≪REV / EXIT / FWD≫

§烙印の天使:第25話§

ラストダンジョン

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン 地図:もよ
▽ 地下水路からの侵入の事 ▽ 王の幽霊の事 ▽ 立ちはだかる敵の事

地下水路からの侵入の事

【GM】 いよいよ、このキャンペーンもクライマックスを迎えます。みんな、気合入れていこう!
【ティガー】【メイユール】 おーッ!
【メイユール】 先生ー! アンディーとシルヴィアがいませ〜ん(笑)。
【GM】 アンディーは、他のカルファン騎士たちやロートシルトともに、ジーネの魂の緒がつまみ食いされないよう、見張りにつくことになってる。だから、キミたちには同行できない。
【ティガー】 シルビーは?
【GM】 シルヴィアは、なんと、風邪をひいて寝込んでしまってるんやね(笑)。
【メイユール】 えぇー!?
【GM】 というわけで、このキャンペーンが大団円になるかどうかは、キミたちふたりにかかっているのだ。
【メイユール】 んー、まあ、大団円になればいいね。
【ティガー】 あ、俺の鎧、ちゃんと黒くなってる?
【GM】 注文どおり、漆黒の鎧になってるよ。艶やかな黒と、つや消し黒、それにガンメタルを用いて、黒のみで喜怒哀楽を表現した、すばらしい仕上がりになっている。
【ティガー】 でも、そんな細かいとこには、気づかない(笑)。
【GM】 そうそう、エウロギアは、最後の魂晶石を使って、ティガーの鎧をプラス3のプレート・メイルにしてくれてるよ。
【ティガー】 やった〜!
【GM】 メイユールのワインレッドのミスリル・チェインも、同様にプラス3の魔力がついたからね。
【メイユール】 ふふふ。わたしらふたり、正義の味方の色じゃないな(笑)。
【ティガー】 うん、めっちゃ悪者(笑)。正義っぽいのは、シルビーだけやな。
【GM】 そのシルヴィアのクロースは、注文どおりに青くはなったけど、残念ながら、魂晶石の魔力が尽きたので強化はされなかった。
【メイユール】 かわいそー。
【ティガー】 まあ、どのみち風邪で休んでるんやし。
【GM】 それから、霊食(たまぐ)いネズミの1匹が、メイユールになついてしまってるよ。尻尾をプロペラにしてパタパタ飛んで、キミの肩に止まっている。「きー」
【ティガー】 うわ、かわいい〜。
【メイユール】 ニワトリとネズミが、わたしのペットになった。
【ティガー】 なんか、“動物探検隊”って感じがしてきた(笑)。
【GM】 それから、この1ヶ月の間に偵察に出たカルファン騎士が仕入れた情報を、簡単に説明しとこう。
【ティガー】 うい〜。
【GM】 まず、連合軍は、予定どおり着々と王都ランダースへ向かってるらしい。
 対するランダース王国は、残存兵力を集めて軍を再編成し、迎え撃つ体勢。
 今月、11月16日に王都攻防戦が始まる見通し。
 キミたちは、これに合わせてファンリー救出作戦を開始することになる。
【ティガー】 ここからランダースまでは、4日の距離やったっけ?
【GM】 そう。だから、遅くとも11月12日には出発しないとアカンわけやね。
【メイユール】 で、肝心のファンリーの居場所は?
【GM】 それは、王城の地下だそうです。
 地下の一室で、宮廷魔術師オネットが、暗黒神クートラを召還する儀式を行っているらしい。
【メイユール】 暗黒神の召喚?
【ティガー】 うさんくさい奴らと思ってたけど、やっぱり、そういうことしてるんか。
【メイユール】 城の地下まで、どうやって行こう?
【ティガー】 侵入路はある?
【GM】 城の脱出路を逆にたどれば、簡単に行ける。しかし、なんと、脱出通路に入れる箇所が、先日の地震で崩れてしまってるらしい。
【ティガー】 なんじゃ、そりゃ(笑)。
【GM】 しかし、そこは優秀なカルファン騎士。他の侵入ルートを、ちゃんと、見つけてくれている。
【メイユール】 玄関?
【ティガー】 めっちゃ正面突破や(笑)。
【GM】 んなわけない。
 ランダース城は、小高い丘の上に立っていて、そのふもとに、城内からつづく地下水路の出口がある。
 そこから入ればよいとのこと。
【ティガー】 地下水路か……台所につくんかな。
【メイユール】 風呂場かも。
【GM】 どこにつくかはわからないけど、城内に忍び込めることは確か。
【ティガー】 じゃあ、12日になったら、ランダースへ出発しよう。
【GM】 はいはい。
 では、時間を進めるけど、忘れ物がないように、ちゃんと準備しときや。同行できない仲間の道具は、勝手に持って行っていいから。
【メイユール】 といってもな〜、別にいるものはないよ。ジーネのプラス1モーニングスターは、筋力が合わないし。
【ティガー】 勝手に使ってたら、怒られそうやし(笑)。
 あ、俺、保存食をもらって行くわ。全部で24食分になったよ。
【メイユール】 おお〜。
【GM】 (大丈夫かぃな、こいつら……)では、11月12日になりました。
 エウロギアの洞窟を後にするティガーとメイユールに、エウロギアが餞別をくれる。
【メイユール】 なになに?
【GM】 スクロールです。このスクロールを紐解けば、狙った武器が、たちまち精神にダメージを与えるようになるという、すぐれもの。
【ティガー】 ほう。
【GM】 この魔法をかけられた武器で攻撃すれば、普通の打撃ロールと同様に計算して出されたダメージが、相手の生命点ではなく、精神点にいくようになるんやね。
