≪REV / EXIT / FWD≫

§烙印の天使:第2話§

出会いの街

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン
▽ 英雄との会見の事 ▽ ランディ、スターにサインをもらう事 ▽ ミフォア大神殿で叱られる事

英雄との会見の事

【GM】 では、ミフォアの女司祭ファンリーさんを護衛するということで、キミたちは彼女と一緒に魔術師ギルドを目指します。
 広大な都市オレンブルクの街路は、敵の侵入を防ぐために非常に入り組んでいます。
 街を北区、中央区、南区に分けているブレア川、ケンプテン川には外部からの潜入を防ぐ仕掛けがあるんで、下手に不正侵入を試みないほうがいいよ。
【ジーネ】 誰もそんなことしようとは思わない。
【GM】 魔術師ギルドは南区にあり、そこをめざして、皆さんはてくてく歩いています。
 人口10万を誇る巨大都市オレンブルク。多種多様なひとびとが行き交っておりますな。エルフやドワーフなどの亜人の姿も見られる。ちなみに、ハーフエルフはよく見かける。
【ティガー】 冒険者の国だから。
【GM】 そのとおり。オレンブルク王国は冒険者が再興王となった国だから、他国に比べて、わりとハーフエルフへの理解があるんやね。その理解のほどは、ハーフエルフの騎士が誕生したぐらい。
【ランディ】 それはすごい。
【GM】 建国されて127年と、比較的新しい国なのも幸いしてるんでしょう。
 ちなみに、ミフォア大神殿の神殿長も齢150のハーフエルフ。アジャン・ラーシャという女性で、再興王ローランドの冒険仲間だった。
【ティガー】 それで、ハーフエルフへの理解があるんや。
【GM】 そう。彼女が、謂われなき迫害を受けるハーフエルフを匿ったりするもんだから、大陸中からハーフエルフが集まって来ることも、オレンブルクにハーフエルフが多い理由のひとつ。「オレンブルクに行けば、何とかなる」と思われるんやね。何とかなるかどうかは、当人しだいやけど。
【カバンタ】 オレンブルク・ドリームやな。
【ジーネ】 まさに冒険者の国。
【GM】 そうこうしてるうちに、キミたちは、北区と中央区を分かつブレア川に架かる橋を渡り、貴族街と兵舎町の間にある、『宮廷広場』という広場にやって参りました。
 皆様、左手をご覧ください。貴族街の奥、高みにそびえ建つ白き巨大な城が、オレンブルクの王城クインサンクフル、第8代国王メッサー・フォック・ローレス・オレアーナ陛下の居城でございます。
【ランディ】 手を合わせて拝んでおこう。「ありがたや、ありがたや」
【ジーネ】 田舎者みたい。
【カバンタ】 間違いなく、田舎モンやな。
【ティガー】 恥ずかしいから、離れてよっと。
【GM】 大丈夫、ランディの他にも手を合わせてるひとは、いっぱいいる(笑)。
 ちなみに、宮廷広場では、たまに罪人の処刑も行ってるよ。
【ティガー】 今はやってへんの? 黒ずくめの奴らとか。
【GM】 そんなバカな。
【ジーネ】 そうそう、女司祭さんに聞きたいんだけど、その黒ずくめたちに心当たりはないの?
【GM】 ファンリーは「ありません」と答える。
【ジーネ】 何かを渡せ、みたいなことを言ってたけど。
【ランディ】 たしか、「邪神の祭器を渡せ」だったね。
【ジーネ】 邪神と聞けば、捨て置くわけにはいかない。
【ランディ】 同じく。
【GM】 「なぜ、わたしが襲われたのか、まったくわからないんです」とファンリーは言い、何かに思い当たったらしく、懐から古びた人形を取り出した。
「もしかして、これを狙ってた?」
【ジーネ】 なにそれ、ただの人形?
