≪REV / EXIT / FWD≫

§銀月の歌:第1話§

平和な街の冒険者

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン
▽ ジーネ復活? の事 ▽ 英雄たちの休息の事 ▽ ファンリー、大人になる事

ジーネ復活? の事

【GM】 それじゃ、新しいキャンペーンを始めましょう。
 物語は、レムリア暦529年末、オムスク地方オレンブルク王国の都オレンブルクを舞台にして始まります。
 新しいといっても、キャラクターは『烙印の天使』の残留ばかりだけど。今は盲腸になって入院している、シルヴィア・アクアマリンを除いて。
【ティガー】 残留できるかどうか、まだわからんひともいるけどね。
【メイユール】 今、ミフォア大神殿で〈リザレクション〉をかけてもらってるひと。
【ティガー】 ジーネが生き返るところを見に行ってみる。
【故ジーネ】 私は生き返っていいのかな?
【GM】 〈リザレクション〉が成功すればね。
 儀式を施しているのはNPCだけど、生き返りたい本人に2Dを振っていただきましょう。
【ティガー】 失敗してもプレイヤーのせい(笑)。
【GM】 蘇生の儀式を行っているのは、偉大なるミフォア大神殿の長アジャン・ラーシャ様なんで、1ゾロ以外なら成功やね。
【故ジーネ】 (ころっ)──1ゾロ。
【ティガー】【メイユール】 うそぉ?!
【GM】 ミフォア神じゃなくて、ダイスの神様が降臨してきたな(笑)。
 あまりにおもしろいから、生き返ったことにしましょう(もちろん、タダではないけど)。
【メイユール】 何が起きたんだ(笑)。
【GM】 キミの肩に止まってる霊食(たまぐ)いネズミも、びっくりしてる。
「あの魂は、なに?」って。
【ティガー】 料金はどうなるの?
【GM】 とりあえず、蘇生は果たしたので、成功報酬はいだたきます。
 でも、持ち合わせがないようだから、来年(530年)の年末までに払えばいいよ。暗黒神クートラの降臨を阻止した英雄の知り合いということで、信用貸しにしてくれたわけやね。
 その額は、魔法の料金や儀式のための拘束料など、その他諸々の必要経費を含めても、わずか2万6300フィス。
【ジーネ】 これから働いて返さなくちゃいけないのね。
 ちゅーか、先に値段を言っといて欲しかった。
【メイユール】 いや、キミは死んでたから(笑)。
【ティガー】 それに、契約書にサインをしたのはヒデヨシやし。「こけ♪」って。
【ジーネ】 私はニワトリに生き返らされたんかぃ。
【GM】 これからは、「ヒデヨシ様」と呼ばんといかんね。あるいは“太閤殿下”とか。
【ティガー】 「サル」って呼んだら、怒られるよ。
【GM】 「誰がサルじゃ! わしはニワトリじゃ」って。
【ジーネ】 しょせん、畜生やないかぃ。
【メイユール】 で、魔術師に頼んでジーネの死体を持って帰ってきたときの、〈テレポート〉の料金はどうなってるの?
【GM】 拘束料も含めたあの3万2600フィスは、キミたちに支払ってもらったでしょ。
 所持金の関係で、ティガーが1万5000フィス、メイユールが1万6200フィス、ファンリーが1400フィス出した。
【ティガー】 じゃあ、ジーネに1万5000フィスの貸しということで。
【メイユール】 わたしは1万6200フィスの貸し。後で返してよ。
【ジーネ】 はいはい。
【GM】 ファンリーの1400フィスは、返さなくていいや。彼女の好意ということで。
【ジーネ】 ということは、全部で5万7500フィスの借金か……。
【GM】 何はともあれ、蘇生したジーネは1週間の安静が必要。ファンリーの口利きで、神殿内に個室を用意してもらえた。
【メイユール】 優しい娘や。
【GM】 『烙印の天使』では、さんざん助けられたからね。
 さて、ジーネは与えられた個室に運ばれて行くわけだけど、最後に儀式の間を後にしようとしたメイユールを、神殿長のラーシャ様が呼び止めます。
【メイユール】 何でしょう?
