▽ 遊び人なふたり | ▽ 友情の護衛 | ▽ 見直されたふたり |
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【GM】 というわけで、始めるで。キミたちは、カルファン王国キャフタ領カリーニョ村にいます。そこは、キミたちふたり、リザロークとアイザックが生まれ育った村で、農業だけで成り立っているような、典型的な辺境の田舎です。キミらの実家も、もちろん農家です。
【アイザック】 え〜!? 魔法使いじゃないの?
【GM】 キミらは両方26歳やったな。もう、いい歳しとるわけや。それなのにキミたちときたら、子供の頃から冒険者に憧れていて、家業の手伝いもロクにせずに、フラフラしてるわけだ。父も母も、「そろそろ、後を継いでくれんかのぉ」と気をもんでるわけだ。
【リザローク】 ほう?
【GM】 だって、幼なじみで昔は同じ夢を持っていたグッツィーなんかは、とっくに結婚して娘までこさえて、毎日まじめに農業やってるんやで。去年の秋には、村で一番でかいカボチャを作って、一躍英雄になったんやから。
【リザローク】 嫁と娘なら、オレにもおるで。
【GM】 嫁までもらって、まだフラフラしてんのか。「オレは、そんなみみっちい一生で終わらないぜ!」とか、「流されて生きるなんて、まっぴらだぜ!」とか言ってるわけだな。
【アイザック】 なるほどな。
【GM】 そうほざいたところで、キミたちは何かしらの結果を出すわけでもなく、村人たちからは白い目で見られている。でもな、そんなキミたちにも、たったひとりだけ理解者がいてくれてるんやわ。
【リザローク】 オレの嫁さんのリムやろ。
【GM】 違うね。リムは「あんた、いい加減にちゃんと働いてよ!」と、毎日愚痴ってるよ。4歳の娘ファンリーは「おなか減ったよ〜」と、毎日泣いている。リザロークの家は、幼なじみのグッツィーとリザロークの実家の援助がなければ、とっくに全滅してるね。
【リザローク】 悲惨やな〜(笑)。
【アイザック】 あんたがしっかりせえへんからや。
【GM】 キミたちの唯一の理解者というのは、カリーニョ村の村長エスティバン・トゥバイエさん、80歳。彼は、若い頃、冒険者に憧れてオレンブルクに出てったことがある。
【アイザック】 オレンブルクか。俺もオレンブルクに行きたがってるよ。
【GM】 村長さんは夢破れて故郷に戻ってきて、それからはまじめに働いている。そんな彼は、キミたちが非難されてても、「まあ、ええがな、ええがな」と言ってよく庇ってくれている。だから、家にいても針のムシロのキミたちは、村長の家に入り浸りになってたりするんだね。
今日も今日とて、キミたちは村長の家に遊びに来た。
【リザローク】 「村長さん、来たよ〜!」
【GM】 ところが、村長さんは顔色があまりすぐれません。リザロークの呼びかけも上の空で、何か思い悩んでいる様子やね。
【リザローク】 じゃあ、勝手に入って村長の肩を叩いてみる。
【GM】 「おお、来てたのか。じつはいま、思い悩んでいてなァ……。昨日、ワシの所にデュラハンが来たのじゃ。しかも、『明日、魂をいただくぜ』とぬかしよった!」
【リザローク】 デュラハン??
【アイザック】 「デュラハンって、何?」
【GM】 「デュラハンというのは、自分の生首を小脇に抱えた、不気味なアンデッド・モンスターじゃ。そいつは家に押しかけると、家人のひとりを指さして『死の宣告』をする。そのちょうど1年後に再びやって来て、宣告した者を殺すというモンスターなのじゃ」
【アイザック】 そいつはメモしとこう。メモメモ。
【リザローク】 しかし、ただの村長がモンスターに詳しくてもいいのだろうか。
【GM】 夢破れたと言っても、魔術師をめざしていた村長は、オレンブルクの魔術師ギルドで勉強してたんだからね。ちょっとした豆知識程度なら、披露できるよ。
【アイザック】 ウソぉ、魔術ギルドに行ってたん!?
