§烙印の天使：第17話§

魔人の襲撃

夜明けの騒動の事

【ティガー】 で、ここ、どこ？
【ＧＭ】 えーっとね、ゴルドから５日ほど北東に離れたところ、コマス山麓の隠れ里です。ヒルド砦とゴルドの中間地点やね。
　そしてこの集団は、ゴルドをランダースから解放させるために結成された、約310人の組織。
　その半数以上が元ゴルドの騎士だった者たちで、他にメイユールのような雇われた冒険者、連合軍から派遣された兵士などがいる。
【シルヴィア】 ということは、ここは連合軍の陣営なわけやね。
【ＧＭ】 そう。ここの代表、組織を取りまとめている人は、カルファン王国の人らしいけどね。レギト・グニク・イーニン・ハオトという男性で、カルファンの王子らしい。
【ティガー】 ぬ??
【ジーネ】 ここにも滅びた国の残党か。なんでそんな人物がここにいるんだ？
【ＧＭ】 さあ、詳しい経緯はわからない。キミたちが知ってるのは、カルファン王国の王城タイガーファングが、ロットバイル王国に落とされとき、いくら探しても王子の死体は見つからなかったということ。
　そのせいで、「王国を脱出してどこかで生きている」みたいな生存説が、ちらほら囁かれてたりするという程度のことやね。
【ジーネ】 しかし、よその国の王子が、よその国の解放軍を指揮していていいんだろうか。
【ＧＭ】 実質上、この組織を導いてるのは、ルネ・アルヌーという40歳の男性。ゴルド王国の宮廷魔術師だった人で、レギト王子の参謀という立場。
　解放組織がレギト王子を長に戴いてるのは、連合国の諸王たちと対等に渡り合うため。要は、迫をつけるためのお飾りやね。
【シルヴィア】 なるほど。
【ＧＭ】 ちなみに、取調室でティガーを尋問した魔術師がアルヌーで、その傍らにいた前髪の長いキザな若い男が、レギト王子。
【ジーネ】 看板王子やな。
【ＧＭ】 看板といっても、いちおう、スパニア動乱のときには活躍したらしいよ。そして自分がカルファン王国の王子であることを明かし、配下についた７人の元カルファン騎士を率いて、アルヌーの誘いに乗って組織に参加してきたらしい。
【ティガー】 この組織にも、カルファン騎士がいるの？
【ＧＭ】 いるよ。キミと同じ剣を背負い、そこらを歩いてるかも知れない(笑)。
【ジーネ】 この組織がランダースと敵対してるのはわかったけど、山賊団と敵対してるのはなぜ？
【ＧＭ】 それは、後ろ楯である連合軍からの要請だから。ゴルドを敵領から独立させるために力を貸してるのに、その敵領に物資を届けてしまうような集団にいてもらっちゃ、困るということ。
　ついでに、ちょっとここで、連合軍の内情を簡単に示しとこう。