 魔法の持続時間は18ラウンドで、1回使うと、スクロールは白紙になる。
【メイユール】 じゃあ、わたしが持っとくよ。
【GM】 それでは、最終決戦に赴くキミたちを、今、見張りについてる者以外のカルファン騎士たちやロートシルト、エウロギアや霊食(たまぐ)いネズミたちが、総出で、洞窟の出口で見送ってくれる。
【メイユール】 行ってきま〜す。
【GM】 「王子、がんばってください!」と、カルファン騎士たちは、口々に激励してくる。
「ファンリー殿を連れて、無事に帰ってきてください」
【ティガー】 OK、まかせとけ!
【GM】 ロートシルトは、「気をつけるんだぞ、メイユール」と言う。
【メイユール】 「あんたも、ちゃんとジーネの魂を見張っときや〜」
【GM】 そんな感じで、ティガーとメイユールは、野営をくり返しながら、約4日の旅を経て、ファンリーが捕らわれている、敵地ランダースに到着した。
 すでに連合軍の大軍が街の周囲を包囲しており、間もなく、王都への総攻撃が開始される。
 キミたちはそれを尻目に、カルファン騎士から教えてもらった、丘のふもとの排水口にやって来た。
【ティガー】 排水口に入れる?
【GM】 入れるよ。けっこう大きな地下水路みたい。かがむ必要もないし、ふたり並んで歩けそうです。水位は、腰のあたりまで。
【ティガー】 これ、トイレから流れてきてる水やったら、イヤやな〜。
【メイユール】 いろんな物が、プカ〜っと浮いてたりして。
【ティガー】 うわー、気持ち悪ぅ〜。
【GM】 大丈夫、きれいな水です。オムスク地方独特の、くさい水やけどね。
【ティガー】 下水じゃないねんな。
 じゃあ、ヒデヨシを頭に乗せて水路に入る〜。
【GM】 地下水路の中は真っ暗ですが。
【メイユール】 ランタンやたいまつは、使えそうにないよな。
 じゃあ、ウィル・オー・ウィスプを呼びます。(ころっ)
【GM】 呼び出されたウィスプが、地下水路を照らしだす。
 水路に入ったキミたちは、じゃぶじゃぶと水をかき分け、奥へ奥へと進んで行った。
【メイユール】 濡れるのイヤだな〜。
【ティガー】 濡れてからそんなこと言うても、しゃあない(笑)。
【GM】 流れに足をとられることはないやろけど、水中ということで、行動にはじゃっかんのペナルティがつくから注意してな。
【メイユール】 わっかりました〜。
【ティガー】 で、水路の中は、迷わずに進めそう?
【GM】 まっすぐの一本道だから、迷うことはない。
 キミたちは、ずんずん進む。振り返れば、出口の光は、ごま粒ぐらいの点にしか見えなくなってる。
【メイユール】 だいぶ、奥までやって来たなぁ。
【GM】 この頃になると、向こうから滝のような音が響きはじめ、進むにつれて、それは大きくなってくる。
 と、キミたちの行く手を、鉄格子が阻んだ。格子の隙間を通り抜けるのは、ちょっとムリそうやね。
【メイユール】 格子をつかんで、「開けてくれ〜」って言う。
【ティガー】 「俺は無実だ〜」(笑)
【メイユール】 「ここから出してくれよ〜」──ちょっと遊んでみた(笑)。
【ティガー】 鉄格子を見たら、これはやらんと。
【GM】 言い忘れてたけど、今回のシナリオは、時間制限があるよ。もたもたしてると、オネットが召喚の儀式を成功させてしまう。
【メイユール】 じゃあ、さっさと先に行くか。
【ティガー】 揺さぶってみても、鉄格子は開きそうになかった?
【GM】 いや、力を込めれば、取り外すことができそうな感じだった。
 チャレンジするなら、筋力でチェックして。
【ティガー】 じゃ、やってみる。(ころっ)バキッとはずれたよ。
【メイユール】 よし、ガンガン進むのじゃ。
【GM】 鉄格子の向こうは、広い空間だった。
 1辺20メートルほどの正方形の部屋で、天井までの高さは、約18メートルといったところ。
 滝のような音は、ここから響いていたらしい。
【ティガー】 おおっ、広いな。なんじゃ、ここは。
【GM】 まず目につくのは、ところ狭しと並んだ、さまざまな大きさの歯車たち。動力源となっているのは、奥にあるでっかい水車。
 天井近くの壁に木組みの筒が取りつけられ、そこから流れ出る水が、水車を回してる。
【メイユール】 それが滝の音の正体やな。
【ティガー】 時間があれば、水車の上を回転と逆方向に走って遊ぶのに。
【メイユール】 ハムスターみたい(笑)。
【GM】 下に落ちた水は、部屋に掘られた溝を流れ、やがて、キミたちが通ってきた水路に注いでいます。
【ティガー】 歯車って、何を回してるの?
【GM】 最終的には、部屋の中央にそび立つ、大きなシャフトを回しているみたい。
 偵察したカルファン騎士が、「ウィスの物ほどではないけど、王城に時計台がある」と報告してたんで、たぶん、時計のからくりでしょう。
【メイユール】 トイレじゃなかったか。
【ティガー】 この部屋から出れそうなところはない?
【GM】 メンテナンス用の木組みの足場やはしごが、歯車の間を縫って設けられていて、それをつたっていけば、天井にある鉄のふたのところまで行けそうな感じやね。
【ティガー】 じゃ、そのハッチのところに行く。
【GM】 ティガーは、はしごを登って足場を走り、鉄ふたのところまで来た。
 しかし、キミの筋力をもってしても、ハッチは開かなかった。どうやら、上に物が置かれているらしい。
【ティガー】 なんてこった。

