≪REV / EXIT / FWD≫

§烙印の天使:第21話§

ゴルド裁判

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン 地図:もよ
▽ ゴルド解放宣言の事 ▽ レギト王子とティガーの運命の事 ▽ 新たな仲間の事

ゴルド解放宣言の事

【GM】 レギト王子もジーネと同じように、「オレが偽者だという証拠があるのかッ!? これ以上の無礼は許さんぞ!」と、怒ってる。
【ティガー】 じゃあ、言うたるわ。前髪王子にしか聞こえない声で、教えたるわ。
「よく聞けよ。レギト・グニク・イーニン・ハオトは──俺の名だ」
【ジーネ】【シルヴィア】【メイユール】 ──!!!?
【ジーネ】 いうに事欠いて、自分が本物の王子ってことにするの?(笑)
【シルヴィア】 爆弾発言や(笑)。
【ティガー】 いや、王子にしか聞こえないように言ってるから。
【メイユール】 「なに、なに? めっちゃ気になる〜」って感じやな。
【ティガー】 前髪王子の肩を掴んだ手に力を込めて、「降参しろ」と言う。
「今、戦いをやめるなら、命だけは助けてやる」
【GM】 「ほ、ほんとうか?」
【ティガー】 「うん」
【GM】 「前髪は?」
【ティガー】 「切らないでおいてやる」(笑)
【GM】 じゃあ、前髪王子は、降伏を申し出るよ。
【ティガー】 OK〜。カルファン騎士も戦いをやめるよな?
【GM】 やめるやろね。
【メイユール】 おお、いきなり戦いが終わった。何があったんや。
【GM】 他の部屋での、衛兵とならず者の戦いも終了した。
 ならず者たちは、ことごとく生け捕りにされたようやね。
【シルヴィア】 こちらも、前髪王子やカルファン騎士を武装解除させて、ロープで縛りあげよう。
【GM】 すべてがすんだところに、衛兵長がやって来た。
「いやいや、ほんとうにご苦労さま」と、敬礼する。
「どうもありがとう」
【ジーネ】 王子たちを、衛兵長さんに引き渡そうか。
【ティガー】 「殺したらアカンで」って言う。
【GM】 「それはどうなるか、わからない」と、衛兵長。
「後日、シルファス神殿において裁判を開き、そこで、どんな刑罰を与えるかが決まるからね」
【ティガー】 死刑になる?
【GM】 「それは何とも言えない」
【ジーネ】 政府の要人を暗殺しようとしたんだし、死刑じゃないかなぁ。
【シルヴィア】 4年も解放組織に協力してたし、情状酌量の余地はあると思うけどね。
【メイユール】 じゃあ、宿に戻ろう。
 う〜ん、ドラマの終わりは、スッキリしなかったなぁ。もうちょっと、盛り上がりがないと(笑)。
【シルヴィア】 裁判所でクライマックスになるんとちゃう?
【ティガー】 俺とファンリーは、乞食のところに帰るよ。
【ジーネ】 宿代ぐらい、出してあげようか?
【ティガー】 いいわ。乞食のとこのほうが、快適やし。
【GM】 では、ジーネ、シルヴィア、メイユールは宿屋に、ティガーとファンリーは乞食の家に、それぞれ戻った。
【ティガー】 乞食は帰って来てる?