　連合軍はもともと、ロットバイル王国の支援を受けて邪神の眠る島の制圧に乗り出したランダース王国に対抗すべく、結成されたもの。後ろ楯は、ロットバイルを牽制したいオレンブルク王国。
　523年、ブレイン西のカズナ平原の戦いでランダース王国軍は連合軍に敗れ、その２年後、ランダース王国に支配されたスパニアに動乱が起き、スパニア王国は独立を回復させた。その動乱を引き起こしたのは、オレンブルク王国が送り込んだ傭兵たち。
　これで、この島での戦争の大勢は喫した。
　ところがここで、問題が出てきた。
　邪神の眠る島でボロ儲けができるという噂を聞きつけた傭兵たちが、次から次へと、スパニア王国やヒルド砦に入り込みはじめたのだ。
　当然、戦争がなければ、彼らに収入はない。平時の傭兵は、多くが掠奪・虐殺なんでもござれの野盗となって暴れまくり、残りが、それを討つ用心棒や冒険者となって活動するのが世の常。つまり、治安が悪化する。
　例に漏れず、スパニアの治安も最悪になり、しかも、勝手に入り込んできた傭兵たちが、戦争の機運を煽りまくる。無理にそれを押さえつければ、内乱になりかねない状況に陥り、イヤでもランダースと戦わなくてはならない様相になってしまった。
　スパニアも困ったが、連合軍も頭が痛い。
　彼らとしては、ロットバイルの支援を失い、ランダースが戦う力を失った時点で、もう戦争する必要はなくなっていた。
　しかし、このままいけば、スパニアが弱体化したランダース本国や、飛び領となったゴルドを征服してしまうのは必至。（昔から、スパニア王国とゴルド王国は仲が悪く、小規模な戦闘を繰り返していたから）
　そうなると、今度はスパニア王国が力を持ち過ぎて、邪神の眠る島のパワーバランスが崩れてしまう。
　スパニア以外の国にとっては、ゴルドはゴルド王国として独立させ、ランダースは元々のランダース本国領に封じるのが理想的。
　そこで連合軍は、再びオレンブルク王国に支援を求めた。
　オレンブルク王国は、元ゴルド騎士によるゴルド解放組織を結成させ、それを支援し、ゴルドが自力で独立する形になるよう取り計らった。また、ランダース本国には、一国ではなく、スパニアを含む連合軍で進撃するよう、提案した。
　見返りは、ランダース王国領をオレンブルク王国の飛び領とすること。
　連合軍はそれを受諾し、現在に至る。