【GM】 見た感じ、ただの古い人形。ただし、着てる服だけ新しい。
【ランディ】 母の形見とか。
【GM】 うん、子供の頃、命の恩人に買ってもらった、大切な人形らしい。なんでもこれを抱いていれば、寂しい思いや怖い思いがやわらぐんだとか。
【ジーネ】 じゃあ、「かわいい人形ですね」と言っておこう。ここは女の子らしく、女の会話といった感じで。
【GM】 では、そんなことを言いつつ、キミたちは中央区と南区を分かつケンプテン川の橋を渡り、南区に入りました。魔術師ギルドは、もう目の前です。
 総数1500人もの魔術師・賢者を抱える巨大なギルド。これひとつで、小さな都市と言えてしまうほどの規模を誇る、大陸随一の魔術師ギルドです。
 ちなみに、このギルドを築いたのは、再興王の冒険仲間であった故ルドルフ・ハイドフェルド。
【ティガー】 でかいギルドやな〜。
【ランディ】 う〜ん、これは、ここの偉いさんとコネを作っておかねば。
【ジーネ】 あなた、ホントに戦神の司祭か?
【ティガー】 絶対、ちがう。幸運神の司祭やろ。
【GM】 それでは、ファンリーとキミたちはギルドの東門をくぐりまして、敷地の中央のそびえる巨大な塔『サントルトゥール』を目指します。
 そこへの通り道にあるのは、魔術師や賢者たちの住居だったり、研究施設だったり、図書館だったり、なぜかちゃっかり運営している酒場だったりする。
 往来を行き交うひとびとも、なかなか賢そうなひとが多くなる。
【ランディ】 さすがは魔術師ギルド。
【GM】 ただし、一般のひとでも、近道をするためにギルド内を通ってたりするけどね(笑)。
 ちなみに、このギルド内のどこかには、魔法の武器・防具などを売ってる店もあるよ。
【カバンタ】 その店を見つけ出すんが大変なんやな。
【GM】 そうこうしているうちに、キミたちはサントルトゥールにやって来た。
 ファンリーは、受付のひとに薬草を届け来たことと、それが果たせない旨を説明する。
 そのとき、受付の奥から「ミフォア神殿の方ですね。薬草を届けに来てくださったのかしら?」と、女の人の声がした。
【カバンタ】 ぐちゃぐちゃになったと説明してる途中やのに。
【GM】 その声の主は、見目鮮やかな薄紅色の貫頭衣に身をつつみ、紫のマントをなびかせている、翡翠色の髪の女性。
 そのとんでもない色の髪の毛は、彼女がその体内に強大な魔力を有していることを示している。
【ジーネ】 高レベルの魔術師と見た。
【GM】 位が高いのは、間違いなさそう。山積みの本を抱えた、お付きの男性2名を従えてるしね。
 ちなみに、魔術師ギルドの魔術師は、普通、地味なモスグリーンのローブか貫頭衣を着用するもの。受付のひとも、お付きのひとも、そんな色の貫頭衣を着ている。貫頭衣はオムスク地方の民俗衣装。
 受付のひとは椅子から立ち上がって、深々と頭を下げる。ファンリーも頭を下げてるよ。
【ランディ】 いったい、どれくらい偉いひとなんやろ……。
【GM】 じゃあ、冒険者レベルと知力ボーナスで判定してみて。1ゾロでなければ、彼女のことを知ってるし、察しがつく。目にしたのは、もちろん初めてだけど。
【ティガー】【ジーネ】【ランディ】【カバンタ】 (ころっ)成功。
【GM】 彼女の羽織ってる紫色のマントは、ここのギルド長であることを表してます。
【ティガー】 あららら、すんごく偉いんじゃん。
【GM】 偉いも偉い、彼女の名は、プリシラシェル・パメラルース・オレアーナ。28歳。
 第3代ギルド長であると同時に、オレンブルクの宮廷魔術師でもあるひとやね。分家だけど王族の血を引いてるらしい。
