≪REV / EXIT / FWD≫

§伏魔の街ルニオール:第6話§

暗影踊る伏魔街

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン
▽ 冒険者たち、詰所で詰め寄る ▽ 領主への疑惑 ▽ 進まぬ捜査

冒険者たち、詰所で詰め寄る

【GM】 さ〜て、モナル村の怪事件をみごとに解決して、意気揚々とルニオールに戻って来た皆さんでしたが、なんと街門で止められてしまうんですね。
【デリー】 なんで〜? わたしら何も悪いことしてないよ。
【GM】 悪いことをしたから街に入れないんじゃなくて、単に入街審査が厳しくなってるだけ。警備兵が普段の倍はいるような感じがするね。そして街門の外では、商隊やら旅人やらが長〜い列を作って、順番待ちしてます。皆さんは、その最後尾に並ぶことになります。
 ちなみに検問は、どちらかというと、街から外へ出る者に対してのほうが厳しいようやね。
【シーザー】 別に俺らにはやましいところはないんやから、おとなしく検問を受けるよ。
【GM】 では、ずいぶん待たされてから、街に入る目的などを質問されて、夕方頃、街に入ることができました。そのときリーダー代理が──。
【カーム】 おなか痛い〜!
【GM】 ──と、倒れてしまいました。
【リィン】 じゃあ、リーダー代理を宿屋に運んでから、そこの酒場でごはん食べる。
【デリー】 それより、ホルトーさんとこに挨拶に行ったほうがよくない?
【リィン】 ほんなら、ホルトーさんにごちそうしてもらいに行こか。
【GM】 打算的に挨拶に行くのね。皆さんがホルトーさんの別荘に行くと、お屋敷の門には、衛兵が立っています。
【シーザー】 そんなの前からいたっけ?
【GM】 いえ、立っているのはホルトーさんの私兵ではなく、ルニオールの衛兵のようです。
【リィン】 ホルトーさん、何かやらかしたんちゃうか。殺されたんかも知れんけど。
【デリー】 とりあえず、屋敷に入ってみようよ。
【GM】 デリーが屋敷に入ろうとすると、ふたりの衛兵が斧槍を交差させて、「ここは現在、立ち入り禁止だ」と、それを阻止します。
【デリー】 「わたしは、ホルトーさんに雇われた冒険者です。明日の護衛の打合せに来たんですけど、通してくれませんか」と言う。
【GM】 そう言われましてもねぇ。衛兵は「ホルトーは現在、殺人事件の容疑者として逮捕されており、ここにはいない。だから帰りたまえ」と答えます。
【シーザー】 この間から殺人事件ばっかりやなぁ。
【デリー】 その殺人事件について詳しく教えてくれませんか?
【GM】 「いや、私も詳しいことは聞かされてないんだ。ただ、このホルトーの屋敷の警備をするように、命じられただけだからな」
【シーザー】 じゃあ、どこでなら詳しい話を聞けるのかな?
【GM】 「さあな。詰所に行って、衛兵長にでも尋ねてみたらどうだ。ま、取り合ってもらえるかどうかは知らんがな」
【リィン】 そんじゃあ、詰所に行ってみよう。
【GM】 衛兵の詰所は交番のようなものですな。そこを訪ねてみると、入ってすぐの部屋で、テーブルを囲んで数人の衛兵が談笑していた。
 そしてひとりの若い衛兵が、応対に出てきます。「何か?」と物腰はちょっと偉そうやけど、それも街の平和と治安を守っているという自負からきているものかも知れない。
【デリー】 じゃあ、そのひとに「ホルトーさんの屋敷に入れてもらえなかったんですけど、何かあったんでしょうか」と聞く。
【GM】 するとデリーの声が聞こえたか、テーブルを囲んで談笑していた衛兵たちが、話をやめてジロっとデリーを睨みます。そして応対に出た若い衛兵が、「なんだ、おまえは?」と逆に質問してきます。
【デリー】 「怪しい者じゃないですよ〜」
【リィン】 そんなこと言うたら、よけいに怪しいって。
【シーザー】 素直に答えとけばええねん。「俺たちは数日前、ホルトーから商隊の護衛を依頼された冒険者だ。用事でよその村に出かけ、明日出発の護衛のためにルニオールに戻って来たところ、ホルトーが殺人事件の容疑者として逮捕されていると聞いた。詳しいことを聞かせてくれ」