【ＧＭ】 ──と、こういうことになってるんやわ。
　さて、仲間になってくれるんなら、もう牢屋にいてもらう必要はないね。宿舎に移動してもらおう。
【シルヴィア】 やれやれ、やっと外に出れた。
【メイユール】 やれやれ、やっと見張りが終わった(笑)。
【ＧＭ】 小屋の外に出ると、もうすっかり日が暮れていた。
　目の前に広がるのは、切り立った崖の麓に広がる、森の中に築かれた小規模な集落。２階建ての長屋のような木組みの建物が何棟も建っていて、崖に大きく口を開けた洞穴は、倉庫や食堂への入口らしい。
【ティガー】 メシ〜！
【ＧＭ】 そうやな、もう夕飯の時間でしょう。アルヌーとレギト王子は自分の部屋で食事をするので、ちょっと立派な宿舎に入っていった。
　キミたちは、メイユールに連れられて、洞穴の食堂に入っていった。
【ジーネ】 洞穴で食事なんて、ヤだな〜。
【ＧＭ】 洞穴といっても、かつてドワーフたちが古代の遺跡を利用して住居にしたいたところ。そこが廃墟になってたんで、今はゴルド解放組織が使ってるんやね。
　若干、崩れてる箇所もあるけど。
【シルヴィア】 そういうところは、近づいたらアカンねんな。
【ＧＭ】 危険やからね。でも、食堂は大丈夫。食堂にしてるのは、山の神を祀っていた地下の大聖堂跡。荘厳な装飾はそのままなので、なかなかいい雰囲気だよ。薄暗い明かりが、かえってこの芸術の重厚さを演出している。
【メイユール】 でも、メニューは粗末(笑)。
【ＧＭ】 そう。今日はいつもの固いパンにコーンスープ、ポテトサラダ。
【ティガー】 ああ、肉がよかった……。
【ＧＭ】 肉といえば、向こうのほうで、ブタを200頭ぐらい飼ってるから、ハムが出ることがあるよ。あと、鶏や山羊も飼育してる。
【ティガー】 牛がいいけど、ハムでがまんするわ。
【ＧＭ】 ハム？　たま〜にしか出てこない、ごちそうやけどね。
【ティガー】 えぇ〜っ!?　うっそーん！
【メイユール】 知ったか、うちの食糧事情！(笑)
【ＧＭ】 食事が終わると、与えられた寝床に移動する。例の木組みの長屋の一室で、６人ひと部屋。狭い３段ベッドが２つある。
　ティガーたちは、メイユールと同じ部屋になった。
【メイユール】 あーあ、今までひとりで広く使えてたのに。
【ティガー】 一気に狭くなったな(笑)。
【ジーネ】 男も女も同部屋なの？
【ＧＭ】 冒険者がそんなこと気にしてどうする。ザコ寝には慣れてるやろ。
【ティガー】 んじゃ、今日はもう寝る。
【ＧＭ】 では、狭いベッドにもぐり込んで、キミたちは眠りについた。
　しかし、その安眠は、夜明け前、鶏たちが目を覚ます直前、轟音と地響きによって破られる。天井からパラパラと木屑が降ってくるぐらいの振動を感じた。
【ティガー】 「なに〜？」って起きる。
【ＧＭ】 みんな、飛び起きるやろな。他の部屋の戦士たちも、「なんだ、今のは!?」と目を覚ましてる。
　振動と地響きは、なおも続く。ドシーン、ドシーン、ずごごごご……。