【GM】 「じつは──」

 GMは、メイユールのプレイヤーにメモを手渡します。そこには、こう書かれてありました。
『ジーネの魂は、自然のものではない感じがする』

【メイユール】 えっ、どういうこと??
【GM】 それを他のひとに伝えるかどうかは、キミの自由です。
 ラーシャ様は公務に戻り、キミたちは、ジーネのために用意された個室へやって来た。
【ティガー】 その部屋に、ヒデヨシを放しとく。ジーネが寂しくないように。リミット・ブレイクしたら虹色に輝くから、きれいやで。
【GM】 じゃあ、リミット・ブレイクしやすいように、メイユールの霊食(たまぐ)いネズミと戦っとこう。
【ジーネ】 静かにしてくれ〜。
【ティガー】 お腹減ったときも、虹色に光るし。
【メイユール】 わかりやすいな。
 ネネはファンリーにあげるよ。
【GM】 んじゃ、もらった。とりあえず、ネネの首にリボンが装着された。
【ティガー】 かわいがられてるんや(笑)。
【メイユール】 そうそう。ティガーに、さっきの神殿長の言葉を伝える。ジーネに聞こえないように、こっそりと。
【ティガー】 ──ほぉ、なんでそんなことになったんやろ。ニワトリがサインしたせいかな?
【メイユール】 さあ? エルフの洞窟で何かあったとか。
【ティガー】 ジーネに、「このキャンペーンは、キミが主役だ」と、言っとく(笑)。
【ジーネ】 は?? GM、私の記憶とかはちゃんとあるの?
【GM】 生前と同じものがあるよ。
 キミは、狩人の夫婦の娘として生まれ、赤ん坊のときにエルゴン村の神父さんに預けられた、と言ってたね。
 物心ついてからのそういう記憶は、ちゃんと残ってます。
【メイユール】 生き返ったジーネは、見た目に普通ですか?
【GM】 普通よ。キミたちが見知ってるジーネのままです。
【メイユール】 挙動不審なところは? 前にはなかったようなクセがあるとか。
【GM】 それもないです。
【ティガー】 夜中に言動がおかしいとか、そういうことはない? 寝ながらぶつぶつ言ってるとか。
【GM】 それは以前からそう(笑)。
【ジーネ】 なんでやねん!
【ティガー】 じゃあ、いいや。
【メイユール】 いったい、何なんやろな?
【GM】 さて、蘇生も無事に終わり、ティガーとメイユールは、これからどうしますか?
【ティガー】 とりあえず、ジーネが動けるようになるまで、宿屋で待ってる。前髪王子がいる宿屋な。
【GM】 はいはい。“前髪王子”ことピエール・パチモーンは、黒ずくめに店主が殺された宿の隣、『青い波の美し亭』にいます。
【ティガー】 「よお」
【GM】 「やあ、これはレギト王子。お久しぶりです」と、パチモーンは長い前髪をはね上げる。
「見てください、この鎧。あなたに合わせるために、青いプレート・メイルを買ったんですよ」と、自慢げ。
【ティガー】 「ごめんな〜。鎧、黒くなってん」(笑)
【GM】 「げっ! じゃあ、黒く塗ってもらおうわないと……」と、パチモーンはしょんぼりして言う。
【メイユール】 なんでそんなにティガーになりたいん?
【GM】 「じつは、半年前に起きた殺人事件のせいで閉鎖されてた劇場が、来年の春に再開されるんだ。
 その再開最初の演目が、天才作家ベルナルド・ジュノの新作『虎王のくちづけ』なのさ」ばさーっ。
 もちろん、ティガーとファンリーのあれのことね。
【ティガー】 うわ、最悪や(笑)。
【メイユール】 それ、ナマで見たしなぁ(笑)。
【GM】 「で、出演者のオーディションが行われるんだけど、それが今回、一般応募もOKなのさ!」ばさーっ!
【メイユール】 前髪も、ティガー役でオーディションに出るつもり?