【GM】 「なんでおまえにそんなことを話さなくてはならんのだ」
【デリー】 「我々はホルトーさんに仕事を依頼されてたんですよ?」
【GM】 「知るか、そんなこと。おまえたちは事件に直接関係ないんだろう。なぜ、いちいち首を突っ込んでくる」
【シーザー】 「冒険者だからだっ!」
【GM】 う〜ん……説得力あるようで、実はぜんぜんないけど、若い衛兵はシーザーに気押されてしまった。こいつは手に負えないってことで、「店長、店長〜っ」とばかりに、詰所の奥へ上司を呼びに行きました。
【リィン】 勝った。
【シーザー】 じゃあテーブルに座って、他の衛兵に「あいつ、思てたより根性ないな」と気安く話しかけたる。
【GM】 他の衛兵たちはシーザーに乾いた愛想笑いをして、コソコソと目を合わせないようにしてますね(笑)。
【デリー】 あ〜あ、嫌われた。
【GM】 というより、「タチ悪ぅ〜」って恐れられてるんでしょう。そうこうしているうちに、口髭を生やした中年の男性が奥から姿を現します。その背後にさっきの若い衛兵が隠れてて、「あいつらですよ」と皆さんを指さします。
【リィン】 そのおっさん、衛兵長?
【GM】 「いかにも私が衛兵長だ。で、聞きたいこととは何だ?」
【デリー】 「さっきも言うたけど、ホルトーさんが起こしたという殺人事件について聞きたいんですよ。できれば、ホルトーさんに面会したいんですけど……」
【GM】 「面会を希望か。しかし、私にその権限はないんだよ。今回の事件の捜査の全権は、領主さまが握っておられるからな」
【シーザー】 領主って、ルニオールの?
【GM】 そう。マクベルという名前の若者です。先日、よその国へ嫁入りしたメカリア王国のお姫様の従兄弟にあたる、由緒正しい家系のお方です。
【シーザー】 なんだってええから、事件のこと聞かせろよ。
【GM】 「しかしなァ、私の権限でどこまで話してよいものやら……。わかった、領主さまにキミたちの紹介状を書いてあげるから、それを持って領主さまの館へ行くといい」と衛兵長は言います。ま、本音は「早いとこ帰ってくれ」ってとこでしょうけど。
【デリー】 「領主さまのところに行けば、私たちの知りたいことは教えてもらえるんですね」と念を押す。
【GM】 そんなの衛兵長に言ってもしかたないでしょ。衛兵長は「そこで断られたら、あきらめるんだな」と言います。
【シーザー】 俺らみたいな奴を紹介してもて、衛兵長、後で怒られたりして。
【GM】 自分で言うか。衛兵長はきっと、キミらを厄介払いすることで頭がいっぱいなんでしょう。
【リィン】 じゃあ、領主の館に行こう。領主のとこで、ごはん食べさせてくれるかな。
【シーザー】 そら、俺ら腹減ってるし、ごちそうしてくれるんちゃうかな。
【GM】 どんな理屈やねん! ──では、領主の館の前まで来ました。とうぜん門には警備兵がふたり、槍を片手に立っています。
【シーザー】 じゃあ、そいつらに「マクベルに会わせろ。これが紹介状だ!」と、紹介状を高々と掲げて言う。
【GM】 ふたりの警備兵は顔を見合わせて、片方の警備兵が「いちおう確認してくる」と、紹介状を持って館に消えていきました。そして待つことウン十分、館から先ほどの警備兵がさらにふたりの警備兵を引き連れて戻り、「確認が取れたぞ。入ってよし」と言います。
【リィン】 んじゃ、入らしてもらおっと。
【GM】 皆さんは、館から出てきたふたりの警備兵に前後から挟まれ、館に導かれます。そして通されたのは、来訪者の応接室です。皆さんはフカフカのソファに腰掛けながら、出されたお茶でも飲んで、領主の登場を待たされるわけですね。
【リィン】 その間になんか物色しとこうかなァ。金目の物とか。
【GM】 そこはそれ、仮にも領主の館ですから、金目のものはたくさんあります。いまリィンが飲んでるお茶の器にしても、一般庶民の年収3年分の価値があったりしますから。
【リィン】 やった、持って帰ったれ。
【GM】 しかし、キミらを先導したふたりの警備兵が室内で目を光らせてるんでね、それは無理。捕まりたいというのなら、どーぞ御勝手に。