【メイユール】 え〜、そんなにすごい地響きなの？
【シルヴィア】 建物が潰れてしまうんちゃうか。
【メイユール】 やばそうだから、外に出る。
【ティガー】 鎧は着てる間ないから、俺は剣だけ持って外に出る。ファンリーも引っ張って出るよ。
【シルヴィア】 僕はお気に入りのマジック・クロースで寝てたからね。それでメイジ・スタッフを持って、外に出る。
【ジーネ】 チェイン・メイルを着かけてたけど、みんな逃げちゃったから、モーニング・スターだけ持って外に行く。
【ＧＭ】 外に出ると、よく訓練された戦士たちが、たいまつを手にし、あちこちにかがり火をつけて回ってる最中だった。
　その明かりと、夜明け前の銀月に照らされ、崖の洞穴の口が大きく崩れて広がってるのがわかる。
【ティガー】 何が起きたんや。
【ＧＭ】 大きく口を開いた洞穴の中から、十数対の黒い影が飛び出してくる。そのうち１体が、キミたちの目の前に降り立った。身の丈３メートルを超す、竜頭の魔人です。
【ジーネ】 そいつ、どこにおったん？　洞穴の中は食堂と倉庫やろ。
【ティガー】 「ここはあんなん飼ってるの？」って、メイユールに聞く。
【メイユール】 「あんなの、見たことない」
【ティガー】 いちおう、セージでチェック。(ころっ)
【ＧＭ】 すると、そいつがラグナカングという、いわゆる裏混沌の世界の住人、デーモン系のモンスターだとわかった。他の魔人も、これと同様。
　すでにあちこちで、他の戦士たちと魔人どもが、戦い始めている。キミたちと同じように慌てて出てきてるんで、三角帽子にパジャマ姿で、グレート・ソードを振り回してたりする者もいる。
【ティガー】 ブタも「ブーブー」騒いでるんやろな。
【ＧＭ】 中にはブタや山羊を追い回してる魔人もいる(笑)。
【メイユール】 大パニック(笑)。

レギト王子vsティガーの事

【ＧＭ】 キミたちの前に立ったラグナカングは、ティガーが背中に庇っているファンリーを見て、舌なめずりする。
「そいつだな、暗黒神の聖女。うまそうな魂の持ち主じゃ」
【ティガー】 そんなこと言うたら、無条件でどつく。(ころっ)当たった、うわ、ヘボ。ダメージは阻まれた。
【ジーネ】 モーニング・スターで殴る。(ころっ)はずれ。
【メイユール】 〈スネアー〉かけます。(ころっ)
【ＧＭ】 ラグナカングの足下の地面が手の形に盛り上がり、魔人の足を掴もうとする。
【ティガー】 「なんや!?」って思う。精霊魔法を見るの、はじめてやから(笑)。
【ＧＭ】 しかし、隆起したノームの腕は、無残にも踏み潰されて消えてしまった。要するに、抵抗されたってことね。
【メイユール】 あーあ。
【シルヴィア】 前衛に立つティガーとジーネに、〈プロテクション〉。(ころっ)かかった。やったね。
【ＧＭ】 ラグナカングは、牙と鉤爪でティガーに反撃──しかしティガーは、素早い身のこなしで、それらをかわした。

