≪REV / EXIT / FWD≫

§烙印の天使:第3話§

殺人劇場

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン
▽ メイド、衛兵長を傷つける事 ▽ ケート、疑われる事 ▽ ティガーの精神攻撃の事

メイド、衛兵長を傷つける事

【GM】 おじいさんたちは「主役が死んだ」と聞いたんで、「孫娘が死んだ」と動揺しています。
【ティガー】 でも、主人公役って、モニカさんやろ? ケートじゃないやんな。
【GM】 昨日、ランディにサインを贈ったのは、モニカです。ファンリーに「主演女優です」と紹介されたのも、モニカさん。
【ティガー】 近くの適当な劇団員に聞きたいんやけど、モニカと一緒に死んだ女優さんって、どんな人?
【GM】 ハイジ・レートさん、25歳。カノンという女性神官戦士の役を演じてたらしい。
【カバンタ】 どんなシーンを演じてたんや?
【ランディ】 劇の内容を、かいつまんで教えてもらえませんか?
【GM】 『時の果ての約束』は、ファンリーの子供の頃の体験談をもとに、天才おかま作家ベルナルド・ジュノが演劇化したもの。
 ファンリーは、520年にロットバイル王国に滅ぼされたカルファン王国の、辺境にある村に住んでいた。彼女の村が焼き滅ぼされたとき、殺されそうになったファンリーは、3人の冒険者によって救い出された。
 そして、さまざまな冒険の旅を経て、ここオレンブルクにやって来たんやね。
【カバンタ】 そのさまざまな冒険が、劇の主な内容なんや。
【GM】 そのとおり。
 で、3人の冒険者たちはファンリーをミフォア大神殿に預け、別れることになった。そのとき「21年後の今日、会いにくる」と、幼いファンリーに約束した。
 問題のクライマックス・シーンは、その21年後の再会シーン。大人になったファンリーが、恩人である冒険者たちと邂逅を果たす場面です。
【ティガー】 そこだけ、未来のシーンやな。
【GM】 実際には、いまから12年後にあるはず……そうなったらいいな、という場面やからね。演劇なんで、約束が果たされたというハッピーエンドになってます。
 カノン役がおもむろに乾いた大根を取り出し、「ファンリー、これを覚えてる?」と呼びかけ、ファンリー役が駆け寄って抱き合うシーン。
 そこで、大シャンデリアがガッシャーン。
【ジーネ】 なんで、乾いた大根なの!? もうちょっと、美しい物にしてよ〜。
【ティガー】 でも、それが感動するらしいねん。天才の手にかかれば。
【GM】 何といっても、天才おかま作家やからね。
 ま、事故が起きたときの様子は、こんな感じです。
【ティガー】 抱き合ってたところにシャンデリアが落ちてきたから、ふたりいっぺんに死んだのか。
 で、死んだのはケートじゃないんやな?
【ランディ】 ケートはたぶん、モニカの付き人をやってた人でしょう。
【GM】 「そうだよ。よく知ってるね」と、劇の説明をしてくれた劇団員。
【ティガー】 あの声の汚い人ね。そういうことかぁ。てへっ、困っちゃった♥
 いらんこと聞いたわ。おじいさんたちに、チケット送らへんわけや。
【GM】 ちなみにおじいさんたちは、『モニカ』というのは芸名だと思ってるから。「どうしよう、どうしよう」と、うろたえてる。
【ティガー】 えーっとね、主役がふたりいた、ってことにすれば? ダブル・キャスト。
 とりあえず、おじいさんたちは置いとこう。他人の家の事情には口出しすまい。
【ジーネ】 私はその辺の事情がよくわかってないので、適当に慰めておくわ。
「まだ、はっきりわかったわけじゃ、ありませんし」とか。
【ティガー】 ところで、それってホンマに事故なん? シャンデリアって、落ちてくるようなものとちゃうやんな。
【カバンタ】 まあ、普通はな。じつは殺人なんやろ。シャンデリアを吊るしてた鎖とかに、切り口がついてるはず。現場検証してみねば! 劇場の中に入りた〜い。
【GM】 すると、劇団員が「あなたたちはいったい?」と尋ねてくるよ。
【カバンタ】 「シーフです。あえて日本語で言うならば、盗賊です」
【GM】 なんて正直なシーフや。そんなので入れるわけないやろ。
 と、ちょうどそのとき、背後で話し声がする。
「ここが事故現場であるか!」
「そのようであります!」
【ティガー】 その声はーッ!!