【リィン】 ちぇ、物欲しそうにじ〜っと見とこっと。
【GM】 すると扉が開けられ、「いい器でしょう。それは150年前のムルワーラ王国の名匠、イエン・ヤンセルゼンの手によって産みだされた傑作です」と言う声とともに、ひとりの男が入って来ます。
 そのひとは、金髪の先っぽを軽くカールさせてて、口髭を生やしてて、右目に丸い片眼鏡をかけています。「私はマクベルさまの執事をやっております、セバスチャンです」
【シーザー】 「俺はシーザーだ。領主はどうした」
【GM】 「マクベルさまはご多忙の身ゆえ、私が用件を承ります」
【シーザー】 では「かくかくしかじか」というわけで、殺人事件のことを詳しく聞かせて欲しい。
【デリー】 「あの、できればホルトーさんに会わせて欲しいんですけど……」
【GM】 「それはできません。しかし、ホルトーの関係者ということで、ホルトーにかかっている殺人容疑についてはお話しましょう」
 セバスチャンの話では、ホルトーさんは一昨日の昼過ぎ、ある場所で、コーネルという商人と商談する予定がありました。その場所というのは、職能ギルドが管理する建物で、商人などが取り引きするためによく利用するものです。
【デリー】 職能ギルドに所属する商人なら誰でも利用できる施設、ってことやな。
【GM】 そうです。施設の利用は完全予約制で、ギルドに届け出て一定の料金を支払うことが必要です。主に行商人同士での商談によく利用されてたそうです。秘密保持も万全ですしね。
【シーザー】 でもホルトーって、ルニオールに自分の別荘を持ってたやろ。自分ンとこで取り引きすればええのに、なんでわざわざ金払って公共施設なんかで商談したん?
【GM】 「たぶん、相手が秘密保持のために、そこを商談場所に指定したんじゃないでしょうか」と、セバスチャンは答えます。
【リィン】 殺されたコーネルってどんなひと?
【GM】 ホルトーさんもかなりの大商人ですが、そのコーネルさんもわりと財力がある、その筋では有名な商人だったそうです。
【デリー】 じゃあ、ホルトーさんとコーネルさんは、商売敵みたいなもんやったんやな?
【GM】 いえ、別にそういうわけではありません。ホルトーさんにとってコーネルさんは、ただの商売相手だったと思ってください。「だからその日の商談は、かなり大きな取り引きの予定だったんじゃないですか」とセバスチャン。

領主への疑惑

【デリー】 それで、ホルトーさんが殺人犯にされてしまった理由は?
【GM】 事件当日の日の昼前、ホルトーさんが商談するはずだった一室で、その取り引き相手の商人コーネルさんの死体が発見されたそうです。
【シーザー】 それだけのことで殺人事件の容疑者?? 取り引きの予定はその日の昼過ぎで、死体が発見されたんはそれより前なんやろ。ホルトーは関係ないんとちゃうの。
【リィン】 誰が商人の死体を見つけたん?
【GM】 コーネルの悲鳴を聞いた、グローガンという被害者の用心棒が第1発見者だそうです。
【シーザー】 なら、第1発見者のそいつを疑うやろ、ふつう。そのグローガンとかいう用心棒は、どこにおるの?
【GM】 グローガンも、この領主の館に捕らわれているらしいです。「彼もいちおう容疑者だということで……」
【シーザー】 じゃあ、それだけでええやん。なんでホルトーまで捕まってんの?
【リィン】 施設の受付のひとが、ホルトーが事件のあった時間に現場にいたのを見たとか。
【GM】 いえ、その施設には受付などはいません。
【リィン】 じゃあ、事件のあった時間に、他にその施設を使ってたひとはおるん?
【GM】 いえ、その日の利用の予約はホルトーさんと被害者のひと組のみで、その時間に施設を利用していた商人も、他の時間に利用する予定になっていたものも、なかったそうです。だからその日、犯人を含めた誰かが、コーネルのところへ来るのを目撃した者はいません。
【デリー】 ってことは、ホルトーさんが真犯人であろうとなかろうと、いちばん怪しいのが彼だということですね?