　第２ラウンド、ティガーとジーネの攻撃は、ラグナカングにダメージを与えられない。
　メイユールは〈ホールド〉を唱えたが、ラグナカングに巻きついた蔦は引きちぎられてしまった。

【ＧＭ】 ちぎられた蔦は、力なく地面に横たわる。
【メイユール】 いや〜ん。次のラウンドは〈ストーン・ブラスト〉を唱えよう。
【シルヴィア】 それなら、多少でもダメージがいきそうだしね。

　シルヴィアは〈エンチャント・ウェポン〉で、ティガーのツヴァイハンダーの打撃力を高める。
　そのティガーは敵の反撃をくらってしまい、生命力に10点のダメージを受けてしまった。

【ＧＭ】 向こうでは、他の戦士たちも勇敢に戦っている。「うりゃー！」ばきっ！　「とおッ！」ボカっ！
【ティガー】 ブタが「ブー！」(笑)。

　やがてティガーたちも、ラグナカングにダメージを与えはじめ、６ラウンド目に炸裂したティガーのクリティカルで、魔人どもを撃破することができた。

【シルヴィア】 うむ、これでデーモン・スレイヤーが名乗れるな。
【ジーネ】 じゃ、寝なおしましょうか。
【ＧＭ】 では、夜が明けました。
　明るくなって、組織のひとたちが調べてみると、食堂の奥の壁が崩れていることがわかったらしい。崩れた壁の向こうは、地下室めいた空間になっているそうだ。
【ティガー】 見に行ってみる。
【ＧＭ】 食堂には、他にもたくさんのヤジ馬が来ている。崩された壁の破片は、奥から手前に散らばっている。
【ティガー】 じゃ、食堂の向こうから出てきた、ってことか。奥の空間に行ってみる。
【ＧＭ】 噂の食堂奥の空間の床には、８メートルぐらいの大穴があいていた。深く暗い漆黒の闇の底は目にすることはできず、「こぉぉぉ〜」と、空気が流れ共鳴する音が聞こえる。
【ティガー】 なんじゃ、これ。前、こんなんなかったん？
【ＧＭ】 なかったに決まってるでしょうが(笑)。
【シルヴィア】 偉いさんはそこに来てないの？
【ＧＭ】 いや、魔術師のアルヌーと、レギト王子がそこにいる。王子は「怖いな〜。なんだろうな、これ」とか言ってる。
【シルヴィア】 じゃあ、僕はその人たちの横に立ってるよ。
【メイユール】 わたしもそばにいて、何を話してるのか聞いている。
【ＧＭ】 アルヌーは、「どうやら、あの魔人たちは、この穴の奥から出てきたようですな」と、穴の奥を見ながら言う。すると、肩にとまった使い魔のフクロウが、「ホウ、ホウ」と言う。納得してるのか鳴いてるのか、わからんけどね。
【ティガー】 じゃあ、この穴はゴミ箱にしよう。
【メイユール】 昨日の騒動で、いろいろ散らかったし(笑)。
【ティガー】 そんでいろいろ捨ててたら、何か違うモンスターが生まれてきたりして。
【シルヴィア】 誰か、その穴を調査する人はいないん？
【ＧＭ】 調査はするでしょう。立候補するかい？
【ティガー】 しない。
【ＧＭ】 じゃあ、アルヌーたちが適当に見繕って、穴の中の調査をするんやろね。
【ジーネ】 その他の傭兵たちは、どうしてるの？
【ＧＭ】 まあ、未明の騒動で散らかったものを、洞穴の内外で片づけしてるね。こんな状況だから、朝食は外で食べてもらうことになる。
【ジーネ】 メイド技能で、朝食の準備を手伝います。
【ＧＭ】 そんなこんなで、食事の準備ができました。ティガーたちが洞穴から出てみると、すでに傭兵たちはあちこちで朝食をとっている。
【ティガー】 俺も食う〜。
【ＧＭ】 では、トレーを持って一列に並び、メニューを受け取っていってください。好きなものばかり取らないよーに。たとえば、ティガーの前に並んでる奴みたいに、オムレツを根こそぎ持って行くとか。
【ティガー】 「おまえ、卑怯〜！　オムレツ、返せ」バキッ。
【ＧＭ】 「うるせー、早い者勝ちだ！」ボキッ。
　ティガーは、なんとかオムレツを１個ゲットできた。
【シルヴィア】 朝から格闘かぃ(笑)。
【メイユール】 わたしはそういう事情を知ってるから、さっさと自分のぶんのメニューを確保して、どこか木の根元で食べてるよ。