 何より、彼女は、勇者シュカとともに魔王クラリオンを倒し、クラリオン大戦を終結させた英雄のひとりであることで有名。
【ティガー】 うわぁ、大変なひとと会っちゃった! ぼ〜っと見てよう。
【ランディ】 すげー! 何としても、僕の名前を覚えてもらわねば。
「ランディです」と名乗ります。「お目にかかれて光栄です」
【カバンタ】 ここぞとばかりに、売り込み始めたな。
【GM】 じゃあ、プリンさまは、にっこり笑って会釈しよう。この手の輩には、慣れてるから(笑)。
【ティガー】 で、すぐに忘れると。
【ジーネ】 コネにはならんね。
【ランディ】 声をかけることができたというだけで、僕は満足なんです。しかも、笑いかけてもらえたし。
【GM】 「会った」というだけでも、じゅうぶん自慢になるかもね。
 さて、ミフォアの司祭ファンリーは、緊張しながら薬草がダメになった事情を伝えた。
 それを聞いたプリンさまは、「この2ヶ月の間にギルドの魔術師が6人も失踪する事件が続いてるし、何かと物騒なので気をつけてくださいね。薬草は、また、後日お願いします」とのたまう。
 そして、お付きのひとを従えて、さわやかに去って行った。
【ジーネ】 それだけのために出てきたんかぃ。
【ランディ】 きっと、伏線だな。
【GM】 偉いひととコネを作りたい、って言ってたひともいるし。
【ティガー】 偉すぎるって。
【ジーネ】 プリンさまって、暇なのかしら。
【GM】 うんにゃ。お付きのひとたちに山ほど書物を持たせてたし、これから私室に戻って、研究に没頭するんでしょう。プリンさまは、たまにギルドにおられるときは、そうやってお過ごしになられてるしね。
【ティガー】 通りかかっただけなのね。書庫からの帰りとかで。
【ランディ】 そんじゃ、用事もすんだし、帰りましょうか。
【ジーネ】 ミフォア神殿まで送ればいいのかな?
【GM】 「そうですね。よろしくお願いします」ってことで、キミたちは外に出た。
 なんと、たったこれだけのことで、日が傾き始めてる。ミフォア代神殿から魔術師ギルドまでは、片道2時間かかってしまうんやね。
 ちなみにいまは、午後4時半。日没とともに各街門が閉じられるので、注意。
【ティガー】 じゃあ、急ぎ気分でわらわらと帰ろう。
【ジーネ】 この街で暮らすひとって、絶対、体力いるなぁ。
【GM】 う〜ん、普通に暮らしてるひとは、あまりあっち行ったり、こっち行ったりなんかしないけど。たとえば貧民街に暮らしてて、魔術師ギルドのある地区に一生足を踏み入れないひとってのも、珍しくない。
【ランディ】 一般の生活で、そんなに移動しなくちゃいけないことは、めったにないやろからね。
【GM】 まあ、ファンリーのように、お使いであちこち行くようなひとは例外。彼女は、貧民街のちょっと変わった薬屋へ薬草を届けに行くこともあるよ。
【ジーネ】 じゃあ、朝気合を入れて出かけていって、帰ってきたときにはもう日が暮れてると。「きゃあ、今日もお使いがんばったわね」とか、そんな毎日なのね。
【ランディ】 足が達者なひとなんやな。

ランディ、スターにサインをもらう事

【GM】 べつに毎日お使いしてるわけじゃないけどね。
 それに、ミフォアの司祭をなめてはいけない。大地母神の信徒である彼らは農作業をやってるから、そんじょそこらの一般人より、よほど足腰がしっかりしてる。
【ティガー】 ひょっとして、ギルドに届けようとしてた薬草も、ミフォアの司祭が作ったやつなん?
