≪REV / EXIT / FWD≫

§銀月の歌:第3話§

ギルドへの依頼

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン
▽ ブロブ退治に励む事 ▽ グラランボンバーを探す事 ▽ サリアの商人の事

ブロブ退治に励む事


 エルゴン村から不定型生命体ブロブの退治を要請され、エルゴン村南の廃墟にやってきた冒険者たち。
 廃墟の館の周囲で日なたぼっこをしていた(?)、12匹の紫のブロブとの戦闘が始った。
 第2ラウンド、ブロブAを抱き上げているティガーを、ブロブB〜Gの7匹がとり囲む。

【メイユール】 囲まれてる、囲まれてる(笑)。
【ティガー】 人気者やな。
【GM】 7匹のブロブたちは、ティガーに攻撃してくる。
【ティガー】 攻撃してくんのん? かわいいのに……。
【GM】 じゃあ、かわいらしく変な液体をかけてあげるよ。ぴゅっぴゅっと。
【ティガー】 (ころっ)全部、回避した。「何してんのん〜」って聞く。
【メイユール】 なんで、こんな無害そうな奴らに、懸賞金がかかったんやろ?
【ジーネ】 そりゃあ、モンスターだもん。放っておいたら、悪さをするからでしょ。
【ティガー】 ブロブAに、「自分ら悪くないよな? かわいいもんな?」って聞く。
【GM】 ブロブAは、ぴゅっと液を吐いて応える(笑)。
 ティガー、回避ね。
【ティガー】 なんやねん〜!
【ジーネ】 だって、こいつら脳ミソないやろ(笑)。

 暗黒神クートラの降臨を防いだ冒険者たちにとって、ブロブなど雑魚以外の何ものでもない。
 武器攻撃ではクリティカルしないこともハンデにはならず、せっかく変な液体がかかっても、タメージを及ぼすまでには至らなかった。
 そうこうしてるうちに、まず、ジーネにすり寄っていったブロブKが、プラス1モーニングスターで叩き潰されてしまった。

【GM】 ブロブKは、紫の液体となって飛散し、地面に吸い込まれて消えてゆく。「お姉ちゃ〜ん!」と断末魔の声を残して。
【ジーネ】 しゃべるんかぃ、こいつら。
【GM】 いや、キミの脳内にテレパシーとして響いたんやね。ティガーやメイユールには、聞こえてない(笑)。

 メイユールは、近づいてきたブロブHとIに〈ウィル・オー・ウィスプ〉を放ち、ティガーは、いっこうに心を開いてくれないブロブたちに業を煮やして、ツヴァイハンダーの[なぎ払い]で、取り囲んだブロブたちを攻撃した。

【GM】 ブロブB、Dも飛び散って、地面にしみ込んで消滅した。
【ティガー】 Cにだけ避けられた。「やるな、おまえ」って言うとくわ。
【GM】 ブロブCは「ぴゅっ」と答える。
【メイユール】 だいぶ意思の疎通ができるようになってきた(笑)。
【ジーネ】 ブロブJに攻撃。(ころっ)当たって、ダメージ15点。
【GM】 またしても叩き潰されたね。ブロブJも消えていく。「お姉ちゃーん!」と叫びながら。
【ジーネ】 また「お姉ちゃん」かぃ。お兄ちゃんや弟や妹はおらんのか。
【GM】 さあね。いるかも知れないけど、こいつらは姉貴に呼びかけてるんでしょ。
【ジーネ】 まあ、単細胞生物って雌しかいないらしいし、おかしくはないか。