【GM】 「マクベルさまは、そういうことだとおっしゃっています」とセバスチャン。
【シーザー】 ……なんでそうなるねん。その状況やと、怪しいのはホルトーじゃなくて、ホルトーが真犯人やということのほうやぞ。
【リィン】 ホルトーはどう言ってるん?
【GM】 「私は殺人などやっていない」と言ってるそうです。
【シーザー】 そらそうやろな。ちなみにコーネルはどんな殺され方をしたん?
【GM】 「刃物で胸をひと刺しされて、即死だったそうです」
【シーザー】 その凶器は?
【GM】 「この館で保管してあるそうです」
【シーザー】 被害者の死体はどこにあんの?
【GM】 「この館に安置してあるそうです」
【シーザー】 埋葬もせずに? じゃあ見せてくれ。
【GM】 「それは無理です」
【シーザー】 なら、事件現場の視察をさせて欲しい。
【GM】 「事件現場への立ち入りは許可できません」
【シーザー】 ふ〜ん。つまり事件現場の周辺や状況を知る物はすべて、領主が押さえてしまってるってことやな。
【リィン】 なんか領主が怪しい。目撃者もおれへんのに、ホルトーを捕まえてるし。
【シーザー】 物証どころか、状況証拠すらないのにな。
【デリー】 でも、何にしろ、ホルトーさんがいちばん怪しいから捕まったんだろ?
【GM】 まあ、そうですけど。
【デリー】 だろ、だろ。犯人の可能性がいちばん高いのがホルトーさんなわけよ。だから今は、自分の別荘で見張られてる状態なんですね?
【GM】 いいえ、グローガンと共に領主の館に連行されています。ホルトーさんは現在、この館の地下にある牢獄に幽閉されいるそうです。ちなみに、ホルトーの別荘にいた彼の関係者も全員、使用人にいたるまでこの館に捕らえられています。
【デリー】 えっ!? じゃあ、護衛の仕事は……?
【リィン】 ホルトーが捕まった時点でなくなってるよ。何をいまさら。
【シーザー】 しかし、使用人まで取り押さえるなんて、おかしな話や。犯行時刻にホルトーが屋敷にいたってことを、誰かに言われたら困るみたいな処置やな。それに、今まで俺らが聞いた情報は、ぜ〜んぶ領主側からの発表やし。
【デリー】 領主が情報操作してるかも知れんってこと?
【リィン】 犯人は領主や。ホルトーに濡れ衣かぶせてるねん。
【シーザー】 実行犯はともかく、事件の黒幕は領主と考えてええな。
【デリー】 そんな、証拠もなしに決めつけんでも……。
【シーザー】 いーや、こっちには立派な状況証拠があるっ!
【リィン】 うん、領主にはそれすらないもん、今のトコうちらが勝ってるよ。
【GM】 勝ち負けの問題じゃないでしょ。
【シーザー】 ちなみにホルトーは、このままいくとどう処罰されるのかな?
【GM】 まあ、死刑にはならないでしょうけど、全財産は没収されるでしょうな。
【リィン】 誰に?
【GM】 領主に。
【シーザー】 やっぱり。ホルトーを真犯人として処理して、いちばん得するのは領主やということになる。
【デリー】 でも、たかが一商人の財産ぐらい、領主なら目にもかけなさそうやけど……。
【シーザー】 わからんで。商人でも大富豪になれば、国の経済を左右するほどの財力があるやろし。ホルトーがそこまでの財産を持ってるのかどうかはわからんけど、とにかくホルトーが犯人である可能性は少ない。状況がぜ〜んぶ領主に不利に働いてる。
【デリー】 じゃあ、セバスチャンに領主が怪しいかどうか質問してみよう。
【GM】 えっ!? 領主の館の人間にそんなこと聞くんですか?!
【リィン】 そんなこと言うたら殺されてまうで。デリーの口を押さえる。
【デリー】 モガモガ。
【シーザー】 裏の情報といえば盗賊ギルド。リィンに盗賊ギルドへ行ってもらおう。
【GM】 わかりました。では、皆さんは領主の館を後にします。リィンは盗賊ギルドに行くということですけど、後のふたりはどうしてんの?
