≪REV / EXIT / FWD≫

§伏魔の街ルニオール:第7話§

禍害連発

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン
▽ またしても殺人事件 ▽ ふたたび濡れ衣 ▽ 見えてこない糸口

またしても殺人事件

【GM】 リィンが盗賊ギルドでグローガンについて尋ねても、すぐに答えは返ってきません。「調べてみないとわからない」らしいから。
【リィン】 じゃあ、調べてもらおう。それから、コーネルがルニオールに来たんはいつ頃?
【GM】 5日ほど前。コーネルさんは貿易商なので、船でルニオールに来たそうです。
【リィン】 5日前いうたら、黒い影が現れた頃やん。何か関係あるんかな。
【シーザー】 商船で来たということは、用心棒とふたりきりで来た、ということはなさそうやな。コーネルの船の乗組員を探してみよう。港へ行く。
【デリー】 そんなん、見つからんと思うよ。
【シーザー】 その辺の奴に聞いてみる。「コーネルという商人の船はどれだ?」
【GM】 すると話しかけられた水夫らしき男が、「ああ、あそこの衛兵が見張ってる船だよ」と教えてくれます。
【デリー】 また見張られてるのか〜。
【シーザー】 コーネルの船がまだそこにあるということは、船員もまだ、いくらかこの街に残ってるやろ。港近くの酒場にでもあたってみよう。

 港の酒場で、コーネル商船の元船員が3人見つかった。AさんとBさん、そして額にホクロのあるベテランのCさん。
 その結果、コーネルは西隣の大国オレンブルク在住の商人で、グローガンは4、5年コーネルの用心棒を勤めている、ゴロツキのような人物であったとわかる。