【GM】 「ボク以外に、誰にティガー役が勤まると思うんだい?」ばさーっ。
【ティガー】 まあ、がんばって。
【メイユール】 “ドラマ好き”としては、その劇が気になるな〜。オーディションはいつ行われるの?
【GM】 「1月20日だよ」
【メイユール】 今日は何日?
【GM】 レムリア暦529年の12月25日です。
【メイユール】 まだ、あと1ヶ月近くあるんか。
【ティガー】 鎧を黒くする時間があるね(笑)。
【メイユール】 特別ゲストとかで、オーディションに呼ばれたりしないかな〜。
【GM】 そちらにその気があるなら、特別審査員として招待さるかも知れないね。
 何せ、暗黒神クートラの降臨を阻止した“ドラマ好き”のメイユールと、“オムレツ王子”ティガーことレギト・グニク・イーニン・ハオトは、今をときめく有名人だから。
【ジーネ】 ティガーがレギト王子だと、オレンブルクにまで知れ渡ってるわけ?
【ティガー】 だって、国王から褒美をもらうときに、公表しちゃったもん。
【ジーネ】 はあ……。
【メイユール】 そうそう、国王から褒美にもらった軍馬の名前、『レッドゾーン』にしました。
 とりあえず、レッドゾーンで街中を走る。たぶん、オレンブルクを見物するのは初めてだから。
【GM】 メーターが振り切ってそうな名前やね。街中で飛ばすとスピード違反で捕まるから、気をつけて。ネズミ捕りとかにひっかかるよ。
【ティガー】 霊食(たまぐ)いネズミが?(笑)
【GM】 「キーっ! メイユールさん、助けてください!」
【メイユール】 「罰金、払えよ〜」(笑)
【ティガー】 俺はフリーパスで食事しに行く。
【ジーネ】 フリーパス?
【ティガー】 高級レストランの食べ放題のフリーパス。褒美でもらってん。
【GM】 ちなみにそのパスは、キミを含めてペアでご招待だからね。あんまりゾロゾロ連れて行っても、3人目からは料金をいただきます。
【ティガー】 な〜んや。7人のカルファン騎士とか、いっぱいおるのに。
【GM】 そのカルファン騎士たちは、それぞれ旅に出たよ。
 いつの日かカルファン王国を奪回するための資金稼ぎと、人材発掘のために、冒険者として各地をまわるらしい。
【ジーネ】 むさ苦しいのがいなくなって、すっきりしたな。
【GM】 そのむさ苦しい方々が、キミの魂が食われないように、昼夜を問わず見張りつづけてくれてたんやけど。
【ジーネ】 頼んだ覚えはない。
【メイユール】 オレンブルクってさ、何かおもしろそうなところはある?
【GM】 いろいろあるよ。
 港に行けば、最新鋭のドレッドノート級輸送戦艦が舳先を並べて停泊してるし、ふもとに貴族の館を従えた白亜の王城クインサンクフルは荘厳だし、小さな街が丸々入りそうなどでかい魔術師ギルドはあるし、貧民街に行けば娼館や賭場があるし。

英雄たちの休息の事

【メイユール】 あ、じゃあ、賭場に行ってみる。
【GM】 通りをレッドゾーンで闊歩してると、道行くひとびとが、「あッ、“ドラマ好き”のメイユールだ!」と振り向くよ。
【メイユール】 手を振っとこ。
【GM】 ひとびとは大喜びで、馬上のメイユールに手を振り返す。
 向こうには、キミの恋人ロートシルトが、ひょこひょこ歩いてる。
【メイユール】 じゃあ、近寄って「新しい彼なの〜」と、レッドゾーンを紹介する(笑)。
【GM】 「おい〜。そりゃないだろ、メリッサ」と、名前を間違ってみたり(笑)。
【メイユール】 なにぃ〜!?