【シーザー】 けっきょくごちそうしてもらえんかったし、晩メシ食いに酒場へ帰る。
【リィン】 うちが帰るまで、ご飯待っててよ。
【デリー】 じゃあ、ご飯食べてから行けば?
【リィン】 そうしよっと。
【GM】 えらいメシにこだわりまんな。ちゃんとメシ代、3フィスを減らしといてね。
【リィン】 タダ飯がええねんけどな〜。誰かおごってくれんかなぁ。
【シーザー】 おごってくれる相手が捕まってるからな。
【デリー】 そのためにも助け出さな。
【GM】 なんて不純な動機や。
【シーザー】 世の中そんなモンやって。俺だって利益がなけりゃ動かんよ。
【GM】 それが至高神シルファスの司祭の言うことか、ホンマに。
【シーザー】 『奇蹟』という見返りがあるから、神を信仰してるねやん。
【GM】 そんなん聞いたらシルファス泣くで。んじゃ、ご飯を食べたら、リィンは盗賊ギルドに行くんですね。
 では、盗賊ギルドにやって来ました。リィンが中に入ると、目つきの悪い男が出迎えます。「何の用だ?」
【リィン】 え〜っと、「ホルトーの殺人事件って知ってる?」。
【GM】 「噂は聞いた」
【リィン】 「コーネルってどんなひと? 誰かに恨まれて、殺されるようなことしてた?」
【GM】 「う〜ん……」
【リィン】 30フィス払う。ご飯が10杯食べれるよ。
【GM】 「まあ、表向きは貿易商人だったようだ」。コーネルさんは、船で大陸の沿岸都市などをまわっていた商人だそうです。
【リィン】 裏向きには?
【GM】 「裏ねぇ……」
【リィン】 じゃあ、あと20フィスあげる。
【GM】 表向きは貿易商人だったコーネルさんの実態は、ヤバイ品物を扱う商人だったそうです。たとえば、たいがいの国で禁制の品に指定されているユニコーンの角だとかを、密売していたらしいです。
 それに「恨み云々」については、その強引なやり口から、商人仲間の評判はあまりよくなかったとのこと。コーネルさんに潰された商人も、少なからずいますしね。
【リィン】 ホルトーさんのことも、どういうひとなんか質問してみる。
【GM】 ホルトーさんはレムリア大陸でも有数の大富豪です。メカリア王国内ではトップクラスの大商人で、商人仲間からの人望も厚いようです。もちろん、そこにたどり着くまでに蹴落とされたライバルもたくさんいたでしょうが、コーネルのように深い怨恨を抱かせるほどではなかったそうです。
【シーザー】 王国トップクラスの商人ということは、メカリアの経済を揺るがすほどの財力を持ってるんやな。
【GM】 そうなりますね。ホルトーさんは王室ご用達の大商人で、メカリア王家との太いパイプもあったそうです。
【リィン】 ホルトーさんも、コーネルみたいにヤバイ品物を扱ってたん?
【GM】 さすがに王室ご用達だけあって、ユニコーンの角のように、見つかれば、即、お縄につくというほどの物は取り扱ってなかったようです。法律ギリギリの商売をするひとではあったようですが。
【シーザー】 まあ、多少でも危ない橋を渡れんかったら、一国の経済を左右するほどの商人にはなれんわな。
【GM】 「ルニオールの領主にすれば、目障りな奴だったかも知れんがな」──って、シーザーはここにはおれへんやん。
【シーザー】 気にすんな。それよりも、もしホルトーの財産が領主に没収されるとなると、どれくらいの価値になるんかなぁ。
【リィン】 ギルドの奴に聞いてみる。
【GM】 「それはもう、大変な額になるだろうよ」
【リィン】 やっぱり領主が、ホルトーの財産目当てで事件を起こしたんちゃうか。
【デリー】 でもぜんぜん証拠がないやん。だいいち、そんなにすごい財産を手に入れてどうしようっての?