【GM】 そのとおり。そうして神殿の運営費の足しにしてるのです。
 あと、関係ないけど、オレンブルクの街では辻馬車なんてのが運行されてるから、お金に余裕があれば、それを利用するのもひとつの手やね。
【ジーネ】 お金に余裕がないので、歩きます。
【カバンタ】 オレは余裕あるけどなぁ。
【ジーネ】 じゃあ、みんなの運賃も払ってくれる?
【カバンタ】 それはノー! 自分のぶんは、自分で払ってもらわんと。
【ティガー】 そんじゃあ、歩きという方向で。
【GM】 キミたちは若干早足気味で、ケンプテン川を越えて宮廷広場を通り抜け、ブレア川の橋を渡って、北区の劇場前までやって来た。
 時刻は午後6時。
 そこで、「ファンリー!」と、声をかけてくる女性がいます。
【ティガー】 知り合い?
【GM】 そうみたいやね。
 その女性は、「今日は観ていかないの」と、親しそうに話しかけている。
 しかしファンリーは、今日は叱られに帰らないといけないので、申し訳なさそうに断ります。日が暮れると、オレンブルクの街門は閉ざされてしまうし。
【ティガー】 街から出られなくなるんやな。
【GM】 ついでに、外から入ってくることもできなくなる。ちなみに、南の街壁の外にある貧民街は24時間解放。
 日没に間に合わず、街に入ることができなくなった旅人は、西南メミンゲン方面から来た者は、貧民街の宿屋に、北東メカリア方面から来た者は、ミフォア大神殿にて一夜を明かす。
【ランディ】 あ、ミフォア大神殿って、街壁の外にあるんですね。
【ジーネ】 どうせなら、壁の外に宿場を作ればいいのに。
【GM】 そんな怖いこと、できますかぃな。何のための街壁やと思ってんの。この世界では、モンスターだって闊歩してるのに。ミフォア大神殿も、自衛のために堅固な壁を築いてるのに。
【ティガー】 神殿が外にあるってことは、司祭さん、門が閉じられたら帰れなくなるね。
【GM】 そういうこと。
 で、ファンリーは、キミたちが衛兵長からここの劇のチケットをもらったのを知ってるので、「もし、劇を観ていかれるんでしたら、護衛はここまででけっこうですけど」と言うよ。
【ティガー】 そういえば、チケットもらったな。どんな劇が観れるの?
【GM】 『時の果ての約束』という、追加公演しまくりの大ヒット作です。チケット取るのがすごく大変。あの隊長さん、かなり頑張ったんやろね。
【ティガー】 でも、ふられたんや(笑)。
【GM】 1枚600フィスもするチケットなんやけどね。
【カバンタ】 高いなぁ。2枚で1200フィスか。
【GM】 なんと、隊長の給料2ヶ月分。
【ティガー】 いっぱい、つぎ込んだんだね。でも、ふられたんだ。
【GM】 ただ、これでも、自由席券だから安いほう。
【カバンタ】 指定席やと、もっと怖い値段になるんやな。貴族しか観られんのとちゃうか。
【GM】 キミを〈センス・ライ〉で取り調べた魔術師先生は、指定席券だったりする。
【ティガー】 ああ、あのひとも劇を観にきてるんや。金持ちやな。
【GM】 ちなみに、スター俳優たちが大ホールで演じる劇と、駆け出しのペーペーが小さな舞台で演じる劇とでは、チケットのお値段が天と地ほど違う。ランク分けされてるんやね。ペーペーの場合、タダで観れることもあるよ。
【ジーネ】 で、この劇のランクは?
【GM】 当然、F1クラス。『時の果ての約束』は、トップスターが繰り広げる笑いと涙の大スペクタクルです。
【ランディ】 さすが、自由席で600フィスするだけありますな。
【ジーネ】 しかし、F1クラスで自由席というのもな〜……。
【GM】 客を入れれるだけ入れて、がっぽり稼ぐのが自由席。立ち見になっても、文句を言えないのが自由席。
【ティガー】 立ち見になるんか。じゃあ、今日の席はぜんぶ取られてるかも。
【ランディ】 ところで、その劇の内容はどんな感じですか?