【GM】 一般の部・廉価コースだけどね。正式会員になるための資金や学力が、惜しくもちょっと足りなくて、ソーサラーになることはできなかった。そうして帰ってきたわけだけど、文字も読めるし、計算もできるということで、領主から村長を任されてるのだ。
【リザローク】 え? 代々村長の家系じゃないの。
【GM】 世襲制の村長なんか、聞いたことないよ(笑)。騎士ですら、世襲制ではないのに。
【リザローク】 ふ〜ん……。
【GM】 ちなみに、この村を領有しているのは、カリーニョ村から北へ1日ほど離れたところにある、カルファン王国第2の都市キャフタに居を構える、スコエ・ハオト家。王家であるイーニン・ハオト家の分家筋で、キャフタやカリーニョの他にも、アクシャ、モゴチャという村も支配してるよ。
【アイザック】 村長は、中間管理職なわけね。
【GM】 そういうこと。で、村長さんは「本来なら1年猶予があるはずなのに、そいつは明日と言ってきおった。なんちゅうせっかちな奴じゃ!」と、怒ってます。
【リザローク】 村長さん、何か悪いことでもしたん?
【GM】 「いや、ワシは何にもしとらんぞ。今夜が奴が宣告した日なのじゃ。護衛を頼みたいのじゃが、あいにくこの村には冒険者が──いたァ!!」
【リザローク】 お約束でんな。
【GM】 「というわけでおまえたち、今晩、ワシの家に泊まらんか?」
【アイザック】 やった〜! めっちゃ嬉しいねん。
【リザローク】 家にいても、嫁にいびられるだけやし。
【GM】 「よしよしよし、今夜は宴会じゃあ」──というわけで、夕方になりました。
【リザローク】 晩メシは、とうぜん出してくれるんやろな。
【GM】 簡単なものだけどね。しかし、盛り上がってるところに、リザロークの嫁のリムがやって来た。「あんた、何してんの?! 早く帰ってきなさいッ」
【リザローク】 「かくかくしかじかァー!」
【GM】 「ま〜だ、冒険や怪物や言うとんのかね! いー加減に、まじめに働いてよ!!」
【リザローク】 きっと、村長が助けてくれるんやろな。
【GM】 「まーまー、ええじゃないか。ワシが頼んだのじゃ」村長から説明を受けたリムは、しぶしぶ引き上げて行きました。
【アイザック】 あー、怖かった。
【リザローク】 なんせ、冒険者レベルが6もある嫁だから(笑)。
【GM】 どんな嫁やねん。そうして、宴会もたけなわになりました。村長さんは独身なので、皿洗いは手伝ってください。
【リザローク】 皿洗いはいつもやらされてるから、得意だよ。
【GM】 そうやって台所でガチャガチャと洗い物をしていると、コンコンと玄関のドアをノックする音がする。村長が「誰じゃな」と言って扉を開けると、そこには痩せぎすの人間の男が立っていた。
【アイザック】 「あんた誰だ?」
【GM】 「私は旅の冒険者のソーサラーです」
【アイザック】 『旅の冒険者のソーサラー』ぁ??
【リザローク】 「名前は?」
【GM】 「オネットと、覚えておいてください。ところで、デュラハンが出るそうですね」
【アイザック】 「なんで知ってるんだ」
【GM】 「いや〜、そこで立ち聞きしてたんです。私はソーサラー技能を持っています。私を雇いませんか?」と、オネットという男は言う。村長はキミたちを振り返りながら、「冒険者は、雇ったばかりなんじゃがのう。……多い方がええかのう」とつぶやく。そしたらオネットは、「え!? あの方たちは、冒険者なんですか?」と驚く。
【リザローク】 ……ふざけた奴やなァ。がっちがちに鎧を着込んでるんやから、見たらわかるやろ。ピカピカのおニューやけど(笑)。
【アイザック】 「旅のソーサラーとか言ってたね、どっから来たの?」
【GM】 「え? オ、オレンブルクの方から……」
【アイザック】 「オレンブルク!? オレンブルクって、どんなとこ?!」
【GM】 「そりゃもう、賑やかじゃった」と、これは遠い目をした村長さん。で、村長はオネットに、「彼らを雇っているので、お気持ちは嬉しいが、お引き取りくだされ」と言う。すると、しょうがないので、オネットはすごすごと帰っていった。
【リザローク】 さあ、がんばって警護しよう。嫁に惚れ直してもらうために(笑)。
【GM】 そういうわけで、アイザックとリザロークは徹夜で警護した。そして、何事もなく、朝がやって来た。「コケコッコ〜」
【アイザック】 ほう。
【GM】 村長さんは「出んかったのう」と、首を傾げています。
【アイザック】 「ホントに昨日で1週間だったんですか?」
【GM】 「わしゃ、まだボケとらんわ!」
【リザローク】 朝メシ食った直後に、「ヨシエさん、朝ごはんはまだですかのう」とか言ってへん?
