≪REV / EXIT / FWD≫

§烙印の天使:第11話§

椅子かじりの予言者

著:龍神裕義
▽ 予言されたファンリーの事 ▽ 酒場の再会の事 ▽ ジーネ、悩む事

予言されたファンリーの事

【GM】 というわけで、眼下にウィスの街が見えてきたところから、続きやね。
【ティガー】 じゃ、街へ行こう。
【GM】 街に続く道の傍らのゆるやかな斜面には、ブドウ畑が広がっている。今は7月の下旬、熟れはじめたブドウの甘い香りが漂っている。
【ティガー】 ブドウを取る。
【GM】 ティガーは「コラーッ!」と、農夫のおっちゃんに怒られてしまった。「何をしとるかぁー!」
【ティガー】 「取った」
【GM】 そんなことをして、捕まっても知らんぞ。
 ウィス王国の名産は、ワイン。オムスク地方の水は、生では飲めないから、こうしていちど果実などに吸わせてから、人間が水分を摂取してるんやね。
 ワインは酔っぱらうためにではなく、日常の飲料水として飲まれてる。
【シルヴィア】 なるほど。
【ジーネ】 飲料水なら、ブドウジュースでいいのでは?
【シルヴィア】 それだと、保存がきかないでしょ。
【GM】 日用品がゆえに、ここのワインは、ほとんど安物。安物でもめちゃくちゃおいしいけどね。
 他に、外国向けに嗜好品としてのワインも作っており、ウィス王国の重要な財源となっている。『ジャスティス』という銘柄は、大陸でも有名な高級ワイン。
【シルヴィア】 ということは、ブドウそのものの質もいいんやな。
【GM】 そう。だから、勝手に取ったりしないように(笑)。
【ティガー】 もう、もろたもん。
【GM】 何か、ワインの国みたいな感じの紹介になってしまったけど、ウィスは神聖王国と称されており、至高神シルファスを国教としている、法と秩序の国です。
 王城のそばには大きなシルファス神殿があり、国政に対しても、影響力を持っているらしい。
【ジーネ】 宗教が政治を支配してるのって、すごい危ないんじゃない?
【シルヴィア】 この世界には神様が実在してるから、一概にそうとも言い切れない。
【ティガー】 というわけで、ウィスに入る。
【GM】 キミたちが街門に近づくにつれ、大勢の旅人たちが列をなして並んでいるのが見えてきた。
 入国の認可証を持ってる者は、すんなり入れるけど、そうでなければ、門の横にあるテントで、身分を明かさなければならない。列は、その順番待ちやね。
 キミたちと同行しているキャラバンは、認可証を持ってるので、衛兵にそれを見せて、街に入っていった。
【ティガー】 じゃあ、衛兵にブドウを見せて、「入っていい?」と聞いてみる。
【GM】 ここは、法と秩序の神聖王国。その衛兵は、いちばん上のボタンまでピシっと留めている。
 衛兵は、ニコリともせず、「認可証を持ってないのであれば、あっちのテントで入国の申請をしてきたまえ」と、列を指さす。
【ジーネ】 私も、パタパタと身だしなみを整えとこう。
【シルヴィア】 じゃあ、列に並びましょうか。
【GM】 では、数時間待たされた後、キミたちの審査の番が来た。
 テントの下には6人ほどの役人がいて、キミたちの氏名と、生まれと、入国の目的を尋ねてくる。
【ティガー】 「カルファン生まれのティガーで、ブレインに渡りに来た」
【ジーネ】 もしもし? あなた、オレンブルクの生まれじゃなかったっけ?
【ティガー】 ん、ファンリーのまねをしてみた。
【ジーネ】 そりゃあ、カルファンの剣を持ってるし、信じるかも知れないけどさ〜。
【シルヴィア】 こんなところでウソをついちゃ、ダメだよ。僕は普通に、「セフェリア王国の生まれのシルヴィア・アクアマリンで──」と答える。
【GM】 ファンリーも、「カルファン王国生まれのファンリーです」と名乗った。
 すると、役人たちは顔を見合せる。
【ジーネ】 何やろ?