王の幽霊の事

【メイユール】 あとは、奥の水車に注いでる水の出口か。
【ティガー】 水が出てる筒って、どれぐらいの大きさ?
【GM】 大人ひとりが入れそうなぐらいの大きさ。
【ティガー】 水車の近くにも、足場はある?
【GM】 あるよ。壁際に設けられている。つまり、水車に注ぐ水の後ろ側、ということになりますな。
【ティガー】 じゃあ、そこに行く。
【メイユール】 足場から筒までの高さは、何メートル?
【GM】 そうやね、だいたい6メートルぐらいかな。とてもじゃないけど、ジャンプして届くような高さではない。
【ティガー】 ロープなんか、持ってたっけ?
【メイユール】 わたしが10メートルのロープを持ってるよ。でも、くさびもフックもない。ジーネの荷物には、入ってたけど。
【GM】 使えそうな道具は、遠慮せず持ってくればよかったのに。
【ティガー】 木の筒に、ロープを引っかけられそうなところはない?
【GM】 う〜ん……筒の端近くの天井に、大きな鉄の滑車がつけられているのが、見えるよ。足場を作るときに、使ったものかも知れないね。
【メイユール】 そこに引っかけるしかないか。でも、ロープだけ投げても──。
【GM】 ヘロヘロ〜と、狙ったところに行くもんじゃないわな(笑)。
【メイユール】 何か、おもりになるものがいる。
【ティガー】 じゃあ、俺のソード・ブレイカーを、おもりにしよう。ロープにくくりつけて、滑車に投げつける。
【GM】 では、成功ロールしてみようか。かなり難しい行動だから、高めの目標値になるよ。
 どっちが挑戦するのかな?
【メイユール】 わたしがやります。(ころっ)成功!
【ティガー】 おおー、一発で決めた!
【メイユール】 物を投げるのは得意やねん、わたし(笑)。
【ティガー】 じゃ、登るよ。
【GM】 それは足掛かりなしの、ロープのみの登攀ということになるね。
【メイユール】 レスキュー隊員みたい。
【ティガー】 ホンマや、かっこいい! (ころっ)うん、かっこよく登れた。
【GM】 ところが、いちばん上まで登ったときに気づいたけど、水はホースから出てくるときみたいに、木の筒いっぱいから流れ出てるんやね。
 つまり、頭の先まで、水につかることになるわけです。
【ティガー】 息がでけへん。
【メイユール】 じゃあ、〈ウォーター・ブリージング〉を、わたしとティガーにかける。(ころっ)ふたりとも、えら呼吸になったよ。
【GM】 ヒデヨシとネネはどうなってるの?
【ティガー】 ニワトリに〈ウォーター・ブリージング〉をかけるのって、精神力がもったいないよなぁ。
【メイユール】 連れて行ってもしゃあないしな〜。
【GM】 なら、なんでそもそもここに連れてきたんや?(笑)
【メイユール】 友だから。
【ティガー】 じゃあ、友にはここで待っててもらう。
【メイユール】 ネズミのほうは、大丈夫?
【GM】 ああ、霊食(たまぐ)いネズミね。彼は精霊やから、溺れる心配はないよ。
【メイユール】 じゃ、ネズミは一緒に行こう。

