≪REV / EXIT / FWD≫

§輪廻の聖者:第3話§

暗がりに潜む背徳者

著:龍神裕義
▽ エリオ、レクターの心を打つ事 ▽ セルマの神殿をめざす事 ▽ レイク、登場する事

エリオ、レクターの心を打つ事

【GM】 というわけで昨夜、リナの面影をもつ女性、セレアさんの頼みを引き受けたユーリですが、これからどうすんの?
【ユーリ】 『栄光の騎士亭』に行って、みんなにそのことを話すよ。ユーリやと単独で行動してもおかしくないんやけどな。
【GM】 たしかに。では、ユーリは『栄光の騎士亭』にやって来ました。みんなはもう起きてんのかな?
【エリオ】 俺はすでに朝食を終えて、愛馬ブルーシャドウに鞍を置いてる最中。
【ジャニオス】 僕は玄関ホールの大理石の柱を眺めてる。「う〜ん、いい大理石だ」
【GM】 柱の造りじゃなくて、材質のほうに着目してるわけね。
【ユーリ】 そんじゃあ、みんなを集めて、セレアさんから聞いた話を全部しゃべる。
【ジャニオス】 よっしゃ、今度こそ聖者セルマに[知識]チェーック!
【ハニィ】 それより、図書館で調べたほうがええんちゃうの。
【エリオ】 この街に図書館があるならな。
【ハニィ】 あるやろ。それくらい。
【GM】 いや、この世界では図書館なんてものはあるほうが珍しい。国王が「作れ!」と言った街か、よほど規模が大きくて「本を読みたい!」っていうひとが山ほどいる都市でないと、まず存在せえへんね。そうやな、いまのレムリア大陸でなら、オムスク地方のオレンブルクぐらいかな。印刷技術がないから、本自体が貴重品やしね。
【エリオ】 魔術師ギルドで、見習生が写本させられる程度の印刷技術やからなぁ。俺もジャニオスもさせられた。
【ユーリ】 じゃあ、ファノンやったらあるかな。魔法王国の王都やし。
【GM】 昔はあったよ。ただ、22年前のクラリオン大戦で主な戦場となったんが、このアリステア地方で、戦火でそういう貴重な文献がほとんど焼失してんのよ。
【ジャニオス】 でも、僕らの努力でだいぶ回復してるやろ。
【GM】 まあ、終戦直後に比べたらね。ただ、何百年もかけて集めた文献を、たった20年ちょっとでぜんぶ取り戻すことは不可能でしょ。まだまだ苦労は続くやろね。
【エリオ】 そうか、それでうちの姉ちゃん、オレンブルクに行ってもたんか。
【GM】 そうかも知れんね。じゃ、ジャニオスはセージ技能でチェックしてみ。──ほう、その出目なら、だいたいのことは知ってるな。
 聖者セルマとは、その昔──レムリア暦が始まるより以前の古代に、アリステア地方にあったひとで、至高神シルファスの教えを広め、人々を病魔から救ったという偉大な人物です。
【ハニィ】 レクターさんは、そのセルマの神殿に行ってからおかしくなったんですね?
【ユーリ】 その神殿って、どこにあるの?
【GM】 さあ、そんなことGMに聞かれてもね。
【ユーリ】 じゃあ、セレアさんに聞きに行こう。
【ハニィ】 うん、みんなでシルファス神殿へ出かけましょう。
【エリオ】 本物の手紙を持ってるユーリが首を突っ込んだってことは、俺もそれにつき合わんとアカンってことやな。
【ジャニオス】 僕は行かない〜。厩でブルーシャドウの尻尾を三つ編みにしとくわ。
【GM】 蹴られんようにね。では、エリオとユーリとハニィは、シルファス神殿にやって来ました。その門の前には神官戦士の警備がいまして、「シルファス神殿にようこそ」などと声をかけてきます。
【エリオ】 「お勤めご苦労。俺が、エリオ・デ・アンジェリスだ」
【GM】 残念ながらキミの名はそんなに知れ渡ってるわけじゃないから、警備兵はキョトンとしてます。
【ユーリ】 その警備のひとに、「セレアさんいる?」って聞く。
【GM】 「セレア司祭は神殿でお勤めしてらっしゃいますが」
【ユーリ】 じゃあ、セレアさんに会いに中に入る。
【GM】 ま、神殿ですからね。よほど怪しくなければ、出入りは比較的自由です。というわけで神殿の中に入ると、うまい具合にセレアさんがキミたちを見つけた。そして「ユーリさん」と嬉しそうな顔で声をかけて、そちらにやって来たよ。
【ハニィ】 あたしもおるよ。
【GM】 といっても、セレアさんに面識があるのはユーリだけ。
【ユーリ】 レクターが行った、セルマの神殿ってどこにあるのか尋ねる。
【GM】 しかし、セレアさんは知らないそうです。
【エリオ】 レクターは、誰かの依頼でその神殿に出かけたんか? それとも自主的に?
【GM】 エリオの問いにセレアさんは、「彼は冒険に出る直前、神殿がどうとか、聖者セルマがどうとか、興奮したようすで話していました。おそらく、依頼されてというより、何らかの方法でその情報を得て、自主的に出かけたんだと思います」と答えます。
【エリオ】 そのセルマの神殿って何なん? なんか、ものすごい所なん?
【GM】 それは、セレアにはまったくわかりません。聖者セルマの名とその行いは、アリステア地方に名高く伝えられているんですけど、その神殿とかいう話になると、いままでそんなことは噂にのぼったことすらありませんから。
【ハニィ】 幻の神殿ってことやな。でも、どこからその神殿の情報を得たんやろ。