【GM】 役人のひとりが、ファンリーに「オレンブルク王国の、ミフォア神の侍祭様でありましょうか?」と、尋ねる。
 ファンリーが「そうです」と答えると、役人たちはまた顔を見合わせて、「あれが予言の……?」とか、ゴニョゴニョ囁き合う。
【ティガー】 「何の話や?」と、つっこむ。
【GM】 じゃあ、答えてあげよう。役人の話によると、先日、このウィスでちょっとした騒ぎがあったらしい。
 街の神殿にある、レベル1やレベル0のシルファス神官たちが寝泊まりする寄宿舎を、バンパイアが襲撃した。
【ジーネ】 今、レベル0と言わなかった?
【GM】 言ったよ。冒険者レベルが0ってこと。一般技能のクレリック技能の保持者、要するに、神の奇跡を起こせない神官ってことやね。
【ジーネ】 それって、単なる熱心な信者なのでは……。
【GM】 司祭や神官は、すべからく熱心な信者だが、何か?
【シルヴィア】 神の声が聞こえない信者のほうが、数は多いんやで。神聖魔法が使えるのは、あくまで選ばれた存在の人だけです。
【ティガー】 それにしても、バンパイアって……どっかで聞いたな。
【GM】 そのバンパイアの襲撃で、宿舎は上へ下への大騒ぎ。
 そのとき、ひとりの男が颯爽と現れた。
 フードを目深にかぶっていたので、若いのか年寄りなのかはわからなかったけど、とにかく、「カーッ!」と気合一発で、そのバンパイアを追い払ってくれたという。
【シルヴィア】 おお。
【GM】 シルファス神殿は、信徒たちを助けてくれたお礼のもてなしするために、質素ながらも彼を夕食に招いた。そこでもフードを取らない謎の人物は、そのとき、ひとつの予言をしたらしい。
 これがまた、大変なものやった。
【ティガー】 どんな予言や?
【GM】 「やがて、この地にひとりの娘が現れる。その名を、ファンリー。彼女は、大地母神ミフォアの司祭ながら、その魂には、呪いによって暗黒神クートラの印が刻まれている。
 ファンリーの魂から、暗黒神の印を消さない限り、この世は、常に破滅の危機に晒されるんとちゃう〜?」
【ティガー】 最後はなんや!(笑)
【ジーネ】 疑問形の予言なんて、聞いたことないよ。
【GM】 そして予言者は、忽然と姿を消したという。
 で、まあ、ウィス王国はこうして訪れる者を調べて、やがて来るという、ファンリーなる娘を探してたんやね。
【シルヴィア】 なるほど。
【ジーネ】 そこまで信用できる予言者やったわけね。
【GM】 そうやろな。少なくとも、バンパイアから神官たちを救ってくれたわけやし。ま、椅子をかじる変な人物やったけど。
【ジーネ】 ちょっと待てぇー!
【ティガー】 あいつかー!(笑) だから、疑問形の予言やったんや。「あちゃ〜」と言うとこ。
【GM】 役人たちは、「そういうわけなので、ファンリーさんは、我々シルファス神殿が預かります」と言う。
【ティガー】 じゃ、ついてく。
【ジーネ】 私も行きますよ。シルファスの司祭やし。
【シルヴィア】 護衛ですから。
【GM】 じゃあ、みんなゾロゾロとついてくるわけね。では、ふたりの衛兵に案内されて、キミたちは、シルファス神殿に向かう。
 街門をくぐってすぐのところにある、北広場を抜けてしばらく行くと、王城の前の中央広場に出る。そこには、大きな時計台が立っていて、ウィスの名物となっている。
【ジーネ】 きっと、私は時計なんて見てもわかりませんわ。
【GM】 まあ、珍しい物であることには、違いないけどね。金持ちの家などには、振り子時計があったりするから、ティガーやシルヴィアは、目にしたことがあるかも知れない。
 ちなみに、この時計台は古代の遺産で、半分以上壊れてしまっていたのを、ドワーフの天才技師ドゥエイン・ボーザの一族が、3代に渡って再建したもの。160年かかって、44年前に完成しました。
【ティガー】 カバンタが見たら、また「巨人やー」って石投げてそう。
【GM】 広場には大勢の人がいて、その中にはもちろん、シルファス神殿に参拝する者もいる。
 そのシルファス神殿は、王城の隣にあり、城とともにウィス王国の中枢をなしている。
 キミたちは、シルファス神殿の前にやって来た。
【ティガー】 中に入ったって、ええやんな?
