≪REV / EXIT / FWD≫

§銀月の歌:第28話§

故郷に帰る

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン
▽ 女王との戦闘の事 ▽ 女王への雪辱の事 ▽ 転移の魔法陣の事

女王との戦闘の事

【GM】 では、第2戦闘ターンの最初、女王アリの特殊攻撃があります。ねばねばした液体を吐きかけてくるんやね。
【キャロット】 きしょー。
【GM】 (ころっ)目標は、耳が目障りなウサギ男。器用度による3レベルのセービング・ロールで、回避を試みることができます。
【キャロット】 (ころっ)あ、ムリ。耳だけ守ってん。
【GM】 ならば、耳以外のところに粘液をかぶってしまった。体中がねばついて、動きにくくなったよ。ウサギの器用度は、半分に下がってしまった。端数は切り上げね。
 もちろん、個人修正にも影響があるので、数値の変化に注意しといてください。
【キャロット】 弱くなっちゃった。よかったね、ウサギで(笑)。
【GM】 そちらに特殊攻撃はないのなら、続いて通常戦闘。ヒットを出し合いましょう。
【プレセア】 (ころっ)お、ゾロ目がある。じゃあ、バーサークする。ヒットは51か。
【ファベル】 すげー、怖いよー。(ころっ)ファベルは30。
【キャロット】 (ころっ)ウサギは12ね。
【GM】 (ころっ)む〜、さすがにこっちがくらったか。
【プレセア】 これでこっちがダメージ受けてたら、逃げるで(笑)。
【GM】 それでは、第3戦闘ターン。
【プレセア】 怖いのは、女王様の粘液やな。
【キャロット】 お腹、切り裂いたったらええねん。どーせ、あんまり動けへんはず。
【GM】 たしかに、女王アリは全然移動してないけど。
 移動はしなくとも行動はする。また、粘液を吐きかけるよ。(ころっ)目標は、プレセア・アクアマリン。
【プレセア】 なんと。(ころっ)あー、ダメや。回避できず。
【GM】 では、プレセアも器用度が半分になった。
【プレセア】 きついな。

 主戦力のプレセアの個人修正を下げられたのは、たしかに痛かった。冒険者たちは、徐々に押され始める。
 第5戦闘ターンの通常攻撃では――。

【GM】 そちらに41点のダメージがいったので、3人で割って。ふたりが14点受けて、ひとりが13点受けることになるね。
【ファベル】 じゃあ、14点もらう。鎧で消えた。
【プレセア】 同じく14点。6点通った。痛い、痛い。
【キャロット】 鎧で止めて、4点通った。耐久度6点残ってる。

 第6戦闘ターンで再びキャロットが、第7戦闘ターンでファベルが、女王アリの粘液に捕まり、器用度を半減させられた。器用度を4分の1にされたキャロットの個人修正は、マイナスになってしまった。
 さらに、パーティの主砲であるプレセアは、バーサークしているため、戦闘ターンごとに体力度が2点減る。そのつど、個人修正が下がっていくのだ。
 こうなると、冒険者たちが戦闘アリを上回るヒットを出すことは望めない。
 敵と味方のヒットの差がダメージとなるので、少ないヒットしか出せなければ、大きなダメージを被ってしまう。