【デリー】 そのゴロツキのグローガンが、コーネルの死体を発見したと言ってたんやな。
【シーザー】 そういうふうに聞いてるけどな。情報が歪められてない、とは言い切れん。
【GM】 そうですね。皆さんが仕入れた情報のうち、コーネル殺害事件に関するものはすべて、領主側から出された情報でしたよね。
【シーザー】 それも、確証のない伝言形式のものばかりやったし。事件現場を見たわけでもない、コーネルの死体を見たわけでもない、グローガンやホルトーに会って話を聞いたわけでもない。つまり、コーネル殺害事件そのものが領主のでっちあげで──。
【リィン】 ──コーネルは実は生きてる、ってことか。
【シーザー】 そういうこと。コーネルは領主と結託して、大陸有数の大富豪であるホルトーを陥れようとしてるんや。没収した財産でマクベルを新国王に仕立てて、自分は新国王お抱えの商人に収まるつもりなんやろ。これでだいぶ見えてきたな。
【デリー】 わたしら、まんまと領主の策略に踊らされてしまってたんやね。
【リィン】 うちははじめから領主が怪しいと思ってたよ。
【シーザー】 よし、もういちど盗賊ギルドへ行こう。今度はコーネルと領主のことを、徹底的に洗い直す。何日かの調査が必要と言うんなら、シーフの諜報部員を雇ってでも調べさせる。
【GM】 わかりました。では、他にすることはなさそうなので、時間を進めさせてもらいます。翌朝になると、事件が起きてるやわ。
【リィン】 また殺人事件?
【GM】 ずばり、そうです。
【シーザー】 しかしまあ、次から次へと殺人事件ばかりよく起きますな。
【デリー】 その事件現場へ行って、詳しく調べてみる。
【GM】 現場は大通りからはずれた裏路地で、すでにヤジ馬の人だかりができてますね。現場周辺に行くことはできますけど、あんまり中に入ろうとすると、衛兵に止められてしまうよ。
【シーザー】 被害者の死体は見えるか?
【GM】 死体はもう片づけられていますね。死体があった場所には血痕が残ってます。
【シーザー】 血痕があるってことは、外傷のできる殺され方やったんやな。周りのヤジ馬たちに、「なーなー、何があったん?」って聞いてみる。
【GM】 「また殺人事件があったらしい」という答えが返ってきます。
【シーザー】 「今度も例の黒い影か」
【GM】 「聞いた話ではそうらしいがなぁ。今度は、衛兵が殺されたそうだ」
【リィン】 衛兵って、見回りでもしてたん?
【GM】 いえ、勤務を終えて自宅に戻る途中だったそうです。ちなみに犠牲になった衛兵は、両親と共に暮らす、若い男性だそうです。
【シーザー】 コーネル殺害事件とこの事件、関連性あるんかなぁ。その被害者の家を聞いて、訪ねてみよか。
【GM】 じゃあ、亡くなった衛兵をよく知るひとに、被害者の自宅を教えてもらいました。行ってみると、悲しみに暮れる彼の両親がいます。
【デリー】 何といって話しかけるの?
【シーザー】 「このたびは御愁傷様です。私は息子さんの同僚のシーザーです」と自己紹介する。
【デリー】 それって嘘やんか。
【シーザー】 ああ、嘘やで。でも、息子の同僚をいちいち把握してはずはないやろから、バレることはないやろ。──被害者の名前を知らんから、その辺はうまくごまかさんといかんけど。
【GM】 シーザーの自己紹介を聞いた被害者の両親は、「どうもわざわざすみません」と頭を下げます。
【シーザー】 その両親に「彼の部屋を見せてもらいたいのですが……」と言う。
【GM】 じゃあ、「どうぞ」と案内されました。
【リィン】 よっしゃ、部屋を[捜索]、久々にダイスを振る。
【シーザー】 そういえば、前回はダイスを振る機会がぜんぜんなかったな。
【GM】 じゃあ、力を込めて振ってください。
【リィン】 (ころっ)。
【GM】 う〜ん……めぼしい物は、特にありませんねぇ。そうこうしてると、玄関のほうから話し声が聞こえてきたよ。
【リィン】 [聞き耳]する。(ころっ)。
【GM】 聞こえてくるのは、被害者の両親を慰める若い男の声。覗いてみると、魔術師ふうの青年がいます。会話の内容からすると、被害者の幼なじみのようやね。
【シーザー】 ということは、俺から見れば『友達の友達』なんやな。
【GM】 別にあんたは被害者と友達やったわけじゃないでしょうが。
【シーザー】 それは仲間以外にはわからんことやから。じゃ、そいつらの話に紛れ込もう。……と言うても、そばで聞いてるだけやけど。んで、しまいに勝手に茶を入れて「立ち話もなんですし、どうぞ」とテーブルを勧めるねんな。
【GM】 最悪や(笑)。
【シーザー】 大丈夫。そうしながらでも「彼の魂は主の下に招かれ、いまは天国で幸せに暮らしていますよ」とか何とか、それらしいことをもっともらしくぬかして、遺族を慰めてやる。いちおう司祭やからね。
【GM】 ほんじゃ、被害者の両親は、お茶を入れてくれたことにすら感謝してしまうんやろな。「ありがたや、ありがたや」と手を合わせる。
【リィン】 すっかり丸め込まれてる。シーザーって、霊感商法とかできそうやな。で、その魔術師ふうの青年って、魔術師ギルドのひとなん?
【GM】 そういうふうに聞くんなら、彼は魔術師ギルドのメンバーで、しかも、上から4番目ぐらいの地位にいる人物だと答えられます。
【リィン】 名前は?
【GM】 メルクさんです。
【シーザー】 じゃあ、「俺は奴の同僚のシーザー・マルケスです」と自己紹介する。
【デリー】 『奴』って、誰や。
【シーザー】 もちろん、被害者に決まってるがな。「よろしく、友達の友達」と言って。メルクと握手する。
【GM】 「はあ、よろしく」
【シーザー】 魔術師ギルドの上から4番目の地位にいるということは、メルクはギルド長に直接会ったことがあるんかな?
【GM】 「もちろん、仕事上ありますよ」
【デリー】 じゃあ、「実はわたし、ギルド長に会いに魔術師ギルドへ行ったんですけど、追い返されてしまったんです。魔術師のよしみでギルド長に会わせてくれませんか?」と言う。
【GM】 あのね、初対面のひとにいきなりそんなこと頼んでも、疑われこそすれ、頼みを聞き入れてもらえないと思うよ。メルクさんは困った顔をしてますね。
【デリー】 しゃあないな、あきらめよう。
【リィン】 あっさりしてんな。
【デリー】 しゃあないやんか〜。後は、わたしらが被害者とアカの他人やとバレたら大変やから、適当に話を合わせて雑談しとこ。お茶飲みながら、その場の和やかムードになじんで──。
【GM】 ここは愁嘆場や!!
【シーザー】 和やかになろうはずがないがな。