 第6ラウンド目で、ブロブたちは全滅させられた。

【ティガー】 あーあ。ファンリーに「持って帰る」って約束してたのにな〜。
【GM】 約束って、それを聞いてファンリーは楽しみにしてたん?
【ティガー】 知らん、そんなこと(笑)。
【メイユール】 ヘタしたら、嫌われてたかも(笑)。
【ジーネ】 じゃあ、村に帰ろうか。
【ティガー】 うん──ん? 「村はちょっと待ってな」って言う。
【メイユール】 村は通らずに、さっさとオレンブルクに帰って、酒場のオヤジに報告しよう。報酬も受け取らんといかんし。
【ジーネ】 そうだとしても、挨拶ぐらいして行かんと(笑)。
【ティガー】 それは俺がやっとくから、ジーネは、メイユールと一緒にヒデヨシの番をしといて。
 マッチョな体で村に乗り込んだら、また、みんなビビるやろ?
【ジーネ】 なんでやねん。
 まあ、釈然としないままでも、外で待機しとこう。ついて行ったら、殴られそうやしな。
【メイユール】 そんなことはしない。命がいくつあっても足らへんやん(笑)。
【ジーネ】 なんでやねん!
【ティガー】 じゃあ、俺が村長のとこに挨拶しに行く。
【GM】 はいはい。ただいまの時刻は19時です。
【ティガー】 「ブロブと、ワーウルフを倒した」って、報告する。
「もう、ワーウルフが襲ってくることはないから、安心していいよ」
【GM】 「それはどうもありがとうございました。イヘミナとネフは、こちらで丁重に埋葬しました」と、村長は言う。
 そして、冒険者の店で報酬を受け取るための証明書にサインをして、ティガーに渡してくれました。
【ティガー】 ありがとう。
 じゃあ、そそくさとジーネたちのところに戻る。
【GM】 戻るの? 村長さんは、「夜も遅いし、泊まって行きなさい」と言うけど。
【ティガー】 「いや、次の急ぎの仕事があるから、早く帰らんといかんねん」って、答える。
【GM】 「そうですか」と、村長さん。
「では、ジーネに『気を落とさず、ふたりのためにも元気を出せ』と、お伝えください。親にとって、子供の幸せほど、かけがえのないものはありませんからな」
【ティガー】 OK、OK。
【メイユール】 さあ、オレンブルクに帰ろ。
【ジーネ】 夜なのに、出発するの?
【ティガー】 するする。「今から急いで帰れば、オーディションに間に合うかも知れへんやん」って言う。
 ジーネには、村の話題に触れさせない。
【メイユール】 さ、行こ。さ、行こ。ジーネに「馬に乗る?」って言う。
【ティガー】 「保存食、食べる? ヒデヨシを触ってもいいよ?」って言う。
 ヒデヨシも妙にやさしいねん。今日はおとなしく、「こけ」って撫でられてあげるねん。
【GM】 よかったねぇ、ジーネ。ちやほややん(笑)。
【ジーネ】 なんか、気味が悪いわ。
 ところで、どこかの水辺で、かけられたブロブの液を、洗い落としたいんだけど。
【メイユール】 じゃあ、川かどこかに寄って行こう。
「筋肉を磨きましょうか?」(笑)

 そして、7日後。
 1月24日の朝に、ティガーたちは、オレンブルクへ帰ってきた。
 帰途の間に、ブロブ液を浴びたジーネのチェイン・メイルが錆だらけになり、使い物にならなくなってしまった。(魔法の物品や、カルファン鉄の武器は例外)
 冒険者たちは、『青い波の美し亭』のオヤジから、報酬1200フィスを受け取った。

【ティガー】 劇のオーディションがどうなったんか、見に行ってみる〜。
【GM】 オーディションは、すでに終了してます。
 男前なひとが、主役のティガー役に選ばれたみたいやね。スラっとした長身の美形。
「よろしく」と、にこやかに挨拶すると、歯がキラっと輝いた。
【ティガー】 うわー、ないわ〜。前髪王子じゃないんか。
【ジーネ】 落ちたんだな、きっと。
【GM】 (それ以前の問題だけど)あとは、ファンリー役、メイユール役にきれいな女優さん、シルヴィア役にかっこいい男優が選ばれてる。
 で、ジーネ役は、急きょマッチョなスキンヘッドの男に変わりました。
 男は「えっ、俺が?」ととまどい、ジーネ役に選ばれてた女優は、「そんな、ひどい……」と、涙した。
【ジーネ】 マッチョになっとらへんっ!
【GM】 ──と、ジーネは思い込んでるんやね(笑)。
【メイユール】 じつは、すごいマッチョなんやけど。
【ティガー】 鏡とか見せんほうがいいかも。ショック死する可能性が。
【メイユール】 せっかく生き返らせたのに、すぐに死なれたりしたらたまらんな。
【ジーネ】 借金を取り返せないし、って?(笑)
【メイユール】 それもある(笑)。
【GM】 さて、キミたちは、これからどうするのかな?
【メイユール】 わたしは、演出家のジュノさんと、劇について語り合ってる。ドラマ好きとしては、そうなったら止まらない(笑)。
 気がすんだら帰るけど。
【ジーネ】 新しいチェイン・メイルを買ってきます。薬が切れて元の筋力に戻ったときに備えて、前と同じ必要筋力18のやつを。
【メイユール】 その体型じゃ、着れないんじゃない?(笑)
【GM】 大丈夫。今の体型に合わせた、筋力18の鎧だから。
【ティガー】 俺はすることないし、宿屋に帰って、オムレツでも食べてる。昼メシ。
【GM】 じゃあ、ティガーは、『青い波の美し亭』に戻った。
 酒場で昼メシを食べてると、ある噂話が聞こえてきたよ。
【ティガー】 どんな噂?
【GM】 なんでも、今から8日前の深夜、2匹のグラスランナーが暴れて、ちょっとした騒ぎになったらしい。
【メイユール】 んー? あのグラスランナーたちか?
【ティガー】 ってことは、ジーネが凶暴化したのは、薬のせいか。暴れたのは、グラスランナーたちだけ?
【GM】 いや、他にも同じような騒ぎが、何件かあったらしい。
「おかしな夜だったな」というふうに言われてます。
【ティガー】 誰か死んだりした?
【GM】 死人は出てないみたいやね。中には衛兵に取り押さえられた者もいたけど、あまり被害もなかったんで、翌朝には釈放されたみたい。
【メイユール】 エルゴン村は、ものすごいことになってたけど。
【ジーネ】 ところでふたりとも、私が暴れたことは教えてくれないのね。