【ランディ】 また出てきたな、衛兵長。
【GM】 「おお、キミたちは」
【ティガー】 「チケット、使えなくなっちゃったんだ」と言ってみよう。
【GM】 「なに、チケット? チケットの話はやめてくれ。それならいっそ、捨ててくれ!」
「隊長!」がしっ!
【ティガー】 あはは、こっちの劇のほうが面白い(笑)。
【ジーネ】 「人生、そんなことばかりじゃありませんから」と慰めておこう。
【GM】 「いーや、俺たちが不幸なぶん、誰かが幸せになってやがるんだ! ちっくしょお〜!」
【ジーネ】 ダメだこりゃ。
「ところで、黒ずくめの男たちは、どうなりました?」って、隊長に聞いてみる。
【GM】 「あ、あれは管轄外なのである。よ〜く考えたら、あの隣の店から、うちの管轄であった!」
【ジーネ】 そんなお役所仕事で、どーすんの。だから、モテないんだよ。
【GM】 「ぐはあッ!!」
「た、隊長ぉ〜!」
 衛兵Bも「今のはあんまりであります!」と激しく抗議。
【ティガー】 慰めたり傷つけたり、忙しいメイドだね。
【GM】 “マッチポンプ司祭”のタイトルをあげましょう。
【カバンタ】 その間に、チケットの払戻をしてもらっとこう。
【GM】 「じゃあ、受付に行って手続きをしてください」と、劇団員。
【カバンタ】 やったー! 600フィス、手に入った〜。
【ランディ】 ちゃっかりしてるな。
【ティガー】 落ち込んでる隊長に、「それより、早く中に入って調べようよ」って言う。
【GM】 「はっ! そうであるな」と、隊長は立ち直った。仕事に没頭しとかんと、つらいからね。
【ティガー】 彼女を思い出しちゃうんだね。じゃあ、没頭しよう。
【GM】 「行くであるぞ!」と、隊長は衛兵A、Bを伴って、男性劇団員に案内されて劇場に入っていく。
【ティガー】 ついてこ。わ〜い。
【カバンタ】 どさくさにまぎれろ〜。
【GM】 それでは、事件現場の舞台にやって来ました。
 落ちたシャンデリアはそのままだけど、遺体はすでに運び出されてるよ。
 シャンデリアやその付近の床には、黒く変色した血痕が生々しく残されている。飛び散ったシャンデリアの破片は、ある程度、片づけられている。
【カバンタ】 シャンデリアをチェックや。(ころっ)
【GM】 するとカバンタは、シャンデリアを吊るしていた鉄の鎖が、スパっと切断されたようになってると思った。
【ティガー】 鉄って切れるんや。ってことは、誰か、切った奴がいるんか。魔法の剣を使ったんかな。
【ランディ】 斬鉄剣を使った可能性も。
【カバンタ】 もしくは、ビーム・サーベルやな。
【GM】 以上のことを、カバンタは見て取ったわけだ。それを他の人たちに伝えるかどうかは、知らんけどね。
【カバンタ】 わざわざ伝えんでも、その人たちは、わかってくれてるはず。
【ジーネ】 そっちから伝える気はないんだな。じゃあ、「何かわかった?」と聞いてみる。
【カバンタ】 「シャンデリアに付着した血がな、黒くなってるねん」と答える。
【ティガー】 「そんなん、見たらわかるわーッ!!」殴る。(ころっ)
【カバンタ】 (ころっ)回避。へろ〜ん。
【ティガー】 あー、ムカつく〜!