【GM】 いや、家には誰もいないよ。
【ティガー】 ん、じゃあ、まあいいわ。ベッドで寝る〜。
【GM】 ところが、ベッドはひとつしかない。ふたりで寝れるぐらいの大きさやけどね。
【ティガー】 それなら、ファンリーをベッドに寝かせて、俺は床で寝る。
【GM】 床には、指が沈みそうなぐらいにフカフカな絨緞が敷かれてるし、ゴロ寝しても苦にはならない。
 そんなこんなで、朝になった。
【ジーネ】 酒場に朝ごはんを食べにおりよか。
【GM】 ジーネたち3人は、酒場におりた。ティガーのところには、乞食が帰って来たよ。
 乞食は、仕事用のメイクをしながら、「旦那、朝メシ食いに行きますかい?」と、尋ねる。
【ティガー】 行く行く〜。
【GM】 では、ティガーたち3人は、高級酒場にやって来た。
 その裏口にまわって、乞食はゴミ箱を漁りはじめる。
「ちょっと待っててくださいよ」
【シルヴィア】 もう、仕事に入ってるんやな。
【ティガー】 じゃあ、「俺らは、もう帰るわ」と言って、仲間のいる宿屋に行く(笑)。
【GM】 「いらねーんですかい、この魚の骨。けっこう、身が残ってますぜ」
【ティガー】 「いらねーよッ!」(笑)
【GM】 では、ティガーとファンリーは宿屋に帰って来た。
 ちょうど、ジーネたちが酒場で朝メシを食べてるところです。
【メイユール】 「おかえり」
【ジーネ】 「どこに行ってたん?」
【ティガー】 いいとこ。
【メイユール】 おみやげは?(笑)
【ティガー】 ないよ。金、ないのに。
【GM】 そう。おみやげどころか、ティガーは、キミたちの朝メシをうらやましそうに見てるよ(笑)。
【ジーネ】 じゃあ、ファンリーに端数の268フィスを渡そうか。
【シルヴィア】 これで、ティガーも朝メシにありつけるね。ファンリーが食べさせてくれるやろから。
【GM】 そういう感じで、いつものように楽しい朝食の時間は過ぎていった。
 みんなが食事後のお茶を啜っていると、アルヌーさんの遣いという男性がやって来た。
 そして、「これは昨夜のお礼です」と、6000フィスが入ったズシリと重い袋を、テーブルの上に置いた。
【ティガー】 ひとり1200フィス〜。
【メイユール】 おお、金持ち〜。
【シルヴィア】 ファンリーも頭数に入れてるの?
【ジーネ】 そりゃ、当然でしょう。
【ティガー】 そのひとに、「前髪王子の裁判って、いつあるの?」って聞く。
【GM】 「3日後です」と、遣いの男性は答える。
「そうそう、レギト王子には、王族の身分を詐称している疑いがかけられてます。
 告発人のティガーさんには、証言台に立っていただくことになりますので、よろしくお願いします」
【ティガー】 OK〜。
【ジーネ】 もし、前髪王子が偽レギトだったら、彼はどうなるの?
【GM】 「基本的に、王族の身分を詐称する者は、死罪となります」
【メイユール】 おお、ゴージャスやな。
【GM】 大きなリスクがあることにしとかないと、王族を騙る人間がたくさん出てしまうから。
【ティガー】 王子がいっぱい増えて、おもしろいのに。
【シルヴィア】 おもしろい、おもしろくないの問題じゃないやん(笑)。
【メイユール】 前髪王子、ピンチやな。
【ジーネ】 前髪王子だけじゃなくて、ティガーもピンチなんでは?
「自分が本物だ〜」とか言ってたのがバレたら、ティガーも死刑になるよ。
【GM】 用が済んだアルヌーの遣いは、酒場から去っていった。
 さて、正午に王城前の広場でゴルド解放宣言が行われるけど、キミたちはどうする?