 そうしてふたりは、水車に水をそそぐ木の筒に入った。
 全身にかかる水流の勢いは、さすがにきついものだった。ティガーとメイユールは、渾身の力で水流に逆らい、水路を進んだ。
 やがて、再び行く手を鉄格子が阻む。
 それをはずしてたどり着いた先は、1辺が12メートルほどある、広い水槽だった。上は鉄板でふたをされており、あがることはできない。
 それより何より──。

【GM】 額に鋭いツノを生やした体長1.5メートルほどの魚が3匹、牙をギラつかせながら、キミたちのほうに突進してくるよ。
【ティガー】 乗せてくれるのかなァ、キミの背中に(笑)。
【GM】 「なんでやねん!」と、つっこんであげようか? ツノでもって(笑)。

 というわけで、怪魚とティガーたちの戦闘が始まった。
 水中での活動ということで、ふたりにはペナルティがつくが、まったくものともしない。
 メイユールは〈ウィル・オー・ウィスプ〉で、ティガーは師匠の形見のツヴァイハンダーで、容赦なく怪魚の生命点を削る。

【GM】 怪魚A、Bはティガーへ突進したけど、避けられた。
 怪魚Cはメイユールに突進した──こっちは当てたけど、ダメージは鎧で消されてしまった。
【メイユール】 助かった〜。さすが、プラス3鎧だ。
【GM】 なんちゅうこっちゃ。恨むぞ、エウロギア。
【ティガー】 怪魚Aに攻撃〜。(ころっ)あっ、はずれた。
【メイユール】 わたしは、目の前にいる怪魚Cに〈スリープ〉。(ころっ)効きました。あとで刺し身にして食べよう(笑)。
【ティガー】 刺し身、刺し身〜♪
【GM】 怪魚Cは力なくプカ〜っと浮く。そして、キミたちが入ってきた水車につづく水路に流れてゆく。鉄格子ははずされてるから、そのまま、からくり部屋まで行ってしまうやろね。
【メイユール】 あーッ、刺し身が流れて行く〜!
【GM】 からくり部屋では、ヒデヨシが「こけーッ!?」と、驚くでしょう。
【ティガー】 「あ、何か落ちてきた〜。食っちまえ〜!」って(笑)。
【メイユール】 あーあ、ニワトリのエサになってしまった(笑)。

 第4ラウンド、ティガーは怪魚Aを斬って捨てた。
 この調子で戦闘は終わるかと思われたが、怪魚Cはメイユールの〈ウィル・オー・ウィスプ〉にへろへろにされながらも、ティガーの攻撃を避けまくってねばる。
 精神力の無駄使いを避けるため、防御に徹しはじめたメイユールだが、怪魚のツノに、ちくりちくりと刺されて負傷してゆく。
 しかし、怪魚Cの快挙も、第8ラウンドまで。
 ようやく当たったティガーの攻撃は、3連続クリティカルのダメージ38点。残り生命点1だった怪魚Cは、細切れにされてしまった。