【GM】 ベルナルド・ジュノという若き天才作家兼演出家が、ファンリー司祭の子供の頃の体験談を描いた作品です。
 ちなみに、ジュノはおかま。
【ティガー】 うわっ。
【ランディ】 そこまで設定してあるのか。
【GM】 ただし、演技指導のときは、我を忘れて男に戻る。
【ジーネ】 まだまだ甘いのう。首尾一貫せないかんわ。
【GM】 ジュノ先生は、一時期スランプに陥っていた。
 苦悩にあえぐジュノは、心の救いを求めて、ミフォア大神殿に祈りや懺悔をしに通い、そこでファンリーと知り合って、いろいろ話してるうちに親しくなった。彼女の幼少の話を聞いたのも、そのとき。
 それで閃いたジュノは、『時の果ての約束』を書き上げ、みごと、復活を果たした。詳しい内容は、劇を観てのお楽しみ。
【ティガー】 なるほどね。いま、ファンリーに声をかけてきてるんは、おかま先生とは別人?
【GM】 別人です。こっちは、れっきとした女性。
 本作品の主人公ファンリー役を演じる、モニカ・バレイアさん、19歳。ペーペークラスの女優さんやったんやけど、厳しいオーディションを勝ち抜いて、『時の果ての約束』のヒロインの座を射止めました。
 もともとは孤児で、ミフォア神殿に引き取られて育てられたという過去を持つ。
【ティガー】 じゃあ、ファンリーとも幼なじみか何かなん?
【GM】 姉妹のように育てられてきたらしい。ファンリーも孤児やからね。
 そんなモニカも、いまや大スター。こんな大通りで話してて、その辺の人に気づかれでもしたら、大変なことになる。
【ランディ】 大スターか。これは名乗っておかねば。
「サ、サインしてください」
【GM】 それじゃ、ランディのハード・レザーにサインしてあげよう。『ランディさんへ』って書き添えて。
【ランディ】 絶対、その部分は斬られないようにしないと……。
【GM】 そのとき、まるで猫が風邪をひいて喉をつぶしたような汚い声で、「モニカさん。そろそろ楽屋に」と声をかけてくる者がいます。
 見ると、モニカと年端の変わらない、若い女性ですね。彼女はファンリーに気づいて軽く会釈し、ファンリーもにっこり笑って挨拶する。
【ティガー】 あ、その人とも知り合いなんか。
【カバンタ】 そら、幼なじみの付き人やからやろ。
【GM】 そして、促されたモニカは、「じゃあね」と言って、劇場のほうに去って行く。しかし、途中で道行く人々に気づかれて、あっという間に人だかりができた。
 声の汚い女性は、「道を開けてください」と必死で叫び、人をかきわけ、モニカを先導している。
【ティガー】 で、モニカはサインとか握手しながら歩いていくんや。
【GM】 ふたりは何とか、劇場に消えていった。
 さて、キミたちはどうするんかな? ファンリーは、「劇を観ていくんなら護衛はここまででいい」と言ってるけど。
【ジーネ】 送っていくよ。
【ランディ】 僕もです。
【ティガー】 このチケットって、いつまで有効なん?