【ＧＭ】 その木のそばには、ラグナカングを捕らえようとして引きちぎられた蔦が、力なくしおれている。
【メイユール】 「さっきはごめんな〜」
【ティガー】 うわ〜、あの人、蔦と話してる(笑)。
【ＧＭ】 そうして時間は過ぎ、キミたちは朝食を食べ終えた。
　そのとき、門の扉が重々しい音をたてて開けられた。扉といっても、この集落をぐるりと囲む柵と同じように、どでかい丸太で作られた大きなものだけど。
【ティガー】 何やろ？
【ＧＭ】 そこから入ってきたのは、レンジャーらしき男性。メイユールとともに、山賊と戦っていた人物です。
　彼は「ご注進〜」と言いながら、レギト王子とアルヌーがいる宿舎へ入って行った。
【ティガー】 じゃあ、窓からその部屋を覗いてみる。
【シルヴィア】 僕もついて行こう。
【ＧＭ】 どうやら、隻眼の狼のアジトを突き止めたらしく、それを報告しているようだ。レギト王子は、「ふむふむ」と偉そうにうなずきながら、話を聞いている。
【シルヴィア】 アジトって、どこにあるの？
【ＧＭ】 山を３つ越えて、谷をふたつ渡ったところらしい。
【ジーネ】 なに、そのいい加減な説明は。
【ＧＭ】 報告を終えたレンジャーは、アルヌーの「ご苦労だったね」という言葉に送られて、表に出てきた。そして朝食を取りに行って、「残ってねぇー!!」と叫んでる。
【シルヴィア】 そのレンジャーに、詳しい話を聞きに行く。
【ＧＭ】 「やあ、新入りだね」と、レンジャー。しかし説明されるのは、さっき盗み聞きしたのと大差ないよ。
【シルヴィア】 「じゃあ、もうじき討伐隊が派遣されるんだろうね」
【ＧＭ】 「そうなるだろうなぁ。ああ、腹減ったぁ〜」
【メイユール】 しょうがないから、食べずに余らせてたパンをあげます(笑)。
【ＧＭ】 「や、メイユール、悪いね！」
【ティガー】 レギト王子って、何歳ぐらい？　強そう？
【メイユール】 まだ部屋を覗いてるんか(笑)。
【ＧＭ】 レギト王子は、見た感じ、20代後半に思える。まあ、そこそこの腕前はあるだろうけど、強そうというよりキザな優男ふう。
　向こうは、覗いてるティガーに気づいたよ。前髪をバサっとはね上げながら、「何か用かい？」と尋ねてくる。
【ティガー】 「いや、別に」
【シルヴィア】 探検中やねん(笑)。
【ジーネ】 挙動不審な行動は控えてよ〜。
【ティガー】 「王子の顔が見たかってん」って、答える。
【ＧＭ】 「はっはっは、かわいい奴め。ボクは気さくだからね、いくらでも見せてあげるよ。握手もしてあげよう」
【ティガー】 ガチっと握手する。めっちゃ力を込めて握ったるねん。
【ＧＭ】 「はっはっは……いたっ、イタタタタタ！　痛いって！」
【メイユール】 弱〜(笑)。それを離れたところから見てて、「ぎゃはは」と笑っとこう。
【ジーネ】 ティガーは、何かその人に気に入らないところがあるの？　別に、ファンリーにちょっかい出されたわけでもなかろうに。
【ＧＭ】 王子は、「知らず知らずのうちに、妬みまで買ってしまう。ま、これも人の上に立つ者の苦労、というやつかな」と、長い前髪をバサっとはね上げる。
【ティガー】 じゃあ、「大変だねぇ」って、肩をポンと叩く。思いっきり力を込めて。
【ＧＭ】 「いてえ！」バサーっ。
【ティガー】 んじゃ、宿舎に帰る。ちょっと王子を睨んでから。
【ＧＭ】 「いったい、彼は何をあんなに怒ってるんだい？」と、レギト王子は肩をさすりながら首を傾げた。
【ジーネ】 何から何まで気に入らんのか。
【ＧＭ】 やがて夕方になり、明朝、隻眼の狼のアジトを襲撃して、山賊団を壊滅させる作戦が行われることが発表された。
【シルヴィア】 もちろん、その実行部隊に僕らは入ってるよね？
【ＧＭ】 キミたちは志願してたからね、ちゃんと組み込まれてるよ。キミたち３人の他に、メイユールを含む解放軍の戦士47名でもって、実行部隊は組織されている。
【ティガー】 ファンリーは入ってないの？