【GM】 肉片が水路へ流れていくよ。
【ティガー】 今度のは食べやすい形やから、ヒデヨシとネネも大喜び(笑)。
【メイユール】 う〜、精神力をけっこう使ってしまったなぁ。
【GM】 魔晶石は持ってきてないの?
【ティガー】 うん、あれはシルビーの誇りやから、取ったらしおれてしまうもん(笑)。
【GM】 そうじゃなくて、前回、エウロギアの洞窟で魔晶石を3つ見つけたやろ?
【ティガー】 あ、そういえば。
【メイユール】 すっかり、忘れてた。
 誰の持ち物欄にも書かれてなかったから、たぶん、宝箱の中に入ったままになってるよ。

 ティガーとメイユールは、この水槽に流れてくる地下水路に入った。

【GM】 ずんずん進んで行くと、やがて、下水道みたいな形の地下道に出た。
 キミたちがいる水路は、ふたのない溝となり、両脇に側道みたいにして、通路があるわけやね。
【メイユール】 じゃ、側道にあがる。

 側道を進んで行くふたりは、牢が並ぶ場所に足を踏み入れた。

【ティガー】 牢の中を覗いていってみる。何かある?
【GM】 いちばん奥の牢のゴザの上に、腐乱した死体が横たわっている。すごい匂いが漂ってるよ。
【メイユール】 うぎゃーッ。
【GM】 あと、その死体のそばには、ひざを抱えてすわる初老の男性がいます。半透明でぼやけてるけどね。
【ティガー】 幽霊や。
【メイユール】 死体のひとかな?
【ティガー】 おっちゃんに、「何してるの?」って聞く。
【GM】 初老の男性は、「おまえこそ、何をしておる」と言う。
「余は、ランダース国王、グレガー・フォイテク。おまえたちは、何者じゃ」
【ティガー】 「オムレツ好きのティガーだ。オムレツ屋では、名が知られている」と、答える。
【メイユール】 ホンマかぃな(笑)。
【ティガー】 「で、なんで、こんなところで三角座りしてんの。捕まったん?」って、おっちゃんに尋ねる。
【GM】 「そうじゃ。宮廷魔術師であったオネットに、裏切られたのじゃ」
【メイユール】 かわいそうに。
【GM】 「オネットの奴は、あの女の口車に乗せられ、暗黒神クートラを降臨させようとしておる。もっとも、それを承認した余も、愚かであったが……」
【ティガー】 『あの女』??
【GM】 「“魔王の娘”ミーアという、恐ろしい女じゃ」
【ティガー】 恐ろしいんや。
【GM】 「ああ、恐ろしいとも」

 523年のブレイン攻略戦で連合軍に敗れたランダース王国は、敗戦を重ね、528年には、ロットバイル王国の後ろ楯を失ってしまった。
 窮地に立たされたちょうどそのとき、ランダース王国にひとりの女性が現れた。
 “魔王の娘”ミーアである。
 得体の知れぬ黒ずくめの戦士たちとともに王国の中枢に取り入った彼女は、宮廷魔術師オネットに「暗黒神を降臨させ、究極の破壊魔法〈ザンナール〉を蘇らせよう」と、持ちかけた。
 オネットは、追い詰められた事態の打開策として、ミーアの計画に飛びついた。
 国王も、不承不承ながら、それを認めたのだが──。

【GM】 「だが、余は知ってしまったのじゃ。ミーアや黒ずくめどもの目的は、連合軍の打倒にあらず。
 かつて、古代魔法帝国を滅亡させた〈ザンナール〉で、世界を滅ぼそうと企んでおるのじゃ」
【メイユール】 それを知ったから、ここに閉じ込められたんか。
【GM】 「そうじゃ。奴らの罠にはめられ、言いくるめられたオネットに裏切られての。
 計画を中止させようとした余は捕らえられ、ここで朽ち果てたのじゃ」
【ティガー】 もしかして、それを言うために、国王はここで幽霊になってたん?
【GM】 たぶんね。言いたいことは言ったので、国王の幽霊は、満足してるよ。
【ティガー】 「じゃあ、俺らがそいつらを倒してきてやるから、そこで座って待っとき」
【GM】 そうすると、国王は嬉しそうに言う。
「おお、オネットを止めてくれるのか!」
【ティガー】 「善処します」(笑)
【GM】 「オネットが儀式を行っておるのは、緊急時の避難用に設けておいた、地下の会議室じゃ」と、国王は言う。
【メイユール】 その会議室へは、どう行けばいいん?
【GM】 「ケルベロスの間の鉄扉を開け、階段を登って上へ行け。
 その先の部屋の左右の扉から、それぞれ通路を進んでゆけば、どちらとも、奥の壁にレバーが設置された部屋に着くはずじゃ」
【ティガー】 そうじゃか。
【GM】 「そのふたつの部屋で、それぞれ、同時にレバーを下げろ。
 さすれば、どちらの部屋にも隠し通路への扉があらわれる。隠し通路は、入口を違えど、途中で合流しておる。
 そこからさらに進んでゆけば、オネットがいる、会議室に着くはずじゃ」