【GM】 では、第8戦闘ターンいきます。
【プレセア】 ああ、アカン。体力度が5点以下になった。バーサークが解けた。
【ファベル】 もう切れたん?
【プレセア】 軽いシミター使うてたんやけど、途中から重くなってしまったから、一気に体力度が減ってしもてん。
【GM】 個人修正もボロボロやし、主砲の戦闘力はなきに等しいね。
【キャロット】 ウサギは最初から戦闘力ないし(笑)。
【ファベル】 どうすんの、これ。ムリやん。勝ち目ないやん。
【プレセア】 ケツまくって、逃げるしかなさげ。
【キャロット】 じゃあ、逃げる。
【GM】 逃亡を試みるんやね。(ぽちっ)そしたら、通常攻撃の回避のセービング・ロールをしてください。目標レベルは2。
【ファベル】 使う能力値は器用度? そんなん、ムリやん。
【キャロット】 ウサギなんか、器用度4点とかになっとるし。
【GM】 誰かが戦列に残って戦闘アリを引き受けるのなら、あとのひとは判定なしで逃げられるけど。
【ファベル】 戦列に残った奴は、どうなんの?
【GM】 今までどおり、ヒットを出して敵と比べあう。
【ファベル】 最悪や(笑)。盾にはなれるけど、食われるのはイヤやで。
【キャロット】 盾になったあと、逃げられへんもんな。
【GM】 盾になるのは、べつに人間である必要はないよ。蛇とかでもええねんで?
【キャロット】 蛇?? ああ、そういえば、そんな呪文買ったかも。〈蛇作り〉。ベルトとか、杖とかを蛇にできるねんて。
【プレセア】 じゃあ、ベルトをはずして、ウサギに渡そう。
【ファベル】 ロープでも作れるの?
【GM】 ベルトがいいから、OKでしょう。
【ファベル】 じゃあ、この10メートルのロープも渡す。
【キャロット】 ベルト3つとロープで、蛇が4匹作れる。1匹につき、体力度を2点消費して作った。
【GM】 なら、2戦闘ターン活動する蛇が生まれるね。ベルトやロープ、杖などが、うにゅ〜っと小さな蛇に変化した。

 T&Tの魔法には、『必要知性度』と『必要器用度』というものが設定されています。
 今回、キャロットが使った〈蛇作り〉の必要器用度は9。彼の器用度は、女王アリの粘液のせいで4点にまで下げられているので、この魔法は使えないはずでしたが、GMがミスをしました。

【キャロット】 蛇たちに、「アリンコと戦え」って言う。
【GM】 4匹の毒蛇たちは、細い舌をチロチロ出しながら、しゅるしゅると戦闘アリたちのところへ向かった。
 あっちで、蛇とアリとの戦闘が始まったよ。
【ファベル】 その隙に逃げる。
【GM】 どこまで逃げるのかな?
【プレセア】 とりあえず、女王アリの間から出て、適当な場所まで。
【GM】 では、キミたちは戦闘からの逃亡に成功したよ。
【ファベル】 恐ろしかった。
【キャロット】 減ったものを回復させたいねんけど、どうすんの、これ。
【ファベル】 あんまり他の部屋に行きたくないぞ。
 GM、天井が崩れた通路のところって、どのぐらい土砂が溜まってる? 巣穴に入る前に、帰り道を塞がれたところ。
【GM】 さあ? 砂時計の砂みたいに、山型に積もってるのかもね。
【キャロット】 じゃあ、上のほうは掘りやすいんとちゃうん。反対側まで、そんなに距離ないから。
【プレセア】 土砂を掻き分けて、脱出しようかい。

 冒険者たちは、なんとかチロカニントの難民キャンプまで戻った。

【プレセア】 回復しようよ。
【GM】 体力度は、ひと晩休めば回復する。耐久度は、薬か魔法が必要。
【プレセア】 ヒーリング・ポーションがあるから、それを飲んどく。
【ファベル】 ねばねばを取りたいんやけど。
【プレセア】 これがいちばんキツイねん。
【GM】 水か何かで洗えば、取れると思うよ。この遺跡の外に、小川がある。
【ファベル】 じゃあ、そこへ行って洗ってきた。
【キャロット】 難民キャンプに、杖とかベルトとかそういう系の物があったら、全部徴収する。蛇の素。
【GM】 (ころっ)んー、〈蛇作り〉に使えそうなのは、杖8本だけやね。
【キャロット】 それでいいわ。蛇が8匹呼べる。
【プレセア】 あとはゆっくり休んで、体力度を回復させよう。
【GM】 それじゃ、翌日になりました。キミたちの体力度は、全快したよ。
【プレセア】 チロカニントの勇者隊はどーなったんやろ?
【GM】 昨日から帰ってきてないらしい。
【ファベル】 えーっ!?
【GM】 仲間のチロカニントたちは、ぶるぶるガクガクしてる。
【キャロット】 「ん〜、まあ、どっかにいるっしょ」
【プレセア】 「大丈夫、大丈夫、がんばってる証拠や」
【ファベル】 弱いほうは、逃げ帰ってきたしな(笑)。
【プレセア】 んじゃ、補給も終わったし、再突入しよか。

 冒険者たちは、再び女王アリの間に踏み入った!