【カバンタ】 ほら、衛兵長たちも調べてよ。
【GM】 じゃあ、調べた。(ころっ)
「これは殺人事件に違いないのである!」
「そのとおりであります!」
「さすがは隊長であります!」
【ランディ】 なんか、こっちは思い込みで言ってそうですな。
【ジーネ】 ひょっとしてこの人たち、ものすごく無能なんじゃないか、と心の中で冷や汗をかきながら、いちおう「どんな感じですか?」と聞いてみる。
【GM】 「見たまえ、この鎖の切り口を。これは斬鉄剣によるものか、ビーム・サーベルによるものか……」
【ジーネ】 とにかく、ただの事故じゃなかったのね。
【ティガー】 ということは、犯人がどっかにおるんや。「モニカとハイジって、嫌われてたりしてた?」って、近くの劇団員に聞く。
【GM】 嫌われてる、ってことは、とくになかったそうだ。ハイジのほうは性格がきついんで、ちょっと近寄りがたいという感じだったそうだけど。
【ティガー】 モニカは?
【GM】 「無名の新人から一気にスターになったからね、ひょっとしたら、知らないうちに妬みとか買ってたかも知れないな」との答え。
「ボクはよく頑張ってると思ってたけどね。遅くまで残って、ひとりで練習とかしてたしね。それにしてもいやだなぁ、殺人だなんて」
【ジーネ】 モニカさんって、努力家だったんだねぇ。
【GM】 「彼女の演劇にかける情熱は、すごかったからね。ま、ここにいる連中は、たいていそんなもんだけど」
【ランディ】 そうじゃないと、スターにはなれませんな。
【ティガー】 そうか、犯人はケート! 放っといたら、じいちゃんとばあちゃんが来ちゃうから、中止にしてやれ〜って。
【ランディ】 ケートは、おじいさんとおばあさんがオレンブルクに来てることを、知ってるんでしょうかね。
「ケートさんと、話をしてみたいんですけど」と、劇団員に頼んでみる。
【GM】 「ケートですか? じゃあ、呼んできましょう」
【ジーネ】 ところで、ケートって誰? 私は昨日の夜のことを知らないんで、誰か教えて。
【ティガー】 じゃあ、教えてあげる。
【GM】 しばらくして、モニカの付き人をやっていた若い女性、ケートがやって来ました。
 おどおどした様子で、「何でしょうか?」と汚い声で尋ねてくる。
【ティガー】 「あんたのじいちゃんとばあちゃんが、いまオレンブルクに来てて、あんたが死んだと思って動揺してるんやけど、知ってる?」
【GM】 はっきりわかるほど、血の気が失せてる。声も出せずに、ただ首を振るだけ。
【ジーネ】 とりあえず、会いに行って、無事であることだけ言っておいたら?
【ティガー】 うん、「ダブル・キャストやった」とか、適当なこと言ってさ。
【ランディ】 会いにくいのなら、手紙を書くのもいいですよ。僕が届けましょう。

ケート、疑われる事

【GM】 じゃあ、ティガーの入れ知恵に沿った内容で一筆したためて、その手紙をランディに託そう。
【ティガー】 でも、犯人はケート。後ろで目がキラーンで光ってる。
 隊長に、「あいつが犯人」って言う。
【GM】 「あんな小娘に、鎖を切断することは不可能である! だいたい、証拠は何であるか!?」
【ティガー】 俺の勘。
【GM】 「甘ったれるでない! 修正してやる!」バシっ。
【ティガー】 避けてやる。(ころっ)あッ、当たった! むっか〜!
【ジーネ】 不用意なこと言うからよ。殴られて当然です。
【GM】 衛兵Aも「素人が口を出さないであります! ぷんぷん」とか言ってる。
【カバンタ】 犯人扱いされたケートはどうよ?
【GM】 いま、震える手で手紙を書いてるんで、聞こえてなかったみたい。
【ティガー】 ところでさー、シャンデリアが落ちたとき、舞台にはカノンとファンリーの役者しかいなかったん?