【GM】 自由席には期限はないよ。指定席やと、日にちも指定されるけどね。
 ちなみに、劇は土曜と日曜の夜にやっていて、今日は土曜日。
【ティガー】 ってことは、明日も観られるってことやな。じゃあ、送ってく。
【カバンタ】 ついていく。
【GM】 それでは、衛兵の詰所やオーシュ神殿、北の広場『さかな広場』、悲惨な事件のあった宿屋の前を通り、ミフォア大神殿を目指します。
【ジーネ】 いちおう、宿屋の扉は閉めてるからね。「都合につき、休業します」って貼り紙もして。
【ティガー】 でも、近所のひとはみんな事件のこと知ってるで。ヤジ馬とかに聞いて。
【カバンタ】 営業再開は無理やろな。
【ジーネ】 う〜ん、お給料……。
【ティガー】 ええやん、店の金庫から勝手に持っていけば。
【ジーネ】 それはできない。至高神の司祭だから。
【GM】 そんなことを言いつつ、キミたちは北の街門『日の出門』から街を出て、ミフォア大神殿に到着しました。
 オレンブルク王国の国教の大神殿だけあって、ホントにでかい。詰所の隣にあったオーシュ神殿なんか、比べ物にならないぐらい。
【ランディ】 ちっ。
【GM】 ファンリーに「護衛のお礼をお渡ししますので、中にどうぞ」と言われるけど、どうしますか?
【ティガー】 入る、入る。
【ジーネ】 私は遠慮しますわ。いちおう無事に送り届けたわけだし、宿の掃除もしなくちゃいけないんで。
【ランディ】 僕は神殿にお邪魔しますよ。
【ティガー】 また、コネを作ろうとしてるやろ。
【ジーネ】 ランディも遠慮しなさいな。神殿の宗派が違うんだから。
【GM】 宗派うんぬんは気にしなくていいよ。ミフォア、オーシュ、シルファスは、いわゆる『光の神々』同士だから、対立するような関係にはない。
 クートラ、ザンナールなどの『闇の神々』となら、話は別やけど。
【ランディ】 光の神を信仰する者同士、仲良くするに限ります。
【ティガー】 だから、コネだな(笑)。
【GM】 戦神オーシュというより、幸運神ノプスの考え方やな。
【カバンタ】 オレも神殿にお呼ばれする〜。
【GM】 では、ジーネと別れたティガー、カバンタ、ランディの3人は、ファンリーの案内でミフォア大神殿の敷地に入りました。
 ファンリーたち信者が住まうのは、大聖堂か少しはなれたところに建っている、質素な宿舎の4人共同部屋。
 さて、3人が案内されるままに歩いてると、三角眼鏡をかけた怖そうなおばちゃんが仁王立ちしてるのに出くわした。
 この人はイリア・ザーマス司祭。ファンリーの上司であり、子供の頃から世話してくれた恩人でもある。

ミフォア大神殿で叱られる事

【ティガー】 女優のモニカも育てた?
【GM】 うん、ファンリーと一緒に育てたよ。モニカが女優になると言って出ていくとき、大ゲンカしたらしいけどね。今でもしこりが残ってるらしく、イリア司祭はまだ、モニカの舞台を観に行ったことがないそうだ。
 ま、それは置いといて、ファンリーはイリア司祭に薬草を届けられなかったことを報告した。
 すると、イリア司祭の三角眼鏡がキラッと光る。
【カバンタ】 たしかに怖そうや。
【GM】 イリア司祭は「大事な薬草をダメにするなんて、なーにやってるざますか!」と、ガミガミ叱り始めた。
 ファンリーは小さくなって、「すみません、すみません」と謝るばかり。本来、無関係なはずのキミたちも、どういうわけか、後ろでその説教を聞くはめに。
【ティガー】 じゃあ、居心地悪そうに頭を掻きながら立ってる。
【ランディ】 僕は「まあ、まあ」となだめてみましょう。
【GM】 すると、「あーたは黙ってなさい!」と怒られた。
【ランディ】 すごすごと引き下がります。
【GM】 「そもそも、ミフォアの教えとは──」
【ティガー】 俺らには関係ねーじゃん! 腹、減ったわ。ぐぅ。
【カバンタ】 昼間、オムレツとかカツ丼とか、食いまくってたやないか。
【ティガー】 腹ぺこキャラやねん。
【GM】 小1時間ほど過ぎて、街のほうから「カラ〜ン、コロ〜ン」と鐘の音が聞こえてきた頃、イリア司祭はようやく「今日はこのへんにしとくざます」と解放してくれた。
【ティガー】 あ、早く帰らんと、門が閉められてしまう!