【GM】 言うわけない(笑)。80歳でも、矍鑠としてるの。全盛期は筋力24あったんやし。
【リザローク】 ソーサラーより、ファイターを目指したらよかったんや。それにしても、デュラハン出てこんかったな。
【アイザック】 なあ。
【GM】 「まー、ご苦労さんじゃっな」と村長さん。
【リザローク】 じゃ、帰るか。
【GM】 そして、キミたちが外に出ると、向こうから幼なじみのグッツィーが血相を変えて走ってくる。「おい、聞いてくれよ! 昨日の晩、オレん家に化け物が出やがった!!」
【リザローク】 どんな奴?
【GM】 「首がねえんだよ、首が! そんでそいつの首、どこにあったと思う? そいつ、自分で自分の首を小脇に抱えてたんだよッ!!」
【アイザック】 「そいつはな〜、デュラハンっていう奴だ!」
【GM】 「何だ、それ?」
【アイザック】 「知らねえのか、おまえ」かくかくしかじか。
【GM】 きのう村長から聞いた知識を、得意気に並べるねんな。「ウソ!? 『死の宣告』って1年の猶予があんのか? だってオレ、『明日』って言われたぜ」
【アイザック】 「そいつはまずいなあ、今夜、来るかも知れないぜ!」
【GM】 「なにぃ!? そういえばおまえたち、本気で冒険者を目指してたよな。今晩、オレを守ってくれないか? オレには妻と生まれたばかりの娘がいるんだッ」
【リザローク】 「とうぜんじゃないか。オレたち、友達だろッ!」がしっ!
【アイザック】 「水くさいぜ、グッツィー!」がしっ!
【GM】 「ありがとう、友よ!」がっし〜! ……と、熱く握手して、肩を組んで朝日の中でキラキラするんやね。それじゃ、夕方になって、キミたちはグッツィーの家に行った。するとリムがやって来て、「あんたー! また──」
【リザローク】 中略! 「かくかくしかじか、というわけなんだよ〜」
【GM】 「まったく、ロクに働きもしないで、いつもお世話してくださる方の家に押しかけて、恥ずかしいったらありゃしない」と、リムは愚痴るんやけど、グッツィーに説明と説得をされて帰って行った。
【アイザック】 あー、こわかった。
【GM】 さて、キミたちが夕食をごちそうしてもらってると、玄関の扉がノックされた。グッツィーの奥さんがそ〜っと扉を開けると、そこには痩せぎすの人間の男……夕べ村長さんの家に来た、自称ソーサラーが立っていた。
【アイザック】 オネットか。
【GM】 オネットは、奥さんに「あなたのご主人が、デュラハンに『死の宣告』をされたそうですね」と言う。
【リザローク】 「オネットさんじゃないですか〜」と、中から声をかける。
【GM】 「お、おまえたちは昨日の冒険者! 何でここにいるんです!?」と、オネットは驚いて言う。
【リザローク】 「あんたこそ、何してるんですか?」
【GM】 「私は〜、正義の冒険者として、困ってる人を見捨てられないというか、助けてあげようっていうか……」
【リザローク】 「どこでデュラハンの話を聞いたんですか?」
【GM】 「え?? 外?」
【リザローク】 「はっきり言いますよ!! ……盗み聞きはやめたほうがいいな」
【GM】 「だって正義の味方ですもん!」
【リザローク】 「『正義』の名の下におまえがやってることは、悪いことだァー!」
【GM】 「もういいですよッ」と、捨てゼリフを残して、オネットは帰って行ったよ。
【アイザック】 逆ギレやな。
【GM】 そして夜が更けた。全員、居間に固まってる。奥さんはスヤスヤ眠る娘を抱いて心配そうに、グッツィーは深刻な顔をして、みんな無言で過ごす。……で、「コケコッコ〜」と、朝がきた。
【リザローク】 来なかったな、デュラハン。グッツィー、寝ぼけて夢でも見たんちゃう。
【アイザック】 ま、ま、よかったやんか。
【GM】 「はあ、まあ、どうもありがとう」というわけで、キミたちは朝食をごちそうになって、家に帰ることにしました。
【リザローク】 家に帰るのはイヤやな〜。嫁さんが怖い。
【GM】 ところが、グッツィーの家を出たところで、イケポンとキューズローが走り寄ってくる。彼らも、キミたちの幼なじみ。イケポンは馬や牛を世話している牧場主。キューズローは農耕具を修理したり、鍋などの金物を直したりする金物屋。
「聞いてくれ! じつはよ〜、きのうの夜──」以下、同文ということで。
【アイザック】 「そいつは、デュラハンっていう魔物だ」以下同文。
【GM】 「なにぃ!? 『死の宣告』って、1年かかるのか。でも、俺、『明日』って言われたぜッ」と、イケポン。キューズローも「オレもだッ!」。
【アイザック】 そいつはマズイなぁ。
【GM】 すると、そばで聞いていたグッツィーが、「そういえば昨日、『護衛をしたい』っていう冒険者が来たよな」。
【リザローク】 ああ、オネットさん?