疑惑のフクロウの事

【ＧＭ】 うん。アルヌーは、未成年であるファンリーを、戦力とは見なしてないから。
【ジーネ】 「連れて行きます。妹を置いて行くわけにはいきませんわ」
【ＧＭ】 妹って……すでにメイユールやアルヌーは、キミたちの事情をあらかた知ってるんやけど(笑)。
【ジーネ】 いいの、別に。
【ＧＭ】 ま、連れて行くというのなら、別に止めはしないけどね。
　それじゃ、ひと晩休んで、翌朝になった。
　出撃する51人は、広場に集められます。これから作戦実行にあたって、アルヌーから訓示が、レギト王子からありがたいお言葉がある。
【ティガー】 前髪王子が来るのか。
【メイユール】 このために王子も、早起きさせられたんだな。
【ＧＭ】 そうやろね、レギト王子はあくびしてるし(笑)。
　アルヌーのほうは、シャキっとしてるよ。ただし、その肩にいつもいるフクロウの姿はない。
【ジーネ】 フクロウは夜行性だからな。
【ＧＭ】 レギト王子は、「これは、ゴルド解放作戦の前哨戦である。キミたちの健闘に期待している。山賊どもに、我が軍の強さを思い知らせてやるのだ！」と、励ましてくれる。
「また、おやつは30フィスまでだから、それを超えてる者は正直に名乗り出て、超過した分を渡して行きなさい」
【メイユール】 「バナナはおやつに入るんですか？」
【ＧＭ】 「バナナもおやつとする！」
【メイユール】 「えーっ!?」
【ＧＭ】 するとアルヌーが、「いや、バナナはおやつではないでしょう」と、横から口を出した。
「果物ですから」
【ティガー】 なんで、こんなにほのぼのやねん！(笑)
【シルヴィア】 出撃前の緊張感なんか、微塵もないね。
【ＧＭ】 というわけで、キミたち51人の隻眼の狼殲滅実行部隊は、斥候レンジャーに道案内されて、山賊団のアジトをめざして秘密基地から出撃した。谷をふたつ渡り、山を３つ越える旅で、明日の昼前に、作戦ポイントに到達する予定です。
【ジーネ】 はぁ。ずいぶん強行軍ね。
【ＧＭ】 旅慣れたキミたちには、苦にもならないけどね。
　残暑の日差しの中、キミたちは足取りも軽やかに、森を抜け、岩場を越え、草原を進んでゆく。
　山の頂上の見晴らしのいいところで、お弁当を食べることになった。シートを広げ、仲のいい者同士で集まって、昼食をとる。シートを忘れた者は、友達に同席させてもらうしかない。
【メイユール】 「土足であがるなよ〜」って(笑)。
【ティガー】 めっちゃ遠足や(笑)。
【ジーネ】 こんなことでいいんだろうか……。
【シルヴィア】 いいんじゃない？　ゆっくりして行けば。
【ＧＭ】 そう、みんな余裕の表情やね。あっちでは、ファンリーが蝶を追いかけてるし。
【シルヴィア】 元気やな(笑)。
【ＧＭ】 その漆黒に青い文様も鮮やかな蝶は、ここ邪神の眠る島西島にしか生息しない。夜になったら、青い模様が光る──と、キミたちのそばでお弁当を食べていた、元ゴルド騎士で部隊長のガッドさんが教えてくれた。
【ジーネ】 青白く光るんか。不気味やな。
【ＧＭ】 その蝶は、ランダース王国のあたりで生まれ、８月上旬頃からスパニア砂漠を越えて、ゴルド付近に現れる。そして中旬頃には、再び砂漠を越えてランダースに戻り、卵を産んで一生を終えるという。
【ジーネ】 何のためにゴルドに来るんやろ。わざわざ砂漠なんか越えんでも、ランダースにいればいいのに。
【シルヴィア】 気候とか、そういうのがあるんでしょ。
【ＧＭ】 ちなみにゴルドでは、神の下で暮らす祖先の魂が蝶の形をとって帰郷してると信じられ、『蝶迎え』は先祖の魂を迎え入れ、『蝶送り』は祖先の魂を天国に帰すものとして、儀式が行われていたそうだ。日本のお盆みたいなものやね。
【ティガー】 ファンリー、祖先の魂を捕まえたりしたらアカンで(笑)。
【ＧＭ】 ガッドさんは、「はっはっは、あれを捕まえるのは難しいな。なんせ素早い奴だから」と笑う。
　そのとき、ファンリーはしゅばっと蝶を捕まえてしまった。
【ティガー】 やっぱり〜！
【シルヴィア】 シーフ技能も持ってるからなぁ。
【ＧＭ】 ま、すぐに放したけどね。青い蝶は、「ひーっ。なんだ、あの婦女子は」といった感じで、あわてて飛び去っていった。
【ティガー】 「もう、捕まるなよ〜」(笑)
【ＧＭ】 それでは、旅が再開されます。