グラランボンバーを探す事

【ティガー】 言わへんで、そんなこと。
【メイユール】 親を殺してしまったんやし、ちょっとシャレにならん。
【ティガー】 魔術師ギルドで『グラランボンバー』のことを調べて欲しいけど、あの商人を探すのは無理かな?
【ジーネ】 そりゃあ、あんな薬を売りつけてんだし、騒ぎが起きて薬の副作用が発覚する前に、姿をくらましてるやろ。
【メイユール】 あの商人って、いつ頃オレンブルクに着いたんやろ?
【GM】 あの後、順調に旅をしていれば、1月14日に到着したんじゃないかと推測できるね。今は24日だから、10日前。
【ティガー】 じゃあ、もう帰ってるかな。
【メイユール】 薬を探すほうが簡単かも。どれくらいのひとが、グラランボンバーを買ったんやろ?
【GM】 さあね。
 ってか、メイユールは劇場で演劇談義に花を咲かせてるんでしょ?
【メイユール】 う〜ん、ティガーのほうがおもしろそうだから、そろそろ宿屋に帰ることにする(笑)。
【ティガー】 メイユールが帰ってきたら、噂話とティガーの推理を教えてあげる。
【メイユール】 聞かされた。
 じゃあ、「グラランボンバー求む」って書いて、冒険者の店の掲示板にでも張り出してみよか。
【ティガー】 「一滴でも残ってたら、空きビンだけでもいいです。『青い波の美し亭』のティガー君とメイユールちゃんまで♥」って。
【GM】 キミたちふたりは有名人だから、張り出せば、すぐに応募がありそうやね。
 というか、空きビンだけでもいいんなら、ジーネが飲んだやつでいいんとちゃうの?
【ティガー】 あの空きビンは、どこに行った?
【メイユール】 ジーネが飲んだ後、握り潰した(笑)。
【ティガー】 「すばらしいパワーだっ!」って(笑)。
【ジーネ】 んなことしとらん。
 たぶん、実家に帰ったときに捨てたと思う。
【ティガー】 じゃあ、やっぱり貼り紙で募集するしかない。
【GM】 何枚ぐらい貼り紙を作るんかな? オレンブルク王国が誇るガリ版印刷を頼むなら、メカリア紙使用30枚300フィスから受け付けるよ。50枚なら450フィス。
【メイユール】 20枚ぐらいでいいから、手書きでがんばる。
【ティガー】 俺が10枚書いて、メイユールが10枚書く。直筆のほうが価値が出るやろ?
【GM】 変な付加価値がつくのは確かやね。そのせいで、張り出したのを持って行かれたりして(笑)。
 張り出し料は、1箇所につき10フィスね。
【ティガー】 全部で200フィスか。
【メイユール】 ふたりで半分ずつ出しあって、あちこちの酒場とかに張り出そう。
【ティガー】 OK〜。
【GM】 その作業は、夜には終了するよ。
【ジーネ】 ところで、GM。
 私は普通に仕事がしたいんだけど。鎧を買ったら、所持金がなくなってしまった。宿屋暮らしをしてると、足が出てしまう。
【GM】 普通に仕事ねぇ……キミのレベルだと、よほどの仕事じゃないと、役不足になってしまう。
【ジーネ】 メイドさんとして雇ってくれてもいいです。
【ティガー】 でも、ムキムキやしな〜(笑)。
【GM】 萌えないメイドは雇ってもらえない──か、どうかは置いといて、その筋肉を活かすいい仕事があるよ。
 港での荷物の積みおろし。日給18フィス。
【ジーネ】 じゃあ、それでいいです。
 あと、宿泊費を浮かせたいから、宿には泊まらずに、シルファス神殿に泊めてもらう。午前中は神殿で奉仕活動して、午後から港で積み荷の仕事、ということで。
【GM】 半日しか働かないんなら、日給は8フィスね。
【ジーネ】 神殿にいれば、食うには困らないから、それでいい。
【GM】 まあ、あんまりタダ飯を食らい続けてもらっても困るんで、ほどほどにね。
【メイユール】 なんか、カロリー消費が高いから、ひと一倍食べてそう(笑)。
【GM】 そう。普通のひとはお碗を持ってスープ配給の列に並ぶねんけど、ジーネだけ、バケツを持って並んでたりする(笑)。
【ティガー】 ジーネ、飲み過ぎ〜。
【ジーネ】 なんでやねん!
【GM】 では、時間を進めて翌日になりました。
 この日、掲示板を見たひとたちが、朝からティガーとメイユールのところへいろんな物を届けに訪れる。
【ティガー】 グラランボンバーはある?
【GM】 うんにゃ。ティガーに届けられるのは、ほとんど女性ファンからの花束(笑)。
【ティガー】 関係ないし〜。
【GM】 メイユールには、「グラランボンバーって、これか?」と、たくさんの男たちが関係ない空きビンを持ってきてる。
【メイユール】 「ぜんぜん違うよ」
【GM】 ひと言でもメイユールと言葉を交わしたかった彼らは、これで満足して帰ってゆく。
「また空きビンを見つけたら、持ってくるぜー!」
【ティガー】 関係ないのは、持ってくるなーッ。
【GM】 それでも、届けられた空きビンを丹念に調べていると、昼過ぎあたりで、見覚えのあるビンを1個見つけた。