【GM】 いや、魔術師役と盗賊役のふたりの男優もいたよ。ただ、立ち位置が決められてるからね。舞台中央、落ちたシャンデリアの下にいたのは、モニカとハイジ。
【ティガー】 シャンデリアって、落ちたやつひとつだけ?
【GM】 いや、舞台の上には合計で3つあった。落ちたのは、そのうちの真ん中のもの。
【ティガー】 シャンデリアって、どういうふうに吊るされてるの?
【GM】 太い頑丈な鎖で吊るされてるよ。鎖は天井の滑車を経由し、舞台裏の床にある巻き取り機に延びている。
 巻き取り機は、その横に設置されたハンドルを回すことによって、操作することができる。
 メンテナンスが必要なときに、シャンデリアを上げ下げできるようになってるんやね。
【ランディ】 その巻き取り機のところで、鎖を切断されたのか。
【GM】 いや、シャンデリアに残ってた鎖が短いことから、天井付近で切れたものと思われます。
 ちなみに天井付近、通常吊るされたシャンデリアのちょっと上になるところには、作業用の足場が組まれている。
【ティガー】 照明係の足場やな。
【GM】 そう。このシャンデリア、当然、光源は電気じゃない。高名なドワーフが作ったガス式のもので、いちいち火を入れる必要がある。
【ランディ】 ガス灯ですか。
【GM】 ただし、そこは高名なドワーフ技師、1箇所に点火すれば、シャンデリア全体に火が行き渡るよう設計してくれている。照明を消すときは簡単、ガスの元栓を閉めるだけ。
 ちなみに、ガスを供給する鉄パイプは、作業用足場をまたいで舞台裏のガスボンベに続いてる。元栓は、そのボンベにあるよ。
【ジーネ】 ガスボンベですか。進んでるの〜。
【GM】 めちゃくちゃ高価やけどね。王城ですら、外交官などを迎える謁見の間や、宴を催すダンスホールぐらいにしか設置されてない。
【ランディ】 つまり、国威を示すことになるほどのもの、ってことですな。
【GM】 そういうこと。現在のレムリア大陸では、おそらくオレンブルクにしかないはず。
【ティガー】 その照明係用の足場って、客が行けたりせえへんやんな?
【GM】 関係者以外、立ち入り禁止だからね。
【ティガー】 ということは、やっぱり内部の人間の犯行。キラーン! ここの劇団員って、何人ぐらいいるの?
【GM】 下っぱの役者や、役者以外の人も含めると、200人ほどいるかな。
【カバンタ】 さすが、たくさんおるな。
 とりあえず、その作業用の足場に行ってみよう。落ちたシャンデリア付近に、何か怪しいものがないか調べる。(ころっ)
【GM】 とくに何もないよ。ちなみに、足跡はアホほどついてるからね。
【カバンタ】 そりゃ、照明係がおるんやからな。
【ティガー】 そこには普段、誰かいるの?
【GM】 いや、点火するとき以外には、あまり昇ったりしないよ。カバンタにはわかるけど、かなり薄暗いし、通路だって細いしね。足を踏み外して落っこちたら、ただではすまないだろう。
【ランディ】 つまり、そこで切断作業をしてても、目につきにくいってことか。
【ジーネ】 そこに行くまではどうなの? 目撃されないで、行けるの?
【GM】 どうだろね。作業用通路にはハシゴを昇って行くわけやけど、そのハシゴ自体は見えやすいところにある。
 ただし、公演中は舞台以外は暗くなってたよ。
【ティガー】 行けんことはないわけか。
【カバンタ】 次はモニカの楽屋も調べてみよう。行ってええか?
【GM】 別にいいけど。じゃあ、劇団員が案内してあげよう。モニカほどになると、専用の楽屋が用意されている。快適な個室です。
【カバンタ】 その快適なひとり部屋を、くまなく調べる。(ころっ)はい、1ゾロ。
【GM】 じゃあ、カバンタは鞄を開けて、下着を見つけてヘラヘラと喜んでる。
【ティガー】 俺も調べる。(ころっ)6ゾロ。
【カバンタ】 オレの1ゾロの溜めがあったからこその、6ゾロやな。「おまえを殺す」とか書かれた手紙を見つけたやろ?
