ったりしているのだ。
 最初は夢かと思われたが、何人もの村人が同じものを見、一気に衰える者、逆に若々しくなる老人が続出するに至り、騒動になった。
 また、子供の場合は変化が顕著で、ひと晩で青年になった者がいれば、胎児になって死んだ者もいる。姿は青年で、中身は赤子という者も出た。
 さらには、姿形すら消えてしまった者もいる。
 最初の異変から、これまでひと月が経っており、老衰や胎児化で死んだ者は8名、消えてしまった者は11名いる。
 ワギー村はオレンブルク王国に事態の収拾を願い出たが、大した生産力もない村など重視されないので、「村を捨てよ」と応対されてしまった。
 長年住みなれた村を捨てられない村人たちは、わずかな蓄えを出し合い、冒険者を雇うことにした。

【GM】 で、昨日、話を聞いたレギト王子を名乗る前髪王子ことピエール・パチモーンが、なんと無償で事件を解決すると言うて、この村にやって来たんやね。
【メイユール】 無償なん?
【GM】 「ボクは名誉だけでじゅうぶんだからね。それに、ティガーはあまり報酬にこだわらないし」
【メイユール】 なりきってるんか。黒いプレート・メイルを着てるし、変なニワトリも連れてるし。
【シルヴィア】 よくそんな目つきが悪いニワトリなんか、見つけられたな。
【GM】 いや、目つきが悪いのはなかなか売ってないから、パチモーンが連れてるのは、目つきが怪しいニワトリ。名前はビデヨジで、「ごげ」って鳴く。
【メイユール】 微妙に違うんや(笑)。
【シルヴィア】 で、前髪王子に事件を解決することはできるの?
【GM】 「大丈夫さ。こうして、力強い仲間がかけつけてくれたしね」と、前髪王子。村長に「彼らはボクの仲間なんですよ」バサーっと、紹介してる。
【メイユール】 紹介されてしまったよ。
【シルヴィア】 乗りかかった船やし、ワギー村に力を貸してあげようか。ティガーを探すよりか、よっぽど興味深い事件やし。
【メイユール】 あのイヤな貴族から1000フィスもらってるし、わたしらもタダでいいか。暇つぶしやな。
【サテラ】 昨日の夜は、事件は起きなかった?
【GM】 起きなかったらしい。毎晩あるわけじゃないしね。あと、ひと晩で体が変化するのは1名と限らず、複数の村人が変化することもあるらしい。
【サテラ】 人間以外に、年齢が変化してるのはなし?
【GM】 大人の犬が子犬になってたりするから、家畜なども被害にあってると思う。
【メイユール】 見境なしか。
【シルヴィア】 とりあえず、聞いた話からその光り輝く白馬の正体を知ることはできる?
【GM】 じゃあ、セージ技能でチェックしてみようか。相当難しいけどね――って、サテラが思い当たったか、すごいな。
 光り輝く白馬、肉体の年齢変化というキーワードで、サテラは、狂った生命の精霊が関係してるのではないかと思った。
【シルヴィア】 なるほど。じゃあ、メイユールの領域やな。
 んで、この村に何か言い伝えみたいなのはある? 昔にも、そういう精霊の騒動があった、とか。
【GM】 騒動というか、精霊にまつわるエピソードはあるよ。
【シルヴィア】 ほう。
【GM】 かつてワギー村は鉱山の町だったんだけど、神ではなく、精霊を信仰してたらしい。 村の始祖が、西の岩山の頂きの泉でユニコーンを目撃し、そこを『命の泉』として崇めたのが始まり。
【メイユール】 癒しの泉やな。
【GM】 まあ、実際にヒーリング効果がある水、というわけじゃないけどね。あまりにおめでたいので、村の始祖たちはそこに(やしろ)を築き、精霊を祀った。
 やがて月日は流れ、鉱山の町だったワギーは廃れた。人が減り、暮しが貧しくなるにつれ、精霊を祀る社に近寄る者はいなくなった。
 20年ほど前には、農作物の豊穣を願うために、大地母神の司祭を招き入れて、教会を建ててミフォアを信仰するようになったそうな。
【シルヴィア】 ここから西の山の社までは、どのぐらいの距離?
【GM】 山はすぐそこ。そこから1時間かけて、険しい岩山を登らなくちゃいけない。それが、村人の足を遠ざけた原因のひとつやね。年寄りには、きつい。
 かつての山道は、もう見分けがつかなくなってるかも知れない。
【メイユール】 なるほど。じゃあ、そこに行ってみる?
【GM】 もう、日は暮れてるよ。
【シルヴィア】 なら、今日はどこか適当な空家を借りて泊まらせてもらおう、ってことでよろしいでしょうか、皆さん。
【メイユール】【サテラ】 OK。
【GM】 パチモーンも、「ここは、宮廷魔術師の意見に従おう」バサー、とか言ってる。
【メイユール】 『宮廷魔術師』って、自分のものとちゃうやろ(笑)。