【ティガー】 見に行く〜。
【GM】 キミたちが広場に行くと、すでに大勢の市民がひしめき合い、ものすごい熱気に包まれていた。
 広場の周囲には、屋台も出てたりする。
【シルヴィア】 お祭りやな。
【ティガー】 じゃあ、焼き鳥とか、りんごアメとかを買って食べてる。
「うまいわ〜」
【ジーネ】 さっそく無駄使い……。
【ティガー】 50フィスほど使うね。
【シルヴィア】 そんなに食べるんかぃ(笑)。
【ティガー】 足下に、いっぱい串とか落ちてるから(笑)。
【GM】 やがて、広場に面した城門の上のバルコニーに、宮廷魔術師アルヌーさんが姿を現した。
 人々の歓声と拍手が静まるのを待って、アルヌーさんは厳かに解放宣言をはじめる。
 ランダース軍の侵攻から、占領された後の市民の苦しみ、密かに活躍した解放組織の戦い、そして、「ここに悲願は成就された」みたいなことを、熱っぽく語ってる。
 最後に、これからのゴルド王国の体制を発表する。
 前国王の弟、ジャン-ルイ・シュレッサー王子の生存が明かされ、彼が王位に就くことが知らされた。まさに絶妙の演出で、ここで王子がバルコニーに姿を現す。
 市民は、いよいよ熱狂し、新国王にバンザイを叫んで手を振り、38歳の王も、晴れやかな表情でそれに応える。
【メイユール】 わたしらも、民衆と一緒に手を振る(笑)。
【ティガー】 「わ〜」って。
 焼き鳥に気を取られてるから、なんでみんなが喜んでるのか、よくわかってないけど。
【メイユール】 周りのひとが手を振ってるから、一緒に振ってみよう、って感じやな。
【GM】 時にレムリア暦529年8月30日。8年の間、ランダース王国の支配を受けたゴルドは、再び独立を果たしたのであった。
 ちなみに、ゴルド王国としては、まず何より国力の建て直しをしたいところだけど、秋祭りの後、11月に予定されている連合軍のランダース侵攻に、協力しないといけない。
 これは、オレンブルク王国との約束を果たすためと、邪神の眠る島のパワーバランスを保つために、どうしても必要なことやからね。
【ジーネ】 11月か〜。できれば、ゴルド軍と一緒に、ランダースへ行きたかったんだけどな。
【シルヴィア】 ま、それは後で考えよう。まずは、前髪王子の裁判でしょ。
【GM】 レギト王子の裁判は3日後だから、その間に何かやりたいことがあればどうぞ。とくに何もなければ、すぐに3日後にするけど。
【シルヴィア】 いいよ。
【ティガー】 どーせ、無駄な買い物しかせえへんし。
【GM】 では、3日経ちました。裁判の日の朝です。
 シルファス神殿のひとが宿屋にやって来て、
「本日、シルファス神殿の天秤の間において、謀反人レギト王子の裁判があります。
 レギト王子には、身分詐称疑惑もかけられており、告発人ティガーさんには、証人として出廷していただきます」と、告げた。
「裁判は午後からですので、遅れずに来てくださいね」
【ジーネ】 首に縄をつけてでも連れて行きますわ(笑)。

レギト王子とティガーの運命の事

【GM】 では、あっという間に午後になった。
 キミたちは、シルファス神殿の前までやって来たよ。
 噂を聞きつけてやってきたヤジ馬──傍聴人たちが、たくさん集まっている。
【メイユール】 「ええやろ〜。わたしら、中に入れるねんで」
【ティガー】 目立つかっこうして、神殿に入って行くわ。クジャクの羽みたいなのをいっぱいつけた冠とかをかぶったりして、フワ〜っと手を振りながら。
【GM】 ファンリーも、ティガーに同じようなかっこうをさせられて、ピンクの羽扇子を持たされてたりしてる(笑)。
【メイユール】 ごっついヒールの高い靴に、短いスカートをはかされてたりして。
【ジーネ】 ああ〜、ティガーとつきあってるばっかりに、ファンリーまで色物にぃ〜……。
【ティガー】 もう、手遅れ。
【GM】 そんなティガーに声をかけてくる、40代ぐらいの口髭を生やした紳士がいるよ。
 貴族の礼服のような衣装を身に纏い、ステッキを片手に持ち、シルクハットを小わきに抱え、オールバックにした髪を後ろで縛っている、パリっとしたハンサムなおじさまが、にこやかに微笑んでいる。
【ティガー】 誰? 乞食?
【GM】 うん。
【ティガー】 うわ〜っ!