ふたたび濡れ衣

 愁嘆場のお茶会を終えた冒険者たちは、前回、盗賊ギルドに依頼した、領主マクベルとコーネルの身辺調査に加え、魔術師ギルド長、黒い影、魔術師メルク、用心棒グローガン、そして領主の執事セバスチャンの調査も依頼した。
 その結果──。

(1)領主マクベルは20代の青年で、間もなく戴冠の新国王の従兄弟にあたる。従兄弟が新国王になることを快く思っていない。金銭にがめつく、税金を引き上げたため、民衆の支持は低い。オレンブルクで台頭した新興の商人(コーネル)や、魔術師ギルドの長と親交があるらしい。

(2)コーネルはオレンブルクを中心に活躍する貿易商人で、禁制の物品を扱う闇の商人でもある。領主マクベルはそれを黙認する代わりに、コーネルから多額の金を受け取っていたらしい。ホルトーを目障りに思っている。

(3)ギルド長はアズナードという男。召喚系魔法を得意とし、2、3年前、30歳近くの若さで、ルニオールの魔術師ギルド長の地位に昇り詰めた。その交代劇にも黒い疑惑があり、また、独自にルニオールの魔術師ギルドに改変をもたらそうとして、メカリア王国の最高導師ともめているという。また、若い才能のメルクを妬んでいる。最近、頻繁に領主の館に出入りしているらしい。

(4)黒い影は最近巷で噂になってる。一部では、魔物めいた姿であるとも伝えられているが、詳細はまったく不明。3日ほど前、盗賊ギルドが独自に刺客を送り込んで待ち伏せしたが、あえなく返り討ちになったという(それが第2の殺人事件の犠牲者)。

(5)メルクは魔術師ギルドのナンバー4。次期ギルド長の呼び声が高い導師で、正義感が強く、上層部の連中からは疎まれている。しかし、後輩からは慕われている。その実力はギルド長に匹敵し、ギルド長に睨まれている。

