≪REV / EXIT / FWD≫

§竜婚の贄姫:第2話§

北西の処刑場跡地の怪

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン
▽ 冒険者たちは処刑場跡地に行った ▽ 恐るべき冒険者たち ▽ 冒険者たちに報酬を

冒険者たちは処刑場跡地に行った

【GM】 あれから1ヶ月が過ぎた。キミたちは『サイレント・パブ』をアジトにしてしまったようで、2階の宿泊施設に住み着いている。
 ある日の朝、いつものように朝食を食べに1階の酒場に降りて来たキミたちに、酒場の主人が話しかてきた。「よお、仕事する気はないかい? 5つほど仕事が入ってきてるんだけど、冒険者がいなくてよ」
【牙皇子】 ほう。冒険者の店のくせに、私たち以外に冒険者がいない?
【フィナーレ】 そっか、この店ってはやってないんだ。
【GM】 あのな。オヤジは少々口許を引きつらせながら、「俺も依頼主からだいたいしか聞いてねえんだけどな──、

 (1) 盗まれた『魂の壺』を取り戻す。報酬は200フィス。
 (2) 奪われた『古の骨』を取り戻す。報酬は250フィス。
 (3) お使い。『ビゼンオサフネカネミツ』という刀を買ってくる。報酬は400フィス。
 (4) 誘拐されたミリアという女司祭を救出する。報酬は1000フィス。
 (5) 東方のレイホーという女吟遊詩人の護衛。報酬は800フィス。