【メイユール】 そのひとが乞食だと知ってるのは、ティガーだけやんな。
【GM】 そう。メイユールたちには、ただのカッコいいおじさまにしか見えない。メイユールの目は、ハートになっている(笑)。
【メイユール】 「しぶいわ♪」とか言ってそう。
「ティガー、あのひと誰よ? 紹介してよ」って。
【ティガー】 「俺の親父さ」
【メイユール】 じゃあ、挨拶してこなくちゃ。
「息子さんには、いつもお世話になってます」って(笑)。
【GM】 紳士は、「息子??」と、困惑している(笑)。
【ティガー】 メイユールに、「うっそ〜ん」って言うとこ。
【メイユール】 恥かいた!
【GM】 紳士は、「久しぶりですね、旦那」と、口髭をなでながらティガーに言う。
【ティガー】 「そうだね」と、口髭をなでながら応える。
【シルヴィア】 つけ髭までしてるのか?(笑)
【GM】 紳士は、ティガーに耳元に口を近づけて、「ところで旦那、気をつけてください」と、ささやく。
「レギト王子は、旦那が王族の身分を詐称してると、やり返すつもりらしいです。証言台での発言如何によっては、旦那もまずいことになりますぜ」
【メイユール】 さすがは情報屋。すべて知ってるんや。
【ジーネ】 乞食の言うことはもっともやな。前髪王子が王族を騙ってると証明できても、ティガーも王族の身分を騙ってるっていうことが、バレてしまうかも知れへん。
【シルヴィア】 切り抜けられるのかぃ?
【ティガー】 たぶん、大丈夫。
 で、乞食は何をしに来たん? 見物?
【GM】 このひとも証人。盗賊ギルドが、密かに依頼されて集めた情報や証拠などを、裁判長の前で提示する役目。
 もっとも、アルヌーさんの魔法の玉も登場するので、最後に被告本人が罪に間違いがないかどうか答えさせられて、それで白黒がはっきりするねんけどね。
【シルヴィア】 魔法があると、裁判も楽だね(笑)。
【GM】 では、紳士とキミたち5人は、裁判が行われるシルファス神殿内の“天秤の間”に入った。
 壁や、見上げるほど高い天井には、シルファスの教義が具現化して描かれている荘厳なステンドグラスが、採光のためにはめられている。
【ジーネ】 裁判所とは思えんようなところやな、なんか。
【シルヴィア】 基本的には神殿やから。
【GM】 傍聴席は、被告席、証言台を囲むように半円に並べられ、いちばん奥の一段高くなったところに、裁判官の席がある。
 その後ろには、天秤を左手に、剣を右手に持った、正義の女神シルファスの巨大な神像が立っている。
【ティガー】 天秤に何か乗せたろ〜。
【GM】 ティガーは、「こらこら、イタズラはやめなさい」と、警備の聖騎士にたしなめられてしまった。
【ジーネ】 おとなしく座ってなさい。ホントにもう。
【GM】 キミたちと紳士は、とりあえず、傍聴席のいちばん前に座ることになった。
【シルヴィア】 被告人はいる?