【GM】 いいよ。キミたちは、ファンリーとともに、衛兵に案内されて中に入る。
 ややこしい手続きを踏んで、神殿のあちこちを回されながら、ようやく上位の男性司祭のもとにやって来た。
 衛兵たちは、これで任務終了、また、街門の入国審査に戻っていった。
【ジーネ】 さいなら〜。
【GM】 司祭の男性は、「あなたがファンリーさんですね」とファンリーに言う。「そちらの方々は?」
【ティガー】 仲間。パーティ・メンバー。
【ジーネ】 「シルファスの司祭のジーネです」
【GM】 「ようこそ、シスター・ジーネ」と、司祭は言う。「それでは、ファンリーさんには、これから呪いを解く儀式を受けていただきます」
【ティガー】 やってみ。たぶん、無理やと思うけど。
【GM】 バカにしちゃいけないなぁ。なんと、シルファス神殿長である、ネルソン・マイオール司教63歳自らが、〈リムーブ・カース〉の儀式を施してくれるんやぞ。
【シルヴィア】 神殿長が? それはすごい。
【GM】 そりゃ、あれだけ不吉な予言を聞いてしまったら、力が入るというもの。神殿長は、やる気満々だそうです。
【ジーネ】 「微力ながら、お手伝いさせていただきたのですが」と、言ってみる。
【GM】 すると司祭は、「それには及ばないそうです」と答える。
「神殿長が行う〈リムーブ・カース〉は、より大きな奇跡を求めるため、通常よりも、高度でデリケートなものになるとのこと。それ故、我々とて、お手伝いすることが叶わぬらしいのです」
【シルヴィア】 ということは、神殿長がひとりで儀式をする、ってこと?
【ティガー】 怪しい!
【ジーネ】 「怪しいよな〜」と、心の中で思うとく。ホントに私は、シルファスの司祭なんだろうか(笑)。
【ティガー】 何分ぐらいで終わるの、その儀式。
【GM】 「1週間かかるそうです」。その期間はずっと、儀式の間にいることになるね。もちろん、キミたちがそこに立ち会うことは、できないよ。
【シルヴィア】 ここでファンリーと別れるわけやな。
【ティガー】 シャーマン・レベル3、おらんのか! 〈インビジビリティ〉〜!
【GM】 「それではファンリーさん、こちらへ」と、ファンリーは奥に案内されてゆく。

酒場の再会の事

【ジーネ】 別れる前に、「何かあったら、すぐに大声で知らせるのよ」と、ファンリーに言っておく。
【シルヴィア】 ファンリーって、あんまり大きな声を出せそうにないイメージなんやけど、大丈夫かな。
【ジーネ】 しかし、ウィスの街にも、ミフォア神殿はあるんやろ。ミフォアの司祭を、なんでシルファス神殿で預かることになったんや。ミフォア神殿が儀式をしてもかまわんのと違うんか?
【シルヴィア】 高度な〈リームーブ・カース〉を行うことができるのが、ウィスにおいては、シルファス神殿長のネルソンさんしかいないんやろ。ここでいちばん勢力を持ってるのは、シルファス神殿なんやし。
【ジーネ】 まあ、そうやけど、シルファス神殿がミフォアの信者を助けるというのは……。
【GM】 光の神同士ならば、宗派の違いはこだわらなくてもいいと、何度も言ったはずやろ? ミフォアの信者だからミフォア神殿が助ける、シルファスの信者だからシルファス神殿が助ける、他の奴らは手を出すな、なんてことはない。
 現実の世界ではどうか知らんけど、レムリア大陸においては、光の神の信者同士ならば、「困ったときはお互いさま」と考えて行動する。同じ神の下の兄弟でなくても、いとこぐらいの認識はあるから。
【ジーネ】 ミフォア神殿のほうに、ファンリーのことについて聞きに行ってみようかなぁ。う〜ん、う〜ん……行ってもいい?