 力こぶを作っているグラスランナーのシルエットが描かれたラベルで、サリア語で『グラランボンバー』と書かれてるよ。
【メイユール】 それや〜! 薬は残ってる?
【GM】 底のほうに少しだけ残ってる。
【メイユール】 じゃあ、それを魔術師ギルドに持って行って、調べてもらおうか。
 ジーネも連れてったほうがいいかな。
【ティガー】 そやな、ジーネも調べてもらったほうがいいかも。
 関係ない空きビンに花を生けてから、港へジーネを呼びに行く。
【GM】 オレンブルク北の商港では、屈強な男たちが、荷物の積み降ろしをしている。
 その中で、ひときわ目立つマッチョな女が、湯気をたてながら、通常の3倍のマン・パワーを発揮して働いてます。
【メイユール】 う〜ん、天職やな(笑)。
【ティガー】 いい仕事見つけたなぁ。
【GM】 親方も、「いやー、よく働くいい娘だよ」と、褒めてくれてる。
【ジーネ】 ありがとう、誠実で。何事にもがんばるのが、私の性格ですから。
 ま、がんばり過ぎて、空回りすることがあるかも知れんけど。
【ティガー】 とりあえず、ジーネを魔術師ギルドに持って行こう。
【メイユール】 「ジーネちゃん、ちょっと来てくれる?」
【ジーネ】 何か知らんけど、仕事を抜け出していいのかな。
【メイユール】 「親方、ジーネを持って行っていい?」
【ティガー】 「調べなアカンことがあるねん」
【GM】 「ああ、いいよ」と、親方は快諾してくれた。
【メイユール】 じゃあ、魔術師ギルドに行こう。
【ジーネ】 何しに行くのかは、教えてくれないの?
【ティガー】 「ちょっとした調べもの」とだけ、言っとく。
【GM】 では、ふたりは、ジーネを連れて、魔術師ギルドの中心にそびえる塔、“サントルトゥール”にやって来ました。
 ギルドの受付のお兄さんが、「これはティガーさんにメイユールさん。ようこそいらっしゃいました」と、迎えてくれる。
【メイユール】 おお、有名人や。
【GM】 キミたちは、ここの導師8人を救い出した英雄やから。
「今日は、どういったご用件で?」
【ティガー】 「ちょっと調べて欲しいことがあるねん」って、グラランボンバーの空きビンを出す。
「この薬、なんかヤバげやから」
【GM】 「薬を調べるんですか? では、薬学部へどうぞ」と、受け付けのお兄さんは案内してくれる。
 道順を聞いて、キミたちは、ギルド内の薬品研究所へやって来ました。
【ティガー】 グラランボンバーを調べて〜。
【GM】 はいはい。
 応対してくれたのは、痩せぎすで神経質そうな小男、ここの所長である、ピーターさん。髪の生え際がちょっとデンジャラスな、41歳。
 オレンブルクにおける、薬品学の権威です。
【メイユール】 どこまで事情を話す?
【ティガー】 とりあえず、「『グラランボンバー』っていうその薬を飲んだ奴が、満月の夜に暴れたっていう噂を聞いた」ってことを言う。
【メイユール】 で、ジーネを指して、「あそこに飲んでしまったひとがいるので、危険な薬かどうか、調べてみて欲しい」と、頼んでみる。
【ティガー】 「ジーネの血とか、いるんやったら抜いていいから」
【GM】 ピーター博士はジーネに目をやって、「ははぁ。確かにこれは、不自然にマッチョですなぁ」と言う。
「この方も、満月の夜に暴れたんですか?」
【メイユール】 いや、それは──。
【ティガー】 ──「暴れたりしたら、イヤやな〜」ってことで。
【GM】 「では、いちおう採血しておきましょう」と、ピーター所長は、ナイフでジーネの指を切って、小さな空きビンに何滴か血を落とす。
 採血した後は、すぐに血止めの薬を塗ってくれた。
【ジーネ】 んなことせんでも、〈キュアー・ウーンズ〉があるっちゅーに。
【GM】 さて、これから調査にかかるわけだけど、ピーター所長は、「少し時間がかかると思いますよ」と、念を押します。
【ティガー】 なるべく早くね。
【ジーネ】 調査に時間がかかるんなら、冒険に出たいな〜。
【メイユール】 しばらくは、港で働いとき。
【ジーネ】 小銭しか稼げないから、いつまで経っても借金が返せないのよ。
 まあ、そっちがそれでいいと言うなら、私はかまわないけど。
【GM】 「で、調査料についてですが……じつは、息子がメイユールさんのファンなんで、色紙にサインしてもらうということで」(笑)
【メイユール】 それで無料になるんなら、いくらもサインするよ。手形もつける(笑)。
【GM】 「『トーマスへ』と、書いてやってください」
 あと、ピーター所長の奥さんはティガーのファンなので、そちらへのサインもよろしく。
「こちらは、『メリッサへ』で」
【メイユール】 よっ、マダムキラー!
【ティガー】 うれしくねーッ!
【GM】 「はっはっは。いいおみやげができましたよ」