【GM】 2匹の戦闘アリは、触角を片方失ってたり、頑強な殻がちょっとへこんでたり、それなりに傷を負ってるみたい。その周りには、ベルトやロープが散乱してる。
【ファベル】 蛇たち、がんばったんや。
【キャロット】 GM、飛び道具でアリンコを攻撃できる?
【GM】 できるよ。ただし、次の戦闘ターンには、戦闘アリに接敵されてしまうけどね。
【プレセア】 1戦闘ターンあれば、じゅうぶん。ちょっとでも有利になりそうなことは、何でもやってみんと。
【キャロット】 その前に、蛇を3体作るわ。1戦闘ターンもつ奴で、戦闘アリを襲わす。

女王への雪辱の事

【GM】 杖から変化した蛇たちは、ウサギ男に命令されて、戦闘アリに向かってゆく。
 では、戦闘開始やね。
【プレセア】 戦闘アリAに、長弓で矢を撃ち込む。(ころっ)当たった。ダメージ40点。
【GM】 40点?! ……矢に額をスコーンと射抜かれた戦闘アリAは、一瞬のけぞって、仰向けに倒れて絶命した。
【ファベル】 すげー! かっこえー! このまま、いけるんちゃう?(笑)
【キャロット】 これってさ、蛇に戦闘アリに向かわせてるうちに、自分も一緒に行けるん?
【GM】 行けるよ。
【キャロット】 じゃあ、行く。
【ファベル】 私も。
【GM】 では、戦闘アリB1匹と、ファベル、ウサギ、毒蛇の5匹が通常戦闘やね。
【ファベル】 『5匹』ちゃうー!
【キャロット】 『1羽』ですー!
【ファベル】 それも違う〜!(笑) (ころっ)ヒットは25。
【キャロット】 (ころっ)15。蛇は、11、12、8。
【GM】 それ、1匹にくるんやで。どーなんの? (ぽちっ)うわっ、来た! あ〜、潰されてしまった。
【ファベル】 お〜。蛇、がんばった。
【プレセア】 3本の矢は強し。
【GM】 では、第2戦闘ターン。3匹の蛇は、元の杖に戻ってしまった。
【ファベル】 残すは女王様のみ。
【プレセア】 弓矢で女王アリを撃つよ。
【GM】 おっ。じゃあ、女王アリは粘液でプレセアに応戦するよ。
【ファベル】 早撃ちや。
【プレセア】 (ころっ)当たったので、ダメージ34点。
【GM】 痛い、痛い。それと同時に、粘液がプレセアを襲う。回避のセービング・ロールをしてください。
【ファベル】 ハイパー・ポイントを使ったほうが、ええんちゃうん。
【プレセア】 これがボス戦みたいやし、使おか。それでも微妙なとこやで。(ころっ)おおー、3回連続でゾロ目が出た。華麗に回避した。
【GM】 髪の毛をたなびかせながら、キラキラと回避したね〜。対する女王は、ちとピンチ。
【キャロット】 蛇は、もういらんやろ。
【ファベル】 このターンは何もしない。うちの姐御の飛び道具がいちばん強力やし。
【GM】 それでは、第3戦闘ターン。女王は再びプレセアに粘液を吐きかける。
【プレセア】 弓矢を撃つさ。(ころっ)当たった、43点ダメージ。
【GM】 ぐわっ、死んだ。でも、粘液は同時行動やから、回避のセービング・ロールはやっといて。
【プレセア】 (ころっ)うお、自動失敗。器用度を半分にさせられた。
【ファベル】 相討ちや。
【GM】 ズズーンと倒れたのは、女王だけやけどね。
【キャロット】 お腹の卵も、全部潰しとく。ぷちぷちっと。
【GM】 ヤなウサギ。
【プレセア】 とりあえず、このねばねばを落としたい。チロカニントの集落に戻ろうよ。
【ファベル】 戻るんスか?
【プレセア】 個人修正とかが下がってるから。この戦力のまま、行きたいか?
【キャロット】 イヤだ(笑)。
【プレセア】 じゃあ、戻ろう。遺跡の外の川で、ねばねばを洗い落とす。
【キャロット】 あ、ベルトとか、拾って行くから。