【ティガー】 うん、いいよ。
【ジーネ】 じゃあ、行ってきま〜す。てってって。
【GM】 では、ジーネはミフォア神殿にやって来た。穏やかな男性神官が、「ようこそ、いらっしゃいました。至高神シルファスの司祭よ」と迎えてくれる。
【ジーネ】 「ミフォアの司祭のファンリーのことで、お尋ねしたいんですが」
【GM】 「?? ……誰ですか、それは?」
【ジーネ】 そんなこと言われたら、パタっと倒れまんがな。
「暗黒神の印を魂に刻まれた女の子がウィスに来る、という予言の話は、聞いてますでしょうか?」
【GM】 「聞いたことがありますよ。それで衛兵さんたちが、入国する人たちを審査してますね」
【ジーネ】 「私たちは、彼女の護衛でウィスまで来たんですが」と、かくかくしかじか丸書いてちょん、とこれまでの事情を説明して、「今から、シルファス神殿で呪いを解く儀式をやるんですが、ミフォア神殿はそれを関知してないんですか?」と、尋ねる。
【GM】 関知というのは? 彼らも、「予言の娘が出現しだい、ネルソン司教が儀式を執り行う」ということは、知ってるようだけど。
【ジーネ】 儀式に関わったりしないの、ってこと。
【GM】 すると、その男性神官は「さて、おかしな話ですね」と首を傾げ、カップにお茶を注ぐ。
「ネルソン司教様は、偉大なお方です。我々が横ヤリを入れたところで、足手まといにしかならないでしょう。もちろん、求められれば、協力は惜しみませんが」
 そして、入れたばかりのお茶を啜って、「あなたもどうですか、一杯。オレンブルクから取り寄せた、ミフォア茶ですよ」と、ジーネに勧める。
【ジーネ】 「……いただきます」
【ティガー】 なごんでるぅ〜。
【ジーネ】 別に、なごみたいわけじゃなかったのにぃ。お茶を飲んだら、シルファス神殿に戻ります。
【GM】 了解。その間、シルファス神殿に残ったティガーとシルヴィアは、何をしてたのかな?
【ティガー】 んーと、呪いを解く儀式をやってる1週間、ファンリーは絶対外に出てこられへんの?
【GM】 そうやね、儀式の間は、籠もりっぱなしになるとのこと。
【ティガー】 怪しい〜。1週間もかかるなんて、おかしい!
【GM】 ──と、ティガーは言うんやね。ニョムヒダの像を泣かしながら。
【ティガー】 泣かさへん〜。ニョムヒダで遊ぶんはもう飽きたから、荷物と一緒に背負っとく。戦闘のときにしか、使わへん。
【シルヴィア】 戦闘のときにこそ、使って欲しくないなぁ(笑)。
【ティガー】 とりあえず、ファンリーを奥に案内して行った奴は、戻ってこない?
【GM】 さっきの男性司祭のことかね。じゃあ、「お仕事、お仕事」とか言いながら、通りかかろうか。
【ティガー】 襟を掴んで捕まえる。ぴしっ!