【ジーネ】 張り飛ばさな、そんな奴。
【GM】 その頃、近づいてくるティガーの姿を見た高級レストランの店員たちは、「うわ〜ッ、レギト王子だぁ! 隠せッ、料理を隠せ!」と、大騒ぎしてる。
【ティガー】 どんな評価や(笑)。
【GM】 食材を食い荒らされるから(笑)。
【メイユール】 大慌てで『準備中』の看板を出されたりして。
【ティガー】 でも、野菜は手をつけないから、大丈夫やで。卵とか肉系しか食べないし。
【GM】 オレンブルク王国から牛が姿を消すのも時間の問題、と噂されてるね。
【ティガー】 真っ先に狂牛病とかにかかってそう。
【GM】 さて、その頃、メイユールは賭場に着きました。
【メイユール】 どんなゲームがあるの?
【GM】 そりゃあ、いろいろ。カードとか、ルーレットとか、ラットレースとか、パチンコとか。
【メイユール】 ラットレースにうちのネズミを出してもいい?
【GM】 いや、霊食(たまぐ)いネズミは、キミにしか見えない存在(笑)。
【メイユール】 じゃあ、パチンコする。
【GM】 なら、単純に2Dの出目が10以上なら、所持金が2倍、10未満なら半分になることにしよう。
【メイユール】 (ころっ)わっ、1ゾロや! えらいスってもた〜。
【GM】 最初は調子よかったんやけど、そのうちどんどん玉が減ってきて、取り戻そうとやっきになってるうちに所持金の半分を使ってしまったんやね。
【ティガー】 おもろいなぁ。行く行く行く〜。俺も賭場でパチンコする〜。
【GM】 ルールは同じ。
【ティガー】 (ころっ)あ、半分になっちゃった。でも、元の所持金が少ないからいいや。
【GM】 ちょろちょろと玉を買って、2、3回ピンピンと弾いて終わった。
【メイユール】 あーあ。
【GM】 向こうでささやき声が聞こえる。
「見たか、あれ。“ドラマ好き”のメイユールと、レギト王子だぜ。あのひとたちでも、かなわないものがあるんだなぁ」
【メイユール】 しかし、まったりしてるなぁ。
【GM】 冒険に出てない冒険者は、こんなもんでしょ。
【ティガー】 ジーネが復帰するまで、冒険には出られんしな。
【メイユール】 何かイベントとかはないの?
【GM】 もうじき正月だし、新年を祝う行事ならあるかもね。
 あと、1月7日にファンリーの『(びん)そぎの儀』があります。
【ティガー】 なに、それ?
【GM】 カルファン王国の古来より伝わる、女子の成人の儀式です。近しいひとたちが集まって、長く伸ばした娘の鬢をハサミで少しずつ切っていく。
【メイユール】 それは、わたしらも行っていいの?
【GM】 もちろん。ぜひ来てくださいと、招待されてるよ。
 多くのひとに切ってもらえば切ってもらうほど、多くの幸せに恵まれると伝えられてるらしいから。
【ティガー】 もちろん、行く。
【GM】 ちなみに、カルファン王国の男子の成人の儀式は、バンジー・ジャンプ。
 ティガー15歳の1月15日、育ての親のリザロークとその親友アイザックは、ティガーを担いで谷底に放り投げた。
【ティガー】 「なにすんねん〜!」って感じやな。
【GM】 「なんや、これ〜」と思いながら、ティガーはびょ〜んびょ〜んと揺れて、晴れて大人の仲間入りを果たしたわけやね。
【メイユール】 (おとこ)や(笑)。
【ティガー】 じゃあ、大晦日あたりまで進めてくれ。
【GM】 進んだ。12月30日です。
 広場では、男バード、女バードの2チームによる、歌合戦なんかもあります。
【ティガー】 俺も出るぅ。
【GM】 あ、バード技能取ってたのね。
 レギト王子の飛び入り参加などもあって、歌合戦は例年にないほどの盛り上がりを見せた。