【エリオ】 さあな。ほんで、レクターはひとりで冒険に出たんか?
【GM】 う〜ん……セレアさんが街門で見送ったときには、仲間が5人──男3人、女2人いたそうです。
【ジャニオス】 おお、僕らより大パーティや。
【ユーリ】 で、レクターしか帰ってこなかったと?
【GM】 少なくとも、キミらが連れて帰ってきたのは、レクターひとりです。
【ユーリ】 じゃあ、仲間は死んだんやな。
【エリオ】 ま、けっきょく、詳しい話は本人から聞き出すしかないわけやな。奴のところに事情聴取に行こか。
【GM】 では、セレアさんの案内で、レクターの私室にやって来ました。扉を開けると、部屋の中からどよ〜んとした空気が流れてくるんですわ。レクターはベッドに腰掛けて、ぼんやりと床を見つめてるよ。
【ユーリ】 呼びかけてみる。
【GM】 「何か用か」と素っ気ない反応を示します。
【エリオ】 「あのさ〜。セルマの神殿ってどこにあるん?」ってことを、エリオ的に言う。
【GM】 『エリオ的に』ね。その行動って、こっちですごい想像力を働かさなアカンねんけど。ま、それは置いといて、レクターは「あんた何者だ」と逆に聞いてくるよ。
【エリオ】 「ファノンの騎士、エリオ・デ・アンジェリスだ」
【GM】 「ファノンの騎士が、私に何の用だ」
【エリオ】 「おまえに聞きたいことがある。セルマの神殿とは何だ」ってことをエリオ的に。「おまえは何か知っているはずだ」
【ハニィ】 レクターは『セルマの神殿』っていう言葉に反応せえへんの?
【GM】 するよ。声を荒らげて「放っといてくれッ」と言う。
【エリオ】 「質問に答えるんだ。男3人、女2人の仲間はどうした!」
【GM】 「うわあッ! やめてくれェ!!」と叫び、レクターはエリオを突き飛ばして、部屋から走り去った。
【ユーリ】 逃げるなーッ! 追いかけるよ。
【ハニィ】 こんな状態やと、レクターからの情報なんて望めんなぁ。
【GM】 しばらくして、ユーリが神殿の外でレクターを捕獲しました。レクターは地面に倒れて、頭を抱えて震えています。
【ユーリ】 「怖くない、怖くない」って頭なでたろ。
【エリオ】 指を差し出さな。そんでカプっと噛まれて「ほら、怖くない」。
【GM】 コラコラ。
【ハニィ】 とりあえず、レクターに「あたしたち、何もしませんから落ち着いてください」って言うてみる。
【GM】 すると今度は「うるさいっ、おまえたちに何がわかるんだーッ!」と暴れます。
【ハニィ】 「だから、何かあるんなら話してくださいよ」。〈サニティ〉をかける。(ころっ)効いたよ。
【GM】 なら、ひとまず落ち着いたことにしよう。
【エリオ】 よし、じゃあ、こいつの部屋に連れて行って、椅子に座らそう。で、セレアには何か飲み物を持ってきてもらう。
【ユーリ】 でも、どうやって質問しよ。神殿のこと言い出したら、またイってまうで。
【ハニィ】 とりあえず、セレアさんから「レクターさんを元に戻すように」って、依頼されてることを話してみよう。
【GM】 レクターは押し黙るだけやね。
【ジャニオス】 困った奴やな。
【ユーリ】 さっきエリオが「仲間はどうした」って聞いたときの反応からして、たぶん、こいつの仲間って死んだんやろ。じゃあ、「仲間の仇を討ってやるから事情を話せ」って言う。
【GM】 そのユーリの言葉に、レクターはピクっと顔を上げます。
【ジャニオス】 おっ、もうひと押しやな。
【エリオ】 ほんなら、「おまえは仲間の死体を野ざらしにしておいて、平気なのか!? それでも貴様、神官戦士かッ!」とひと押しする。ついでに殴ったろ。
【GM】 GMとしては、そういう言葉を待ってたんやがな〜。レクターは殴られた頬をさすりながら、大きく息を吐いて、意を決したようにポツリポツリと話しはじめます。
【ジャニオス】 それをおよそまとめて話して。
【GM】 はいはい。まとめて話すと、1ヶ月前のこと、レクターはこの神殿の書庫で、もう何年も誰も手をつけてないような、埃まみれの古い書物を見つけたと。
 なんとなく興味を持ったレクターは、その書に記された古代文字の文面を解読してみた。すると、そこには聖者として名高いセルマの伝承の記述があり、しかも、現在では伝えられていない、セルマの神殿に関する情報も書かれてあった。レクターは喜び、冒険者を募ってその神殿の調査に出かけました。
【ジャニオス】 すると?
【GM】 すると……「うわぁぁぁーッ!!」。
【エリオ】 やっぱりね、肝心なとこは聞けないんや。
【GM】 いや、さっきみたいなことにはならんけどね。なんとか気を落ち着けて、セルマの神殿に向かうまでの道筋とか、神殿の在り処などを話してくれた。しかし、神殿で実際に何があったのか、ということになると、レクターは「説明のしようがない」そうです。
【ユーリ】 説明は無理でも、状況を話してみて。
【GM】 「とにかく、黒い靄のようなものが襲いかかってきて、気がつくと、私を除いてみんな死んでいたんだ」とのこと。
【ハニィ】 仲間のひとって、どれくらいの強さなんやろ。
【GM】 なんとも言いようがないけど、キミらと互角か、やや上ってとこかな。レクターは、「ああ、私が彼らを誘ったばかりに……。なんてことをしてしまったんだ」と嘆いてます。