【GM】 ないよ、そんなの。とくに怪しいものはないね。着替えとか、化粧道具とか、空っぽになった小瓶とか、あとは台本ぐらい。
 ちなみに、その台本は紙でできてて、ガリ版印刷によって制作されている。
【ティガー】 おお、素晴らしい!
【GM】 ガリ版印刷は、7年ほど前にオレンブルクで発明、実用化された新技術。木から紙を作るのは、オムスク地方と省地方で見られる技術。
【ランディ】 ほう。アリステア出身の僕にとっては、珍しいものなんですな。
【GM】 アリステア地方では、羊皮紙が用いられてるからね。
 オムスク地方では、ファラリア王国が作る紙が上質なものとして有名だった。ファラリア王国がロットバイル王国に併合されてしまって8年、ファラリア紙は手に入りにくいものになってしまったけど。
 その台本は、安価だけど赤っぽくてザラザラしてる、メカリア紙でできている。
【カバンタ】 わら半紙やな。
【GM】 ま、あまり関係ない話やけどね。ティガーはそんなことにまで、気がついたわけだ。
 戦争による物資の欠乏は、こんなところにまで影響を及ぼしてるんだなぁ、と思った。
【ティガー】 「補給が途切れて戦線は崩壊した」って、なんでやねん。
 ハイジの部屋も調べてみたいんやけど。
【GM】 モニカの部屋の隣が、ハイジの控室。造りはモニカの楽屋と同様の個室です。
【ティガー】 調べる。(ころっ)
【GM】 やはり、とくに怪しいものはない。私物も先ほどと変わらず、着替えとか、化粧道具とか──。
【ティガー】 ──メカリア紙の台本とかやな。何もなしか。……ケートには楽屋なんてないやろな。
【ランディ】 ただの付き人ですからね。
【ティガー】 いったん、モニカの楽屋に戻ろう。
【カバンタ】 GM、この劇場にはガードマンとかおらんのか。
【GM】 いちおう、そういうの雇ってるみたいやね。
 トップ俳優たちの楽屋に続く廊下の入口で、武装したそれらしき男が、腕を後ろで組んで胸を張り、ビシっと立っている。虚空を睨んで微動だにしない。
【ティガー】 バッキンガム宮殿や。
【カバンタ】 じゃあ、そいつのところに行って、ビシっとして聞いてみる。
「この2週間ほどの間に、モニカに会いに楽屋に行った奴はいなかったか」と。
【GM】 そんなの、いーっぱいいるよ。花束持ったお得意様の貴族とか。
【カバンタ】 そういうのはパスで、怪し〜い奴。
【GM】 「怪しい者は通さない」ビシっ。
【カバンタ】 通さなくてもいいから、とりあえず会おうとした奴とか。
【GM】 「追い返した者はいない」ビシっ。
「俺の目は、確かだ」
【ジーネ】 つまり、「怪しい人は来なかった」のひと言ですむのでは?
【ティガー】 自分が優秀やってことを、付け加えたいんやな。
【カバンタ】 ってことで質問終了。じゃあ、そのバッキンガム、帰ってよし。
【GM】 この人は勤務中。立ち去るのは、キミのほうでしょうが。
【カバンタ】 そうなんか。すごすごとモニカの楽屋に帰る。
【ティガー】 外部の人間の仕業じゃない、ってことやな。劇団員でさ、シャンデリアが落ちた時間にさ、自由に動けた人って──いっぱい、いるよねぇ……。
【GM】 よくわかってるやん(笑)。
【ティガー】 ケートはその時分、何をしてやろ。
【カバンタ】 アリバイを調べてみよう。劇団員、奴をここに呼んできて。
【GM】 呼ばれて来た。「まだ、何か御用でしょうか?」
【ティガー】 あのさー、シャンデリアが落ちたとき、ケートは何をしてたん?
【GM】 「私はこの部屋と、ハイジさんの部屋の掃除をしていました」
【ジーネ】 それは、いつもそんな時間することなのか?