 “モチ呑み名人”の異名を持つ、ミゲル・インデュランが大トリをとったところで、厳かな除夜の鐘が鳴り響き、新年を迎えました。
【メイユール】 1歳、年をとった。18歳になったよ。
【ティガー】 俺も18歳になった。
【ジーネ】 私は16歳に。明日になったら、動けるようになる。
【GM】 シルヴィア・アクアマリンも、入院先で21歳になった。
 ファンリーは15歳になり、能力値のペナルティが解けた。彼女は7日の鬢そぎの儀に備えて、神殿の奥で瞑想に入ります。
【ティガー】 そんなんあるんや。
【GM】 まあ、本当は教会にこもって、同時期に成人する他の娘たちときゃあきゃあ言いながら過ごすらしいけど。
 カルファン王国の伝統に疎いイリア司祭は、文献に書いてあったまじめな表現を、額面どおりに受け止めてしまったんやね。
【ジーネ】 じゃあ、ミフォア神殿に来ても、ファンリーに会えないね。
【ティガー】 しょうがないから、初詣だけして帰る。
【GM】 神殿前の広場では、御神酒やぜんざいが配られてるよ。
【ティガー】 あっ、食べる、食べる〜。
【GM】 向こうでは、モチ呑み大会が開かれてる。
【メイユール】 挑戦してみようかな〜。
【GM】 なら、冒険者レベルと器用度ボーナスで判定してみよう。失敗したら、ノドに詰まって窒息する。
【メイユール】 (ころっ)おお〜、成功。
【GM】 少しもたついたけど、メイユールは見事、モチを呑み込んだ。群衆から、やんやと拍手喝采が起こる。
 前年度のチャンピオン、“モチ呑み名人”ミゲル・インデュランがやって来て、「さすが、高名なメイユールさんですな。いい呑みっぷりでしたよ」と、握手してくる。
【メイユール】 「どーも、どーも」
 今年もいい年になるわ(笑)。
【ジーネ】 しかし……復帰してきたとき、このひとたちと一緒にいるの、イヤかも。
【GM】 王城クインサンクフルでは、祝賀の宴が開かれる。救世の英雄ティガーとメイユールにも、招待状が来てたよ。
【ティガー】 行ってみる〜。
【メイユール】 レッドゾーンで城に乗り込むで。
【GM】 はいはい。でも、いつものがさつな恰好では困るよ。ちゃんと身だしなみを整えて、正装でないとね。
【ティガー】 パーティ用の服なんか持ってない。
【GM】 そのぐらいなら貸してもらえる。ティガーはタキシードに、メイユールは鮮やかなワインレッドのドレスに着替えました。
【ティガー】 ヒデヨシもタキシードで。
【GM】 連れてくの!?
【ティガー】 もちろん。7色のニワトリやし。首に蝶ネクタイをつけてみた。
【メイユール】 ネネも連れて行っていい? ファンリーは瞑想してるし。
【GM】 どうぞ、ご勝手に(笑)。
 オレンブルク・フィルハーモニー管弦楽団の静かなBGMが流れる宴の間では、やんごとなき方々が会しての、立食パーティが開かれています。
 国王メッサー・フォック・ローレス・オレアーナ陛下をはじめ、魔術師ギルド長のプリン様、ミフォア大神殿長のラーシャ様などもいらっしゃる。
 ヒデヨシとネネは、給仕が運ぶローストチキンを見て、「こけッ?!」と驚く。
【ティガー】 「あれはアヒルやから、大丈夫」って、ウソをついとく。
【GM】 2匹が「こけ〜」と胸をなでおろしたところで、でっぷりと太った中年男性の貴族が、「このチキン、うまいわ〜。やっぱ、ニワトリに限りますなぁ」と、向こうでガハガハ笑った。
【メイユール】 ヒデヨシが怒るで。
【ティガー】 リミット・ブレイクして、額のツノが伸びて7色に光る(笑)。
【GM】 すると、若い貴婦人たちが、「きゃあ〜、きれい! この子、わたしに抱かせてくださいな」と、大喜びしてヒデヨシを奪い合う。ヒデヨシは、目を白黒させている。
【ジーネ】 ネネが嫉妬するんとちゃう?