【シーザー】 領主は最近、金に困ってたりしてたとか。国王に納めるべき税金を、横領してしまったか何かして……。
【GM】 それもリィンが質問したとして、答えましょう。領主は財政的には問題ありません。ルニオールの税金が少し高くなったけど、民衆が耐えられないほどではないし。ま、支持率は相当低いけどね。
 それから、「領主マクベルは現国王のお姫様の従兄弟だ」と言いましたね。そしてこれは先日、皆さんがルニオールにいないときに公布されたことなんですが、1ヶ月後、メカリア王国の王都メカリアで、王子様の戴冠式があるんです。つまり現国王が退位して、その長男が新国王に即位するわけです。
 が、マクベルは従兄弟であるその王子に対して、あまりいい感情を持っていないそうです。いうなれば、反新王派ですね。
【シーザー】 つまり! ホルトーの財産は、マクベルが革命を起こすための資金になるんや!
【デリー】 いやいやいや、いきなり結論を飛躍させんでも……。
【リィン】 でも、可能性はゼロじゃないよ。
【シーザー】 戴冠式なんて、クーデターの舞台として恰好のシチュエーションやろ。俺が革命起こすなら、そこを狙うで。国王の座を盗って代わろうというんなら、なおさら。
【デリー】 いや、でも、革命の可能性は極めて低いと思うんですけど。あまり有力な説とは言ん。だいたい、どうやって国王の座を取るん?
【シーザー】 だからクーデターを起こして、現国王一族を追放か皆殺しにするねやんか。
【デリー】 どうやって?
【シーザー】 傭兵を集めてに決まってるやろ。
【リィン】 あ〜、なるほど。ホルトーの財産をそのための資金にするんか。
【デリー】 でもさ〜、そういうことって大々的にやると思う? 裏でこっそりとやるもんじゃない。
【GM】 個人的には、人それぞれだと思うよ。それにマクベルは、「クーデターを起こしますよ〜」なんて言ってないから。
【シーザー】 まあな。マクベルがクーデターを企んでるというのは、俺らの勝手な想像。そやけど、ホルトーに濡れ衣を着せていちばん得をするかのは誰か、それで得られた利益で何をするか、ってのを考えたら、いちばんしっくりくるのが、領主のクーデターというストーリー。

進まぬ捜査

【デリー】 でも、何の証拠もないんやし。
【シーザー】 確かに証拠になりそうな物は、ぜ〜んぶ領主の館にあるからな。
【リィン】 夜中に忍び込んでスパイしてまえばええねん。盗賊ギルドに、領主の館に入ることを報告しとく。「忍び込むから、よろしく」
【GM】 すると「やめといたほうがいい」と言われます。
【リィン】 なんで?
【GM】 「忍び込めるような状況じゃないからな」
【リィン】 じゃあ、ホルトーの別荘に忍び込むのは?
【GM】 それも止められる。領主やホルトーの関係施設は、完全に抑えられているようです。
【シーザー】 何か隠したいことがあるんやな。コーネルの家を調べることはできる? コーネルがどこに住んでたか、聞いてみてくれ。
【GM】 リィンの質問に、「コーネルはメカリア王国の人間じゃないよ」との答えが返ってきます。
【リィン】 う〜ん……あきらめたほうがいいのかなァ。
【シーザー】 ぼんやりと事件の輪郭が見えてるねんけどな。……いつものごとく、確証がぜんぜんあらへん。とりあえず、領主の身辺を洗ってみたい。領主と親しい人間にはどんなのがおるんか、聞いてみ。
【リィン】 聞いた。
【GM】 リィンは遠隔操作されてるんか。まるで鉄人やね。ギルドの男は「そうだなぁ、知られている範囲では、ルニオールの魔術師ギルド長と親しいそうだな。細かい交遊関係となると、詳しく調べてみないとわからないが」と言います。
【デリー】 魔術師ギルド? わたしの出番だ、わーい。
【リィン】 しかし、ギルド長やからなぁ。会えるかねぇ。
【シーザー】 とにかく、領主の陰謀を証言してくれる人間を探さなアカン。ちょっとでも可能性があれば、チャレンジするしかない。
【デリー】 その線でいくしかないな。領主が悪人やって決めつけるのはいかんけど。
【シーザー】 いや、主はのたもうた。「領主が悪だ」と。「悪を討て」と俺に囁く!
