≪REV / EXIT / FWD≫

§銀月の歌:第23話§

北への旅

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン 地図:もよ
▽ 砂の戦場の事 ▽ 湖畔の集落の事 ▽ ウサギ男、跳ねる事

砂の戦場の事

【GM】 厳しい大自然の脅威と戦いながら、日夜“荒ぶる砂漠”を北上し続けるキミたちの前に、5体のヒューマノイド・モンスターが立ちはだかった。それは砂漠に特化したオーク、デザート・オークです。
 このモンスターは人肉は食べないけど、旅人が食糧を持っていることを知っている。久しぶりのごちそうを期待し、もう、キミたちを襲う気でいっぱいです。
 食糧を渡して命乞いすれば見逃してもらえるかも知れないけど、どうする?
【ファベル】 命乞いしない。
【プレセア】 押し通る!
【GM】 なら、戦闘やね。ふっふっふ、長き眠りより目覚めしポケコン『カシオZ-1』の出番。
【キャロット】 何、それ。お化け計算機?
【GM】 まあ、そんな感じの(笑)。
 とにかく戦闘しよう。デザート・オークとの距離は、中距離(31〜60メートル)。
【キャロット】 デザート・オークAに手裏剣を投げる。
【GM】 射撃は、3レベルのセービング・ロールで命中判定して。
【キャロット】 (ころっ)はずれた。そんなん、当たるはずがない。
【プレセア】 同じく、デザート・オークAに長弓を撃って、威嚇するよ。(ころっ)はずれ。威嚇だけに終わってしまった。
【ファベル】 デザート・オークと接近戦をする。
【GM】 デザート・オーク5体は、受けて立とうじゃないか。通常攻撃のヒットを比べましょう。ファベルのヒットは?
【ファベル】 (ころっ)19。
【GM】 (ぽちっ)こっちの勝ち。ファベルの耐久度に19点のダメージ。
【ファベル】 鎧で14点止めれるので、5点きた。
【GM】 では、第2戦闘ターン。
【プレセア】 プレセアもファベルと一緒に接近戦をするよ。
【キャロット】 手裏剣投げたって、またはずれるやろな〜。ウサギも上がるよ。前に出る。
【GM】 では、3対5の通常ヒットの比べ合いになるね。さあ、どうぞ――あッ!
【ファベル】 どうしたん?
【GM】 さっきのモンスター側のヒット、間違えてた。MR(モンスターレート)の入力ミス(笑)。
【プレセア】 せっかく復活したポケコンも、それじゃ、意味ないやん(笑)。ホンマはなんぼのダメージやったん?
【GM】 ファベルは、61点のダメージを受けるはずやった。
【キャロット】 なにぃ!?
【ファベル】 一撃で死んでたやん! なに、それ〜。
【キャロット】 そんなん、ウサギは生きてられへん! 前に出るんじゃなかった。
【GM】 いや、キャラクター・グループとモンスター・グループの、それぞれの合計ヒットの差でダメージが決まるから、接近戦でヒットを出すメンバーが増えれば、そんなにひどいダメージは受けないと思うよ。
 くらったダメージは、グループの人数で頭割りやし。
【キャロット】 あ、そうなんや。なるほど。
【GM】 だから、大人数の敵グループに対して、ひとりで前に出てしまうと、大変なことになるってことやね(笑)。
 さっきのダメージは、ミスした数値のままでいいよ、ファベル。
【ファベル】 OK。
【GM】 では、改めて第2戦闘ターン。
【キャロット】 仕込杖で殴る〜。(ころっ)17ヒット。
【ファベル】 (ころっ)15ヒット。
【プレセア】 (ころっ)36ヒットか。
【キャロット】 は?? なに、こいつ(笑)。
【ファベル】 なにげに最強じゃない?(笑)
【プレセア】 奮発して、必要体力度ギリギリのダイス5個の剣を買ったからね。個人修正が15もあるし。
【GM】 体力度が1点でも減ると、大変やけどね。
【プレセア】 そのために、予備として軽い剣も持ってるねん。
【GM】 では、デザート・オークたちのヒットを……(ぽちっ)おお、負けてる! 5体のデザート・オークたちは、少しダメージをくらってしまった。
 第3戦闘ターン行くよ〜。
【キャロット】 (ころっ)16ヒット。
【ファベル】 (ころっ)低いなぁ、14ヒット。
【プレセア】 (ころっ)37ヒット。
【キャロット】 くすくす(笑)。
【GM】 (ぽちっ)あ、こっちが勝ってる。9点通ったので、ひとり3点のダメージね。それぞれの防御点で、そのダメージを減らせるよ。
【プレセア】【キャロット】【ファベル】 消えた。
【GM】 なに〜? おのれ、第4戦闘ターンじゃ。
【キャロット】 (ころっ)おお、いい目が出た。21ヒット。
【ファベル】 (ころっ)17ヒット。
【プレセア】 (ころっ)35ヒット。
【ファベル】 ……なんで、戦士のわたしがいちばん低いん〜?!
【プレセア】 武器が悪いねん。キャロットの仕込杖と、大して強さが変わらんやん。
【GM】 (ぽちっ)わー、くらってもた〜。第5戦闘ターン。
【キャロット】 (ころっ)19ヒット。
【ファベル】 (ころっ)わっ、全部1!
【GM】 バーサークする? そしたら、ゾロ目のダイスの個数だけ新たに振り足すことができるよ。そのかわり、1戦闘ターンごとに体力が減っていくし、[慰撫]されるまでバーサーカー状態のままになるけど。
【ファベル】 ん〜、敵の受けてるダメージの具合は、どう?
【GM】 いくらか傷ついてる感じ。
【ファベル】 じゃあ、バーサークする。(ころっ)18ヒット。あんまり変わらへんなぁ。
【プレセア】 (ころっ)37ヒット。
【GM】 (ぽちっ)また、負けた! MRが減ってくると、モンスターは悲惨やな。だんだん、へばってきたよ。