セルマの神殿をめざす事

【エリオ】 「彼らを弔うためにも、あなたは我々とセルマの神殿に向かうべきだ」と言う。「それがあなたの贖罪だ」
【GM】 それならレクターは、「そうですね。では、道案内は私が……」と申し出る。
【ハニィ】 よかった、よかった。
【ユーリ】 単純な奴でよかった。ほんなら、出かける準備をしに宿屋に戻る。
【エリオ】 準備がすんだら、この神殿に集合するから。ジャニオスにも事情を話して、旅の支度をしてもらおう。
【ジャニオス】 え〜? 支度すんのん〜? せっかく三つ編みが完成するところやったのに〜。
【GM】 では、皆さんは旅の準備を整えて、再びシルファス神殿のレクターの私室に集まりました。
【ハニィ】 じゃ、出かけよう。
【エリオ】 その前に、この神殿で見つけたという、セルマの書物を見せてほしいな。
【GM】 あー、はいはい。じゃ、「これです」と、レクターはボロボロの書物を差し出します。
【エリオ】 ジャニオス、読んでみ。
【ジャニオス】 読んだ。
【GM】 それには、セルマの生前の偉業の数々が書かれてあります。その中でレクターの目を引いたのは、裏混沌に襲われていた世界を救うために、セルマが神から授かったという光り輝く宝玉についての記述だそうです。
【ユーリ】 その宝玉って何なん?
【GM】 神から授かったらしいということ以外、詳しいことはわかりません。書物には「その玉をもって混沌を退け、民を救った」としか記述されてないから、どのように用いたんかもわからんしね。とりあえず「その宝玉が『セルマの神殿』にあるらしい」と、書かれてあるだけ。
【ジャニオス】 「らしい」ということは、その神殿に玉があるのかどうかもあやふやなわけやな。
【GM】 まあね。
【ユーリ】 あの光る男も、その神殿に連れて行ったほうがええかな。
【ハニィ】 リーナス司祭のこと?
【ジャニオス】 あんなん連れてってどーすんねや。
【ユーリ】 なんとなく、セルマに関係ありそうじゃん。リーナスって、光って牛魔人やっつけてまうし。ひょっとしたら奴は、聖者セルマの子孫かもよ。
【エリオ】 宗派は違うけどな。聖者セルマは至高神シルファスの信者で、光る男は確か、大地母神ミフォアの司祭。
【ジャニオス】 連れて行くにも、光る男はファノンにおるはずやぞ。いちどファノンに戻るんか?
【ハニィ】 それがいいと思うで。王様にリンツ大神殿からの返書を渡さんといかんのやし。
【GM】 そうすると、アスリアからファノンまでは6日かかるので、往復で12日のロスになりますよ。
【ハニィ】 その12日の間に、何か悪いことが起きるのかも知れんの?
【GM】 そんなこと、GMに聞かれてもね。ただ、それだけの日数が必要ですよ、と言っただけ。
【ジャニオス】 とりあえず、『セルマの神殿』の情報があやふややからな〜。ファノンの魔術師ギルドに行けば、もう少し詳しく調べられるやろ。
【エリオ】 じゃあ、いちどファノンに戻ろう。レクターには「かくかくしかじか」と、出発が12日後になる理由を説明する。
【GM】 レクターは「わかりました」と、それを了承します。セレアさんはユーリに、「よろしくお願いします」と、涙を溜めてお願いするんやな。
【ジャニオス】 そんな感じで話を進めて。さあ、ファノンに戻ったやろ!
【GM】 戻りましたよ。一瞬で場面転換やけど、実際には6日が経過してるからね。で、ファノンでどーすんの?
【エリオ】 ジャニオスには、魔術師ギルドに行ってもらう。で、俺は国王に大神殿からの返書を渡す。
【GM】 では、エリオは王城に来ました。「おー、ご苦労、ご苦労。確かに受け取った」
【エリオ】 ほんじゃ、「かくかくしかじか」というわけで、光る男を持ってくで。
【GM】 「う〜ん、それはなぁ」と、国王はしぶるよ。
【エリオ】 「うまくすれば、あの化け物どもを一掃する手だてになるやも知れませぬ」と説得してみる。
【GM】 「しかし、そのような重大な調査を、少人数に任せてよいものか……。かと言って、大所帯の調査団を編成するゆとりは、今はないし」と言うてると、どこで聞きつけたかルーティンくんが「それなら、私がエリオに同行いたしましょう!」と申し出るんやな。
【ジャニオス】 おっ、エリオのライバルが一緒に行くんやな。
【エリオ】 別にエリオはルーティンをライバル視してへんから。向こうが勝手に俺をライバルやと思ってるねん。
【ハニィ】 なんで? 同期の騎士なんやろ。
【エリオ】 ルーティンなんて視界に入ってないから。エリオが憧れてるのは、勇者シュカ。
【ユーリ】 誰、それ?
【エリオ】 22年前に魔王クラリオンに決戦を挑んで倒し、18年に及ぶクラリオン大戦を終結させた英雄やがな。この世界の住人やったら、蛮族でも知ってるぞ。