　ふたつめの谷の底で一夜を明かした実行部隊は、翌日の昼頃、報告された山賊団のアジトに到着した。

【ＧＭ】 向こうのほうに、ちょっとした集落が見えてきた。といっても、きちんとした民家が立っているわけではなく、木の骨組みやテントが建っていた跡、焚き火の跡など、大勢の人間が住んでいたという痕跡が残ってるだけやけど。
【ティガー】 痕跡??
【シルヴィア】 誰もおれへんの？
【ＧＭ】 人影はないねぇ。
【メイユール】 あ〜あ、やっぱり……。「またか」とか言う。
【ティガー】 「またか」って？　いつも失敗してんの？
【メイユール】 うん。
【ＧＭ】 じつは、山賊団を殲滅する作戦は、アジトが判明するたび、これまでに８回も行われてるんやね。
　ところが、いざ現場に到着してみると、いつも今のようにもぬけの殻になってるそうだ。
【ティガー】 ８回も？　今度、違う作戦でいこうや(笑)。
【ジーネ】 ひと晩ぐらいここで待ってたら、山賊たち戻ってくるんちゃうかな。
【メイユール】 戻ってこないよ。「隊長、もう帰ろう〜」
【ＧＭ】 その他の戦士たちも、メイユールと同じようにブーブー言い、隊長も帰還することを決めた。
　では、来た道を戻って翌日の昼過ぎ、解放軍の秘密基地に到着しました。
【ジーネ】 追跡したレンジャーが気づかれてたのか、それとも、どこかで情報が漏れてたか、やな。
【ティガー】 ……フクロウ！　あいつのフクロウ、怪しい。
【シルヴィア】 アルヌーのフクロウね。じゃあ、会いにいって聞いてみようか。
【ＧＭ】 アルヌーさんは、王子と参謀の宿舎の会議室にいるらしい。部屋の前に行くと、見張りの戦士が「何か用かね？」と、尋ねてくる。
【シルヴィア】 「山賊団の殲滅作戦について、ちょっとお話が……」
【ＧＭ】 「わかった。今、ガッド隊長の報告を受けてるところだから、ちょっと待ってろ」と、言われる。
【ティガー】 じゃ、ちょっと待つ。部屋の中は見える？
【ＧＭ】 見えるよ。暑いから扉は開けられてるしね。隊長の報告を聞いた王子が「また、無駄足だったか。まあ、しかたあるまい」と、前髪をバサーっとはね上げてる。
　報告を終えたガッド隊長が部屋を出ていき、入れ替わりで、キミたちが会議室に入った。見張りの戦士からは、「あんまり時間がないから、手短にな」と注意される。
【ティガー】 今日は魔術師の肩にフクロウはとまってるの？
【ＧＭ】 とまってるよ。「ホー、ホー」と鳴いてる。
【ティガー】 「この間、おらへんかったやん」と言う。
【ＧＭ】 「そりゃあ、いつも一緒にいるわけではないでしょう」と、アルヌーは答える。
「のう、ソーサラー殿」
【シルヴィア】 「いる」って答える(笑)。
【ティガー】 ほらほらぁ(笑)。
【ＧＭ】 「ふむ、使い魔も持ってないソーサラーに聞いても、無駄だったか」
【シルヴィア】 近いうちに、使い魔召喚の儀式をするさ。
【ＧＭ】 するとレギト王子が、「何をもめてるんだい？　ボクに話してごらんよ」と、前髪をはね上げながら言ってくる。
【ティガー】 「おまえにゃ、関係ねーよ」
【シルヴィア】 「部外者はひっこんでな」
【メイユール】 めっちゃ、嫌われてるぅ〜(笑)。
【ＧＭ】 王子は、「国を追われた王は惨めなもんだ。亡国の王の気持ちなど、誰にもわるまい」と、遠い目をしてる。
【ティガー】 「おまえの気持ちなんか、わかんねえよ」(笑)
【ジーネ】 私たちはみんな、一般庶民の生まれだしね。
【シルヴィア】 次の作戦はどうなってるの？
【ＧＭ】 「残念だが、隻眼の狼の殲滅は断念する」と、アルヌーは言う。
「７日後、いよいよゴルド解放作戦を開始することになるからね」
【メイユール】 それが終わったら、やっと契約が完了するね。焼肉を食べに行ける。
【ティガー】 俺は７日間、魔術師や王子が見える範囲にいて、さりげなく見張っておく。夜は知らん。寝るから。
【ジーネ】 それって、見張ってることになるの？
【ＧＭ】 ティガーはこの７日、昼間はずっとアルヌーを見張ってたけど、とくに怪しいところはなかった。
【ティガー】 じゃあ、夜に何かやってたんや──と、思うけど、夜は眠ってたから知らん。「今、何かしてるんちゃうかな〜」と思いながら、見張ってる夢を見てた。
【シルヴィア】 僕は３日３晩の儀式で、黒っぽいフクロウを使い魔として召喚するよ。
【ティガー】 参謀と一緒！
【シルヴィア】 フクロウがいちばん便利そうだからね。(ころっ)成功。
【ＧＭ】 共同部屋で３日３晩の儀式をするもんやから、他の４人はたまったもんじゃないやろな。真夜中に突然「カーッ!!」とか叫ぶし。
【メイユール】 「うるさーい！」って枕を飛ばさな(笑)。
【ＧＭ】 ファンリーは魔法陣の上に寝かされて、きょとんとしてるし。
【ティガー】 何の儀式やねん！(笑)
【ＧＭ】 そんな感じで７日が過ぎ、いよいよ出陣の朝を迎えた。