 第6、第7戦闘ターンと、冒険者たちは順調にダメージを与え、最後は逃げ出したデザート・オークたちを一気に押し潰し、葬り去った。

【GM】 バーサークしてるひとがいるから、誰か[慰撫]で正気に戻してやって。こういうのは、魅力度が高いひとがいいね。
【プレセア】 それなら、キャロットやね。
【キャロット】 魅力度は15あるよ。どうすればいいの?
【GM】 魅力度を使って、1レベルのセービング・ロール。失敗すると、襲われる。
【キャロット】 (ころっ)出たよ、成功。「はい、ニンジン」(笑)
【GM】 ファベルは、ニンジンにつられて、我に返ったよ。
【ファベル】 変なことを吹き込まんといてよ(笑)。

 冒険者たちは、さらに北へ向かう。
 バウツェンを出発して33日後の6月26日、豊かな水をたたえる川が見えてきた。川は東から西へゆるやかに流れていてる。

【GM】 川の流れる先に目を転じると、ちょっとした湖になっている箇所がある。
【キャロット】 行く! 行く、行く、行く。
【GM】 もうちょっと描写させてよ(笑)。
 キラキラとした湖面に、小さなカヌーが何艘か浮かんでいる。
 湖のほとり、キミたちがやって来た側の岸には、丸い大きなテントがいくつも建ち並んでいて、集落になってるね。
【プレセア】 ほう。
【GM】 その周囲には、草場や小さな森があり、さながら砂漠の中の浮き島って感じ。岸辺には、ヤシの木も生えている。
【プレセア】 オアシスやな。
【GM】 そう、そんな感じ。
 草場では、毛の長い羊のような、見たことのない中型動物が緑を食んでるよ。
【ファベル】 なんていう動物なんやろ?
【GM】 さらに、各テントに2〜3頭、馬型の動物が繋がれている。そいつらの頭には牛のような角が生えていて、体にはホルスタイン牛のような白黒模様がある。
【キャロット】 ティガーの馬?
【GM】 その祖先かもね。ときどき「モヒー」という鳴き声をあげる。
【ファベル】 馬?! 牛!?
【キャロット】 どっちや(笑)。
【ファベル】 なんていう動物なん?
【GM】 『モヒ』。そのまま。
【ファベル】 羊みたいなやつは?
【GM】 しらん。
【プレセア】 謎の動物なんやな。
【GM】 そうじゃなくて、『シラン』という名前。
【キャロット】 人間はいないの?
【GM】 もちろん、人間の姿も見えるよ。浅黒い肌に、赤や青の鮮やかな織物を纏わせてる。
 テントのそばで、弓や槍の手入れをする男性や、頭の上に蔓や竹で編んだ篭などを載せて、荷物を運ぶ女性、犬を追いかけて遊ぶ子供たちなど。
 こういう土地柄なんで、文明が発達してるようには見えないね。
 ――で、ウサギさんは、「行く行く」と言うてたね?
【キャロット】 跳ねながら行ってるよ。
【ファベル】 じゃあ、ついて行くけど、友好的に行けよ、ウサギ?
【キャロット】 いや、もう、顔は微笑みやから。身長は194センチで、つけ耳もあるけど。
【GM】 見上げるようなウサ耳の大男が、にこやかな笑顔で近づいてくるのを、住人たちは「何や?」という表情で見てるよ。