【GM】 「キューズローはそのひとに護衛を頼んで、イケポンはアイザックたちに護衛をしてもらったらどうだ?」
【アイザック】 「おお、そいつはいい。そうしよう」
【GM】 そういうわけで、夜になりました。キミらがいるのは、イケポンの家。キミたちが夕食を食べはじめたとき、ドアが激しくノックされた。イケポンが出ると、そこには般若の形相のリムがいる。「あんたー!!」
【アイザック】 出た! どっかに隠れとこう。
【GM】 「3日も連続で、何をほっつき歩いてんの!? 仕事せえへんのやったら、せめて、ファンリーの面倒を見るぐらいしてよッ」すぱん、すぱん! さすがにビンタされたよ。ちなみにそいつは、クリティカル・ヒット!
【リザローク】 ちょっと待てよ、嫁さんの方がオレよりレベル高いんやから、クリティカルなんかされたら死んでまう。
【アイザック】 俺やイケポンは、物陰からそれを見て震えてる。みんな、リムの気配を察知するのが早いねん。「あっ、リムが来る!」って。
【GM】 鳥はいっせいに飛び去り、ネズミたちも家からいなくなってしまう。
【アイザック】 リザロークだけいつも反応が遅れて、「あれ? みんなどこ行ったん?」とか言うてるうちに、リムに捕まるんやな。
【GM】 たまに物置に隠れたりできて、リムの気配が遠ざかった、助かった、と思って隙間から外をうかがってみると、その隙間からリムがこっちを覗いてて、ニヤ〜っと笑うんやろ。
【リザローク】 リムを化け物扱いするな〜! 嫁に来たときは、清楚なミフォアの司祭やったんやで。
【GM】 すると、彼女がああなったのはリザロークのせいだな。ま、そういう楽しい夜は明けて、翌朝になったよ。
【リザローク】 デュラハン、出てこんかったな。
【アイザック】 「キューズローのほうは、大丈夫だったんだろうか」と、見に行ってみる。
【GM】 すると、キューズローがたんまり入ってそうな金袋をオネットに渡しながら、「ありがとうございました」とお礼を言ってるところだった。
【アイザック】 何があったのか、聞いてみる。
【GM】 キューズローの話では、昨夜デュラハンが出たそうだ。それを、オネットがやっつけたらしい。ほくほく顔で金袋の中身を確かめていたオネットは、自慢気にキミらにニヤリと笑う。
【リザローク】 ぴき〜ん! オネットさんは怪しい。
【アイザック】 「オネットさんっ!」
【GM】 「なんだよぉ?」
【アイザック】 「強いね、あんた」(笑)
【リザローク】 「オネットさん。あんた、これからどーすんの?」
【GM】 「ここが気に入ったからな。しばらくは、この村にいようかと思ってんだ」
【アイザック】 「ところでオネットさん、デュラハンをどうやってやっつけたの?」
【GM】 「カーいって、ワーいって、シュパ〜ンと気合で消し去ったみたいな」
【アイザック】 「ほうほう。で、デュラハンって、どーゆー攻撃してくんの?」
【GM】 「──え??」
【リザローク】 わくわく、わくわく(笑)。
【GM】 「だから、剣とかで……こう……」
【アイザック】 「なるほど〜。魔法は使わないの?」
【GM】 「え、魔法? だから、使う間やらんかってん。俺の方が早かったからね。はっはっは。んじゃ!」と手を振って、オネットはすったかたーと去って行った。
【リザローク】 宿屋に行くんかな。
【GM】 そうやね。オネットが向かった先には、キミらの幼なじみのサッツィーって奴が経営している、宿屋があります。
【リザローク】 じゃあ、サッツィーの宿屋に行ってみよう。
【GM】 やって来ました。毎度おなじみの1階が酒場で、2階が宿泊施設の宿屋。ちなみにこの宿屋、ぜんぜん儲からない。カリーニョ村はカルファン王国の袋小路で、南には砂漠しかなくて旅人もめったに通らないからね。だから、畑仕事もやってるよ。
今日は珍しく、主人のサッツィーがカウンターに座ってる。その壁には、能面みたいな仮面が飾られたりしてる。
【リザローク】 能面のォ、能面の目が光るぅ〜!