【GM】 「そうですよ」
【ティガー】 そのとき、ひとりで掃除してたん?
【GM】 「はい」
【ティガー】 それを証明できる人はいる?
【GM】 「……いません」と答えた後、「わたしは、疑われてるんでしょうか」と、ランディのほうを見て言う。
【ランディ】 いや〜、そういうわけじゃないけど、ティガーがどうしても話を聞きたい、っていうから……。
【ジーネ】 ところで、ここからシャンデリアの点灯作業の足場まで、どのくらいかかるの? ちょっと、試してみます。
【GM】 けっこうな距離だよ。ダッシュで行って戻ってくるまで、10分ほどかかるぐらい。
【ティガー】 劇が始まってから、シャンデリアが落ちたシーンまでは何分?
【GM】 そうやなぁ、だいたい、1時間半ぐらいかな。
【ティガー】 じゅうぶん、時間あるやん。ニヤリ。
【ランディ】 問題は切り口やな。ヤスリで削ったような切断面じゃなく、スパっと切れてたんですよね。果して、ケートにそれができるのかどうか……。
【ティガー】 んじゃ、劇団員の中で劇が始まってからケートを見た人がいないか、探してみる。劇場の中を走り回るよ。
【ジーネ】 しかし、なんでこんな探偵みたいなこと、やってるんだろ。
【カバンタ】 ヒマやし、冒険者やからやろ。
【ランディ】 あの衛兵長たちには、任せておけそうにないですしね。
【ジーネ】 でも、どうせなら、店長を殺した黒ずくめの捜査をしたいんだけどなぁ。

ティガーの精神攻撃の事

【GM】 さて、劇場内を元気に走り回ったティガーは、やがて、「公演中にケートらしき姿を見た」という人物に出会いました。それは、受付のお姉さんです。
 公演が始まると、受付はとくにすることがなくなるから、このお姉さんは相棒を残して何となく劇場内をウロウロしてたらしい。
 そのとき、2階の指定席に入っていくケートらしき後ろ姿を見たという。
【ティガー】 客席に行ってたん? 何か、仕掛けがあるんか?
【カバンタ】 じゃあ、2階の客席をくまなく調べる。
【GM】 くまなく調べるの? そうすると、すごい時間がかかるけど、いいの?
【カバンタ】 いいともさ。(ころっ)
【GM】 とくに怪しいものは見つからない。食べ物のカスとか、チケットの半券とか、そんなものがいろいろ落ちてるよ。
【カバンタ】 拾え、拾え〜。
【ティガー】 拾ってどーすんのさ。
【GM】 さて、このカバンタの作業は、午後1時ぐらいから始めて午後6時頃に終了した。
 他のメンバーは、その間に何かしたいことがあればできるよ。
【ジーネ】 こっそりと、ケートを見張ってる。
【ティガー】 ミフォア大神殿に行っていい? ファンリーに、モニカのことを知らせてあげるねん。
【GM】 なるほど。では、ティガーはオレンブルクの大通りを歩いています。
 すると、向こうからファンリーがやって来た。手には薬草の入ったバスケットを持ってます。
【カバンタ】 お使いのやり直しやな。
【GM】 ファンリーは「こんにちは」と挨拶する。
【ティガー】 「えーっと、じつは、悲しいお知らせが……。モニカさんが」以下略。
【GM】 ファンリーは、しばらく信じられないと呆然とする。
「モニカに会うことはできますか?」
【ティガー】 遺体を見せろ、ってこと? シャンデリアの下敷きになった死体やろ、たぶん、見ないほうが……。
【GM】 すると、ファンリーは「なんてことでしょう」と、顔を覆ってさめざめと泣き出した。あ、ティガーの胸を借りて、泣こうか(笑)。
【ティガー】 わっ、借りられた♪
【ジーネ】 っていうか、なんでファンリーは事件のことを知らんねん! それなりに騒動になってそうなもんだけど。
【GM】 そりゃ、情報が入ってこないと、知りようがないでしょ。昨夜の事故の目撃者は、舞台を見ていた数百人。人口約10万を誇る巨大都市オレンブルクで、口コミでニュースが行き渡るのにひと晩でじゅうぶんやと思う?