 冒険者たちはいったん外に出て、体を洗ったり、休息を取ったりして過ごす。

【プレセア】 いちおう、長老に「女王アリを倒したよ」と、教えといてあげよう。
【GM】 「おお、そうですか。あの8人の勇者の死も、ムダではなかったのでしょう」
【プレセア】 死んどんかな?
【GM】 2日も帰ってこないから、長老たちはそう思ってるみたい(笑)。
【キャロット】 アリの巣のどこかで、迷っとんちゃう。
【プレセア】 アリに追われて、逃げ回ってるとか。
【キャロット】 「まあ、おったら言うとくわ。『戻れば?』って」
【GM】 連れ出しといて、『戻れば』って(笑)。
【キャロット】 それにしても、蛇、強かったな。多用していこう。
【GM】 術者の魅力度が、蛇の強さになるからね。なんか、キミは異様に魅力度があるし。
【キャロット】 ウサギやからな。メルヘンやし。
【GM】 ――じゃなくて、エルフやからね。
【プレセア】 今まで活かしきれなかった魅力度が、ここで一気に開花したな。
【キャロット】 蛇で(笑)。蛇使いや。壺から、べ〜って出すねん。
【プレセア】 「レッド・スネーク、カモ〜ン」って、それで食うていけるで。芸にも秀でるし、戦闘にも役立つし、いいことずくめな気がする。
【キャロット】 ホンマや。呪術師より、役に立ちそうやん。転職しよっかな、蛇使いに。

 翌日、冒険者たちは、アリの巣へ三たび潜入した。

【プレセア】 アリ退治はとりあえず終わったから、本来の目的にもどらなアカン。旅の扉のところへ行く道を探す。
【ファベル】 アリさんのお宅を探索する。
【プレセア】 まずは、女王アリの部屋には、何も残ってないの?
【GM】 そこには死骸が転がってるだけやね。向こうに、奥へつづく道があるけど。
【プレセア】 そこへ行く。とりあえず、順番に調べ尽くしてしまおう。
【GM】 奥には、女王アリと戦闘アリの、餌の保管場所がある。
【ファベル】 おお。何を食しておられたんやろ。
【GM】 女王様と戦闘アリは、金属製の物を摂取なさってたので、鉄クズ的な物が山積みになっております。

 鉄クズの山をよくよく調べてみると、プラス1のグレート・アックスと、肩やら胸部やらに無数の鋭い棘が植えつけられているプレート・アーマー、通称『スパイク・アーマー』が埋もれていた。