 冒険者たちは、パチモーンとともに、比較的傷みの少ない空家に入った。そして、見張りも立てずに全員で眠ってしまった。
 果たして深夜、ニョムヒダと花畑を駆ける夢を見ていたメイユールは、すさまじい生命の精霊力を感じて、目を覚ました。

【GM】 ほの暗いランタンの明かりの中、白く光り輝く馬の形をとった生命の精霊が、1体いるよ。もちろん正常な精霊ではなく、狂ってしまってる様子。
【メイユール】 何してんの?
【GM】 誰かに鼻をよせる。見張りがいなかったから、このラウンドは狂った精霊が一方的に行動します。
 ダイスで目標を決めるよ、(ころっ)……目標は眠りこけてるパチモーンか。誰か、パチモーンの精神力抵抗をしてみて。
【シルヴィア】 僕が振るわ。(ころっ)失敗。
【GM】 (ころっ)すると、眠ってるパチモーンは、2歳若返って28歳になった。見た目はそんなに変わらんけど(笑)。
【シルヴィア】 でも、30代が20代になったで。
【GM】 これで、最初のラウンドは終わった。第2ラウンド、メイユールは何をする?
【メイユール】 サテラとシルヴィアを蹴って起こす。
【GM】 じゃあ、パチモーン以外は目を覚ました。
【メイユール】 「出た、出た〜」って言うけど、ふたりに精霊は見える?
【GM】 うん、今は具象化してるんで、見えてるよ。
 では、狂える精霊の行動。今度の目標は……(ころっ)サテラ! 抵抗して。
【サテラ】 (ころっ)わっ、出ない。失敗。
【GM】 じゃあ、さらにダイスを振ってみて――それなら、キミは4歳年を取ったよ。なんとなく、大人になった感じやね。
【サテラ】 23歳になってしまった……。
【メイユール】 シルヴィア、抜かれてしまったで(笑)。
【シルヴィア】 パーティ最年長の座を奪われてしまった。
【GM】 それでは、第3ラウンド。

 サテラが〈エネルギー・ボルト〉を精霊にぶつけたが、抵抗されて微々たるダメージしか与えられなかった。
 パチモーンは再び狂った精霊に年齢を変化させられ、32歳になった。

【シルヴィア】 他人事だと楽しいな。
【メイユール】 でも、2歳だけ年が増えるって、なんかすごい悔しいな。いっそ、10歳ぐらい年齢が変わったら、それほどでもないけど(笑)。

 メイユールは〈ウィル・オー・ウィスプ〉を精霊にぶつけてダメージを与え、シルヴィアは〈カウンター・マジック〉をパチモーンも含めた全員にかけた。
 パチモーンは目を覚まし、第4ラウンドに移行した。