【GM】 「あうっ」
【ティガー】 そいつに「1週間したら、ファンリーは絶対帰ってくるねんな?」と聞く。
【GM】 司祭は、「そりゃ、そうでしょう」と答えるよ。
【ティガー】 「帰ってこんかったら、知らんで。とりあえず、神殿長の首が飛ぶからな。8レベル・ファイターの俺様が──」
【ジーネ】 誰が8レベル・ファイターやねん。
【ティガー】 レベルを2倍にして言うてみた。
【GM】 司祭は「何を言ってるんですか、あなたは?」と、困惑してるよ。
【シルヴィア】 ティガーの肩に手を置いて、止めてやる。
【ティガー】 「このように、力強い仲間も──」(笑)
【シルヴィア】 もう、引きずって外に出ていくよ。
【GM】 それをきょとんと見送った男性司祭は、「ああ、そうだ。掃除をしなくちゃ」と、仕事に戻っていった。
【ティガー】 ちくしょー、俺の話、聞いてねぇな!
【シルヴィア】 ティガーに、「おまえ、もうちょっと頭を使えよ」と言う。
【ティガー】 知力15!
【シルヴィア】 いや、だから、その知力を有効利用しなさい。せっかく、知力が15もあるんやし。
【ティガー】 力がすべて!
【GM】 さて、シルヴィアとティガーが外の広場に出たところに、ジーネがミフォア神殿から帰って来たよ。
【ジーネ】 「なんかもう、ミフォア神殿って全然ダメだったよ」
【シルヴィア】 何を期待してたん?
【ジーネ】 そりゃあ、ファンリーのことで、もうちょっと必死になってくれるとか……。
【シルヴィア】 ちょっと、都合よすぎやな(笑)。
 まあ、ウィスでいちばん勢力を持ってるのがシルファス神殿やし、そこが取り仕切ると言ってる以上、でしゃばって余計な不興を買いたくないんでしょう。
【ジーネ】 どうしよう、どうしよう。毎日シルファス神殿に通って、様子を伺いに来るぐらいのことしかできんか。儀式の部屋を探ってもらおうにも、シーフがおらんのよなぁ。
【ティガー】 シャーマンが欲しいなぁ。レベル3! それ以上はいらん!
【シルヴィア】 むちゃ言うなぁ。
【ジーネ】 いざとなったら、ファンリーを取り返せるように、1週間かけて、シルファス神殿の構造を調べれるだけ調べようかな。神殿に泊り込みとかはできるかな?
【GM】 できるよ。ただし、ちゃんと奉仕活動をするよーに。
【ジーネ】 じゃあ、そこで掃除とかをするふりしながら、神殿の内部を詳しく調べる。とりあえず、儀式をやってるところを確認しておきたい。
【GM】 それは神殿の奥の奥。渡り廊下をず〜っと進んで、つきあたりの階段を下って、地下に潜った先にある礼拝堂。
【ジーネ】 地下にあるんかぃ!
【GM】 じっさいには、半地下。採光のためのステンドグラスの天窓があるし。
【シルヴィア】 厳かな雰囲気を演出してるんやな。
【GM】 ちなみに渡り廊下には、聖騎士の見張りが立ってるんで、むやみに儀式の間に近づこうとしたら、怒られるよ。
 で、ティガーとシルファスは、どうすんのかな?
【ティガー】 今は何時ぐらい?
【GM】 もう、日が沈みかけて、東の空が藤色になってきている。
【ティガー】 シルファス神殿の裏で、見張ってたいんやけどなぁ。黒ずくめとかが現れたら、すぐにわかるように。
【ジーネ】 でも、至高神が権威を持ってる街だから、野宿とかしてると怒られるかも。
【ティガー】 んじゃ、見張るのは昼間だけにしとこ。夜はしょうがないから、宿屋に泊まる。
【シルヴィア】 ということは、今から宿屋に行くわけやな。僕も一緒に行くよ。宿屋の酒場で、オヤジにシルファス神殿についての噂を尋ねてみる。評判とか。
【GM】 じゃ、ふたりは宿屋にやって来た。
 オヤジの話だと、シルファス神殿の評判は、悪くない。けっこう尊敬されてるみたいやね。
「彼らのおかげで、ウィスは、法と秩序が遵守される国になってるんですよ。道は、右側通行ですしね」
【ティガー】 ゴミ捨てたら罰金とか。
【シルヴィア】 シンガポールや(笑)。それで、神殿長のネルソンさんの評判はどうですか?