【GM】 いるよ。前髪王子が、被告席でしょんぼりしてる。自慢の長い前髪も、威勢なくしおれてる。
【メイユール】 前髪をバサーっとはね上げる元気もないんやな(笑)。
【GM】 あと、王子の後ろでカルファン騎士7名、さらにその後ろでならず者11名が、同じようにしおれている。
 反対側の席には、陪審員7名と、裁判長の前で罪状について言及する検事役のひとたち3名が、座っている。
 傍聴人たちも全員が席につき、ざわざわとしている。
【シルヴィア】 あとは、裁判官が現れるだけやな。
【GM】 しばらくすると、奥の扉から、黒い法衣を着用したひとりの小さな老人が、おつきの司祭2名を従えて、入場してきた。
 タンが喉に絡むのか、しきりに大きな声で咳払いしているその老人の腰は、ほぼ直角に折れ曲がり、杖をついてヨロヨロと歩く。顎には、床まで届こうかというほど長い白髭が生えている。
【ティガー】 「うわ〜、ヤギみたいや」って、仲間に言う。
【メイユール】 「あの髭、引っ張ってみたいなぁ」
【ジーネ】 しかし、ヤギだとかフクロウ親父だとか、よくもまあ──。
【ティガー】 動物園みたい(笑)。
【GM】 失礼なことを言うな。そのお方こそ、ゴルドのシルファス神殿長であり、裁判長でもあるんやから。
【ジーネ】 神殿長をヤギとか言ってると、隣からヒジ鉄をくらわすよ。
【GM】 木鎚を打つ乾いた音が法廷に響き、傍聴人たちは私語をやめた。
 そして、レギト王子の裁判が始まった。
 まずは、『アルヌー暗殺未遂事件』について審議される。
 乞食こと盗賊ギルドの紳士も、証拠提出のために証言台に立った。もちろん、証言台には、アルヌーの魔法の玉が置かれてあり、発言はすべて、その玉に手を載せて行われる。
 最後に、首謀者であるレギト王子本人や、共謀者のカルファン騎士や、ならず者たちが証言台に立ち、すべての罪を認めた。
 ここまでで、軽く2時間近く経ってるやろね。
【ティガー】 たぶん、俺は寝てる。「オムレツ〜」とか、寝言を言ってそう。
【ジーネ】 ティガーが寝そうになったら、横からガーンっと頭を殴るから。
【ティガー】 「なにすんねん〜!?」って、怒ったりするねん。
【GM】 そんなふうに騒いだりしたら、裁判長に、「しぇえしゅくにぃ!」と叱られるよ。あんまり怒らすと、このおじいちゃんの血管が切れてしまうから、気をつけてな。
【ティガー】 ヤギに怒られた〜。
【GM】 さて、アルヌー暗殺未遂事件の次は、レギトの身分詐称疑惑の裁判が行われる。
 では、告発人のティガーは、証言台に立ってください。
【ティガー】 何をしゃべればいいのか、わかりません(笑)。
「えぇ〜?! こんなとこ来ちゃったよ」って、仲間を振り返る。
「おーい」って、ファンリーに手を振っとこ。
【GM】 ファンリーは、「ティガー、がんばって」と、小さく手を振り返してくれた。
【シルヴィア】 何をしてるねん(笑)。
【ジーネ】 自分も死刑になるかも知れないんだから、危機感を持ちなさい。
【ティガー】 で、何を言えばいいの?
【GM】 基本的には、ウソ看破の魔法の玉に手を置いて、検事役のひとや、判事の質問に答えるだけでいい。
 ま、要するに、あの前髪王子が偽レギトだと断言する証拠を示せ、ってことやね。
 虚偽の罪で告発すると、告発人が罰せられることになるし。
【ジーネ】 で、証拠はあるの?
【ティガー】 ん〜、あるん……だよね。
【GM】 「では、その証拠を見せてくれませんか?」と、検事さん。
【ティガー】 証拠ねぇ……。
「だから、俺がレギトなんやって」
【ジーネ】 まだ言うのかぁ〜!
【GM】 魔法の玉は、光らない。
【ジーネ】 はい??
【GM】 法廷が、水をうったように、静まった。
【ジーネ】 魔法の玉が故障してるんちゃうか。
【GM】 そう思った裁判長のおつきの司祭が、魔法の玉を持って、「私は妻を心から愛している」と言ってみた。
 すると、魔法の玉は赤い光を放ち、「うん、壊れていない」。
【メイユール】 ……ということは、ティガーは、本当にレギト王子ってこと?