サリアの商人の事

【メイユール】 ええとこ飾っといてや。
【ティガー】 額縁に入れて。
【GM】 では、検査結果の報告は、後日ということで。
 ティガーとメイユールは『青い波の美し亭』に、ジーネは港に戻ってくれていいよ。
【ジーネ】 じゃあ、また港で働いときます。
【メイユール】 わたしは宿屋には戻らないで、レッドゾーンに乗って、そのまま貧民街の賭場に行く。
【ジーネ】 好きやな、賭場が。身を持ち崩すで?(笑)
【メイユール】 大丈夫、大して金は賭けへんし。
【GM】 メイユールが南区と貧民街との境、正門前の広場に来たとき、「おお、これはすばらしい馬ですな!」と声をかけてくる、中年の男性がいます。
 広場に積み荷を広げて座っている、行商人やね。
【メイユール】 「そお?」って、得意気に反応する(笑)。
【GM】 「その鎧もすばらしい! さぞかし名の知れた冒険者さんなんでしょう」
【メイユール】 「わかる?」って、どんどん得意になっていくで。
【ティガー】 鼻がガンガン伸びる(笑)。
【GM】 「その訛りはサリアですな。いや〜、じつは私もサリア地方から来たんですよ。お国はどこですか?」
【メイユール】 エストリア王国。
【GM】 「エストリア! あそこはすばらしい国です。私はバーゼル王国の生まれなんですよ。
 今はアルファン王国に居を構えて、ミドル、オムスクと渡り歩いて、商いをする身ですが」
【メイユール】 そうなんや。何を売ってるの? グラランボンバー?
【GM】 「はっはっは。あんな怪しい薬を売るのは、後発の奴らですよ」
【メイユール】 グラランボンバーのこと、知ってるの?
【GM】 知ってるみたいやね。サリア地方では、レムリア暦528年末ぐらいから、出回っているらしい。
【メイユール】 今はレムリア暦530年? すごい時間が経ってるやん。
【GM】 向こうでは、すでに飽和状態になってるんちゃうかな。だから、わざわざオムスク地方まで来てたのかも知れない。
【ティガー】 じゃあ、サリア地方には、マッチョがたくさんおるんや。満月の夜とか、えらいことになってるんとちゃう。
【メイユール】 おっちゃんに、バーサク事件のことを尋ねてみる。
「サリア地方で、満月の夜にマッチョな奴らが暴れた、とかいう事件はなかった?」
【GM】 「あったかなぁ、そんな事件……おお、そういえば去年の3月、サリアのあちこちの都市で、そんな感じの事件が起きてましたな」
【メイユール】 それって、グラランボンバーを飲んだ奴ら?
【GM】 「さあ、そこまでは知りませんが」
【ティガー】 発狂事件は3月だけ? おっちゃんはいつ、サリア地方を出発したん?
【GM】 去年の5月やね。
【メイユール】 4月は? 3月以外の満月に、発狂事件はなかったん?
【GM】 「そんな話は聞きませんでしたな」
【メイユール】 どういうことやろ……。
【ティガー】 満月がバーサクの原因じゃないんか??
【メイユール】 ミフォア神殿長が言ってたことは、凶暴化と関係ないやんな。グラスランナーたちとか、暴走したひと全員が、ああいう特徴を持ってるわけじゃないやろし。
【ティガー】 う〜ん……。
【メイユール】 まあ、薬の検査結果が出れば、わかることか。
 グラランボンバーの入手ルートとかはわかる?
【GM】 「“死霊都市”カナンで製造された、という話を聞いたことがありますよ。詳しいことは知りませんけど」
【メイユール】 その程度か。
【GM】 「はっはっは。やはり故郷のことが気になりますか。