湖畔の集落の事

【ファベル】 「ちょっと休んでいいですか?」と、声をかけてみるけど、言葉は通じる?
【GM】 オムスク語なら通じる。「いいよ」やって。
【キャロット】 じゃあ、ヤシの木の下に「わー」って走って行く。
【GM】 ヤシの木の下なんかに行かんでも、勝手にテントに入っていいねんで。
【キャロット】 そうなん?
【GM】 このひとたちは、ずっとここに住んでるわけじゃない。1箇所に留まり過ぎてると、シランたちが草を食い尽くしてしまうから。ある程度の周期で草場を転々として暮してる。だから、持ち運びのできる住居で生活してるんやね。
 そして、そうした暮しをする部族は、このひとたちだけじゃなくて、他にもいくつかある。
【プレセア】 ほう。
【GM】 砂漠の旅は大変。困ったときは御互いさまという感じでいるから、勝手にテントに押しかけて、寝泊りしても何も言われない。ごく普通に食事もさせてもらえたりするよ。
【プレセア】 なるほど。
【キャロット】 じゃあ、どこかのテントに入ってみる。
【GM】 キミたちが入ったテントは、5〜6人が楽にくつろげる広さで、中にはひとりのドワーフがいた。
【ファベル】 ドワーフ?
【GM】 ごつい指を器用に動かし、蔓を編んで篭を作ってるよ。
 キミたちに気づいたドワーフは、作業の手を止めて、顔を上げた。そして、「ほほう、旅人か。北から来たのか? 南から来たのか?」と、尋ねてきた。
【プレセア】 「南から」
【GM】 「そうか、そうか。砂漠の旅は、大変だったろう」と言って、ドワーフは立ちあがり、幕壁に吊り下げられた篭の中の小さな(かめ)のほうに行った。ちょっと、左足を引きずるような感じやね。
【キャロット】 足が悪いん?
【GM】 「10年前の古傷じゃよ。ロットバイルの種族浄化作戦から逃れるとき、足首を矢に射抜かれてしまったのじゃ」
【プレセア】 そのドワーフは、ロットバイル王国にいたん?
【GM】 いや、旧カルファン王国の鉱山の村、モゴチャに住む鉱夫だったらしい。彼の名前は、グング・バンク・ドン。
【ファベル】 リズミカルや。
【GM】 レムリア暦520年、ロットバイル王国がカルファン王国を征服して間もなく、ロットバイルの国策である種族浄化が実行された。人間以外の種族をレムリア大陸から消す、という政策やね。
【ファベル】 ほう〜。エルフがそこにいるな〜。
【キャロット】 いや、オレ、ウサギでーす。
【GM】 だから! 『“人間以外の種族を”レムリア大陸から消す政策』ね!
【キャロット】 あはは(笑)。エルフなのがダメなんじゃなくて、ウサギもダメなん?
【GM】 よしんばキミが本物のウサギ男でも、それは人間じゃないでしょ(笑)。OK?
【キャロット】 OK!
【GM】 種族浄化作戦が決行されてほどなく、モゴチャ村にもロットバイル王国軍が押し寄せ、数多くいたドワーフたちを始末していった。
「仲間の多くはそのとき殺され、ワシの一族も散り散りになってしまった。ここに辿り着いたワシは、細工師として暮しておるのじゃ」
【プレセア】 なるほど。
【GM】 グングは、柄杓で瓶の中のものをかき混ぜ、人数分の茶碗によそってくれた。モヒの乳から作ったお酒やね。小バエとかいっぱいたかってるのを、追い払いながらの作業。
【キャロット】 うえっ。ハエがおるんや。
【GM】 そりゃ、6月なんやし。
【キャロット】 ……今、思ったけど。オレ、白いモコモコ着てるねんけど、暑いんちゃうん。
【ファベル】 今ごろ何を言うてんのよ!(笑) 戦闘で汗だくになってるんとちゃうの。
【キャロット】 ホンマや。じゃあ、服、川で洗って干しとく。
【GM】 川の水量、今はけっこう豊富やね。10月ぐらいになると、モヒの背中が濡れないぐらいにまで、水位は下がるけど。
【キャロット】 そこでウサギの服を、じゃぶじゃぶ洗っとくわ。
【GM】 しばらく後、ヤシの木の間に渡されたロープに、ウサギの衣装が翻ってるわ。
【プレセア】 その間に、モヒの乳のお酒をいただいとこう。
【ファベル】 おいしい?
【GM】 まずくはない。ちょっとクセのある味やけどね。
「この酒も悪くないが、やはり、仲間や家族と飲んだ、モゴチャのドワーフ酒が懐かしいのう」と、グングは遠い目をしてつぶやく。
「ワシの家の倉庫に保管してあったが、どうなってるだろう。倉庫が変に壊されてなければ、たぶん、今でも保存がきいてるはずだが……いや、もうすっぱくなってるかな」
【プレセア】 そのお酒は、ここでは作られへんの?
【GM】 モゴチャの水でないとムリだそうです。