【ジーネ】 ま、そんな気はしたてたけどね。
【シルヴィア】 ホンマかいな(笑)。
【GM】 そんなこと、ひとことも言うてなかったやん(笑)。
【ジーネ】 だって〜。あれで王子って、信じられないじゃん。
【GM】 でも、GMが断言しちゃう。
 ティガーは、亡国カルファンの王族唯一の生き残り。
 王都レギト陥落の際、ふたりの冒険者によって助け出された、最後の王位継承者、レギト・グニク・イーニン・ハオト王子そのひとです。
【ティガー】 バレちゃった、てへっ。
【メイユール】 法廷が拍手で包まれたりして(笑)。
【GM】 そうやね。傍聴人の誰もが、このセンセーショナルな展開に驚き、固唾を呑んでいる。
 そして、しばしの静寂の後、「ブラボー!」と拍手し、口笛を鳴らして喝采を始めた。
 裁判長の「しぇえしゅくにぃ!!」という叫びを、かき消すほどの大騒ぎ。
【ジーネ】 私は目を点にして、呆然としてます。
【シルヴィア】 偽王子の反応は?
【GM】 ガタガタ震えて、ションベンをちびらせてる。
【メイユール】 「あーっ、漏らしてる〜!」(笑)
【ティガー】 「王子、汚ねぇー!」(笑)
【GM】 裁判長は、激しく木鎚を叩き鳴らしながら、声の限り、「しぇえしゅくにぃー!!」と叫ぶ。そして激しく咳き込んで、おつきの司祭さんに背中をさすってもらいながら、差し出されたお茶をすすってる。
 その頃には、ようやく、法廷も落ち着きを取り戻した。
【ジーネ】 やれやれ。
【GM】 ま、そんなにはっきりした証拠があるのなら、もうこれ以上の審議はいらない。
 あとは、有罪か無罪かを陪審員の意見で決め、有罪の場合、どのような罰を与えるか、裁判長が判断する。

新たな仲間の事

【ティガー】 「あ、でも、前髪王子やカルファン騎士を殺すのは、やめてな」と、言う。
【GM】 考慮しましょう。
 果たして、出された結果は有罪。
 前髪の男は、格別の温情をもって国外追放に、カルファン騎士やならず者たちは、執行猶予つきのムチ打ち100回の刑となった。
【メイユール】 “前髪王子”が“前髪の男”に格下げされた(笑)。
【ティガー】 そいつの名前、まだ知らんねんけど。
【GM】 名前は、ピエール・パチモーン。29歳。ただの冒険者です。
 525年のスパニア動乱のときに活躍し、調子に乗って、「自分はカルファン王国の王子だ」と触れ回り、だまされたカルファン騎士たちを仲間に引き入れた。
 さらには、王族を利用したいアルヌーの誘いに乗り、ゴルド解放組織に加入したんやね。
【ジーネ】 カルファン騎士たちは、レギト王子の顔を知らなかったんやろか。
【GM】 王子は──ティガーは、当時7歳やけど。それに、騎士といえ末端の者が、王族の顔をまじまじと拝謁する機会は、めったにないよ。
【シルヴィア】 村娘のファンリーは、王子の顔なんか、いちども見たことないやろな。
【ティガー】 まさか、隣におる奴が王子やとは、思ってなかったやろ。
【メイユール】 それは、仲間のみんながそうやん(笑)。
 でも、貧乏な王子やから、魅力に乏しいな。
【ティガー】 貧乏どころか、国があらへん!(笑)
【GM】 それでは、裁判も結審したんで、キミたち5人は宿に戻ることになった。
 外に出ると、ゴルドの街並みは、夕日に赤く染めあげられていた。
 別れ際、乞食紳士が、「あっしの情報収集力も、まだまだですなぁ。まさか、旦那が王子様だったとは」と、ティガーに言う。
【ティガー】 「あんたも、まさかパリっとしてたとはな」
【GM】 「ま、何かあったら、また、いつでも言ってきてくださいよ」と、紳士は握手して去って行った。
【ティガー】 「またな〜」
【GM】 そんなことを言いつつ、キミたちは宿屋に戻った。
 そして、1階の酒場で、王子様とともに会話のない夕食をするわけやね。
【メイユール】 「みんな、音を立てたらアカンで」(笑)。
【シルヴィア】 食べづらいなぁ(笑)。
【ティガー】 本人が騒音を立てまくるけど(笑)。「あっ、こぼした〜」
【GM】 いつもなら、そこで笑いが起こるねんけど、今日は、ズザーっと緊張が走る。ファンリーも含めて、みんな態度がよそよそしいから。
 シーンと静まり返って、仲間は、ティガーの一挙一動を注視している。
【ティガー】 「あれ〜?」
【GM】 でも、大丈夫。ティガー自身に変化がないので、そのうち、みんな元通りになる。
 しばらく疎遠になるファンリーとも、三日月の夜のドラマで、前よりももっと仲良くなれるから(笑)。
【ティガー】 やったー!