【アイザック】 「ところでサッツィー、今日は畑仕事はいいのかい?」
【GM】 「ああ、いまは宿泊客がいるからな。2年ぶりの客だァ!」
【アイザック】 その客ってのは、オネットのことだな。
【リザローク】 「サッツィー、じつはなぁ」と、かくかくしかじかと話す。「というわけで、あいつ、何か怪しい気がするんだ」
【GM】 「そうか? 俺はそうは思わないぜ。なんせ、2年ぶりの客だァ!」
【アイザック】 「俺たち、その客に用事があって来たんだ。会いに行っていいだろ」
【GM】 「ああ、別にいいよ」ということで、キミたちは2階へ上がってオネットの部屋に行った。オネットは邪魔くさそうに、ドアのところで応対する。
【アイザック】 「オネットさんは、いろんな所を旅してきたんでしょ。その話を聞かせて欲しいんですけど、いいですか」
【GM】 「ああ? いいけどよ〜、別によ〜。……そうさな〜、あれはキマイラと戦った時だった。キマイラというのは虎の頭にゴブリンの身体、背中にはトゲが四本生えた巨大怪獣のことで──云々──」
【アイザック】 よっしゃ、メモしとこう(笑)。「ところでオネットさん、じつは僕たち、冒険者に憧れてて、旅に出たいな〜って思ってるんです。もしよければ、僕たちもオネットさんの旅に同行させてくれませんか?」
【GM】 「んあ〜、まあ考えといたるけど、おまえら、俺の仕事の邪魔したからなぁ──じゃなくってェ〜」
【アイザック】 「邪魔? なんのことですか」
【GM】 「いや〜、そうじゃなくて、俺は1匹狼なんだ。昨日は徹夜で疲れてんだから、もう帰ってくれ!」バタン、ガチャ!
【アイザック】 しゃあない、とりあえず家に帰るか。
【GM】 久々に家に帰るんやな。リザロークは大変や。リムが「で、収入はあったのかい?」と聞いてくる。
【リザローク】 ……。
【GM】 リムは「や〜っぱり、ブラブラ遊んできただけじゃないか! こんなんだから、ウチにはロクな収入がないんだよ!」と怒鳴り、娘のファンリーは「父ちゃん、お腹へったよ〜」と泣く。
【リザローク】 とりあえず、リムに何をしてたのか説明しよう。「オレは、オネットさんが怪しいと思うんですけど……」
【GM】 「知ったこっちゃないよッ!!」ビシ、バシィ!
【リザローク】 ああ〜。
【アイザック】 そこへ、俺がやって来るんやな。「よお、リザローク。村長ンとこに行かないか?」
【リザローク】 誘われた。「助かったぜ!」
【GM】 ちなみにリザロークの家は、村長の家の隣ね。隣といっても畑を挟んでるから、かなり離れてるけどな。では、村長に家に来たよ。
【アイザック】 「じつはよ〜、オネットが猿芝居してるみたいなんだ」と、村長さんに相談を持ちかける。
【GM】 「猿芝居ぃ?? 何のことかわからんが、聞いてくれ。いまさっき、デュラハンがまた来た。『今晩』やって」と村長さん。
【リザローク】 安心しろ、こっちは薄々真相に勘づいてんのや(笑)。
【アイザック】 「僕が思うに、そのデュラハンは裏でオネットが糸を引いてるはずなんだ」
【GM】 「そんなことができるのか?」
【リザローク】 オネットは〈クリエイト・イメージ〉の魔法で、デュラハンの幻影を作り出してるんや。
【アイザック】 でもって、村長やグッツィーを脅かし、そこへ「私が退治しましょう」と出てきて、いもしないディラハンを倒して謝礼を奪うわけだ。つまり、幻影の魔法を使った自作自演の詐欺やな。
【GM】 「なるほどな! ワシもいま、それを言おうと思っとったところぢゃ!!」
【リザローク】 おお〜、さすがは村長!