 冒険者たちは、グング・バンク・ドンのテントでひと晩休んだ。

【GM】 翌6月27日の気持ちのいい朝です。
【プレセア】 あとどれくらいで砂漠を抜けられそうか、グングさんに聞いてみよう。
【GM】 川を渡って、徒歩で8日ほど北に行けば、砂漠を脱して旧カルファン王国領に入れるらしい。そしたらすぐにカリーニョという村に着くだろう、とのこと。
【プレセア】 その川って渡れるの?
【GM】 試みることはできる。セービング・ロールで。
【キャロット】 てゆーかさ、カヌーはダメ? 湖に浮いてるカヌー。
【GM】 集落のひとたちに聞いてみると、「OK」と言ってもらえたよ。向こう岸まで運んでくれるってさ。
【キャロット】 乗る、乗る。
【ファベル】 できれば、タダで。
【GM】 タダで? まあ、別にいいけど。
【プレセア】 じゃあ、どれくらいの金貨がいる?
【GM】 いや、あんまり金銭はもらっても意味ない。衣服や、金属製の道具なんかが、喜ばれると思うけど。
【キャロット】 ほんなら、手裏剣を3つあげる。
【GM】 “川の民”の男たちは喜んだ。すぐにカヌーを3艘ほど用意して、キミたちを乗せてくれた。
【キャロット】 「わーい」って、ウサ耳を揺らして喜んどく。
【GM】 ちなみにそのカヌーは組み立て式で、コンパクトにまとめて、モヒに運ばせることが可能。
 キミたちは、向こう岸に渡らせてもらったよ。
【キャロット】 ティガーに買ってもらったイボ馬は?
【GM】 馬たちは、熟練者の誘導によって、川を泳いで渡った。
【キャロット】 じゃあ、チョビも泳がしとく。
【GM】 ああ、イボ馬のそばで、犬かきしてるねぇ。岸にあがると、体をブルルと震って水しぶきを飛び散らせた。
【キャロット】 「何すんねん〜!」って、水をかけ返して遊んでるわ。
【ファベル】 無邪気やな。
【キャロット】 じゃあ、北に向かおう。なんちゃら村まで。