【デリー】 怖いよ〜。
【リィン】 これからはちょっと距離あけて歩こっと。
【シーザー】 とにかく酒場に帰って来い。俺らに情報公開してくれ。
【リィン】 あいよ。じゃ、酒場で皆に話した。

 冒険者たちは、今後の行動について酒場で侃々諤々と議論を交わすが、なかなか意見がまとまらない。しかも、ホルトーの濡れ衣を晴らす作戦会議のはずが、いつの間にか領主マクベルのクーデターの証拠を掴む作戦会議になっていたから、話にならない。
 とりあえず夜も更けてきたので、ひと晩寝て、翌日改めて情報収拾を行うことになった。

【GM】 翌朝になったよ。
【リィン】 じゃ、酒場に下りて朝ご飯を食べる。
【シーザー】 俺は新聞持ってトイレに行く。「でかくて臭いの出してくるわ〜」
【リィン】 ご飯食べてる、って言うとんのに!
【GM】 ──って、ホンマに行くんかぃ!
【デリー】 その朝食の席でも話し合いをしよう。とにかく情報が足りん。今までの情報だけじゃ、事件の解決は無理やで。もっと広く情報を集めんと……。
【リィン】 「もっと広く」って、どこに行けばいいんだよ。
【デリー】 とりあえず、わたしは魔術師ギルドに行ってみるけど、リィン、ついてくる?
【リィン】 うち、魔術師ちゃうもん。
【GM】 あのね〜、情報が少ないとのことですけど、昨日の盗賊ギルドでの情報収集に関して言えば、何か難しい情報ばかりを集めようとしてません?
【デリー】 そうだろ。だからもっとさ〜、庶民的なところから情報集めようよ。
【リィン】 『庶民的』って……どーゆーこと??
【デリー】 上層部の情報ばかりに目がいってるみたいじゃけん、もっと下のほうからの情報にも注目せんと……。とりあえず、わたしのほうは魔術師ギルドへ行ってみるけど、リィンはどうします?
【リィン】 ん〜、また盗賊ギルドへ行ってみるよ。
【シーザー】 「あ〜、臭くて死にそうやった」
【GM】 そんなんで死んだらイヤやわ。
【シーザー】 で、どうするか決まったんか?
【デリー】 はい、わたしが魔術師ギルドに情報収集に行くことになりました。
【シーザー】 そう、がんばってね。
【デリー】 え〜? 一緒に来てくれないんですか。
【シーザー】 だって俺、魔術師ちゃうもん。
【デリー】 わかりました、ひとりで行ってきます。
【GM】 では、デリーは魔術師ギルドに着きました。魔術師ギルドは3階建ての塔で、1階では一般講習なども行われており、外部の人間も比較的簡単に入れます。ただし2階より上は、限られた魔術師しか立ち入られないし、もちろん、入ってすぐにところには受付があって、出入りする人間を管理してます。デリーは、受付のおねーさんに用件を尋ねられますよ。
【デリー】 「ギルド長に会いたいんですけど」
【GM】 「失礼ですが、ご予約とお名前を」
【デリー】 「デリーと言います。予約はとってませんが」
【GM】 「アポイントメントを取っておられない方の面会は、お断りしております」
【デリー】 「無理でしょうけど、ちょっと聞きたいことがあるので、是非とも会いたいんです。まー、無理でしょうけどねぇ」
【GM】 「ええ、無理ですよ」
【デリー】 「領主のことについて調べたいんで、ギルド長に会いたいんですが」
【GM】 「だから無理なんですってば!」。あのね、学校の受付に行って『市長について調べたいので校長に会わせろ』と言っても、通してはくれないでしょ? それと同じですよ。
【デリー】 無理だろうけど、これしか頼みようがないんですよ〜。
【リィン】 「ギルド長の娘です」って言うてみれば。
【シーザー】 そんな2秒でバレる嘘ついてどーすんの。デリーはエルフやぞ。
【デリー】 ギルド長に会えんかったということで、計画失敗。これ以上ここにいても時間の無駄だと思うので、すごすごと宿屋に帰ります。
【リィン】 じゃあ、酒場で昼メシや。
【GM】 はあ、またご飯なわけね。好きやね、ご飯。
【シーザー】 ただし、メシを食いながらでも、俺の耳は情報を求めて周囲の音を拾い続けているぞ。
【GM】 それなら、他の客の世間話の中で、最近起こっている殺人事件が噂されているのを耳にします。何でも夜中に黒い影が現れて、街のひとを殺すんだそうです。
【リィン】 おぉ!?