【アイザック】 というより、ありがちなシナリオ。誰でも思いつくような話だよ(笑)。
【リザローク】 探せば、全国で3つぐらい同じようなパターンがあるかと(笑)。
【GM】 悪かったな。
【アイザック】 とにかく、村長さんは今夜、オネットを雇えばいいんだよ。俺たちはこの家に隠れてて、奴の尻尾を捕まえる。
【GM】 「うむ、ワシの考えと一致しておる! おまえたちも成長したのぉ」
【リザローク】 「村長!!」がしっ!
【アイザック】 がしっ!
【リザローク】 飛び散る男の汗ッ!
【GM】 そして、扉を開ける女。「あんたー!!」
【アイザック】 その瞬間、俺と村長はもうおらんよ。リザロークは丸太と肩を組んでるねん、いつの間にか。
【リザローク】 こ、これは代わり身の術!? 振り返って「うわあッ、リム?!」。
【GM】 リザロークは一所懸命説明して、18ラウンド後になんとか帰ってもらった。ビンタの4、5発は覚悟してもらうけど。
【アイザック】 それじゃあ、夜になったら隠れさせてもらおうかな。その辺の壺に入る。
【リザローク】 オレはタンスの中。
【GM】 で、村長さんが時計の中やろ。
【リザローク】 村長まで隠れてどーすんねん!
【GM】 そして夜になると、玄関をノックする者がいる。もちろん、オネットの訪問だ。オネットは「デュラハンが出たそうですね」と、護衛を持ちかける。すると村長は、「ソウナノヂャ。ソコデ、オヌシヲ雇オウト思ッテイタノヂャ」と答えた。
【リザローク】 棒読みかぃ。
【GM】 「このオネットが来たからには、もう安心です」と、魔術師は得意気に言う。どうやら、200フィスで雇うことになったようです。というわけで夜は更け、オネットは腕組みして椅子に座り、村長はしきりに壺とタンスを気にしている。
【リザローク】 こっち見んな、ボケ〜! ──と、心の中で思う。
【GM】 そのとき、オネットがいきなり立ち上がり、「来たようです。村長さんは、ここに隠れていてください」と言うが早いか、外に出ていった。それからしばらくして、外から「この野郎!」とか、「行くぜ!」とか、怒号が聞こえてきた。
【リザローク】 すぐに裏口から出て、声のする方に行ってみよう。
【GM】 そこには、ひとりで奇声を発しているオネットがいるよ。
【アイザック】 「何をやってるんですか、オネットさん」
【GM】 「え!?」と、オネットさんは振り返る。「い、いま、デュ、デュ、デュラハン? デュラジャン来てて〜、撃退したんですけど〜」
【リザローク】 とりあえず、周囲の足跡を見てみる。
【GM】 いつも見慣れた、脇にちょっと草の生えた道です。目立った足跡とか、争ったような跡は、見当たらない。
【アイザック】 「すべてわかりましたよ、オネットさん。キューズローから巻き上げた金を、返しなさい!」
【リザローク】 「そして、村から出て行け!」
【GM】 「お、お、おのれ〜! こんな片田舎にキレ者がいるとは、誤算だった。バレてはしかたがない、くらえぃ、〈スリープ・クラウド〉〜」(ころっ)げっ、1ゾロ!