 馬に揺られて北上すること4日、冒険者たちは“荒ぶる砂漠”を抜けて、ロットバイル王国の旧カルファン王国領に入った。

【GM】 草原を2日ほど旅してると、やがて、行く手に村らしき集落が見えてきた。その周囲は、木組みの柵で囲われている。門があるけど、雑草に半ば埋もれて、閉ざされてるね。
 気をつけてみると、キミたちが進んでいたのは、使われなくなって幾年も経過した道のようやね。
【プレセア】 おろろ?
【キャロット】 誰もいない?
【GM】 門まで近づくと、その上に設置されてる櫓で、「わっ、びっくりした〜!」という男の声がした。
【キャロット】 こっちがびっくりした〜!(笑)
【GM】 櫓から身を乗り出してるのは、村の衛士みたい。不精髭を生やして、チェインメイルをだらしなく着込み、あんまり勤勉なひとには見えないね。
「ここはカリーニョ村だ。あんたら、砂漠から来たのか?」
【キャロット】 「うん、そうみたい。そこ、入っていいの?」って聞く。
【GM】 「北のキャフタ側の門なら開いてるぜ」
【キャロット】 こっちは開かへんの? 「開けてよ」
【GM】 「だって、錆びついてんだもん。じゃまくせーよ。北門なら開いてるんだから、そっちに回れよ」
【キャロット】 「わかったよー。じゃまくさいんなら、しゃあないわ」
【ファベル】 このひと、見張りに意味あるのか?(笑)
【プレセア】 北門に回ろうか。
【GM】 迂回がてら見てみると、どうも、そんなに大きな村ではなさそう。静かな農村って感じやね。
 キミたちは、キャフタへの街道に繋がる北門にやって来ました。こちらは開け放たれてるよ。もちろん、見張りの衛士はいて、退屈そうに門柱にもたれて座ってる。
【キャロット】 こっちもか。
【プレセア】 入っていいのかな?
【GM】 見張りの男は、キミたちをジロリと――とくにウサギ男を見るけど、別に何も言わない。
【ファベル】 緩々や。
【キャロット】 村に入ろう。
【GM】 村に入ると、畑仕事をしている村人の姿が、ちらほら見える。ほとんどが老人や女性、子供で、それほどの人数ではない。
 宿屋らしき建物はあるけど、荒れ放題。10年以上放置されてるみたい。
【ファベル】 すごいな。いちおう、入ってみる。
【GM】 中も荒れてる。天井の一部は崩れてるし、朽ちた床を突きぬけて雑草が生えてるし。