【GM】 ネルソン司教も同じ、人望も厚いし、街の人々から敬われているようやね。迷える小羊を導いてくださるし。
【ティガー】 んー、1週間やることがない。とりあえず、晩メシでも食ってる。
【GM】 するとティガーは、酒場の隅っこに、見覚えがある後ろ姿を見つける。ちなみに、シルヴィアには心当たりはない。
【ティガー】 誰?
【ジーネ】 そりゃあ、椅子をかじる人でしょう。
【GM】 いや、違う。バンパイアの館で見たことがある、50代ぐらいのおじさん。お茶を運んでくれたり、部屋を掃除してたりした人物やね。
 向こうのテーブルで、背中を丸めて、忙しくスプーンを口に運んでスープを啜ってるよ。
【ジーネ】 サンチョスか。
【ティガー】 どーしたろっかな〜(ニヤリ)。
【シルヴィア】 何、その笑顔は。
【ティガー】 サンチョスのところに行って、肩をポンっと叩いてやる。「また、会ったねぇ」
【GM】 振り返ったおじさんは、目を見開いて驚く──あ、ちなみに瞳は赤くないから。そして慌てて視線をそらして、「ひ、人違いじゃないですか」。
【ティガー】 サンチョスの隣の席に座る。「まあ、一緒にメシを食おう」
【シルヴィア】 僕もおじさんの隣に座ろう。事情はわからんけど、ティガーの知り合いみたいやし。
【GM】 おじさんは、ティガーとシルヴィアに挟まれてしまったんやね。「な、何ですか、あなたたちは」と、怯えた様子。

ジーネ、悩む事

【ティガー】 「人違いなら、怯えることないんじゃな〜い?」
【ジーネ】 新手のオヤジ狩りかと思ってるのかも。
【ティガー】 「そういえば、この街で、バンパイアが騒ぎを起こしたらしいな」
【GM】 おじさんは「そうらしいですね、大変ですね」と、そわそわ答えて、「──ごちそうさまでしたっ、お勘定!」と、席を立つ。
【ティガー】 こらッ、待てぇ!(笑) 「サンチョス!!」
【GM】 「はいぃ〜」と、おじさんは硬直する。
【ティガー】 やっぱり(笑)。「この街で何かしたん?」
【GM】 「い、いえ。別に、カバンタ様に何か頼まれたわけでは、ありません」
【ジーネ】 『カバンタ様』ァ?!
【シルヴィア】 いつの間に(笑)。
【ティガー】 カバンタに、何か頼まれたんやな。何を頼まれてん。「言ってみろ」ってゆうか「言え!」
【GM】 騒ぎになりかけてるのを見た酒場のオヤジが、カウンター越しに、「おい、こんなところで騒ぎを起こしてると、聖騎士様たちにしょっぴかれるぞ」と、注意する。
【ティガー】 じゃあ、部屋に連れ込む。
【ジーネ】 部屋はまだ取っとらへんやろ?
【ティガー】 今、取った。サンチョスの首根っこ捕まえたまま、部屋を取った。2階に上がる。
【GM】 「きゃ〜」と細い悲鳴をあげて、引きずられてゆく50代のおっちゃん。他の客たちは「なんや?」と思って見てるで。
【ティガー】 そんなん、知らん。
【シルヴィア】 ただならぬ雰囲気を感じて、僕もついて行くよ。
【GM】 じゃ、2階の4人部屋にやって来た。しかし、力ずくやな、キミらは。
【ジーネ】 今までだって、私たちの交渉って力押しやったやんか(笑)。
【ティガー】 部屋に入ったら、サンチョスを床に放り投げて、尋問する。
「さあ、何をやったんか、言うてみ?」
【GM】 「えっとね、あれはそうさなぁ、もう2年も前のこと──」
【ティガー】 いや、違うって。ここ1週間でいいから、何があって、ウィスで何をしたんか言え。
【GM】 はいはい。じゃあ、順を追ってお話しましょう。
 どうやらサンチョスは、バンパイアの館でキミたちに見逃してもらった後、ロンデニアを出たカバンタと森でばったり再会して、部下にさせられたらしい。
【ジーネ】 いったい、どうやってアイツは……。
【GM】 なんでも、「椅子をかじるぞ」と脅されたらしい。
【ティガー】 脅されとん、それ?(笑)
【GM】 そして、ふたり連れの珍道中を経てウィスに到着したとき、カバンタから「神官たちの宿舎で暴れてこい」と、命令されたらしい。
「それでしかたなく、暴れてきただけなのです」と、サンチョスはしおしおと白状する。
【ティガー】 ……ぱこんっ!