 ついでに言うとくと、ミフォア大神殿は街の外にあって、ファンリーはその神殿の奥に暮らしている。
【カバンタ】 事故が起きたのは夜やから、今朝から噂が広まりはじめた、って感じやろな。
【ランディ】 看板俳優が舞台の事故で死んだなんて知られたら、劇場の評判が落ちかねないから、内密に処理しようとしてたかも知れませんね。しょせん、人の噂を封じることはできないけど。
【GM】 ま、モニカはミフォア大神殿の出身だから、いまごろ神殿に知らせが入ってるかもね。そのうち、遺体を収めた柩も届けられるでしょう。モニカは、自分が孤児でミフォア神殿で育てられたことをあまり人には話さなかったらしいけど、知ってる人は知ってるから。
【ジーネ】 引き取ってもらったこと内緒にするなんて、恩知らずな!
【ランディ】 いや、単に同情されたくなかっただけでは?
【ティガー】 育ての親に会いに行ったり、手紙とかチケット送ってたんやから、恩知らずじゃないと思う。
【GM】 で、ランディはどうするのかな?
【ランディ】 ケートの手紙を、じいさんばあさんに届けます。どこに行ったか、わかりますか?
【GM】 彼らはミフォア大神殿に戻ったようです。
【ランディ】 じゃあ、神殿に向かいましょう。途中で、胸にファンリーを抱いたティガーを見ながら。
「えらいことになってるなー。見ないふり、見ないふり」(笑)
【GM】 ランディは神殿にやって来ました。司祭に慰められている、老夫婦がいます。
【ランディ】 それじゃ、手紙を渡して事情を説明します。もちろん、ケートが現実に置かれてる状況は、うまいことごまかして。
【GM】 「ま、孫は生きてるのですか! あ、会わせてくだされ」ぷるぷるぷる。
【ランディ】 「いや、いまは親友を失ったショックでとても落ち込んでて、誰にも会いたくないそうです。何でしたら、おじいさんたちのお手紙を届けてもいいですが?」
【GM】 「しかし、ワシらは字が書けんのですじゃ」ぷるぷるぷる。
【ランディ】 「僕が代筆してあげますよ」
【GM】 ランディは、おじいさんやおばあさんの孫を気づかう言葉を手紙にしたためた。
「ワシらはしばらくここにご厄介になってるんで、孫にもそう伝えておいてくだされ」ぷるぷるぷる。
【ランディ】 じゃ、とりあえず、劇場に戻ります。
【ティガー】 俺はファンリーが落ちついたら、お使いについて行ってあげる。
【GM】 じゃ、ファンリーとティガーは、てくてくと魔術師ギルドにやって来た。
 が、その門は固く閉ざされていて、門の前に王国の衛兵が5人立っている。
「一般人の立ち入りは、遠慮願いたい」
【ティガー】 ありゃりゃ。ファンリーもダメなん? 今日は入ったらアカン日?
【GM】 魔術師ギルド内に、戒厳令みたいなのが出たらしい。
 昨日、ギルド長のプリンさまに会ったとき、「この2ヶ月で6人の魔術師が失踪した」って言ってたのを、覚えてるかな?
【ティガー】 覚えてる。
【GM】 優秀やね。
 そして、昨日、ついに7人目のギルドの魔術師が、出かけた先から失踪したそうだ。
 それで、ギルドの魔術師たちを外に出さないよう門が閉められ、外部からの立ち入りも、ギルドが許可した信用がおける者に限るようにしたらしい。
【ティガー】 薬草届けに来たんやけど、どうするん?