【GM】 ネネは嫉妬のあまり卵を産み落とし、高名なコック長がさっそくそれをオムレツにした。
【ティガー】 食べる、食べる〜。
【GM】 やがてダンスが始まると、メイユールを数多の青年貴族たちが誘ってくるよ。
【メイユール】 よりどりみどりだわ!(笑)
【GM】 ティガーには、誘いを待つ淑女たちの熱い視線が注がれる。
【ティガー】 そんなんより、食べてるほうが楽しいねん(笑)。
【ジーネ】 色気より食い気か。ま、ファンリーもおることやしな。
【GM】 こうして、レムリア暦530年の1月1日は過ぎていきました。
 翌朝、ついにジーネは床上げとあいなりました。
【ジーネ】 とりあえず、生活費を稼がなくては。
 冒険者の店に行ってみる。
【GM】 7日間ジーネを世話してくれた司祭が、全快祝いの花束を部屋に持って来てくれたとき、すでにジーネは、『青い波の美し亭』に行った後なわけやね。
【ティガー】 付添いのヒデヨシだけが、「こけっ」っておるんやな。
【GM】 ヒデヨシは、ベッドのシーツを直したり、部屋を掃除したりしてる。
 これがホントの『立つ鳥あとを濁さず』。
【ジーネ】 どんなニワトリやねん!
【GM】 さて、ティガーとメイユールが『青い波の美し亭』の酒場で朝食を食べてると、扉を開けてジーネが店内に入ってきました。
【メイユール】 「あ、ジーネや」
【ティガー】 「元気になったんや」

ファンリー、大人になる事

【ジーネ】 横目でふたりをチラっと見て、「やあ」とだけ言って、店のオヤジさんのところに行く。
 で、「メイドとしての働き口でもいいし、冒険者としての働き口でもいいから、何か紹介して」って言う。
【メイユール】 「仕事探してる」
【ティガー】 「ホンマや。フ○ムAや」
【GM】 「メイドは管轄外だな」と、オヤジは笑う。
「冒険なら……まあ、安いものなら、ひとつ残ってるよ」
【ジーネ】 じゃあ、それでいいです。
【メイユール】 内容も聞かずに引き受けた(笑)。
【ティガー】 必死なんや。
【ジーネ】 必死というよりも、私には「ちゃんと金を返さねば」という責任感があるから。それに、自分の生活費もあるし。
【GM】 だから、必死なんでしょ?(笑)
 オヤジが持ちかけた仕事は、ブロブというモンスターの退治。オレンブルクから南西7日ほどのところにある、エルゴン村という小さな農村からの依頼だそうです。
 ちなみに、エルゴン村はジーネの故郷。
【ジーネ】 おやぁ?
【GM】 エルゴン村から南に6時間ほど行くと、無人の館があります。かつて、怪しげな魔術師が住み、邪悪な実験を行っていたという、いわくつきの館の跡です。
 ブロブは、そこから発生した模様。
【ジーネ】 「ああ、あそこは子供たちの遊び場だった」とか、遠い目をしながら思い出しとこか。
 子供たちが、「お化け屋敷に行くぞ〜」と夜中に家を抜け出して、行ってたわけやな。
【GM】 だから、片道6時間かかる距離なんやって。“お化け屋敷”に着いたら、朝になってるよ(笑)。
【ジーネ】 ところで、ブロブって何だっけ?
【GM】 「不定形生命体のことらしい」と、酒場のオヤジ。
「館の周りをうろついていたのは、12匹。仕事の報酬は1200フィスだが、どうするね?」
【ジーネ】 はて、ひとりで行っていいもんだろうか? 12匹ってとこが、ちょっと「う〜ん」って感じ。
【GM】 「不安なら、仲間を募ればいいだろう。口がきけんわけでもあるまい」と、ハムエッグが載った皿をカウンターに置きながら、オヤジは言った。
 給仕娘が、それを冒険者の座る卓に持って行く。
【メイユール】 じゃあ、ジーネの故郷が見たいから、ついて行ってあげる。
【ジーネ】 ありがとう。
 GM、ブロブの知識の判定をしてもいい?