(6)グローガンは、40歳前後のコーネルの用心棒で、その人柄はゴロツキ。コーネルと共にオレンブルクからやってきた。現在は領主の館にいるらしい。

(7)セバスチャン。彼は領主マクベルの片腕で、長く仕えている。ほぼ領主と同い年で、多少冷酷なきらいがある。

 ──と、いうことがわかった。

【リィン】 黒い影はきっと、ギルド長が呼び出したデーモンや。
【シーザー】 なるほどな。だいぶ事件の全容が見えてきたけど、やっぱり確証がない。とりあえず、この中で俺らが接触できる人物はメルクだけか……。
【デリー】 魔術師ギルドに行ってみよう。
【リィン】 今度はうちらもついて行ってあげるよ。
【GM】 では、皆さんでゾロゾロと魔術師ギルドへやって来ました。
【デリー】 受付のひとに「メルクさんに会いたい」と言う。
【GM】 受付のひとは、不審そうな顔をしますよ。「あなた、先日『ギルド長に会わせろ』と言ってきたエルフですね。失礼ですが、メルクさまとはどういうご関係ですか?」
【シーザー】 じゃあ、俺が横から「友人です。『友達の友達であるシーザーが、火急の用で訪ねて来た』と伝えてくださればけっこうです」と言う。
【GM】 それなら、取り次いでもらえます。では、皆さんは、応接室として使われているギルドの中の一室に案内された。そこで待ってると、メルクさんがやって来ました。「何かご用ですか?」
【デリー】 「ギルド長と領主の関係について教えてほしいですけど」
【GM】 それはまた、唐突という短絡的というか……。いきなりそう聞かれても、メルクさんは答えようがないよ。
 あのね、ふつう、事情のよくわからない他人にものを尋ねるときに、『教えて』『教えて』『教えて』じゃ、ダメだと思うんやけど。
【デリー】 じゃあ、どうすればいいんですか?
【シーザー】 こっちのことも教えたったらええねん。まず、「これはくれぐれも内密にしておいて欲しいのだが」と念を押す。
【GM】 「わかりました」
【シーザー】 「ホルトーという商人が犯したという、コーネル殺害事件をご存じか」
【GM】 「はい、噂程度のことなら知っております」
【シーザー】 「我々は、そのホルトーと親交のある者なのだが、彼が殺人を犯すなどとは考えられない。そこで真犯人を挙げるべく、独自に調査を行っていたところ、これがどうも濡れ衣を着せられている疑いが強まってきた。
 そして、我々の捜査線上に、ここのギルド長、アズナードの名が浮かび上がってきた。そこで参考までに、ギルド長のお話などをお聞かせいただきたい」……こんなところかな。領主が真犯人くさいことは、まだ伏せておこう。
【GM】 それならメルクも答えやすい。ま、ある程度なら「かくかくしかじか」でも、かまわんのやけどね。
【デリー】 あ、じゃあ、さっきのシーザーのセリフ、わたしが言ったことにしますよ。
【GM】【シーザー】【リィン】 こらこらこら!
【GM】 メルクさんはシーザーに、「アズナード様の何をお教えすればいいのでしょう?」と聞いてきます。
【シーザー】 「ある情報筋から、ギルド長は領主と接触していると聞いたのですが?」
【GM】 「どこでそんな噂を聞いたのかは知りませんが、確かにここ最近、アズナード様は領主と頻繁に会っておられるようです」とメルクは答えます。
【リィン】 おお〜、これで領主とギルド長の繋がりが証明されたな。
【シーザー】 「その他に、ギルド長に何か変わったことはないですか?」
【GM】 「そうですねぇ……。そう言えば、10日程前だったかな。ここに『魔神が現れた』という情報をもたらした冒険者がいたんです」
【デリー】 リィンらのことや。
【リィン】 笑いを堪えて聞いていよう。
【GM】 「しかし、その日からこれまでに一度も、魔神対策が練られたことがないんです。ギルド長にも報告が入っているのに、まったくおざなりにされてるんです。噂の信憑性を確かめようともしないので、ちょっと気にはなってるんですが……」