【GM】 「あうっ! なにするですか、ちゃんと答えたじゃないですか」
【ティガー】 答えたから、平手打ちで勘弁してあげてん。
【GM】 そうなんか。サンチョスは、「私の話は以上です。じゃ、これで失礼」と、部屋から出てゆくよ。
【シルヴィア】 待て待て、まだ聞くことがある。
【ティガー】 カバンタはいったい、どこにおるんや?
【GM】 サンチョスは、「カバンタ様は、別に誰にも変装してませんよ」と答えかけて、慌てて口を押さえる。
【ティガー】 変装したん!? 何に化けたん?
【GM】 「ムームー」と、口を押さえたまま、首を振る。
【ティガー】 ずんばらりんといくで。言えよ! 何をするつもりやねん。
【シルヴィア】 剣に手をかけて脅すわけやな。
【GM】 しゃあないな〜。「よくは知らないんですけどぉ、何か『偉い人に化けて、儀式をするふりをして、娘を連れて行く』と、言ってたような、言ってなかったような……」
【ジーネ】 さあ、神殿に知らせに来て〜。
【ティガー】 とりあえず、サンチョスは縛り上げて、ベッドの上にでも放置しとく。
【GM】 「なにするですか〜!」
【シルヴィア】 そこで反省してなさい。じゃあ、シルファス神殿に行きますか。
【GM】 では、ティガーとシルヴィアは中央広場の、シルファス神殿前まで来た。
 しかし、すでに辺りは夜闇。神殿の門は閉ざされ、ふたりの聖騎士が、警備に立っている。
【ティガー】 見張りに、「ジーネはいない?」って聞く。
【GM】 「こんな時間に何だね、キミは」
【ティガー】 「この神殿におる、ジーネに用事があるねんけど」
【GM】 「ジーネというのは何者かね?」
【ティガー】 「えっと、昼間、呪いを解く儀式とかいうて連れて行かれた、ファンリーの仲間。俺らもその仲間。ジーネを呼んで来てくれ」
【GM】 質素な夕食を終えたジーネは、神殿内の巡礼者の宿舎の共同部屋でくつろいでいる。
 そこへ、聖戦士の衛兵が「表の広場で、仲間の方がお待ちです」と、呼び出しに来た。
【ジーネ】 じゃ、外に出てみる。ティガーたちに、「どしたん?」と聞く。
【ティガー】 サンチョスから聞いた話を、教えてあげる。
「〈リムーブ・カース〉の儀式をしようとしとる奴は、じつはカバンタでな〜、変装してるらしいねん。で、ファンリーを連れ去るつもりらしいねんけど」
【ジーネ】 「……そこまで魔道に堕ちたか、あの男め」と、モーニングスターで地面を叩く。
【GM】 すると、石畳がめくれあがる(笑)。衛兵たちが「なんだ!?」と見る。
【シルヴィア】 急いで直さんと、捕まってまうで(笑)。
【ティガー】 とりあえず、どうしよう。ファンリーを連れて行くんなら、もう港にでも行ってそうな気がするけど。
【ジーネ】 ティガーたちは、港に行ってくれ。私は神殿の中を探ってみるから。
【ティガー】 OK〜。
【GM】 では、ティガーとシルヴィアは、港に行った。ジーネは神殿に戻ったけど、どうすんの?