【メイユール】 どんなドラマやったんや。
【GM】 それは、ティガーとファンリーしか知らない。GMも知らない(笑)。
【メイユール】 気になる〜。
【GM】 というわけで、翌朝になったよ。
【ティガー】 前髪王子は、まだゴルドにいる?
【GM】 今日、国外追放になるよ。荷物をまとめて、大陸へ帰るらしい。
【ティガー】 見送りに行こうっと。
【ジーネ】 イヤミでしかないぞ。
【GM】 ティガーが東の街門に行くと、ちょうど、衛兵たちに護送されてきた“前髪の男”パチモーンが、とぼとぼと街を後にするところだった。
【メイユール】 寂し〜。
【ティガー】 「おーい、前髪〜」
【GM】 振り向いたパチモーンは、ティガーを見て、おびえた様子で「な、なんだよぉ」と、言う。
【ティガー】 うわ〜、そんな。おびえられた(笑)。
「俺らの旅が終わったら、一緒に冒険しようぜ〜」って言う。
【GM】 ピエール・パチモーンは、にっこり笑った。
【ティガー】 前髪王子は、これからどこに行くの?
【GM】 オレンブルクで出直しを図るらしい。
【ティガー】 じゃあ、「ミフォア大神殿の近くの、店主が黒ずくめに殺された宿屋の隣の宿屋で待ってろよ」と言う。
【GM】 「わかったぜ!」と、パチモーンは前髪をバサーっとはね上げ、手を振って去っていった。
【メイユール】 立ち直ったな(笑)。
【ティガー】 わーい、仲間が増えた。
 じゃあ、宿屋に帰ろっと。
【メイユール】 そんなに無駄に仲間を増やして、どーすんの?(笑)
【ジーネ】 さて。私らは、ランダースに行かんとアカンわけやけど。
 船で海から行こうか、スパニア砂漠を越えて歩いて行こうか。
【シルヴィア】 船が出るなら、船に乗せてもらおう。アルヌーさんにかけあってみる。王子を連れて行けば、簡単に会えるはず。
【ジーネ】 その王子は出かけとりまんがな。
【メイユール】 じゃあ、酒場で酒でも飲みながら、王子が帰ってくるのを待ってよう。
【GM】 メイユールたち3人が、酒場でティガーの帰りを待ってるところに、7人のカルファン騎士たちがやって来たよ。
【メイユール】 全員、男?
【GM】 男です。
【メイユール】 むさ苦しいな。
【ジーネ】 たしかに。むさ苦しいわぁ〜!