【ユーリ】 じゃあ、ユーリも知ってるわ。
【ジャニオス】 もちろん、ジャニオスも知ってるな。
【ハニィ】 あたし、知識神の信者やからとうぜん知ってる。
【GM】 みんな、蛮族未満と言われたくないんやな。ま、それは置いといて、リーナスに関してですけど、彼自身がキミたちに同行したいと願い出てるので、連れ出してもいいという許可が下りました。
【ジャニオス】 じゃ、そういうことで、魔術師ギルドのほうを処理してもらおか。おかんはおんのか。おるやろ。
【GM】 お母さんは位の高い導師ですから、ギルド内に私室を与えられており、そこで何かの研究に日夜没頭してるよ。ジャニオスは、おかんの私室の前までやって来ました。
【ジャニオス】 セルマの神殿について教えてんか。
【GM】 いや、まだ部屋の前。中に入ろうとしたら、おかんの弟子に止められた。「先生はいま、研究の真っ最中です。その間は何者も部屋に入れられないのです」
【ハニィ】 でも、息子なんやろ?
【GM】 だから『何者も』入られへんの。
【ジャニオス】 「おとんが死んだんや〜」
【GM】 「はあ、しかし、ダメなんです」と弟子は言う。きっとそのひと、前に研究の最中におかんに声をかけて、痛い目を見たことがあるんやろね。
【ハニィ】 冷たいお母さんやな。
【ユーリ】 ほんなら、アスリアに戻ってセルマの神殿に行こう。
【GM】 では、さらに6日後アスリアに着きました。皆さん、ルーティンくん、リーナス司祭の計6名は、レクター司祭の案内で、幻のセルマの神殿を目指します。
 アスリアから街道を少し北上し、道を西に外れて森の中を進んで行くことウン日後、キミらの行く手に岩山が見えてきました。その山のすそには、洞窟がポッカリと口を開けております。
【エリオ】 ゴブリンとかが見張りに立ってるということはないな?
【GM】 ないですね。
【エリオ】 じゃあ、ブルーシャドウから降りて、近くに木に繋げる。そんで、照明の用意。
【ジャニオス】 今こそ見せるか、僕のライト・メイス・ライトを!
【GM】 そのためにライト・メイスを買うたんか……。
【エリオ】 秋ですな。
【ジャニオス】 ライト・メイスに〈ライト〉〜! (ころっ)光ったで〜。誰か、たいまつにも火をつけてや〜。
【ハニィ】 なんで? 〈ライト〉があるから、ええんちゃうん。
【エリオ】 光源は複数用意するのが常識よ。ちゅーことで、たいまつに火をつけた。
【ユーリ】 じゃあ、洞窟に入る。
【GM】 入りました。その洞窟は石造りで、人工的なもののようですね。500年以上前に築かれたようで、かなりカビ臭いです。石材と石材の隙間からは地下水が染みだしていて、洞窟内はひんやりと湿っております。
【ハニィ】 隊列はどうしよう。
【エリオ】 洞窟の広さはどれくらいや。
【GM】 人間ふたりが横並びで剣を振るうことができるくらいの大きさです。
【エリオ】 なら、先頭はユーリとルーティンで、その後ろ、光る男を真ん中にしてジャニオス、ハニィが横並び。しんがりは俺とレクターが勤める。照明は、たいまつをルーティンが持って、ジャニオスがライト・メイス・ライトを持つ。
【ジャニオス】 よっしゃ、ほんなら着々と進むで〜。レクター、案内してや〜。
【GM】 案内しましょ。洞窟はたまに分岐点があるんですが、レクターさんが「あっちです」「こっちです」と教えてくれて、迷うことなく進めます。……せっかくのダンジョンが、全然おもしろくないやんかっ!
【ジャニオス】 そんなんええから、先へ進めてや〜。
【GM】 へーへー。そんな感じでひとつ、ふたつ広い空間を抜けますとね、階下へ続く石段がありますわ。
【エリオ】 レクターが「石段を降りる」と言うんなら、そうする。
【GM】 じゃ、さらに地下へと下りました。石段を降りきった先で、通路は左に折れており、それをさらに進むと、ちょっとした空間に出ます。その先には、今までの倍以上はある広〜い部屋に出るんですな。ちなみに、広〜い部屋の正面奥の壁一面には、なにやらスケールのでかいレリーフ刻まれているようです。
【ユーリ】 何のレリーフなん?
【GM】 かなり大きいレリーフやからね、キミらの貧弱な照明で、全体を見ることはできんと思うよ。
【ジャニオス】 なにを〜!? このライト・メイス・ライトを、バカにしとんのか!
【ユーリ】 じゃあ、〈ウィル・オー・ウィスプ〉を飛ばしてみる。(ころっ)出たよ。
【GM】 それなら、何とか全体を見れたことにしましょか。そのレリーフには、『裏混沌の怪物と思われるものが、たくさんのひとを襲ってる。その怪物を追い払らわんとするひとりの男性』が描かれております。
【ハニィ】 その男性が聖者セルマやな。