【シーザー】 「魔神の噂は本当ですよ。その噂を持ち込んだのは、ここにいるリィンと、その仲間なんですから」と答えとく。俺はいちおう、衛兵ということになってるから。
【リィン】 「何にも対策を練ってくれてないんですか!」と怒ってみる。
【GM】 「それは由々しき事態ですね」
【リィン】 最近、メカリアの国内で出没してる魔神って、ここのギルド長が呼び出したんじゃない? ゼム村の全滅事件とか、前々回の透明のモンスターとか……。
【シーザー】 黒い影の奴も含めてか。
【デリー】 召喚系魔術が得意とかいうてたしなぁ。
【シーザー】 う〜む、じゃあ、『デーモンジャー』を使っていた、バラスは何やったんやろ。メカリアでは何や、魔神を召喚するのが急に流行しだしたんか?
【リィン】 バラスはアズナードに頼まれて、『デーモンジャー』を持ってたとか。
【シーザー】 そうすると今度は、「アシュベルの目的は何やってん」ということになるぞ。闇司祭が、魔神の出没を食い止めようとしてたとでもいうんか? アリステア地方の人間が、わざわざオムスク地方まで出向いて?
【GM】 まあ、それは何とも言えんけど、ただ、アシュベルは『デーモンジャー』が壊れたとき、それほど悔しそうな顔はしてなかったよ。
【リィン】 ま、とにかくアズナードが怪しい、ってことで。
【シーザー】 そやな、とりあえず、バラスのことはこっちに置いといて、アズナードが今回の事件に関わってるのかどうかだけ、調べてみよう。
【デリー】 解決してへん謎がいっぱいあるから、推理の選択肢が多すぎるよな。
【シーザー】 そんなんにまともに取り組んでたら、動けんようになってまう。「アズナードが悪の張本人!」とだけ仮定して、あとの謎のことは忘れよう。どーせ、GMもそのうち忘れる。
【リィン】 こうして、解明されない謎ばかりが増えていくんやな。
【GM】 はあっ! なんてことを……。
【シーザー】 いま、ルニオールで起きてる黒い影事件は、アズナードの仕業と断定された!
【リィン】 そうすると、黒い影は召喚された魔神の一種ってことになるけど、その目的がわからへん。
【シーザー】 わからんでもええ。メルクに調べさせるんや。「現にルニオールで起きている黒い影事件は、魔神の仕業かも知れないんですよ!?」と言うとこ。
【GM】 「わかりました。さっそくアズナード様を問いださなくては!」
【シーザー】 「行こう!」と、どさくさに紛れてついていく。
【デリー】 魔術師じゃないのに。
【GM】 しかし、ギルド長は外出中とのこと。どうやら領主の館へ行っているそうです。
【デリー】 それなら領主のところへ行こう!
【GM】 しかし、いかにメルクさんと言えども、紹介状なしに領主には取り次いではもらえず、門前払いにされた。皆さんは、すごすごと引き返します。
 魔術師ギルドに帰ってくるとメルクさんは、「とにかく、私は魔神に関して調べてみます」と言って、文献のある書物庫へ向かいました。
【デリー】 わたしも手伝っていいですか?
【GM】 ま、かわないでしょう。書物庫と言っても、地方都市のギルドのものなので、かなり小さく狭いです。実は、書物の管理を委託している場所が他にあるんですが、「そっちには、貴重な本はあまり置いてませんから」と、メルクさんは言います。
【シーザー】 そら、外部に管理を任せてあるんやからな。
【デリー】 ということは、こっちには重要な本がたくさんあるということですね。
【GM】 う〜ん、まあそういうこと。全部、オレンブルク王国の魔術師ギルドにある書物の写本やけど、このギルドにとっては大切なものがたくさんあります。そういうわけで、デリーが書物の検索を手伝うにしても、触れられるものは限られるよ。
 シーザーたちは、来賓室で待機してもらいます。「勝手にギルド内をうろつかないように」と、メルクさんにきつく言い渡された。