立ちはだかる敵の事

【メイユール】 ファンリーは、そこにいるんやな。
【ティガー】 OK〜。
【GM】 「それじゃあ、よろしくの〜」と言って、国王の幽霊は消えていく。
【ティガー】 あ、消えちゃうんや。
【GM】 もう、思い残すことはないからね。最後に、「ランダース王国の行く末に、光あれ〜」という声を残して、昇天していった。
【ティガー】 この国に光があるかどうか、知らんけどな(笑)。
【メイユール】 どっちかというと、風前の灯(笑)。
 じゃあ、言われたとおりに、ケルベロスの間に行こう。

 ふたりは、部屋(B)にやって来た。
 ケルベロスの間……その名に違わず、待ち構えていたものは──。

【GM】 頭が3つある、大きな黒い犬やね。
【ティガー】 「ポチ〜、お手っ」
【GM】 お手どころか、3つ首の魔犬は「ウ〜」と唸って、キミたちを威嚇してるよ。
【メイユール】 しつけの悪い犬やなぁ。
【GM】 むしろ、しつけが行き届いてると思うけど。侵入者であるキミたちを、ちゃんと成敗しようとしてるんやから。
【ティガー】 じゃあ、成敗し返すわ。
【メイユール】 わたしは、防御しとくぅ。これ以上、精神力を減らしたくないんだ、ごめん。
【ティガー】 いいよ、俺に任せとき。

 というわけで、地獄の番犬ケルベロスと、ふたりの戦いが始まった。
 強力な鎧のおかげで3つの首の噛みつき攻撃は、まったく怖くなかった。
 ただ、ときどき吐き出される炎はやっかいだった。もともと生命力が低いティガーは、わずかな負傷が、大ケガになってしまうのだ。

【GM】 なめたらいかんで〜。仮にも地獄の番犬やぞ。
【ティガー】 ポチのくせに。
【メイユール】 ポチ、ポチ。
【GM】 そんなこと言ってたら、ケルベロスは、いきり立って襲いかかってくるぞ。