【GM】 残念。鐘の音が閉門の合図なので、いまちょうど、街門が「ギー」と閉じられているところです。
【ティガー】 最悪〜!
【ジーネ】 部屋の掃除とかしながら、「帰って来なかったわねぇ」と思ってます。
【GM】 ファンリーは申し訳なさそうに、「今日はここに泊まっていってください」と言う。いちおう、外部の人のための宿泊施設があるから。食事もサービスで出るよ。
【ティガー】 おっ!
【カバンタ】 それはいいな。ここに住もっかな。
【GM】 図に乗りすぎると、そのうち追い出されるけど。
 では、ファンリーに連れられて、大食堂にやって来ました。住み込みの司祭たちや、キミたちのように閉め出された旅人たちが、静かに食事をしています。
【ランディ】 我々も、おごそかにいただきましょう。
【GM】 ちなみに今日のメニューは、パンとスープとポテトサラダと近海で捕れた魚のムニエル。必要な栄養を必要なだけ採れればいい、っていう質素な食事だから、豪華絢爛なものを期待しないように。香り豊かな自家製のお茶は、おかわり自由。
【ランディ】 お茶をすすりながら、「いい香りですな。心がなごみます」。
【ティガー】 ポテトサラダもあるの? 野菜、嫌いや〜。
【GM】 すると、ファンリーのそばに座ったイリア司祭が、「好き嫌いしちゃ、ダメざます! だいたい、あーた、なんですか! その顔の刺青は!?」と怒るよ。
【ティガー】 刺青じゃなくて、タトゥ! つーか、肉が好き〜! 肉ぅ!
【GM】 「肉ばかり食べてたら、体に悪いざますよ。あーれも食べなさい、こーれも食べなさい。ピーマン避けちゃ、ダメざます!」
【ティガー】 うるさい、うるさい、うるさい! 嫌いなんじゃ。お子様ランチに乗ってるようなんが好きやねん。ピーマンはカバンタの皿に横流し。
【カバンタ】 ピーマン、いくら食べても減らへ〜ん。じゃあ、魚あげる〜。
【ジーネ】 イリア司祭、そんなにうるさく言うから、モニカに出て行かれたんじゃないの?
【GM】 それは関係ないと思うけど。モニカは孤児たちの慰問に来た劇団の演劇を観て、女優になろうと思ったんやから。
 むしろ、訪ねてきたモニカに会おうとしなかったり、モニカから送られてきた手紙やチケットを無視してるのは、イリア司祭のほう。
【ランディ】 依怙地になってるんですな。
【GM】 そんな感じで、楽しい夕食の時間は終わり、ティガーたちは、旅人用の宿泊室に通された。
【ティガー】 じゃあ、保存食の干し肉をかじってる。ガリガリガリ。
「まずい〜。えびフライ食べたい〜」
【GM】 そこは6人の共同部屋ね。キミたちの他には、おじいさんとおばあさんが泊まっている。おじいさんの右手は、ぷるぷるぷる。
【ティガー】 ティガーは干し肉を、ガリガリガリ。最悪や(笑)。
【カバンタ】 オレは速攻で寝る。
【ジーネ】 早寝、早起きのシーフだなんて。
【GM】 早寝、早起きなら、このじいさんも負けてへんで〜。
 ちなみに、そのおじいさんたちは、『時の果ての約束』を観るために田舎から出てきたらしい。自由席600フィスで。
【ティガー】 あ、あの劇を観に来てるんや。
【GM】 じつは孫娘の嫁入りのために置いといた1200フィスやけど、その孫娘がヒロインのファンリー役を演じているので、無理して買っちゃいました!