【リィン】 ちっ、魔法のアイテムをあさったろと思てたのに。
【GM】 そうするだろうと思ったから、「部屋から出るな」と言われたんですよ。
 そうしてリィンとシーザーがおとなしく待ってることウン時間、急に部屋の外が騒がしくなります。
【シーザー】 「なんだ、なんだ」と、扉を開けて廊下を見てみる。
【GM】 すると、廊下の向こうで、衛兵10人ぐらいと魔術師ギルドの連中数人が、小競り合いをしています。衛兵は「メルクを出せ!」と怒鳴っています。
【リィン】 なに〜!?
【GM】 そうこうしているうちに、怯えた魔術師のひとりが「メルクさんは書物庫にいます」と言ってしまった。それを聞いた衛兵たちは、ギルドの連中を押し退け廊下を駆け出します。シーザーたちのいる部屋の前を通り過ぎて行くよ。
【シーザー】 よし、じゃあ、最後尾の衛兵を部屋に引きずり込もう。そんでもって、衣装を奪ってやる!
【GM】 それはまた、かなり難しいことを……。ま、試みることはできるけどね。やりたいなら、成功ロールを行ってみてください。
【シーザー】 やっとダイスが振れるぜ! (ころっ)自動成功ッ!!
【デリー】 うわッ、すごい!
【リィン】 鬱憤がたまってたんや。
【GM】 それなら、シーザーは誰にも気づかれることなく、最後尾を走っていた衛兵を、来賓室に引きずり込みました。
【リィン】 すぐさま殴って気絶させる。(ころっ)ガツン。
【GM】 衛兵は「バタン、キュ〜」と、悲鳴をあげる間もなく気絶させられた。
【シーザー】 では、さっそく衛兵の身ぐるみを剥ぐ。それを俺が身につけて、当たり前みたいな顔をして衛兵たちについていく。
【リィン】 うちは裸にした兵士を縛って、しゃべれんよう猿くつわを噛ませて、その辺のタンスにでも押し込んで隠しとく。
【GM】 ひでぇ〜。まったく、山賊でもそんなに手際のええ奴はおらんぞ。では、シーザーも含めた衛兵たちは、書物庫のメルクさんのところに到着しました。そしてリーダーが、「メルク! 殺人容疑で逮捕する!」と怒鳴ります。
【シーザー】 「また濡れ衣か。はあ」と、心の中でため息。
【GM】 衛兵たちはメルクさんを取り囲み、連行しようとします。
【デリー】 じゃあ、「わたしはメルクさんの助手なので、ついていく」と言います。
【GM】 しかしデリーは、「引っ込んでろ!」とばかりに、衛兵に突き飛ばされてしまいますね。
【シーザー】 突き飛ばした衛兵は、じつは俺。
【リィン】 なんでやねん!
【デリー】 領主の館に潜り込んで情報を得ようと思ったんやけど、ダメやったか……。
【GM】 では、メルクさんは領主の館まで連行されます。残念だけどシーザー、メルクさんは館の門で内警備の衛兵に引き渡され、キミは街の詰所に戻ることになりますよ。
【シーザー】 でも衛兵の恰好してるんやろ。館に忍び込むことはできるよな。
【GM】 いえ、内警備の衛兵は違う制服なんですね〜。
【シーザー】 くそっ、無駄なことをしてしまったか……。ま、この制服はもらっとくけど。
【リィン】 あ〜あ、メルクさん、いなくなってしまった。手がかりがなくなる〜。
【デリー】 領主の館には何が何でも入れないみたいやし……。
【リィン】 とりあえず、宿屋に帰ろう。タンスに隠した衛兵は、シーザーの服を着させて持って帰る。「なんかシーザー、気絶しちゃったみたいなんスよ」って言いながら。
【デリー】 グッド・アイデアよ〜。
【GM】 怪しさ爆発やけど、現在、魔術師ギルドはたいへん混乱してるので、特に咎められることなく宿屋に戻ってきたことにしましょう。で、どないしますの?
【リィン】 メルクの濡れ衣を晴らしてやるの。
【デリー】 ほうじゃ、ほうじゃ。
【GM】 いや、だから、そのためにどーすのや、言うてるんやんか。
【リィン】 ん〜、とりあえず、持って帰って来た衛兵を、部屋に転がすよ。縄はほどかんから。
【デリー】 部屋に入って、作戦の立て直しや。