【GM】 カルファン騎士たちは、「王子はおられますでしょうか?」と、聞いてくる。
【ジーネ】 「なんか、出かけて行きましたけど」
【シルヴィア】 「どうせ、どこか街中をフラフラしてるねん」
【ティガー】 じゃあ、そこにわたアメ持って帰ってくる。
「売ってた〜。うまいよ、これ」
【メイユール】 「それ、どこで買ったの?」
【ティガー】 「広場の屋台」
【メイユール】 じゃあ、わたしも買いに行きます。
【GM】 ファンリーも、メイユールと一緒に買いに行った。
 後に残ったのは、ティガーとシルヴィアとジーネ、そして、7人のカルファン侍たち。
【シルヴィア】 侍なんかぃ。
【GM】 カルファン騎士たちは、ティガーの前に跪く。
【ティガー】 「わたアメがほしいの、ウソぉ?」と言って、わたアメをバっと後ろに隠す(笑)。
「7人も、あげられへんで?」
【GM】 いや、別にわたアメが欲しいんとちゃうから(笑)。
 騎士たちは、「王子、数々のご無礼をお許しください」と、言ってるよ。とくに、キミを小僧呼ばわりしてたおっちゃんは、恐懼して頭を下げている。
【ティガー】 「別にいいけど。でも、そんなんされらたら、困るんやけど」
【GM】 そうやね。酒場の主人や他の客たちは、何事かと、キミのほうを注目してるし。
【ティガー】 頭を掻いてよっと。
「困ったな〜。わ、わたアメ、食べていい?」
【GM】 騎士たちは、口々に「どうぞ、どうぞ」と言う。
【ジーネ】 何をどうしたら、こんな王子に育つんや? きっと、国から逃げた後は、ひとりで暮らしてたに違いない。
【GM】 いや、ひとりではないよ。育ての親がいる。
 カルファン王国のタイガーファング城が陥落するとき、王子を連れて脱出した、ふたりの冒険者のうちの片方。
 その人物が、オレンブルク王国の片田舎、リバルという小さな農村で、ティガーを育てた。
【ティガー】 そいつが悪かってん(笑)。
【GM】 あながち否定できないのが悲しい。
【シルヴィア】 それで、カルファン騎士たちの用事は、なに?
【GM】 彼らは、ティガーに「配下に加えてほしい」と、申し出る。
【ティガー】 いいけど、今? ついてくるの?
【GM】 そう。王子の身に何かあれば、一大事やから。
 ティガーは、祖国復興を願う彼らの、最後の希望の星。キミの下につくことを、切に願ってる様子。
【ティガー】 マジで?!
【ジーネ】 イヤや。やめて。
【ティガー】 「──という意見があるんやけど……?」
【GM】 悪いけど、カルファン侍たちは、ジーネのことは無視する。忠誠を誓うのはティガーに対してであって、ジーネにではないから。
 だから、仲間の意見に耳を貸すことは重要やけど、最終的には、ティガー自身が決断して。
【ティガー】 じゃあ、まあ、ついてきてもいいよ。
「でも、そうやって堅くなられるのは、イヤなんやけど」って言う。
【GM】 「ははッ、かしこまりました!」と、ペドロ・チャベス。
「みんな、王子のご命令だ! やわらかくしろッ」
【ティガー】 だから、それがいやなんやって!(笑) 敬語はイヤや〜。
【メイユール】 それはやわらかくなってるの?(笑)
【GM】 彼らにとっては、精一杯のやわらかさ。もう、ティガーを小僧呼ばわりすることは、できないけど。
【ティガー】 うわ〜、仲間が増えたなぁ。
【ジーネ】 目立つなぁ。ファンリーが見つかりやすくなってしまうやないか。
【GM】 ……。ん〜っとね、GM的につっこんでもいい?
 以前、ファンリーの魂には暗黒神の烙印が押されてる、って説明した。
 そのとき、こうも言うたやん?
「そのせいで、邪悪な者を魅きつけ、高レベルな魔術師には、魔法でもってその存在場所を感知されてしまう」──って。
【メイユール】 つまり、ファンリーの存在は、常にランダース側に知られてるってこと?
【GM】 そう。
【シルヴィア】 つまり、ファンリーを隠そうとしても、無駄ってことやね?
【GM】 そういうこと。
【ティガー】 偽名を考えたり、変装させたりしたのも──。
【GM】 その心意気は評価するけど。
【シルヴィア】 ……俗にいう『無駄な努力』やったんやな。
【ジーネ】 なんでじゃあーッ!!

÷÷ つづく ÷÷
©2003 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2003 Jun Hayashida
Map ©2002 Moyo
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