【シーザー】 その話に割って入ろう。自分の皿ごとそのテーブルに移動して、「なになにぃ、何の話ィ?」と話しかける。
【GM】 ずうずうしく話しかけてくるシーザーに、そのひとたちはちょっと迷惑そうな顔をしたけど、教えてくれます。
「最近、夜中、路地裏なんかで黒い影を見たという噂があるんだ。そしてそいつが立ち去った後には、無惨に殺されたひとの死体が……!!」
【シーザー】 その黒い影って、どんな姿なん?
【GM】 あくまで噂なんですが、異形の者──要は怪物ですね。大きさは人間と変わらないようですが。
【リィン】 モナル村で殺人事件を起こしてた奴かな。
【シーザー】 あれはやっつけたし、だいたい透明な奴やったやろ。
【リィン】 じゃあ、いつか遺跡に封じ込めた壺の男かな。魔王になりかけてた奴。
【シーザー】 う〜ん……そっちは可能性があるなぁ。しかし魔王にしては、やってることがセコイよな〜。どーせなら、もっとデカイことしてもらわんと。
【デリー】 それもどうかと思いますが。
【GM】 ルニオールのひとたちの間では、コーネル殺害事件よりも、その黒い影の殺人事件のほうが、話題になってるようですね。
【シーザー】 参考までに聞いとくけど、領主は黒い影の犯人の捜査もしてるの?
【GM】 まー、いちおうやってるみたいですけどね。街に入るときに、衛兵のよる取締りが強化されてると言ったでしょ。
【デリー】 あー、あれはコーネル殺害事件で取締まってたんじゃなくて、その黒い影の事件のせいでやってたんか。
【シーザー】 コーネル殺害事件はいちおう、犯人を捕らえたことになってるからな。
【GM】 黒い影事件のほうはもちろん、まだ犯人は捕まってないからね。
【リィン】 その黒い影の事件が起きはじめたんは、いつぐらいから?
【GM】 5日前ぐらい──皆さんがモナル村に出向いた直後ぐらいから、出没するようになったそうです。ちなみに、これまでの被害者は3人で、黒い影によるものと思われる殺人事件が最後に起こったのは、コーネル殺害事件よりも前とのこと。
【シーザー】 事件が起こった時間帯はいつぐらい?
【GM】 目撃したと伝えられているのは、夜中ですね。
【リィン】 コーネルを殺したのも、その黒い影だと思う。ホルトーが商談しに行く前に、コーネルは黒い影に殺されてしまってたんや。
【シーザー】 で、その黒い影も裏で領主と繋がってるのかも知れん。あるいは、そいつの起こした事件を利用して──。
【リィン】 ──ホルトーを陥れたとか。
【シーザー】 う〜ん……しっくりこんなぁ。
【デリー】 とにかく、黒い影のことを調べてみようよ。
【リィン】 そやね。その黒い影の出現する場所は決まってるの?
【GM】 アトランダムですね。しかも、その目撃証言は噂話がほとんど。
【シーザー】 殺されたひとには、何か共通点はないんか?
【GM】 ないですね。すべて名もなき庶民です。
【シーザー】 はあ、殺人の動機は不明か。やりにくいなぁ、こういうのは。犯人の出現場所は不明。殺されたひとに共通点も特徴もない。ただコーネルの事件だけが、夜ではなくて昼に起きてるんやな。
【デリー】 現時点で考えられるパターンを全部挙げてみよう。そんで有力やと思われるものに沿って、情報収集したらえんねん。
【GM】 パターンといっても、今の段階じゃ、ほぼ無限にあると思いますよ。
【デリー】 だから、その中でも特に可能性の高いものを選ぶんですよ。わたしの意見では、第1パターンとして、コーネル殺害事件の真犯人が黒い影。第2パターンが、逆にコーネル事件の真犯人は領主の刺客。第3パターンとして、黒い影は領主の放った刺客と同一人物である。
【リィン】 で、その刺客ってのは何なん?
【デリー】 コーネル事件の第1発見者の用心棒。グローガンやったっけ。
【リィン】 じゃあ、グローガンについて、盗賊ギルドで聞いてくるわ。

÷÷ つづく ÷÷
©2000 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2000 Jun Hayashida
▼ もしよろしければ、ご感想をお聞かせください ▼
お名前
ひと言ありましたら
 
≪REV / EXIT / FWD≫