見えてこない糸口

【GM】 では、場面はリィンとデリーが根城にしている宿屋の一室です。ところがそこで、デリーが急に熱を出して倒れてしまいました。
【デリー】 「う〜ん」パタっ。
【シーザー】 知恵熱でも出したかな。
【リィン】 そんな魔術師イヤや!
【GM】 あのね〜、『知恵熱』って、子供がなるもんなんやけど。で、デリーが倒れたかわりに、「伝説の剣を見つけられんかった」と、しょんぼりした様子で蛮族が舞い戻り、前回、腹痛で倒れたカームも復帰してきます。
【アルフレッド】 前回の腹痛が全快……おっと、ごめんよ!
【リィン】 帰ってきたとたん、それかぃ。
【GM】 久々やから、テンションが上がってるんやろ。
【カーム】 オレ、腹痛やったんか。オルト村で食った、オーガーの肉がアカンかったらしい。
【シーザー】 「それ、まだ焼けてへんで」言うてんのに、食べてまうからやんか。
【GM】 ホンマかぃな。蛮族とカームは、リィンから事件のあらましを聞きました。
【アルフレッド】 よ〜し、早くホルトーとメルクの濡れ衣を晴らしてやろうぜっ!
【シーザー】 そもそも、メルクには何の殺人容疑がかかってんの? 俺は衛兵の詰所に潜入してるはずやから、同僚に聞いてみよう。
【GM】 声をかけられた衛兵は、「ん? そういえばおまえ、見かけない顔だな」と言ってきますよ。
【シーザー】 「ええ、今日、配属されたばかりなんです。初出勤してきたところ、いきなり出動命令が出て、メルクを捕まえること以外、何も知らされてないんです」と答える。
【GM】 「そいつは大変だったな」
【シーザー】 「で、メルクはいったい誰を殺したんですか?」
【GM】 「書店の主人だそうだ」
【アルフレッド】 書店ってなに? 現実にある本屋みたいなものと考えていいの?
【GM】 書店といっても、本を売るという店ではありません。そこは、書物の保管管理を生業とする所です。重要な本はギルドの書物庫に保管してあるんですが、そうでない本のほとんどは、そこに預けられているんです。なにせ、地方都市ルオニールの魔術師ギルドの書物庫は、大都市のギルドのものに比べて小さなものですから。
 ちなみに、先ほどチラっと言ったんですが、ルニオールの魔術師ギルド所有の本はすべて、オレンブルク王国の魔術師ギルドにある書物の写本です。だから、危険な本はありません。
【アルフレッド】 まあ、危険のある書物は写させてもらえんわな。
【シーザー】 きっと、レベル1魔術師が写本をやらされたんやで。
【GM】 たぶんね。ただし、個人所有の書物に関しては、その限りではないけど。
【シーザー】 で、事件現場とされる書店の場所は聞ける?
【GM】 うん、教えてもらったことにしましょう。
【シーザー】 じゃあ、「パトロールに行ってきま〜す」と行って外に出る。そんで宿屋でリィンたちに事情を話して、その書店へ向かう。
【カーム】 ほんじゃ、ゾロゾロとついて行こか〜。
【リィン】 行こ行こ。
【GM】 それでは皆さんは、事件現場の書店へやって来ました。しかし、ひとりの衛兵が現場の見張りに立っていて、当然ながら中には入れません。
【アルフレッド】 でも、現場は店の中なんやから、何とかして入らんとな。100フィスを賄賂として渡そう。「これで中を覗かしてもらいたいんだが」
【GM】 「手短にしろよ」と、衛兵は賄賂を受け取ってソッポを向きます。
【アルフレッド】 じゃ、僕だけ中に入る。後の奴らは外で待っときな。
【シーザー】 俺は衛兵の恰好をしてるから、見張りの衛兵に「ご苦労さん」と片手を挙げて中に入る。
【GM】 衛兵は慌てたようすで、「あ、いま、現場に入られては……」とシーザーを止めます。
【シーザー】 「ふ〜ん。賄賂を受け取って蛮族を中に入れたことが、上にバレたらまずいわけか」と衛兵に言う。そんで肩を抱きながら、「半分よこすなら、見逃してやるぜ」とつけ加えるんやな。
【GM】 衛兵は「まったく、かなわないな〜」と笑って、50フィス渡します。
【アルフレッド】 なんやねん、僕の賄賂が半分シーザーに行ってもたぞ。
【カーム】 至高神の司祭のやることじゃないな。
【リィン】 盗賊としては手本になるけどね。
【GM】 それがアカン言うとるねん! シーザーが司祭やいうこと、たま〜に忘れそうになるわ、ホンマに。そのうち神様から見放されてまうで。
【シーザー】 それもこれも、メルクを──引いてはホルトーを助け出すために、しかたなくやってることや。正義のためとはいえ、むっちゃ良心が痛むわ。
【カーム】 そんなん、半笑いで言われてもな。
【リィン】 うん、めっちゃ嘘ついてそう。
【シーザー】 ええから、おまえらもどさくさに紛れて入ってこい。
【GM】 シーザーはいいですけど、後のふたりはさすがに止められるよ。
【シーザー】 ほんなら、「そいつらは学者と盗賊だ。そいつらを使って、現場を詳しく調べ直して報告書にまとめろと、隊長に命令されたんだ」と説明する。
【GM】 「学者はいいですけど、盗賊もですか?」
【シーザー】 「侵入や暗殺は盗賊の十八番やろ。推理させるにはもってこいのはずや」
【GM】 「なるほど、そういうことならどうぞ」と、カームたちも通されました。