ウサギ男、跳ねる事

【ファベル】 ここ、開いてるの?
【GM】 別の意味でね。ドアなんか、とっくになくなってるし。
【プレセア】 誰もいない? とりあえず、声をかけてみるけど。
【GM】 「誰もおらんぞ」と、外から声がした。空の水桶を担いだ、野良仕事帰りの初老の男性やね。夏だというのに、長袖の服を着てる。その裾からのぞく体には、なんかヤケドの跡がいっぱい残ってるみたい。
「旅人など訪れんのに、宿なんか営業してても、しょうがないからな」と、そのおじさんは言う。
【プレセア】 「ここに勝手に泊まってもいいの?」って聞いてみる。
【GM】 「やめとけ。脆くなってるし、危ないぞ。なんなら、うちに泊まるか? 男の独り暮しなんで、大したもてなしはできんが」
【キャロット】 「うん」
【GM】 では、おじさんの案内にしたがって、キミたちは今夜泊めてもらう家へ向かいます。
【プレセア】 道すがら、村の今の状態を軽く聞いてみる。「なぜ、若者が少ないか」とか。
【GM】 近々、大きな戦争があるそうで、働き盛りの若い男たちの多くが、王国に徴用されてるらしい。
【プレセア】 なるほど。
【GM】 現在のカリーニョ村の人口は70人ほどで、兵士の数が9人。
【キャロット】 さっきの奴らか。
【GM】 そう。彼らは、外敵から村を守る役目を負ってる。それを統括するのは、ポルフォン・ワーハートという36歳の領主。
 村の中の小高い丘の上に、比較的新しい少し大きな家が建ってるのが見える。そこが、領主ポルフォンの住まいです。
【ファベル】 領主って、独身?
【GM】 いや、妻と7歳のひとり娘がいる。
 ポルフォンは、かつて鉱山の村モゴチャで働く鉱夫で、カルファン王国への反抗組織ガーヴェンへの協力者だったらしい。
【プレセア】 ほほう。
【GM】 ガーヴェンのリーダーは、ロットバイル王国の工作員だったんだけど、カルファン領を首尾良くロットバイルのものにした後、密かに入手したカルファンの国宝『マドナガルの剣』をもって、母国に謀反を企てた。
「だがな、マドナガルの剣は、自らの所有者を選ぶのさ」と、おじさん。
【プレセア】 そのリーダーは、剣に選ばれなかったんやね?
【GM】 そのとおり。反乱はあっさり潰された。剣が使えなかっただけでなく、事前に謀反の情報を漏らされてたしね。
【キャロット】 情報を漏らしたのは、ここの領主、と。
【GM】 そう。そうしてポルフォンは、うまいことロットバイルの権力者に取り入り、今の地位を築いたそうな。種族浄化にも、積極的に協力してたし。
 そんな彼の唯一の不満は、大好きだったドワーフ酒が飲めなくなってしまったことらしい。
【プレセア】 その領主の、村人からの評判はどうなん?
【GM】 あんまり好かれてないね。やたら威張ってるし、若者が駆り出されてるのをいいことに、村の娘に手を出すし。
【プレセア】 村人は、そのことを上役に申し出ようとはしてないの?
【GM】 だって、上申する先の人物が、ポルフォンとなぁなぁやし。後で「おまえ、チクったやろ。おまえの旦那、最前線に送ってもらうからな」とか、言われてまうし。
 ついでに、ここの9人の兵士はポルフォンの私兵で、ほとんどならず者。
【ファベル】 腐ってるな〜。
【プレセア】 上層部まで腐ってたら、村人にはどうしようもないな。
【キャロット】 これはなんとかせねばなるまい、と、ティガーなら思う。「やはり、この地にオムレツ王国を築かねば」とか。
【GM】 なんでオムレツやねん(笑)。
【キャロット】 キャロットなら、ウサギ王国やけど。
【GM】 さて、キミたちはおじさんの家にやって来た。粗末な家やね。
「まあ、お入りなさい」と、おじさんは言う。馬は厩に入れてね。
【ファベル】 おじゃましま〜す。
【GM】 おじさんは、台所でお茶を入れてくれてます。キミたちは、居間のテーブルについて、狭い家の中を眺めてる。
 タンスの上に、初老の男性の独り暮しには似つかない、粗末な古ぼけた人形が置かれてる。小さな女の子が遊ぶようなやつで、母親の手作りといった感じやね。
【プレセア】 「奥さんと娘さんがいたの?」って、聞いてみる。
【GM】 「いや、前の住人のものだよ」と、お茶を盆に載せて運んできたおじさんが言う。
 カリーニョ村は、10年ほど前、カルファン王国時代末期に滅ぼされた村。
 その後、ロットバイル王国の支配下に置かれたとき、食糧事情改善のために復興プロジェクトが立ち上げられた。現在の住人はすべて、そのとき入植してきた人間。
 最初の数年、王国からプロジェクト参加の恩赦があり、兄弟が多くて親から畑を分けてもらえない農民や、都市で仕事にあぶれた浪人などが集まって、カリーニョ村を蘇らせたんやね。
「中には、わしのように、スネに傷持つ者も流れてきたようだがな」と、おじさんはニヤリと笑う。