 冒険者たちは、レクターの案内でさらに洞窟を進む。しかし、前回レクターが通ったという部屋は、崩れて土砂に埋まってしまっていた!
 一行は未知のルートを探索することになり、途中、部屋に飾られていたスケルトン・ウォリアーを、動き出す前に破壊しつつ地下迷宮を進んだ。
 やがて、レクターが以前に通ったルートに合流でき、再びレクターの案内で奥を目指し、ある部屋までやって来た。

【GM】 その部屋の奥には、1枚の金属盤が埋め込まれた祭壇があります。金属盤には、何やら上位古代文字で文章が刻まれてるね。
【ジャニオス】 朗読してみる〜。
【GM】 文は『神を讃えよ。されば道は開かれん』というもの。それをジャニオスが朗読すると、人の形をした石像が虚空より出現しました。3体ずつが祭壇を挟んで2列に並び、皆さんのほうを向いてます。
【エリオ】 合計6体か。動きそう?
【GM】 いや、別に動き出すようなようすはないね。ちなみに6体のうち4体が男性、2体が女性のようです。
【ハニィ】 なんで? なんでそんなんが急に現れたん?
【ユーリ】 きっと、神を讃えたからや。その石像って、レクターと一緒にここに来た冒険者が石化したやつかな。
【GM】 いや、それはレクターが否定する。それからね、祭壇の上には6枚のメダルも出現してるよ。