 そして第6ラウンド目、炎を吐き出そうと大きく息を吸い込んだところで、ケルベロスは、ティガーにやられてしまった。

【GM】 ケルベロスは倒れ、ふしゅう〜っとしぼんでいく。ロウソクみたいな小さな炎を吹きながら(笑)。
【メイユール】 後ろから拍手しようっと。「すごい、ティガー!」
【ティガー】 いえーい♪
【メイユール】 ネズミに、ケルベロスの魂の緒を食べさせてあげよっかな。
「食べていいよ」
【GM】 霊食(たまぐ)いネズミは、大喜びでパタパタとケルベロスの死体に飛んでいき、さっそく魂の緒にかじりつき、あっというまに食べ尽くしてしまった。
【ティガー】 (はや)〜(笑)。
【GM】 ちなみに、この部屋の出口は、鉄の扉と鉄格子の2種類があります。
【メイユール】 王様は、「鉄扉の奥に行け」って言うてたよな。
【ティガー】 じゃあ、そっちから出て行く。
【GM】 鉄扉の向こうは通路になっていて、上り階段につづいていた。
 階段を昇りきった先には、鉄の扉がある。
【ティガー】 開けてみる〜。
【GM】 その向こうは、部屋(C)です。
 部屋はかがり火で照らされていて、中で展開されている異様な光景がうかがえる。
【メイユール】 異様な光景??
【GM】 そう。部屋の中央には祭壇があり、白いローブを着た、長い黒髪の人影が横たえられている。
 そして、その祭壇のまわりを、フードを目深に被った黒いローブの小柄な者ふたりが、フンガチャカフンガチャカと、踊っている。
【ティガー】 踊ってんの?
【メイユール】 おもしろいけど、なに、それ。
【GM】 とりあえず、いきなりドアを開けたわけやから、向こうは、キミたちに気づきますわな。
 ふたりの黒いローブの者は、「え?」って、驚いてるよ。
【ティガー】 こっちも、「え〜?? 何してんの、こいつら」って、思うわ。
【GM】 すると、祭壇に寝かされていた白いローブの人物が起き上がり、「助けて、ティガー!!」と叫ぶ。
【ティガー】 えっ、ファンリー!?
【GM】 うんにゃ。黒い長髪のカツラをかぶった、ゴブリンですな。
【ティガー】 ……じゃあ、ドアを閉めて、なかったことにする。
 何やったんや、あの変な邪悪さは(笑)。
【メイユール】 国王の幽霊が言ってた『レバーの部屋』まで行ってないから、おかしいなとは思ったけど。
 GM、あの部屋の左右の壁に、扉はありました?
【GM】 あったよ。
【メイユール】 じゃあ、あそこを通らんとアカンわけか。えー? イヤや〜(笑)。
【ティガー】 しょうがないから、もういちど、部屋(C)に入る。
【GM】 すると、変装を解いた3匹のゴブリンが、部屋の片隅でいじけてた。
 赤、青、黄のハードレザーをまとった彼らは、キミたちが戻って来たのを見て、嬉しそうな顔をした。
【ティガー】 「何をやってたん、自分ら」(笑)
【GM】 「ファンリーに化けてやね、おまえらが油断したところを、バッサリやるつもりだったのさ」と、赤いゴブリンが答える。
【ティガー】 いや、ぜんぜん化けれてなかったし。
【GM】 「まあ、いいさ。不意討ちなんて卑怯な行いは、俺たちの信条ではなかったしな」
【メイユール】 ゴブリンやのに。
【GM】 「ふっふっふ。俺たち、サンゴブリンをなめるな!」と、ゴブリンは言う。
「ゴブイーグル!」
「ゴブシャーク!」
「ゴブパンサー!」
「太陽戦隊サンゴブリン!!」ばこ〜ん!
【ティガー】 そこをどかへんのなら、やっつけるよ?
【GM】 サンゴブリンは、親指で首を掻き切るしぐさで応える。
【メイユール】 戦闘するのね。
【GM】 ならば、ゴブイーグルとゴブパンサーがティガーに、ゴブシャークがメイユールに襲いかかる。
【ティガー】 俺の前には2匹来るんか。
 それじゃ、[なぎ払い]するね。(ころっ)どっちにも当たった。ゴブイーグルには2回まわって、ダメージ31点! お〜、ゴブパンサーにもクリティカル、クリティカル! 2回まわって、28点。
【メイユール】 うわ〜、めちゃくちゃや(笑)。
【GM】 なんちゅうクリティカルの出しかたや……そんなもん、2匹ともバラバラにされてしまったわい。
【メイユール】 「えーッ!?」と思いながら、ゴブシャークに〈ウィル・オー・ウィスプ〉。
 (ころっ)当たって、ダメージは9点。
【GM】 それでは死なないけど、さっきの仲間の死を目のあたりにしてるんで、ゴブシャークは、神妙に正座します。
【メイユール】 降参するのかな?
【GM】 「もちろんじゃないですか」
【ティガー】 それはいいどな、ファンリーのまねをしてた、ふざけた奴は誰やったんかな?
【GM】 「それはイーグルっすよ。ボクは『やめとこ』って、言うたんですよ?
 そしたら、パンサーの奴が、『やったほうがおもろいやん』とか言うて……」
【メイユール】 必死やな。気の毒なゴブリンや(笑)。
 どうする、ティガー?
【ティガー】 まあ、いいや。見逃してあげる。
【メイユール】 「その死体の山を持って、どこかに行って」
【ティガー】 「次、敵で出てきたら、怒るよ?」
【GM】 「もちろんッスよ」と言って、ゴブリシャークは、肉片になった仲間の死体をローブで包んで、部屋から出て行く。
「求人広告出さなきゃ」とか言いながら。
【メイユール】 新しいイーグルとパンサーを募集するんやな(笑)。
【ティガー】 で、左右の扉の奥の部屋にあるレバーを、同時に下ろさなアカンねんな。
【メイユール】 じゃあ、ふた手に分かれよう。
【GM】 どっちがどっちの扉を進むのかな?
【ティガー】 ん〜……あ、先に一緒に奥の様子を見てからにしよか。
【メイユール】 慎重やね。それなら、右の扉から行こう。