【ファベル】 すごいの食ってるんやな。
【GM】 たぶん、働きアリが、冒険者の死体をどこかから拾って来たんでしょう。
【キャロット】 げ〜。
【GM】 で、肉と骨は下々のアリたちが食べて、金属は女王アリの餌にするために、ここに運ばれたんやろね。
【ファベル】 偉いやん。無駄がない。
【プレセア】 プラス1のグレート・アックスって、どんな感じ?
【GM】 必要体力度20、必要器用度10で、攻撃力は5Dプラス4です。
【ファベル】 重い。使えん。
【プレセア】 いちばん体力があるプレセアでも、体力度19やから。
【ファベル】 あとで売っちゃお。いくらぐらいになるやろ?
【GM】 金貨155枚で売れると思う。
【プレセア】 安いな。
【GM】 T&Tでは、プラス1ぐらいの魔法の武器なら、ちょっとした町で普通に買えるらしいから。
【プレセア】 そうなんや。単なる高品質な武器と、扱いは同じぐらいなんやな。
 スパイク・アーマーってのは、どんな鎧なん? ただ、棘があるだけちゃうやんな。
【GM】 もちろん。体当たりをすることによって、その棘でダメージを与えられる鎧です。体当たり攻撃は通常攻撃と同じ扱いで、そのときの攻撃力は7D。
【プレセア】 すげー。
【ファベル】 怖いー。全身ドリアンやな。
【GM】 ただし、体当たりをするときには、他の武器を併用することはできないよ。素手の攻撃力と、攻撃にも使える盾の攻撃力は加えられるけど。
 そのスパイク・アーマーの必要体力度は14ね。防御点は15。
【プレセア】 必要体力度14なら着れる。
【ファベル】 どうした、着たいのか?(笑)
【プレセア】 鎧がやわいから。他に着たいひとはおる?
【ファベル】 私はべつに……。
【キャロット】 ウサギはそもそも着れない。
【プレセア】 じゃあ、プレセアが着る。スパイク・アーマーを装着した。
【キャロット】 おお、いった!
【ファベル】 どんどん恐ろしいひとになっていく。
【キャロット】 女王や。
【ファベル】 「ここ、使う?」とか、椅子を譲らな。
【キャロット】 鞭とか買ってあげたいな。

 冒険者たちは、さらにアリの巣を探索する。
 働きアリのための餌庫では、腐敗した果実や肉が、すごい匂いを放っていた。3人はすぐさま餌庫から出て、別の場所へ向かう。
 アリの巣を動き回るので、巨大アリやアリの幼虫たちとの遭遇が、頻繁にある――。

【ファベル】 この鉄球娘を送り込みたい。流星のように行こうよ。キミの強さが見てみたい(笑)。
【プレセア】 ひとりでは行かへんで。みんなで行くんやで。
【GM】 プレセアは、アリンコに向かって体当たりやね。
【プレセア】 冷静に考えたら、イヤやな(笑)。せなアカンねやろけど。

 ――といいつつ、立ち塞がる敵をあっさり蹴散らす。

【ファベル】 ありがとう、鉄球娘。

転移の魔法陣の事


 どんどんアリの巣を進む冒険者たちは、やがて――。

【キャロット】 ここには何があるん? また、餌庫?
【プレセア】 隣の部屋みたいに、アリのローヤルゼリーが溜められてるとか。
【GM】 うんにゃ、とくにそういうのはない。目につくのは、身を寄せ合って座り込んでいる、8人のチロカニントたちだけ。
【ファベル】 ほう(笑)。
【プレセア】 「無事か」って、聞いてみる。
【GM】 「大丈夫です。……ちょっと、足をくじいたけど」
【キャロット】 「あー、隣の部屋の水を飲んだら治るよー」
【GM】 チロカニントは、隣の部屋に何があるか知ってるよ。あのローヤルゼリーの溜まり場にアリンコがいっぱいいたんで、ここから出ようにも出られなかったんやね。
【ファベル】 全部、鉄球娘が粉砕したけど。
【プレセア】 どういうルートでここまで来たん?
【GM】 この空間の天井に穴が開いてる。そこから落ちてきたらしい。例の壁穴からアリの巣探索を始めて、途中で背後から巨大アリに襲われて、必死で逃げまわってるうちに。
 で、先頭を走ってたチロカニントが、足をくじいてしまったんやね。
【ファベル】 けっこう元気やん。
【プレセア】 とりあえず、女王アリを退治したことを教えてあげる。
【キャロット】 あと、難民キャンプに戻る道を教えといたろ。「ここを通ったら、敵、おらへんで」って。
【GM】 「おお、それはありがとうございます」と、チロカニントは大喜び。そそくさと、この場を立ち去っていった。
【キャロット】 長老たち、びっくりするで。勇者隊は死んだと思ってるから、「幽霊や〜!」って。