【アイザック】 リザロークのアックスに、〈エンチャント・ウェポン〉。(ころっ)かかったぞ。
【リザローク】 もらったぁ! 輝け、バトル・アックス〜。(ころっ)当たって、ダメージ15点。
【GM】 「うぐぐ、痛い、痛い」と、オネットは懐から怪しげな石を取り出して、呪文を唱え始めた。すると、足下からス〜っと消えていく。「今回は私の負けだよ、冒険者の諸君。だが、今日の借りは必ず返すからな。覚えておけ〜」
【リザローク】 ああ、消えてもた。
【アイザック】 逃げられてしまったか。
【GM】 そして、夜が明けた。キミたちの活躍の噂は、すでに村中余すことなく広がっている。その情報源となったのは、もちろん村長。「ワシの果たせなかった夢を果してくれるのは、あやつらぢゃ!」と、大はしゃぎであちこちに言いふらしてたからね。
【アイザック】 そんな、大した活躍じゃないっスよ。はっはっは。
【GM】 そしたらまあ、今まで冷たい目で見てた村人たちも、ちょっとは見る目を変えてくれた。グッツィーは「俺も夢をあきらめなければよかったかな」とか言ってるし、リムも「やるじゃない」と、ほんのちょっと見直してくれた。ファンリーも「父ちゃん、かっこいい」だって。
【リザローク】 そいつがいちばん嬉しいぜ(笑)。
【アイザック】 じゃあ、いい雰囲気になったところで、相談を持ちかける。「じつは村長、僕はオレンブルクに出たいんです」
【GM】 「うむ。きっと、そう言うじゃろうと思っとった。じゃがしかし、その前にひと仕事してくれんかね?」
【リザローク】 はあ、なんでしょう?
【GM】 「そろそろ、今年の税金を納めねばならん時期になった。2年前までは、領主さまの遣いが取りに来てくれてたんじゃが、去年、領主さまが代替わりしてからは、ワシらがキャフタまで届けねばならんようになった。何かと物騒なんでな、おまえたちに納税を任せようと思う」
【アイザック】 「しかし、僕はオレンブルクに……」
【GM】 オレンブルクに行くには、南の危険な『荒らぶる砂漠』を越えるか、キャフタ〜王都レギトからロットバイル王国経由で連なる街道を通るか、このふたつしかない。街道を通って行くのなら、キャフタを通ることになるよ。
【アイザック】 なるほど。
【リザローク】 OKーッ! 大義名分ができた、リムを説得しやすい。
【GM】 リムも「まあ、そういうことじゃしかたないよね」と、不承不承納得してくれる。
【リザローク】 きっと、ビッグになって帰ってくるぜ!! そのときは、家族で豪邸に住もう!(笑)
【GM】 そして村長は、仕事の報酬を前金で支払ってくれる。村長さんが身を削って貯めた私財から、餞別の意味も込めて、ひとり300フィスずつ頂いたよ。
【リザローク】 おお、リッチや。
【GM】 わかってる? カルファン王国の一般的な農家の年収は4000フィス。1年の生活費の目安は、だいたい3600フィス。税金100フィスを差し引くと、1年で蓄えられるのは300フィスしかない。しかも、去年から税金が3倍になって、100フィスしか蓄えられなくなってるんやから。そこからもらった300フィス……ふたりで600フィスなんやで。
【リザローク】 ありがとう、村長! 大事に使わせてもらうよ。……200フィスは、リムに渡しておくけど。
【アイザック】 よし、出発や!
【GM】 キミたちは、翌朝出発することになる。村の出口まで行くと、村人たちが総出で見送りに来てくれている。アイザックの姉妹やリムは、夜なべして繕ってくれたマントを、ふたりに渡す。
【リザローク】 大事にするよ、リム!
【GM】 ところでイケポンやキューズローが、「グッツィーが来てないぞ」「どうしたんだ、見送りに来ないなんて」とか言ってるよ。
【アイザック】 しばらく進むと、河川敷で旗を振ってくれてるのが見えるんやろ(笑)。
【GM】 そう。『夢をつかめ!』とか書いた大旗を、振り回してくれてる(笑)。
【リザローク】 泣きながら手を振ろう。
【GM】 で、最後まで見送りに来なかった頑固なオヤジは、誰もいない畑で野良仕事してて、その手を止めて「がんばれよ」とポツリとつぶやくんやな。みんなは、キミたちの姿が見えなくなるまで、手を振りつづけてくれる。「がんばれよ〜!!」と。
かつて、こんな冒険者いたか? 総出で見送りやで、キミら。
【リザローク】 すごいな〜。「うお〜ッ! ひと旗あげてやるぜッッ!!」