【サテラ】 〈エネルギー・ボルト〉。(ころっ)わっ、ヘボ。抵抗されて、ダメージは10点。
【GM】 次の精霊の目標は、(ころっ)メイユール。
【メイユール】 (ころっ)あー、1ゾロ!
【GM】 それでは、年齢変化を調べてみよう――その出目だと、キミは2歳若返ったよ。
【メイユール】 やったー、16歳! ぴちぴちや。
【GM】 ただし、あんまり若返ると、能力値にペナルティを受けるからね。
【メイユール】 今がちょうどいいんや。〈ウィル・オー・ウィスプ〉を飛ばす〜。16歳になったから、元気なのが行くで。(ころっ)抵抗された、12点。
【GM】 あっ、やられてしまった。
「おのれ〜、私がこんな目にあうのも、村人たちが社をほったらかしにしたからだ。だから、あのような輩どもが現れて――」と言い残して、精霊は消えた。
【メイユール】 なんか、気になることを言い残したな。

 そして、夜が明けた。

【サテラ】 はぁ〜……。
【GM】 ヘコんでるねぇ、サテラ(笑)。
【メイユール】 そりゃ、19歳から一気に23歳になったらねぇ。
【シルヴィア】 とりあえず、西の山へ行ってみようかい。あの精霊、何か文句言いたそうやったし、そこに何か原因があるんでしょ。


 4人の冒険者は西の山に行き、その頂を目指して、険しい岩肌を登る。
 途中、何度かずり落ちてダメージを受けながらも、何とか登頂することができた。

山頂の花の事

【GM】 山頂はちょっとした台地になっていて、緑色の花が咲き乱れてる。花びらには小さな赤い斑点が無数にあり、なんだか毒々しい。
【シルヴィア】 セージ技能で調べられる?
【GM】 できるよ、やってみ。――すると、サテラが見抜いた。
 そいつは『タブリア』という植物で、致死性の高い猛毒の材料になるものです。高地に生息し、貧しい土地でもしっかり育つ。
 人間が食べることはできないけど、コンドゥオというトカゲには大好物。コンドゥオの雌がタブリアを食べると、興奮して卵を産んでしまうらしい。そのときの卵は、大変美味だとか。
【メイユール】 すごいな、サテラ。なんで、そんなこと知ってるの?(笑)
【シルヴィア】 年の功やね。
【サテラ】 やめて(笑)。
【GM】 さて、そんな花に埋めつくされた山頂の中ほどに小さな泉があって、その向こうに、(やしろ)らしき木組みの建物がある。
 社のかやぶきの屋根はほとんどずり落ち、雑草が生えている。土壁の一部も壊れて、荒れ放題やね。骨格はしっかりしてるようだけど。
【シルヴィア】 たしかに、全然手入れされてなさそうやね。
【GM】 で、その泉の前には、オレンジ色のカボチャが宙を漂っている。ハロウィンでよく見る、顔が彫られたカボチャのお化け。さらに、動く腐った死体が11体いるよ。
 その正体を知りたければ、セージ技能でどうぞ。
【サテラ】 (ころっ)成功。
【GM】 では、カボチャのお化けは、ジャック・オー・ランタンというアンデッド・モンスター、動く腐った死体はゾンビだとわかった。
【シルヴィア】 あのカボチャがボスなんやろね。余裕っち。
【GM】 「こんなところに来るとは、バカな人間どもめ。ハブデン様の邪魔はさせん。おまえたちを、ゾンビに加えてやろう」と、カボチャは言って襲いかかってくるよ。
【シルヴィア】 そのカボチャを狙い撃ちしてあげよう。グループ戦闘は、頭を潰しさえすれば勝てる。
【GM】 じゃあ、戦闘ね。最も素早いのは、ジャック・オー・ランタン。パチモーンに暗黒魔法〈スティール・ライフ〉をかけるから、誰か抵抗してあげて――それは効いた。クリティカルして、ダメージ19点。
【シルヴィア】 うおー、やば。残り1点。登山中のケガが響いた。
【サテラ】 わたしらもやばいかも。
【メイユール】 先に傷を治しとけばよかったな。
【サテラ】 ジャック・オー・ランタンを中心に〈ファイア・ボール〉をかけます。
【GM】 ジャック・オー・ランタンと、ゾンビI、J、Kが範囲に入る。
【サテラ】 (ころっ)ゾンビKにだけ効いた。ダメージ13点。ゾンビIには8点。Jには10点。ジャック・オー・ランタンには10点。
【メイユール】 カボチャのひとに〈ウィル・オー・ウィスプ〉。(ころっ)効いたのに、ダメージがしょぼいな〜。12点。
【シルヴィア】 サテラと同じく、ジャック・オー・ランタンを中心に〈ファイア・ボール〉。(ころっ)カボチャにだけ抵抗された。ゾンビIに14点、Jにクリティカルで18点、Kに12点。ジャック・オー・ランタンには11点。
【GM】 ……全部、やられちゃったよ。3匹のゾンビは崩れ去り、カボチャは地面に落っこちた。
【メイユール】 イエーイ。