レイク、登場する事

【ジャニオス】 おっ、メダルを拾え拾え。
【GM】 拾ってみると、それには1枚1枚、異なる紋様が刻まれております。司祭が見ればすぐにわかるんやけど、その紋様は6大神の聖印です。
【エリオ】 ほんで出現した石像が6大神様で、その聖印を適合する像に捧げたりしたらええわけやな。
【ジャニオス】 じゃ、レクターやってくれ。いちどやってるはずやから、できるやろ。
【GM】 まあね。ああ〜、やっぱりレクターを連れてきたんは失敗やった。レクターは迷うことなく、メダルを石像に嵌め込んでいきました。すると祭壇がスライドして、階下へ続く石段が現れたよ。
【エリオ】 それにしても、誰がこの部屋の仕掛けを元に戻したんやろ。
【ハニィ】 魔法で勝手に戻りよんちゃうん。
【ユーリ】 さっき壊したスケルトン・ウォリアーが、直す役目やったんやったりして。
【ジャニオス】 そんなことを言いつつ、石段を降りる。
【GM】 その先にはまたしても部屋です。ちなみに正面奥の壁には、1枚の大きな鏡がかけられてるよ。
【ハニィ】 で、レクターはどうすんの?
【GM】 普通に鏡に向かって歩いて行って、そのまま鏡にぶつかるのかな、と思ったら、向こうに通り抜けて行きました。
【エリオ】 じゃ、俺らもそうする。
【GM】 鏡の向こうはまっすぐに伸びる通路で、その先には小部屋、正面奥の壁には、閉ざされた扉があります。レクターは緊張した面持ちで皆さんを振り返り、「あの先が、闇に襲われた部屋です」と言う。
【ユーリ】 [聞き耳]してみる。(ころっ)。
【GM】 扉の向こうに、何らかの気配を感じます。
【ハニィ】 イヤだ〜! ワーワーワー! 逃げよう。
【ユーリ】 逃げてどーすんの?
【ジャニオス】 そんなけ騒ぐと、扉の向こうの『何らかの気配』にも、こっちの気配を感じられたやろな。
【エリオ】 よし、全員、戦闘準備。
【ジャニオス】 シャキ〜ン! はい、扉を開けて突っ込んでや。
【ユーリ】 その前に、中を覗いてみよう。光が漏れんように〈ウィル・オー・ウィスプ〉を消す。たいまつも消して。ユーリは赤外視ができるから。
【ジャニオス】 ほんなら、僕のライト・メイス・ライトには布を被せて光を遮断する。
【ユーリ】 じゃあ、扉をそっと開けて中を覗くよ。
【GM】 扉の向こうは暗闇です。それからいろいろ気を配っていただいたのに気の毒やけど、ジャニオスの言うとおり、ハニィが騒いだ時点で向こうもキミらの存在に気づいてるよ。
「これはこれは、こんなところにネズミどもがやって来たようですね」と、闇の中から声がする。
【ユーリ】 〈ウィル・オー・ウィスプ〉を再召喚して、中に入れてみる。
【GM】 すると、そこにはひとりの男性がいます。ユーリさんには、見覚えがある人物です。というより、ユーリに瓜ふたつのその顔は、忘れたくても忘れられないでしょう。
【ユーリ】 弟か!
【ハニィ】 ユーリの恋人を自殺に追いやった双子の弟やな。
【エリオ】 俺らは後ろにおるから、声は聞こえど中は見えん。「おい、どうした!」って言う。
【ユーリ】 じゃあ、硬直してるから答えられへん。それにしても弟、えらい早う出てきたな。
【エリオ】 思うてたよりもな。ってことは、今回は弟を倒せんってことやな。
【GM】 シナリオを深読みせんように。この世のすべては、サイコロ次第やねんから。
【ジャニオス】 で、ユーリは固まったままなのか?
【ユーリ】 もう治ったよ。突入する。
【GM】 きっと「レイクーッ!!」と双子の弟の名を叫びながらやろね。なんせ、復讐の本懐が目の前におるんやから。