【ファベル】 お〜?!
【キャロット】 何をしたん?
【GM】 「なーに、ドワーフとグラスランナーを、ちょっと匿っただけだよ」と、おじさん。
 このおじさんもモゴチャ村の元鉱夫で、ロットバイル王国の種族浄化が施行されたとき、親交のあったドワーフの家族を、ドワーフ特有の地下住居のさらに奥、酒蔵としていたところに匿ってたらしい。
【キャロット】 グラランは?
【GM】 大ケガをして村の外に倒れてたのを偶然見つけて、ドワーフの家族の隠れ家に連れて帰り、介抱したそうな。
「ベリーというそのグラスランナーは、ガーヴェンの元メンバーだったらしい。『裏切られた仕返しに、レギトのタイガーファング城で見つけた宝をくすねてきた』と、変な杖を自慢していたなぁ。
 介抱したお礼にくれたんだが、使い方も価値も、さっぱりわからなかったよ」
【ファベル】 ゴミやん(笑)。
【プレセア】 で、そのドワーフとグラランは?
【GM】 ある日、モゴチャ村がロットバイル王国の直轄地になるとかで、徹底したドワーフ狩りが行われた。
「身軽なベリーがおとりになって王国兵を攪乱してる隙に、グングの家族を坑道の裏口から逃がそうとした。
 しかし、そこに王国兵が待ち構えていて、グングの家族や私、他のドワーフたちやそれを匿っていた村人たち、全員が捕らわれてしまったんだ」
【ファベル】 グング? グング・バンク・ドン?
【プレセア】 あのドワーフの家族、捕まってしまったんか。もう、生きてないよね?
【GM】 「生きてないだろうな」と、おじさんはため息をついた。
「ベリーはなんとか逃げおおせたらしく、去年、ここにこっそり顔を出したがな。
『あの酒蔵は、一見して入り口がバレないように隠しておいたから、まだ無事なはずだ。いつでも戻れる』と言ってたが、わしが、もうその必要はないと教えると、がっかりして南に旅立って行ったよ」
【プレセア】 その酒蔵には何が残されてるの?
【GM】 生活してたところやからねぇ。毛布や食糧以外には、ベリーの杖とか、ドワーフ酒ぐらいしかないんとちゃうかな。
【プレセア】 「もし、そこに立ち寄ることがあったら、中の物を持って行ってもいい?」と、おじさんに尋ねる。
【GM】 「別にいいよ。無事ならね」
【キャロット】 ドワーフ酒は大丈夫っぽい。
【ファベル】 いい感じで、ビンテージになってるんとちゃう?
【プレセア】 ドワーフ酒は人気みたいやし、持ってたら何かに使えるかも知れん。
【GM】 「わしも、あれは懐かしいなぁ。ひどく酔うしね」
【ファベル】 火ィ吹きそうやな。飲まんとこ。
【プレセア】 その酒蔵の場所、いちおう教えといてもらえる?
【GM】 いいけど。でも、「今はどうなってるか、わかんよ」って、おじさんは言うけど。
【プレセア】 聞くだけ聞いとく、ということで。
【GM】 「ところで、そちらのエルフ、やばいんと違うの」と、おじさんがキャロットを見ながら心配そうに言う。
【キャロット】 「頭がですかぁ?」って聞く。
【GM】 「耳がですよ!」
【キャロット】 「えーッ!?」って、ウサ耳を押さえる(笑)。
【GM】 ちゃうちゃう、エルフ耳のほう(笑)。
【キャロット】 10分ぐらいしてから、「あぁ」って気づく。このひと、よく自分の種族を忘れるねん。ウサギやと思い込んでるから。
【GM】 だから、『人間外』がダメなの!
【キャロット】 あはは(笑)。
【ファベル】 危険や。
【プレセア】 肩をすくめといたげるわ。
【キャロット】 じゃあ、エルフ耳を隠してみた。ウサ耳を出せてたら満足かな〜、みたいな。
【GM】 どうやって隠すの?
【キャロット】 頑張って隠すねん。
【GM】 だから、どういうふうに頑張るんよ!?(笑)
【キャロット】 え〜? ふかふかの耳当てを速攻で作った。
【GM】 ウサギ男は夜なべしてそうやな。目が真っ赤になるで。
【キャロット】 本望やね。
【GM】 では、翌朝を迎えて、7月4日になりました。おじさんの家の扉が、激しくノックされる音で、キミたちは目を覚ました。
【ファベル】 「うるさいわー」
【GM】 おじさんが扉を開けると、そこに兵士が立っていた。そして、家の中のウサギ男を指して、「あれを引き渡せ」と言っている。
【キャロット】 「えー?! やっぱりぃ?」って思って跳ねてよう。ピョン!
【プレセア】 余裕あるな(笑)。

÷÷ つづく ÷÷
©2006 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2006 Jun Hayashida
Map ©2006 Moyo
▼ もしよろしければ、ご感想をお聞かせください ▼
お名前
ひと言ありましたら
 
≪REV / EXIT / FWD≫