 残った8匹のゾンビは屑も同然だった。
 メイユールが登山で負ったケガを治すかたわら、ファイター技能を持つピエール・パチモーンとシルヴィアが、ゾンビを土に還してゆく(サテラは精神力温存のため、見物)。
 が、ゾンビが残り3匹となったところで、社からひとりの男が姿を現した!

【GM】 黒い司祭服を纏った男で、その胸には、暗黒神クートラの聖印がぶらさがっております。年齢は、見た感じサテラより若そうやね(笑)。メイユールほどには若くない。
【サテラ】 う〜。
【シルヴィア】 19〜20歳ぐらいやね。そいつが親玉かな?
【GM】 いかにも。「我が名はハブデン」
【シルヴィア】 ここで何をしてるの?
【GM】 仇討ちの準備やね。
【メイユール】 なに〜?

 ハブデンは、19年前、オレンブルクの街から西へ1時間ばかり行ったところにある、太古の寺院跡で産まれた。当時、そこにはクートラの信者の一団が巣くってたんやね。
 ハブデンが6歳のとき、オレンブルクのシルファス聖騎士団が神殿を襲い、ハブデンの両親や、その他の信者たちを討伐した。ハブデンは子供だったので見逃され、シルファス神殿に引き取られた。
 ハブデンはシルファスの信徒を装いながら生活しつつも、復讐を忘れはしなかった。

【GM】 で、大人になっていろいろ実力もついてきたんで、ここで栽培したタブリアで大量の毒薬を作り、オレンブルクの水源になっている川に流すつもりやったというわけ。
【シルヴィア】 なるほど、これはえらいことを聞いてもた。放っておくわけにはいかないね。
【GM】 なら、戦闘かな?
【サテラ】 〈エネルギー・ボルト〉。(ころっ)あっ、クリティカルした。15点のダメージ。
【GM】 いきなり、痛いなぁ。
【メイユール】 パチモーンに〈ヒーリング〉をかけとこう。(ころっ)成功。全快やで。
【シルヴィア】 前髪が逆立つで。
【GM】 ハブデンの暗黒魔法〈スティール・ライフ〉が、パチモーンに飛ぶ。抵抗してみ――そいつは効いた。パッチモーンに9点ダメージが行き、ハブデンの傷は回復した。
【メイユール】 パチモーンを回復させといてよかった。
【シルヴィア】 死なれたりすると、さすがに目覚めが悪いしね。闇司祭に〈エネルギー・ボルト〉、(ころっ)。やった、効いた。ダメージ11点。
【GM】 パチモーンがハブデンに攻撃――しかし、かわされた。次のラウンド。