【GM】 いいよ。ジーネはセージ技能がないんで、ダイスの出目だけでどうぞ。
【ジーネ】 (ころっ)失敗。
 ティガーに、「ブロブって奴らしいんだけど、何か知らない?」って聞くから、調べてみて。キミはセージ技能を持ってるんだし。
【ティガー】 (ころっ)知らない。
「ブロブロしてんのん? ぶよぶよ?」
【ジーネ】 そりゃ、まあ、不定形生命体って言ってるから……。
【ティガー】 じゃあ、引っ張って遊びたいな。にょ〜んって。
【メイユール】 伸ばしたやつを顔に張りつけて、「変な顔、変な顔〜」とか。
【ジーネ】 ……とりあえず、エルゴン村に行こか。すてすてと。
【メイユール】 7日かかるから、ファンリーの成人の儀式に間に合わなくなるよ。
【ジーネ】 でも、至急の依頼だよな、きっと。ブロブの被害は、どのくらい出てるの?
【GM】 被害は出てない。
 ただ、村から6時間の距離に怪物がいるわけやし、実害が出る前に駆除して欲しい、ということやね。相手は知性のかけらもない生物だから、話し合いでどうこうなるわけでもないし。
【ティガー】 別に緊急というわけじゃないんやな。
【GM】 急ぎの仕事は、すでに他の冒険者たちが行ってるから。今頃、「ゴブレンジャー!」「おのれ、ゴブリンめ!」とか言って、戦ってるかも知れない。
【ジーネ】 じゃあ、ファンリーの成人の儀式が終わって、まだこの仕事が残ってたら、引き受けさせてもらうってことで。
【ティガー】 7日まで、ボ〜っとして過ごす。
【GM】 では、5日が経過して、1月7日になりました。
 キミたちは、ミフォア大神殿の中の一室にやって来ました。
 キミたち3人の他にも、ロートシルトや前髪王子、ファンリーの友達がいる。さらには、王宮の遣いや、貴族たちの姿も見える。
【メイユール】 ファンリー、有名人やから。
【ティガー】 すごいな〜。俺のバンジー・ジャンプと、えらい違いや。「差別やわ」って思っとこ(笑)。
【GM】 しばらくして、白いローブに身を包んだファンリーが、イリア司祭に付き添われて、しずしずとやって来た。
 イリア司祭がミフォア神に祈りを捧げ、ファンリーの鬢削ぎの儀が始まりました。
 来賓たちが次々と、椅子に座ったファンリーにひと言かけながら、ハサミで彼女の鬢を少しずつ切ってゆく。
 キミたちも同じようにハサミを入れ、最後は、育ての親のイリア司祭が鬢を短く切り落とし、儀式は終了。
 ファンリーは、晴れて大人の仲間入りを果たしました。
【ジーネ】 「おめでと〜」ぱちぱちぱち。
【GM】 他の客たちも、立ち上がって頭をさげるファンリーに拍手する。
 イリア・ザーマス司祭は三角メガネをはずして、ハンカチで目頭を押さえてる。思わず、ホロリときたんやね。
【ティガー】 あのひと、泣くんや。
【メイユール】 鬼の目にも涙やな。
【GM】 ファンリーには、王宮の遣いから国王陛下の祝辞が届けられてて、貴族たちから「私の妾に」とか「うちの息子の妻にぜひ」とか、さっそく誘いがかけられている。
【ティガー】 じゃあ、ファンリーのかわりに、ネネを紹介しとく。
【GM】 さりげなく嫌がらせするんや。
【ジーネ】 ファンリーに、「明日から旅に出るよ」ということを、伝えておこう。
【ティガー】 「なんか、ぷよぷよしてる奴を倒してくるわ。にゅ〜ってして遊ぶねん」
【メイユール】 「おもしろかったら、そいつを持って帰ってくるから」
【GM】 じゃあ、「お気をつけて」と、ファンリーは応える。
 イリア司祭は、ティガーに「しっかりやるザマスよ、婿殿」と言う。
【メイユール】 すでに『婿殿』って認められてるんや(笑)。
【GM】 イリア司祭は姑というわけやね。
【ティガー】 イヤやな〜。前、ピーマン食わされたし。
【GM】 では、翌日1月8日になりました。
【ジーネ】 それじゃ、エルゴン村に向かおうか。
【メイユール】 レッドゾーンを連れて歩いて行く。
【GM】 徒歩で旅するわけね。
【メイユール】 馬には、荷物運びをしてもらうけど。
【GM】 レッドゾーンは誇り高き軍馬なのに。彼は、不服そうに鼻を鳴らして抗議するよ。
「何なのだ、この扱いは」
【メイユール】 「ごめん、ごめん」って首をさすっとく。
【GM】 「だいたい、おまえのその武器はなんだ。(※メイユールの武器はクラブ)
 我が背に乗るならば、ランスぐらい買え!」
【メイユール】 気位が高い奴やな(笑)。
【GM】 さて、エルゴン村までは小さな道があり、そこを通れば7日で着く。大きな街道を使うなら、15日ほどかかる。
【ティガー】 小さな道でいいんとちゃう?