【ジーネ】 昼間、「近づいてはいけない」と言われた儀式の間のところに、できる限り近づいてみる。
【GM】 できる限りといっても、儀式の間に続く渡り廊下には、とうぜん、ふたりの聖騎士がハルバートを手にして見張りに立ってる。
「こんな時間に何をしてるのかね? 早く部屋に戻りなさい」
【ジーネ】 「ファンリーに、火急に伝えたいことができたんですが、取り次いでもらえないでしょうか」
【GM】 「申し訳ないが、それはできない。現在、神聖なる場で、重大な儀式が行なわれている最中なのだ。
 1週間は外界と隔てられなければならず、ここで儀式を中断するわけにはいかない」
【ジーネ】 その聖騎士たちって、様子は普通? 操られてそうとか、そんな感じではない?
【GM】 操られたりしてる様子はないね。任務に忠実そうな顔をしてる。任務のためなら、今日は一睡もしない、あくびもしない、蚊に刺されても動かない、そういった意志の強さを感じる。
【ティガー】 儀式の間に行っても、動かない?(笑)
【GM】 それじゃ、ただのかかしやないか。
【ジーネ】 う〜ん、どうしよう。
【シルヴィア】 ここが腕の見せ所や。
【ジーネ】 といっても、見張りを突破するぐらいのことしか、できんけど。
【ティガー】 突破ぁ?? ムリやろ。捕まりそうな気がする。
【ジーネ】 ただ、見張りを突破しても、儀式の間に入ったとき、中にカバンタとファンリーがおったら、ややこしいことになるんよ。
 部屋に誰もおらんかったらな、「襲われたんや!」と聖騎士たちを説得できるけど、そうじゃなければ、捕まるしかないやろ?
【シルヴィア】 中に神殿長がいても、「あれはニセ者だ」と言うたったらええやん。
【ジーネ】 でもそれは、カバンタが本当に神殿長に化けてたら、の話やろ。「偉い人に変装してる」とは言ってたけど、誰に化けてるのかは言わなかったし。
 だいたい、サンチョスの言葉が、どこまで正しいか──。
【シルヴィア】 ええやん、神殿長に化けてると断定してやれば。違ってたら、違ってたときやんか。今までだって、そうやって力業で押してきたんじゃなかったんか?(笑)
【ティガー】 そうや(笑)。
【ジーネ】 そうだけど、扉に鍵がかかってるかどうか、っちゅう問題も出てくるしなぁ。
【GM】 ジーネは、聖騎士たちの前で、うんうん悩んでるわけね。
 さて、ティガーとシルヴィアがいるのは、倉庫が立ち並ぶ港です。昼間は賑わってるんだろうけど、今は夜なので人けはない。
【ティガー】 その辺に、樽とか大きな木箱とかない?
【GM】 船から荷物を積み卸しするところだから、多少はあるよ。
【ティガー】 じゃ、その陰に隠れとく。
【GM】 ティガーとシルヴィアは、しつこく血を求めてくる蚊を叩き潰しながら、そうして潜みつづけた。
 しばらくして、酒瓶を手にしたひとりの酔っぱらいの男が、フラフラと近寄ってくる。「何してんだ、おめえら。宿にあぶれたのか、ヒック」
【ティガー】 「あのさー、この辺で女の子を見なかった?」
【GM】 「女の子? さあ、見なかったなぁ〜。ぐびぐび、ヒック」と、酔っぱらいは、千鳥足で向こうへ行ってしまった。
 あっ、倒れた。どうやら、寝てしまったようだ。
【ティガー】 ほっとく(笑)。
【GM】 通りかかった衛兵が、酔っぱらいの顔をぺちぺち叩いて、呼びかけてる。でも、全然目を覚まさないので、しょうがないから詰所に持って帰った。
【ティガー】 なんじゃ、そりゃあ!?
【シルヴィア】 あの酔っぱらい、じつはカバンタと違うやろな。何もかもが、怪しく見えてしまうなぁ(笑)。
【GM】 まさに疑心暗鬼状態の冒険者たち。この続きは、また今度。

÷÷ つづく ÷÷
©2002 Hiroyoshi Ryujin
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