 〈スティール・ライフ〉で冒険者たちの生命力を削りながら、自らの負傷を治癒するハブデンに、4人は少々てこずった。
 それでも、相手はたかがひとりの闇司祭。
 サテラとシルヴィアが〈エネルギー・ボルト〉を、メイユールが〈ウィル・オー・ウィスプ〉をぶつけまくり、着実に敵にダメージを与えてゆく。前髪王子パチモーンは、シャムシールを振るってゾンビどもを破壊した。
 そして第6ラウンド目、精神力が尽きたハブデンは、ついに降伏した。

【シルヴィア】 こいつはオレンブルクに連れて帰って、官憲に突き出そう。縛り上げとくよ。
 あとは、ここをきれいにしたら、狂った精霊も元に戻るんじゃないかと推測されるね。毒草も全部根絶やしにしてしまおう。
【メイユール】 記念に1本持って行っとこうかな。
【シルヴィア】 何に使うの?
【GM】 サテラなら、セージ技能で毒薬を調合できそうやけど(笑)。
【シルヴィア】 とりあえず、火を放って毒草を燃やすよ。山火事にはならんかな?
【メイユール】 岩山やし、大丈夫やろ。社はどうせ、建て直すやろし。
【GM】 キミたちがタブリア畑に火を放ち、立ち昇る煙を見ていると、そこに、例の狂った生命の精霊が、白馬の形をとって現れたよ。
【メイユール】 なに〜!? また年齢変えられるぅ。
【GM】 いや、攻撃してくる気配はないよ。ただ、キミたちをじっと見てるだけ。
【シルヴィア】 じゃあ、「ここを奪った悪い奴はやっつけた」と、「社は新しく経て直して、今後は村人にちゃんと祀ってもらうようにする」と、メイユールに精霊語で伝えてもらう。
【GM】 すると、それを聞いた精霊の気配が、だんだん穏やかになっていくのを、メイユールは感じた。
 他に何か言うことはあるかな?
【メイユール】 んー、別にないよ。
【GM】 じゃあ、精霊はフッと姿を消してしまった。……年齢を元に戻して、って頼めばよかったのに。
【サテラ】 あッ!
【メイユール】 ホンマや!(笑)
【シルヴィア】 まあ、しょうがない。とりあえず、ワギー村に戻って、すべての事情を話してあげよう。「今後は、精霊様を大切に祀るように」って。
【GM】 村長をはじめ村人たちは、「わかりました」と神妙に応える。
「レギト王子様と皆さんのことは、末代まで語り継いでいきます」
【メイユール】 レギト王子って……あ、パチモーンのことか!(笑)
【GM】 パチモーンは得意げで前髪をはね上げてる。
【シルヴィア】 まあ、無償で頑張ったんやし、これぐらいはいいでしょう。村人にホントのことを言うのは、やめといてあげるよ(笑)。
 じゃあ、闇司祭を引き連れて、オレンブルクに戻ろう。
【メイユール】 それにしても、ティガーはどこに行ったんや?
【GM】 それではキミたちは、前髪王子と捕縛した闇司祭を連れて、ワギー村を後にした。パチモーンも闇司祭も徒歩なので、帰路は倍の時間がかかるね。
 4時間行ったところで、ワギー村とストト村への分岐点、オデス村に到着しました。ここで日が暮れたよ。
【メイユール】 じゃあ、宿屋に泊まる。
【GM】 キミたちは、手近な宿に入った。来るときはそういう感じでもなかったけど、酒場は多くの旅人でずいぶん賑わってるよ。
【シルヴィア】 ほう。何でやろ?
【GM】 なんでも、明日、ストト村でオムレツ大会が開かれるそうな。その審査委員長を、かの有名なオムレツ王子が務めるらしい。
【サテラ】 は??
【メイユール】 そっちかぁーッ!!(笑)

÷÷ つづく ÷÷
©2006 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2006 Jun Hayashida
Map ©2006 Moyo
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ひと言ありましたら
 
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