【ジーネ】 きっと、村で採れた野菜とかを売りに来るのに使う道なんだな。
【メイユール】 ということは、そんなに危険な道ではないわけね。
【GM】 基本的にはそうなんでしょう。いつも安全とは限らないけど。
 では、キミたちは枯れ草が広がる草原の、小さな道を旅しています。都の南西にある、ジーネの故郷エルゴン村をめざして。
 冬の乾いた風が吹き、キミたちは、マントの襟を立てて──って、誰も防寒具持ってないし。
【メイユール】 毛布ならあるよ。
【ジーネ】 私も。
【ティガー】 俺、そういうの持って来てない。
【GM】 毛布すらないんなら、野宿で凍死する可能性があるな。
【メイユール】 レッドゾーンの下にいれば、暖かいよ。
【ティガー】 じゃあ、そうする。
【GM】 それでも限界があると思うけど(笑)。まあ、いいや。
 そうして3日ほど旅を続け、キミたちは、岩が転がる荒野に差しかかった。
 と、前のほうから「助けてぇ〜!」という男性の悲鳴がする。
【ティガー】 男が「助けてぇ」って言うてんの?
【GM】 言うてるね。しかも、おっさんの声。
「だぁ〜れかぁ〜! そこの黒い鎧と、赤い鎧を着てるひとぉ〜!」
【メイユール】 楽しんでないか?(笑)
【ティガー】 何やっとん、そいつ。見に行ってみる。
【GM】 1台の馬車に乗った行商人ふうの男が、山と積まれた荷物のてっぺんにしがみついて、助けを求めている。
 荷馬車を取り囲むのは、4匹の大きなサソリ。今にも馬を襲わんとしてます。
【ジーネ】 そりゃ、駆け寄りますわな。勝てるかどうかはわからないけど。
 テテテテテと、走って行きます。
【GM】 鎧をガチガチに着込んでるんやから、「ガチャガチャ」やな。
【ティガー】 さわやかに、「きゃは☆」って感じで走って行くわ。
【メイユール】 じゃあ、ティガーと一緒に走る(笑)。
【ジーネ】 やめて〜。なんか友達というか、パーティを組んでるのがイヤになるから、やめて〜。
 借金を返すだけなら、お金ができるたんびに返しに行くだけでいいんやぞ?
【GM】 とりあえず、走ってくるキミたちを見た4匹のサソリは、目標をキミたちに変えて、襲いかかってきます。
【メイユール】 わたしは魔法を撃つので、後列にいます。
【ジーネ】 前列は、私とティガー。
【GM】 ならば、サソリA、Bがティガーを、サソリC、Dがジーネを襲う。
【メイユール】 おっちゃんは大丈夫?
【GM】 おっちゃんはサソリがそっちに行ったので、ホッとしている。「やったぁ、きゃは☆」と言ってる。
【ティガー】 マネされた(笑)。
【GM】 それじゃあ、新キャンペーン最初の戦闘になるよん。

÷÷ つづく ÷÷
©2005 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2005 Jun Hayashida
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