 そんなあなたのノスタルジィを満たしてくれるのは、これ。サリアの名産! どうです、久々に故郷の味など?」
【ティガー】 故郷の味? 食べ物?
【GM】 そう、食べ物。ココアとかチョコとか、オムスク地方では手に入らないものばかりが並んでる。
 メイユールには、懐かしい物ばかりやね。
【メイユール】 いくらなの?
【GM】 ココアが1袋20杯分で2000フィス、板チョコ1枚が150フィス。
【メイユール】 高いわ〜!
【GM】 サリア地方でなら、ココアが1袋40フィス、板チョコ3フィスなんやけどね。
【メイユール】 ふっかけやがって(笑)。
【GM】 しゃあないやん。商品が腐りにくくなる魔法の箱に入れて、半年かけてオムスク地方まで運んで来るから、軽く50倍のお値段になるのよ(笑)。
【メイユール】 誰が買うのよ、そんな高いの。
【GM】 オレンブルクでは貴族とか、お金持ちの嗜好品になってる。
【メイユール】 ほう、貴族ね。
【GM】 「だから、あなたにお声をかけたんですよ、高貴なお嬢さん」と、商人は言う。
 まあ、ちょっと傷んだりして商品にならなかったやつを、格安でさばいてるんやけどね。
【ティガー】 これでも格安なんや(笑)。
【GM】 オムスク人が初めてチョコやココアを口にしたのは、約20年前のクラリオン大戦の真っ最中。
 妖魔軍と戦うため、アリステア地方に出征したオムスクの兵に、サリアの国々から食料が配給されたときが初めて。
 終戦後、オムスク兵たちがそれを持ち帰り、あっという間にヒット商品になったそうな。
【ティガー】 おいしかったんや。
【メイユール】 わたしは食べ慣れた味なんやけどね。
【GM】 それに目をつけたサリアの商人たちが、命懸けでオムスク地方まで運んで、富豪たちに高額で売りさばいた。
 そうして財を成した商人が、サリア地方には何人もいるよ。
 最近では、それを元手に、カカオ畑や工場を買い占める者も出はじめたとか。
【メイユール】 それで、後発の商人が『グラランボンバー』で商売してるんか。
【GM】 あと、非合法でコカインなんかの流通もあったり。
【ティガー】【メイユール】 それ欲しい〜!
【GM】 だから、非合法なんやって(笑)。コカの葉なら、メイユールも噛んでたかも知れんけど、このおっちゃんは取り扱ってないよ。
【メイユール】 な〜んや。
【GM】 「というわけでどうです、おひとつ。お嬢さん美人だし、お安くしますよ」
【メイユール】 いらないよ、高いもん。賭場に行く。
【GM】 聞くだけ聞いて、行ってもた(笑)。ひでー。
【ティガー】 俺は、高級レストランでオムレツと肉を食ってから、宿屋に戻る。
【GM】 また、平穏な日常が流れていくわけね。
【ジーネ】 私は、金を稼げる冒険がしたいんだけど。
【ティガー】 冒険に出るのは、薬の検査結果を聞いてからね。
【ジーネ】 はあ。ジーネは、なんでふたりがあの薬にこだわるのか、いまいちわってないんだけど。
【メイユール】 わからんほうがいいよ。
【ティガー】 「あれを飲んだグラスランナーが暴れた。キミも飲んだから、やばいかも知れない」ってだけのことやで。
【ジーネ】 まあ、これ以上詮索してると、ふたりに殴られそうだから、やめとこう(笑)。
【メイユール】 あなたを殴るなんて、そんな命知らずなことはできません(笑)。
【ティガー】 怖い、怖い(笑)。
【メイユール】 どっちにしても、シルヴィアが復帰してこないと、あんまり遠くには行くことはできへんな。
【ティガー】 シルビーの盲腸って、いつ治るの?
【GM】 さあ、もうじき退院してくるんとちがうかな。

