いつもどおりに起床。季節は春だが、まだまだ早朝は寒い。
朝の儀式を終えたら、今日はミテリナ侍祭たちと一緒に、いわし通りを掃き清める。
開門時間、掃除が終わりかけた頃、街のほうから蹄の音が近づいてきた。
ブチ馬の“ぼち”に乗ったティガーだった。ぼちの尻尾に、七色の鶏のヒデヨシがつかまっている。
ぼちは、目の前にぶら下げられたニンジンを捕らえようと、一所懸命走っていた。
礼拝に来てくれたのかと思ってたら、いきなり腕を掴まれて、ブチ馬に乗せられた。
ティガーはそのまま街へ取って返した。
何事かと尋ねたら、「ストト村で大変なことが行われる」と言った。真剣な顔だった。
もしかしたら、ミフォア神の啓示を受けたのかも知れない、と思った。
ティガーは南区へぼちを走らせて、森の門から街を出た。
日が高くなりかけた頃、途中のオデス村に着いた。
ぼちはそろそろニンジンを追うのに飽きたらしい。明らかに足が鈍って、休みたがっていた。
私たちは宿に行った。2階建ての民家を改装しただけのような、小さな宿だった。『風の散歩亭』と看板が出ていた。
ちゃんと1階は酒場になっている。私たち以外に、客の姿はなかった。
少し早いが、昼食をとることにした。朝食を食べずに街を出たので、おなかがすいていた。
ティガーはオムレツを注文しなかった。パンとスープだけを頼んでいた。驚いた。体調がすぐれないのかと尋ねたが、そうではないらしい。
何かとても深刻そうで、緊張してる様子だったので、私も緊張した。
その日のうちにストト村まで行けるらしいので、休憩を終えたら出発すると思っていたが、1泊するらしい。
急がなくていいのかと聞いたら、明日でもじゅうぶん間に合うとのこと。彼がそう言うのだから、間違いないだろうと思った。
それに、ぼちは
こんな馬、初めて見たが、ブチ馬はそういうものなのかも知れない。
私たちは2階にあがる。ティガーは、ヒデヨシに馬の番を頼んだ。ヒデヨシは快諾した。
夕方近く、2階の部屋から外を眺めてると、シルヴィアさんたち3人が、馬に乗って村をとおりかかっているのを見つけた。
声をおかけしようと宿を出たが、もう彼らの姿はなかった。ぼちは気だるそうに目を開けるだけだし、追いかけるのはあきらめた。
ストト村で会えるかも知れない。
ティガーは相変わらず寝相が悪かったが、ぼちも寝相が悪かった。
朝、目を覚ますと、ぼちがベッドにいて、ティガーが
昨夜、今朝と、ティガーは軽食ですませている。心配だ。
オデス村を出て、ストト村に行った。
ニンジンはもうなかったので、ぼちはやる気がなさそうだった。ときおり、「ぷひー」と鳴いた。
ストト村は活気に満ちていた。
村の男性たちが入り口に高い棒を立てて、ゲートを作っていた。広場では舞台が作られていて、女性たちが飾り付けをしていた。
ティガーはぼちから降りて、私を連れて村長さんに会いに行った。
村長さんは、私たちを歓迎してくださった。
「かの有名なティガーさんが審査員をしてくださるので、皆、はりきっております」と、村長さんはおっしゃった。
ティガーが言った『大変なこと』とは、ストト村のオムレツコンテストのことだった。
邪悪な儀式などでなくて、よかった。
次の日にコンテストは始まった。
噂を聞きつけて、よそから大勢の人々が集まって来ていた。
ティガーと、村長さんと、私と、ヒデヨシが審査員なので、広場の舞台上の長いテーブルについた。
優勝者には、村に伝わる宝が与えられるそうだ。見せていただくと、黄色の小さな丸い宝石だった。
ティガーは、この日のために食事を控えていたらしい。オムレツの審査員という重責に、緊張していたそうだ。
彼のオムレツにかける思いは、並々ならぬものだ。
将来の夢はオムレツの国を作ることだと、以前、言っていた。設計図も見せてもらった。
シルヴィアさんたちには内緒の話だから、秘密だ。
いまや、ティガーはいつもの彼に戻って、山と積まれたオムレツをたいらげる。
同じひとが何度も再チャレンジするので、コンテストというより大食い大会のようだったが、ティガーにはどうでもいいみたいだった。
私は13個食べたところで、気分が悪くなった。
コンテストは、コンドゥオの卵を使った若い男性が優勝した。ケチャップにも気を使っていて、ティガーの好評を得た。
ティガーと優勝者は、とても幸せそうだった。来てよかったと思った。
が、また、無断外泊してしまった。