【ランディ】 ほほう。
【ティガー】 あれ? モニカって、孤児やったはず……。
【GM】 「ケート・フェリエという女優を知っておるかね?」ぷるぷるぷる。「ワシの孫娘ですじゃ」ぷるぷるぷる。
【ティガー】 ケート?? ……知らんなぁ……ガリガリガリ。
【GM】 じいさんは孫娘の自慢話を続ける。
 なんでも、ケートはハーフエルフだそうで、父はエルフで蒸発、母は彼女を産んですぐに死亡。子供の頃はよくいじめられたらしい。
 しかし、まっすぐに成長したケートは、女優になるためにオレンブルクに行き、ついに、その夢を果たしたという。
 ただ、いくら催促してもチケットをくれないので、じいさんたちは自分たちでチケットを買ったそうだ。
【ジーネ】 自分の祖父たちに、観にきて欲しくないんか?
【GM】 それでは、翌朝になりました。神殿の朝は早い──。
【ティガー】 ──けど、遅い人もいる、ってことで。
【GM】 じゃあ、キミたちは午前10時ぐらいに目を覚ました。そのときにはもう、おじいさんたちの姿はない。
【ティガー】 あ、もうおらへんのか。
【GM】 そりゃ、朝4時には起きてたからね。右手をぷるぷるさせながら、ティガーの寝顔に「元気でのう」と囁いて、キミたちを起こさないよう、そうっと出ていったから。
【ティガー】 んじゃ、ジーネの宿屋にでも行こっか。
【ランディ】 荷物を置きっぱなしにしてますし。
【ジーネ】 その頃の私は、「帰ってこなかったなぁ」と思いながら、朝食の後片付けをしています。
【GM】 ところでその宿屋、営業はしたらアカンで。王国や商人ギルドから営業許可をもらってるのは、ジーネじゃなくて、故トム・オッカーさんやから。
【ジーネ】 休業中の看板を出したままにしとくよ。それから、店長の身内の人に急を知らせる手紙も出します。
【GM】 で、ティガーたちが部屋から出ると、廊下で起こそうか起こすまいかと迷っているファンリーに出くわした。
 ファンリーは「おはようございます」と挨拶した後、昨日の護衛のお礼の200フィスを「少ないですが」と言って差し出した。
「昨日はありがとうございました」
【ティガー】 いやいや。
【ランディ】 ひとり50フィスですね。ジーネに分け前を持って行ってあげないと。
【ジーネ】 しかし、200フィスも持ってるとは、金持ちな娘じゃ。
【GM】 神殿で暮らしてると、使う機会がめったにないからね。少しずつでもたまっていくんでしょう。
【カバンタ】 じゃあ、宿屋に戻る〜。
【ジーネ】 「昨日はいったい、どうしてたんですか? ずっと待ってたんですよ」
【ランディ】 「いや〜、説教されてました」と答える。
【ティガー】 「神殿のメシは、まずくてさー」と怒る。
「オムレツ作ってくれ〜」
【ジーネ】 そりゃ、作りますけど、「いったい何をやってたんだろう?」と思うよ、さっきの説明じゃ。
【ティガー】 オムレツ食ったら、劇を観に行く。
【カバンタ】 公演は夜やろ。まだ早いんちゃうか。
【ティガー】 でも、自由席やから、早めに行っていい席とっとかんと。
【ジーネ】 じゃあ、戸締りして出かけましょう。
【カバンタ】 みんなでソロゾロ出かけるわけやな。
【ランディ】 もう、すっかり仲間ですね。
【GM】 では、劇場前にやって来ました。
 そこに、昨夜のおじいさんとおばあさんがいます。ふたりは、何だかオロオロしてるよ。
【ティガー】 「どしたのん?」
【GM】 じつは、昨夜の公演で、大変な事故が起きたらしい。
 クライマックス・シーンで、舞台の上の照明の大シャンデリアが落っこちて、ヒロイン役ともうひとりの女優さんが下敷きになって死んだらしい。
【ティガー】 モニカ、死んじゃったの?!

÷÷ つづく ÷÷
©2002 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2002 Jun Hayashida
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