 チロカニントの勇者隊と別れた冒険者たちは、アリの巣のさらに奥へ向かった。
 やがて、大きな下穴が開いてる場所を見つけた。穴の下には、広い空間があるようだ。
 キャロットが空間に〈鬼火〉を飛ばして、中を照らし出してみる。そこには、切り出した石を積み上げて築いた粗末な小屋が、いくつも建っていた。

【GM】 オムレツ仙人たちがどういう意図でこの空間を作ったのかは知らないけど、もう長いこと、ここはチロカニントの町になってたみたいやね。もちろん、今は無人です。
 底までは10メートルぐらいの高さかな。
【キャロット】 アリンコはいる?
【GM】 空間の壁にいくつか穴が開いてるけど、巨大アリの姿は見当たらない。さんざん荒らされた感じやけどね。
【キャロット】 じゃあ、あいつらを呼びに行ってやる。
【GM】 では、キミたちはいちど難民キャンプに帰り、チロカニントたちをゾロゾロと引き連れて、ここに戻って来たよ。
【キャロット】 「ロープで下りよう。おまえら持って来いよ、ロープ」
【GM】 じゃあ、ロープが運ばれてきた。
 穴から離れた場所にしっかりと(くさび)を打ち込み、ロープをくくりつけた。
【キャロット】 「まず、下りてみぃや。自分らの村やろ?」
【GM】 じゃあ、ひとりの勇者が、空間に垂らされたロープを伝って、底に下り立ったよ。
【プレセア】 それに続いていってあげよう。
【GM】 では、キミたちもゾロゾロと空間に下り立った。チロカニントの女性や子供は、ロープでくくった木の板に座り、力自慢の男たちが、そろりそろりとそれを下ろした。
【ファベル】 馬とか牛とかも、力を合わせて下ろさな。
【プレセア】 いちおう、周囲にアリがいないかどうか、確認してみるよ。
【GM】 大丈夫、もういない感じ。
【プレセア】 「よかったな、長老」
【GM】 長老は「ありがとうございました」と、謝辞を述べる。そして、チロカニントの若者衆に言いつけて、ちょっと壊れかけの家の中から、礼の品を持って来させた。
【キャロット】 何?
【GM】 チロカニントたちは、金貨や宝石とか、一般にいう“財宝”を溜め込んでるわけじゃないからね。彼らが作った品物が、お礼に贈られます。
 チロカニントは、どういうわけか芸術センスに秀でてて、手先が器用。そんな彼らが作ったものだから、芸術的価値がある品物なんやね。
【ファベル】 どんな作品?
【GM】 まず、チロカニントをかたどった石の彫像がふたつ。高さは70センチぐらい。
【キャロット】 あー、いらんいらんいらん。
【GM】 1体、金貨500枚の価値があるんやけど。すごく芸術的やから。
【ファベル】 わから〜ん。
【プレセア】 まあ、一般人にはわからんやろ。そんなに金を出すのは、好事家ぐらいやから。
【GM】 それから、1メートル四方のタペストリーが3枚。それぞれに異なる図画が織り込まれてます。
【キャロット】 どんなん?
【GM】 1枚は、『竜巻のようなものを纏うドラゴンを、じっと見つめる石の猿人の横顔』。
 1枚は、『月夜に浮かぶ、先端が円錐になっている塔のようなもの。その底辺からは火が噴出している』。
 最後の1枚は、『金の横笛を吹く若者と、銀の竪琴を爪弾く若い娘』やね。
 すべて、金貨500枚で売れそうです。
【プレセア】 「すごい。これは、何を参考にして描いたわけ?」と、聞いてみる。
【GM】 「『月へ行く船』という、古き言い伝えです」と、長老。
【プレセア】 月へ行く船か。オムレツっぽくなくてよかった(笑)。
【キャロット】 ホンマや、ロケットっぽい形やん……あ、これ、ニンジンかも知れへん。火の部分は、じつは葉っぱで。
【プレセア】 思うとけ、思うとけ。
【キャロット】 「ドラゴンと猿は何なん?」
【GM】 「ドラゴンは、月へ行く船を守護するもの。石の猿人は、砂漠でその居場所を見つめるものです」