【アルフレッド】 僕の賄賂はなんやってん。
【リィン】 シーザーに半分取られただけ。
【カーム】 で、書店の中はどうだ。荒らされてんのか。
【GM】 いえ、物色されたようなようすはありません。
【カーム】 書店の主人の死体はまだある?
【GM】 布が被せられてますけど、まだそのままで横たわっています。夕方頃に、至高神の神殿のひとが引き取りに来るそうです。
【カーム】 死体の転がっている位置は?
【GM】 店の奥です。
【アルフレッド】 死体を見てみよう。傷とかあんの?
【GM】 死体の背中に切り傷、腹に刺し傷があります。
【アルフレッド】 挟み打ちにされたんか。ということは、犯人はふたり組の可能性が高い。凶器はたぶん剣で、部屋が荒らされてないということは、これは完全に店主を狙った犯行や。
【カーム】 きっと、返り血が飛び散ってるはずや。血がいっぱいついた服を着てる奴が、犯人や。
【GM】 いや、血はそんなに飛び散ってません。傷のわりには。
【アルフレッド】 じゃあ、ここで殺されたわけじゃないんか。別の所で殺されて、ここに運ばれてきたんや。そんで犯人は、死体が発見されにくいように、わざわざ店の奥に隠したんや。
【シーザー】 ……こういう返り血が妙に少ない死体の殺人事件は、以前にもあったよな。モナル村で。
【リィン】 うん、牛とかが殺されたやつ!
【シーザー】 死体の様子がだいぶ違うけど、ひょっとしたら、これもデーモン系のモンスターの仕業かも知れんぞ。
【アルフレッド】 いや〜、その可能性はないやろ。だってデーモンやったら、わざわざメルクに疑いがかかるように細工なんかするか? メルクがこの店にやって来たときに、死体が見つかるように仕掛けてあったんやろ。
【シーザー】 いや、死体が見つかったとき、メルクはこの店にいなかったよ。ずっと魔術師ギルドにいた、っていうアリバイがあるんやから。
【アルフレッド】 それを証明できる人間がおるか?
【シーザー】 おるよ。
【アルフレッド】 どこに? おるんならここに連れて来てよ。
【シーザー】 俺たち。
【アルフレッド】 え??
【リィン】 メルクは、ずっとうちらと一緒にいたよ。
【カーム】 最初にそう説明されたよな。
【アルフレッド】 うそォ……。じゃあ、誰が殺したん?
【GM】 それを調べるんでしょ(笑)。
【アルフレッド】 それにしても、じゃあ、なんでメルクに容疑がかかったんやろ。
【カーム】 さあ。誰かがガセネタをたれ込んだんとちゃう。
【GM】 ガセかどうかは置いといて、確かに「現場でメルクらしき人物を見た」という目撃証言があったから、メルクは連行されたんですよ。
【シーザー】 その証言者の所にも行ってみんとアカンな。目撃者したという奴からも、詳しいことを聞かんと。
【アルフレッド】 じゃ、衛兵に賄賂を渡してやなぁ、「本屋の主人が殺されたとき、メルクを見たという人間がいるんですが、そいつは誰ですかねえ」と尋ねる。
【カーム】 賄賂なんか贈らんでも、シーザーが聞けばええんちゃうの。
【リィン】 また、シーザーに半分取られたりして。
【GM】 それに、あんまり賄賂ばかり贈って事件関係者の周辺をうろついてると、しまいに怪しまれたり、警戒されたりしてまうよ。
【シーザー】 じゃあ、俺が横から尋ねよう。「目撃者はどこに住んでる奴だ」
【GM】 では「鹿蹄通りの東の端に住んでいる、エランという男です」と教えてもらった。
【カーム】 そこに行く。扉をガンガン叩く。「出てこい、コラぁ!」
【GM】 すると気の弱そうな男の人が、不安そうに扉の隙間から顔を覗かせます。「何でございましょう?」
【シーザー】 んじゃ、ま、衛兵のかっこうをしてる俺が事情聴取する。
「えっとなぁ、本屋の主人が殺された事件の事情聴取なんやけどなぁ、もう1回、そのとき見たことを、1から順に詳し〜く聞かせてんか」
【GM】 じゃあ、詳し〜く聞かされたことを要約しますね。このエランが用事で本屋に行ったとき、店からメルクさんそっくりのひとが出て来るのを見た。そして店に入ってみると、店主が殺されていた、以上です。
【シーザー】 そいつが見たというメルクの容姿の説明は、俺らが聞いても「メルクやな」って思うわけやな?
【GM】 そうやね。
【リィン】 わかった、ギルド長の〈シェイプ・チェンジ〉や!
【カーム】 盗賊の[変装]でもええで。
【シーザー】 ひとに化けるのが得意なデーモンもいたよなぁ。ついでに、ギルド長とデーモンは繋がりがある、という情報もあるしよ。
【アルフレッド】 う〜ん。点と点を結ぶ線が、おぼろげながら見えてるんやけどなぁ。
【シーザー】 確証がないやろ?
【アルフレッド】 うん。それが僕らの弱みやな。
【リィン】 大丈夫、大丈夫。そのうち解決できるって。
【GM】 えらい楽観的やな。こっちが不安になってまうわ。

÷÷ つづく ÷÷
©2000 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2000 Jun Hayashida
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