【エリオ】 よくわからんけど、エリオもそれに続く。突入して、「あれ? 向こうにもユーリがおる。どっちがユーリだ!」って言う〜。
【ユーリ】 わかるやろ〜、髪形が違う〜。で、向こうにおるの、レイクだけ?
【GM】 うんにゃ。入ってみてわかったけど、レイクの背後には、3つ首の大きな黒犬の怪物がおります。そして、レイクは「おやおや、誰かと思えば兄貴じゃないか。バカ面さげて、こんなところまで何しに来たんです」と、小バカにしたような感じで言うよ。
【ジャニオス】 『バカ面』って、同じ顔してんのとちゃうんか。
【GM】 いや、弟のほうがちょっと男前やね。
【ユーリ】 めっちゃムカつく! 「黙れッ、ボケ!」ってダーツを投げつけたるねん、(ころっ)。
【GM】 レイクは薄笑いを浮かべて、ひょいと避けるよ。そんで「相変わらずだな、兄貴は」と言うんやな。
【ユーリ】 こいつ、キライや〜。
【エリオ】 そら、好きになってもらってもGMが困るやろ。
【GM】 ユーリとレイクに兄弟愛が芽生えて、めでたしめでたし。……どんなシナリオや!
【ジャニオス】 リナの立場あらへん。
【GM】 それは置いといて、レイクは「申し訳ないけど兄貴、オレは忙しい身でね。これで失礼させてもらいますよ。そのかわり、このケルベロスに遊んでもらってください」と言って、魔法を唱えてどこかへテレポートして消えました。
【ハニィ】 〈テレポート〉が使えるん!?
【エリオ】 ユーリは完全に弟に凌駕されてるな。
【ジャニオス】 双子やのに、えらい差がある。
【ユーリ】 ムカつくなー!
【GM】 レイクが姿を消した後には、例の3つ首の黒犬がやる気まんまんで唸り声をあげてるよ。
【ユーリ】 レクターの仲間たちって、こいつに殺されたんかな。
【GM】 「いや、こんな奴はいなかった」と、レクターさんは否定する。
【エリオ】 レクターの仲間らしき死体は、その辺に転がってるか?
【GM】 いえ、見当たりません。血痕みたいなのはあるけど。
【ジャニオス】 とりあえず、あいつを倒さな。行けっ、エリオ!
【エリオ】 ルーティンにも前に立ってもらおう。ジャニオスも来るかい。
【ジャニオス】 行かへんわ。さすがに一撃で死ぬで。
【GM】 では、戦闘に入るんやね。なら、いちばん速いハニィから行動してね。
【ハニィ】 〈フォース〉! (ころっ)抵抗されて、10点ダメージ。
【ユーリ】 いま浮かんでる〈ウィル・オー・ウィスプ〉をぶつける。(ころっ)カスのウィスプやな、ダメージ7点。
【GM】 ケルベロスからの反撃はありません。
【エリオ】 俺の番やな。攻撃、(ころっ)はずれ。
【ジャニオス】 エリオとルーティンの剣を燃えあがらせる。〈ファイア・ウェポン〉(ころっ)かかった。
【GM】 レクターは〈ブレス〉を唱えて、ルーティンは攻撃してはずれ。光る男ことリーナスは何もしません。第2ラウンド。
【ハニィ】 もう1回〈フォース〉。(ころっ)また抵抗された。ダメージ9点。
【ユーリ】 〈ウィル・オー・ウィスプ〉を召喚、ぶつける。(ころっ)当たった、10点のダメージ。
【GM】 このラウンドには、ケルベロスの反撃があるよ。エリオに3つの首が噛みついてくる。2回当たって、6点、5点の計11点のダメージが行く。
【エリオ】 おおッ、生命力が半分に……。おのれ、反撃。(ころっ)はずれ。
【ジャニオス】 エリオとルーティンに〈プロテクション〉。(ころっ)かかったで。
【エリオ】 光る奴、キズを治してや〜。
【GM】 はいはい。ああ〜、NPCまで扱ってると、忙しいてかなわんわ。リーナスがエリオに〈キュアー・ウーンズ〉。(ころっ)全快。ルーティン、レクターも攻撃をはずした。第3ラウンドにいくで〜。