 魔術師ギルド薬品研究所の調査結果の報告を待ち、日にちは流れて、1月29日になった。

【GM】 朝です。
 ジーネがシルファス神殿で朝の奉仕活動をしている頃、ティガーとメイユールは、『青い波の美し亭』の酒場に降りてきました。
 窓から差し込む朝の光と、暖炉の炎が、冬の寒さを忘れさせてくれる。いつもように、穏やかな朝やね。
【メイユール】 オヤジに朝食を頼む。
【ティガー】 オムレツ〜。
【GM】 ふたりが朝食を食べてるところへ、全快したシルヴィアが帰ってきました。
【シルヴィア】 やあ、やあ。元気にしてた?
【メイユール】 いろいろあったから、ジロっと睨んどこ(笑)。そうしながらも、いちおう「おかえり〜」って声をかけるけど。
【シルヴィア】 僕がいない間、何か変わったことはあった?
【ティガー】 まあ、あったと言えば、あった。
【メイユール】 ジーネが、ちょっと、かわいくなったぐらい。
【ティガー】 あれを見たら、ビビるやろなぁ。

 ティガーとメイユールは、シルヴィアに、これまであったことを全て話した。ミフォア神殿長アジャン・ラーシャ様の言葉も含めて。

【シルヴィア】 なるほど、えらいことになってるんやな(笑)。
【GM】 そうこうしてるうちに、陽は高く昇って、昼近くになったよ。
 キミたちのところに、ピーター所長の遣いがやって来ました。
「所長からお話があるそうなんで、魔術師ギルドに来て欲しい」とのこと。
【メイユール】 検査結果が出たんや。
 はいは〜い、ついて行く。
【ティガー】 俺も。
【シルヴィア】 もちろん、僕も行くよ。魔術師ギルドからのお達しやからな。
【メイユール】 パブロフの犬のように反応するんや。
【ティガー】 よだれ出るんや。
【シルヴィア】 どんなんやねん(笑)。
【GM】 では、キミたち3人は、辻馬車に乗って、魔術師ギルドに向かいます。料金はギルド持ちなんで、心配しなくていいよ。
【メイユール】 やりぃ!

÷÷ つづく ÷÷
©2005 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2005 Jun Hayashida
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