【GM】 「では、わたしが届けましょう」と、衛兵のひとりが薬草を受け取って、門の脇の通用口からギルド内に入って行った。
 そして1時間ほどして、「たしかに受け取りました。魔術師ギルド♥」と書かれた受取証明を持って、戻って来た。
【ティガー】 じゃ、劇場に帰ろう。
【GM】 ティガーは劇場に戻った。ファンリーは事件のことが気になるから、ティガーと一緒にいる。ランディはすでに戻って来てるよ。
 集合場所は、舞台のそば。時刻は18時、ちょうど、カバンタの捜査が終わった頃です。
 カバンタは、「こんなん、拾った〜」とか言うてる。
【カバンタ】 戦利品、戦利品。
【GM】 といっても、全部ゴミなんですが。
【カバンタ】 なんや、ゴミ拾いしただけか!
【GM】 ケートはジーネに見張られ続けて、なんだか居心地が悪そう。
 ファンリーは舞台に残された血痕を見て、息を呑んだ。
 衛兵たちは、まだ何やかんやと調べてたけど、すでに勤務終了の17時を過ぎてることに気づいた。
「そろそろ帰るであるぞ。まったく、素人がでしゃばってくれたおかげで、捜査がはかどらんかったのである」
「まったくであります!」
【ジーネ】 よく言うなぁ。こっちの捜査のほうが、はるかに進んでるんじゃない?
【ティガー】 隊長に見えるように、ファンリーの肩を抱き寄せてやろう。精神攻撃、いーだろ〜?
【ジーネ】 それは、私らも驚くよ。いつの間にそんな仲に!?(笑)
【ティガー】 ん、胸で泣かせてあげたとき(笑)。
【GM】 隊長や衛兵Aが、嫉妬と憎悪の視線を向けておりますが。
【ジーネ】 私も「そんな煽るようなことはやめなさい!」と、殺気を含めた視線を送る。
【ティガー】 気づかないふり〜。
【GM】 ところでティガーは、ファンリーにモニカの事故のことを話すとき、どこまで話したんかな?
【ティガー】 事故じゃなくて、殺されたかも知れないってとこまで話した。ケートが怪しいことは、まだ黙ってる。ケートとファンリーって、知り合いぽかったやろ?
【GM】 そう、知り合いです。
 ファンリー役のオーディションが行われたとき、ケートもそれに参加してて、役になりきるためにファンリーのところに通って、いろいろと話を聞いたらしい。
 その甲斐あってか、ケートはモニカと共に最終選考まで残った。
【ティガー】 残ったん!? すごいやん。
【GM】 ケートも努力してたからね。ハーフエルフで耳が尖ってる彼女は、人間に見えるように耳の先端を切り落としてるよ。
【ジーネ】 そこまでするか……。
【GM】 本当にダブル・キャストだったら、ここで晴れてふたりがファンリー役になれたかも知れない。
 けど、諸々の事情から、このとき抜擢することができるのは、どちらかひとりだけだった。実力伯仲のケートとモニカ、どちらが選ばれるのか誰にも予想できなかった。
 ところが、最終選考のオーディションの直前、ケートは喉を潰してしまった。
【ティガー】 じゃあ、それまではきれいな声やったんや。なんで潰れたん?
【ランディ】 練習のし過ぎで?
【GM】 ケートは「わかりません」と、まるで怒ったように答える。
 前日までは何ともなかったのに、朝起きたら、いまのような声になってしまってたらしい。
【ジーネ】 心の傷か。
【GM】 そう。隊長と一緒やね。
【カバンタ】 んじゃ、今日はそろそろ帰ろか。
【GM】 もうじき日が沈むしね。外ではカラーン、コローンと鐘の音が鳴り響いてるし。
【ティガー】 あらら、ファンリー帰れない。
【ジーネ】 じゃあ、今夜はうちに泊まっていきなせぇ。ただ泊めるだけなら、営業にはならないよね?
【GM】 まあね。でも、ファンリー怒られるだろうな。
【ランディ】 無断外泊ですからねぇ。
【GM】 隊長たちも「もうこんな時間である。お務めは終わりである!」「あがりであります!」と言って、帰って行った。
【ジーネ】 蹴り飛ばすぞ、てめーら〜!

÷÷ つづく ÷÷
©2002 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2002 Jun Hayashida
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ひと言ありましたら
 
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