 この戦いは10ラウンド以上にも及ぶ大激戦となった。
 エリオとルーティンの騎士コンビが剣を振るうも、なかなか当てることができず、逆にケルベロスの攻撃はふたりによく当たった。
 しかし、ふたりの騎士にはジャニオスに防御の魔法がかけられ、また、リ−ナスとレクターから神聖魔法の治癒が施される。エリオやルーティンは何度も死にかけながら、その度、傷を全快させてもらって蘇った。
 エリオとルーティンが前列で楯となっている後ろから、ハニィとユーリの魔法が容赦なくケルベロスを襲い、微量ながらダメージを累積させて3つ首の黒犬を疲弊させていく。
 そして第14ラウンド目、ユーリの召喚した〈ウィル・オー・ウィスプ〉が、ケルベロスにとどめを指した!

【ジャニオス】 もう〜、ヘロヘロやで。
【エリオ】 この部屋には何もないのか、GM?
【GM】 いや、部屋のいちばん奥、ケルベロスの死体の向こうに祭壇があり、その上に人間よりひとまわり小さな彫像が1体あるよ。ただ、彫像は下半身を残して既に砕けてしまってるけどね。ちなみに中は、空洞になってたみたい。
【ユーリ】 あ、きっと、そっから出てきたんや、レクターらを襲った黒い靄もやが。
【GM】 「そうかも知れない」と、レクターさんは答える。「この部屋に入ったところまでは記憶があるんだが……。その後のことは、黒い靄のようなものに襲われたことしか覚えてない」
【ハニィ】 で、気がついたら、仲間は死んでいたと。
【GM】 そう。
【ジャニオス】 死体、どこに行ったんやろ。
【ユーリ】 レイクが片づけたか、ケルベロスが食ってもたんやろ。
【エリオ】 ま、しゃあない。とりあえず、ここで祈りを捧げて帰ろう。レクターの供養で犠牲者の魂を慰めたり。
【GM】 では、しばし厳かな鎮魂の時間が流れるんですな。なんか、ここにいる司祭全員の宗派が見事に異なってるけど、光の神々を信仰していることには違いないから、問題はないやろ。
【ハニィ】 で、この部屋には何か宝物とかないの?
【GM】 ございませんな。ただ、砕けた彫像の載っている祭壇には、野球ボールぐらいの大きさの窪みがあるけど。
【エリオ】 そこに聖者セルマの使った宝玉があったんちゃうか。レイクがそれを持って行ってしまったんや。
【ユーリ】 レイクも集めてんのか、セルマのアイテム。何のためにやろ。
【ジャニオス】 裏混沌を倒すアイテムを集めて、隠してまうんとちゃうか〜。
【ハニィ】 えー!? そんなん、困るやん。
【ユーリ】 あいつは悪い奴やから、ひとの困ることしたがるねん。
【GM】 まあ、それは何とも言えませんがね。
【エリオ】 じゃあ、アスリアに戻ろか。
【GM】 ぞろぞろと戻ってきました。レクターも償いができたからか、憑きものが落ちたように、以前よりは明るい表情で「また、アスリアを訪れることがあるなら、我が神殿にも立ち寄ってください」と言います。
【ジャニオス】 「任しとけ!」と言うとこ。
【エリオ】 リナ顔はどうした。
【ユーリ】 お礼言うて、終わり!
【GM】 セレアさんは、嬉しさで目頭を熱くしながら、ユーリを見つめて「どうも、ありがとうございました」と言う。
【ユーリ】 んあ〜、「じゃあ、またな」って言うて、さっさと宿屋に戻るっ。
【エリオ】 しゃあないな、ほんじゃ、翌朝ファノンに向けて出発する。
【GM】 では、アスリアを後にして6日後、ファノンに帰還して参りました。
【エリオ】 王城に行って、国王に「かくかくしかじか」と報告する。
【GM】 はいはい、了解いたしました。ってわけで、ご褒美として5000フィスを国王から頂きました。パーティで分けてください。
 じゃ、今回のセッションはここまで、ということで。

÷÷ つづく ÷÷
©2000 Hiroyoshi Ryujin
▼ もしよろしければ、ご感想をお聞かせください ▼
お名前
ひと言ありましたら
 
≪REV / EXIT / FWD≫