 ティガーとメイユールは、長い通路を進んで、部屋(E)に来た。

【GM】 部屋(E)には、たいまつが灯されている。
 正面奥の壁には、王家の紋章グリフィンのレリーフがあり、その横に、鉄のレバーが設置されている。
 さらに、レリーフの前には、真紅のプレート・メイルをまとい、ティガーと同じカルファンの剣を持った、金髪の男が立ってるよ。
【ティガー】 あいつか。
【GM】 そう、いちど、キミをコテンパンにやっつけた騎士やね。
【メイユール】 わたしら、気づかれてる?
【GM】 もちろん。
 真紅の騎士は、「やはり来られましたか、レギト王子」と言い、剣を構える。
【ティガー】 やる気なん?
【GM】 キミたちが帰ってくれるんなら、別に戦う必要はないけど。
【ティガー】 帰らへんよ、そんなの。
【GM】 そやろ? だから、戦う用意をしてるねん。
【ティガー】 じゃあ、こっちも剣を構える。
【メイユール】 すると、さっきのゴブリンの血がダラ〜(笑)。
【GM】 いちおう、真紅の騎士は言うよ。
「王子。どうしても、引き返してくれませんか?」
【ティガー】 だから、帰らへんって。「そっちこそ、どけよ」
【GM】 「何がなんでも、ファンリーを取り戻すと?」
【ティガー】 「うん」
【GM】 「間もなく、暗黒神クートラが、ファンリーに降臨する。そうすれば、破壊魔法〈ザンナール〉を復活させ、世界から、すべての悲しみを消すことができるんですよ?」
【ティガー】 別に消す必要なんてないし。
【メイユール】 そうそう。幸せばかりの世界、なんてうさん臭すぎるわ(笑)。
【GM】 「わかっておられませんな」と、真紅の騎士はため息をつく。
「この世に生ある者はすべて、他者に不幸をもたらして、生きているのです。誰かの不幸せを、己が享楽の糧にして」
【ティガー】 だから、天秤はつり合うのさ。
【GM】 「つり合いませんよ。力なき者、抗えぬ者たちは、常に、悲しみのみを与えられるのです。天秤は、力ある者だけに、都合よく傾く」
【メイユール】 世界は弱肉強食やから、それはしゃあない。
【GM】 「だから、我々も力の掟に従っている。強者が、糧にされる者のために力を振るってはいけない理由など、どこにもない。
 天秤が、神の定めたもうた摂理だというのなら、我らが、力をもってそれを破壊する。
 世界からすべての悲しみを消し、すべてのものに等しく、究極にして永遠の安らぎを与える」
【ティガー】 それって、みんなを殺すってこととちゃうんか?
【メイユール】 国王の幽霊から聞いたよ。
「黒ずくめたちは、〈ザンナール〉で世界を滅ぼそうとしてる」って。
【ティガー】 「あんた、だまされてるよ」
【GM】 「だまされてなど、おりません。かつての私は、あなたに仕える身でしたが、今は、“魔王の娘”ミーア様に仕える身なのです」と、真紅の騎士は答える。
「世界を滅ぼす──そうすれば、すべての悲しみが消えるでしょう? 未来永劫、糧にされ、嘆き悲しむ者が生まれないでしょう?」
【ティガー】 そうやけど……それって、むちゃくちゃやんか!(笑)
【メイユール】 戦う?
【ティガー】 うん、戦う。
【GM】 交渉は決裂やね。
【ティガー】 決裂するに決まってるやん!
【メイユール】 歩み寄れる余地なんかないよ。
【ティガー】 ファンリーを生贄にするって段階で、話し合うことなんか、何もない。
【GM】 では、来なさい。
「今度は手加減などしませんぞ、レギト殿下」
【メイユール】 なめるな〜。こっちはパワーアップしてるんやから。ねっ、ティガー!
【ティガー】 鎧が黒くなってるし(笑)。
 行くぞ〜。

÷÷ つづく ÷÷
©2004 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2004 Jun Hayashida
Map ©2004 Moyo
▼ もしよろしければ、ご感想をお聞かせください ▼
お名前
ひと言ありましたら
 
≪REV / EXIT / FWD≫