【プレセア】 ほう。
【GM】 「石の猿人の右目に赤き光、左目に青き光が宿るとき、嵐を切り裂く剣が与えられる。竜巻の中のドラゴンの右目に橙、左目に緑、額に黄色の光を与える者は、月の船へ導かれる……と、伝えられております」
【キャロット】 あとで、ティガーたちに見せらな。
【ファベル】 重さはどんなもん?
【GM】 タペストリーは、1枚につき重量5。石像は、1体につき重量800。
【プレセア】 800は重いな。
【ファベル】 馬に載せれば、持って行けるかな。
【GM】 馬の積載量は、重量4000までやね。
【キャロット】 じゃあ、余裕。ウサギの馬は、イボがぼちっとある奴やから、何も積んでないし。イボ馬にがんばってもらうわ。
【ファベル】 イボ?! ああ、そーいえばそんな馬やったな。横の女の鎧にはトゲトゲが生えてるし、すごい絵や。
【プレセア】 行く手の人込みが左右に避けてくれるで。……きっと、指さされるやろけど。
【GM】 「ママぁ、あれー」
【ファベル】 「見ちゃいけません!」
【GM】 で、指さした子供に、ウサギが歯を剥き出して威嚇すんねん。「キシーッ」って。
【キャロット】 ニンジン投げるねん。
【GM】 どこがメルヘンなウサギなん?(笑)
【ファベル】 恐怖や。グリム童話の怖いやつや。『本当は怖いウサギ王国』。
【キャロット】 頭の中ではメルヘンやねん。
【GM】 頭の中がメルヘンなんやろ。
 このパーティでは、ファベルがいちばんまともやねんな。
【プレセア】 かわいそうに。
【ファベル】 何がよ?(笑)
【プレセア】 じゃあ、そろそろボアへ向かおう。チロカニントに、転移の魔法陣へ案内を頼みたいんやけど。
【GM】 では、チロカニント勇者隊の道案内を受けて、キミたちは転移の魔法陣の間にやって来ました。
 部屋の中央に、階段つきの大きな祭壇がある。その上で、厳かで神秘的な青白い光が、ゆっくりと渦を巻いてます。
【ファベル】 旅の扉や。
【プレセア】 じゃあ、馬や牛も含めて全員で魔法陣に乗って、「ルーラ」と言ってみる。
【キャロット】 勇者隊は魔法陣に乗ったらアカンで。
【GM】 プレセアが魔法の合言葉を言うと、渦の回転が速くなり、光が強くなった。目の前が真っ白になり、不快な浮遊感に包まれた。頭か足か、どっちが上なのかわからない。ぐるぐる回ってるような感じもする。全身がぞわぞわと粟立って、気持ち悪い。
 やがて、それは収まった。
 キミたちは、さっきと同じような造りの部屋にいます。ただし、チロカニントの姿がない。
【プレセア】 おお、転移に成功したっぽい。出口へ向かおう。
【GM】 キミたちは、その部屋を出て、螺旋状の昇り階段を延々とあがっていった。
 鉄の扉に行き当たったよ。それは両開きの扉で、こちら側から鍵がかけられてます。
【キャロット】 じゃあ、簡単に開けられるんちゃうん。
【GM】 開けられるよ。太陽のまぶしい光が、サっと差し込んだ。
【ファベル】 外に出よう。
【GM】 キミたちは、大きな塔のそばにある、小さな石造りの建物の中から出てきた。
【プレセア】 塔?
【GM】 すごく背が高い、巨大な円柱の塔です。地面に近いところは、木や蔦植物や苔などで覆われてる。そうとう昔に作られたんやろね。
 上のほうは表面が見えるけど、その材質はわからない。石のように見えるし、金属のようにも見える。とりあえず、白い何かで、妙に滑らかな感じがします。
【ファベル】 なんやろ、これ?

÷÷ つづく ÷÷
©2007 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2007 Jun Hayashida
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