──ってのが、5つの仕事だ。何か仕事したいなら、どれか選んで依頼主のところへ行ってくれ」と言った。
【フィナーレ】 女司祭の救出なんか、報酬がよくていいねぇ。
【牙皇子】 よすぎて怪しい。私は(1)番の仕事がいいと思うな。いちばん手頃だ。
【フィナーレ】 でも報酬が安すぎるぅ。
【牙皇子】 よし、ではこうしよう。私が(1)番の仕事を受ける。フィナーレが(4)番の、女司祭救出の仕事を受けてこい。
【GM】 それはやめれ〜。
【フィナーレ】 しょうがない。キバちゃんに合わせるわ。
【牙皇子】 では、(1)番の品物の奪回の仕事を受けに行くぞ。
【GM】 OK。キミたちは依頼主である『神秘の道具屋』に来たよ。道具屋のオヤジが出てきた。「やあ、冒険者の方ですね」
【牙皇子】 見てわからんか。
【GM】 え、エラソーなやっちゃな。「あー、さっそく仕事の話なのですが、じつは、わたくしの店の『魂の壺』という品物が、盗人に奪われてしまったのです。その後の調べで、犯人は、5年前に封鎖された、北西の処刑場跡地に巣くうゴブリンどもらしいとわかりました」
【フィナーレ】 あいも変わらずゴブリンねぇ。
【牙皇子】 処刑場跡地だって言ってたろ。GMの趣味からすると、アンデッドだって山ほどいるぞ。
【GM】 だろうねぇ。何なら聖水でも買っていったら? 価格は大特価98フィス! なんと今回ついに100フィスをきりました! しかも、今ならもうひとつついてきます!
【牙皇子】 だったら、ひとつでいいから半額にしろ。
【フィナーレ】 でも、いらな〜い。魔法が使えるから。
【GM】 あ、そ。「じゃあ、成功報酬200フィスってことでお願いしますね」
【牙皇子】 やだね。
【GM】 は?
【牙皇子】 800フィスにしろ。
【フィナーレ】 もちろん、ひとり頭ね。
【GM】 ふたりで1600フィスか。なるほど、なるほど。……って、そんなに払えるわけないやろッ!
【牙皇子】 別にいいぞ。払えないと言うのなら、他の仕事に行くだけだから。
【フィナーレ】 その『魂の壺』ってやつ、一生帰ってこないでしょうねぇ。
【GM】 ひとの弱みにつけこみやがって。オヤジは言う。「わかりましたよ。ひとり頭、270フィス支払います。道中の食料も用意します。これでいいでしょ!? この店、はやってないんだから、これ以上は払えないの! 勘弁してよぉ〜」
【牙皇子】 なんだ、この店もボロなのか。
【フィナーレ】 どうする、キバちゃん?
【牙皇子】 しょうがないから、受けてやるか。いざとなったら、その『魂の壺』を売っ払えばいいんだ。
【GM】 な、なんて奴だ……。「あ、そうそう。北西の処刑場跡地には、洞窟状の元地下牢があるらしいから、照明なんかを持って行ってるほうがいいよ」と、オヤジ。
【牙皇子】 それは持ってる。
【フィナーレ】 ところでさ、その『魂の壺』って何なの?
【GM】 何かが封印されているものらしいけど、オヤジもよく知らない。
【フィナーレ】 い、いいかげんな……。
【牙皇子】 ま、はやりもしない店の物だ。大したもんじゃないさ。
【GM】 ち、ちくしょ〜。バカにしたなぁ〜。
【牙皇子】 ところで、なんでその処刑場は使われなくなったんだ?
【GM】 ワームが湧いて出てきたんだって。ちなみに死刑囚たちは、置き去りにされたらしい。
【フィナーレ】 ひどい奴らだ。
【牙皇子】 ま、死刑にする手間がはぶけて、よかったんじゃないか。じゃ、さっさとその処刑場跡地に行こう。
【GM】 では、メカリアを出発してウン日後、キミたちは北西の処刑場跡地に着きました。処刑場跡地と言うだけあって、あまり気持ちのいい雰囲気じゃない。どんより曇ってるし。生暖かい風は吹くし。……いや、キミたちにはぴったりの雰囲気かもね(笑)。
【フィナーレ】 どーゆー意味だ。
【GM】 そのままの意味だ。で、地下への入口が見えてるけど?
【フィナーレ】 それじゃあ、洞窟に入ろうかな。
【GM】 入ったらすぐに、下り階段があった。階段を降りきると、そこから廊下がまっすぐに続いている。そしてその果てには、閉ざされた木製の扉がある。
【牙皇子】 扉か……あるわけがないとは思うが、いちおう罠を調べてみるか。(ころっ)。
【GM】 罠は見つからない。
【牙皇子】 フィナーレ、罠はないぞ。開けろ。
【フィナーレ】 ワナがないと思うなら自分で開けてよぉ〜。
【牙皇子】 そんな危険なことができるか(笑)。
【GM】 自分の腕前が信じられんのかい。
【フィナーレ】 自分で開けろ〜。
【牙皇子】 ほほう。罠にかかって死ぬのと、私に殺されるのと、どっちがいいか選べ。
【フィナーレ】 どっちもイヤじゃ〜!!
【GM】 まあまあ、まだ扉に罠があると決まったわけじゃないし。
【フィナーレ】 う〜、扉を開けます。それは押して開ける扉ですか?
【GM】 いんや、手前に引いて開ける扉だよ。
【フィナーレ】 じゃあ、開いたドアに隠れるように、開けます。
【GM】 そのとき、扉を開けようと近づいたフィナーレは、ドアの向こうで、なにやらゴソゴソ動くような物音を聞く。
【フィナーレ】 ゴブリンかな?
【牙皇子】 アンデッドかもな。
【フィナーレ】 ひいいぃぃぃぃ〜! 開けたくなぁ〜い。
【牙皇子】 GM、私は階段のところまでさがって、扉に向けてロングボウを構えるぞ。モンスターが出てきたら、それで射つ。
【GM】 それはいいけど、ヘタしたらフィナーレに当たるかも知れないぞ?
【牙皇子】 かまわん。
【フィナーレ】 かまうわいッ!
【牙皇子】 ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと扉を開けろ。さもなくば、今、この場でおまえを射殺するぞ。
【フィナーレ】 う〜……はずさないでよ、キバちゃん。GM、扉を開けます。
【GM】 扉は蝶番が錆びていたらしく、ギギィ〜ときしんだ音をたてながら開いた。すると、扉の向こうの闇から白い影が現れた!
【牙皇子】 レイスかな?
【GM】 いや、見ただけでわかる。動く骸骨だ。
【フィナーレ】 あんまり変わらんよーな……。
【GM】 骸骨は、眼球のない虚ろな窪みの瞳でキバちゃんを見、そちらへギクシャクと歩いてくる。フィナーレには気づいてないみたいだ。
【フィナーレ】 よかった。あたしはこのまま隠れています。キバちゃん、がんばってね〜。
【牙皇子】 骸骨相手なら弓矢は効かんな。マトックに持ち替えて、こちらから突撃してやる! UUURRRYYYーッ!!
【フィナーレ】 おお、キバちゃんが戦闘形態になった。
【GM】 そちらからも近づくなら、このラウンドから接敵状態になるよ。イニシアティブをとろう。
【GM】【牙皇子】【フィナーレ】 (ころっ)
【GM】 誰が早い?
【フィナーレ】 あたしッ! でも、観戦モード。
【牙皇子】 次は私だ。砕け散れぃ、死に損ないめッ!! (ころっ)12発のダメージが行ったぞ。
【GM】 ぐわっ、痛い。でも、まだやられたわけじゃない。骸骨の反撃だ。おっと、はずしてしまった。やるな。じゃあ次のラウンドだ。イニシアティブは?
【牙皇子】 私が1番。とどめを刺してやろう。(ころっ)…クリティカル・ヒットしたぞ。22発のダメージが行った。
【GM】 ガラガラガッシャーン! 骸骨は粉々になっちゃいました。

恐るべき冒険者たち

 ふたりは扉をくぐって、奥へと進んだ。その奥はT字路になっていた。

【GM】 さあ、どっちへ行く?
【牙皇子】 私は右に。
【フィナーレ】 あたしは左に。
【牙皇子】 さらばだ、フィナーレ。
【フィナーレ】 さよなら、キバちゃん。
【GM】 また、そのパターンかぃ!? いいけどよ〜、別によ〜。
【フィナーレ】 おや? GMの態度がいつもと違う……どうしよう?
【牙皇子】 私は右に行く。きさまは好きにすればいい。
【フィナーレ】 ……じゃあ、あたしもキバちゃんについていきます。
【GM】 OK。

 ふたりが右に進んで、ひとつめの曲がり角に来たとき。

【GM】 その曲がり角の向こうから、何やら寒けというか、悪寒を感じる。
【フィナーレ】 何だろう?
【牙皇子】 イヤな予感がするな……引き返そう。
【GM】 は?
【牙皇子】 私たちはT字路を右に曲がって来ただろ。そこまで引き返して、今度は左側に行くと言ってるんだ。
【GM】 あの、悪寒の正体を探ろうとか、この先に何があるかとか、調べたりしないの?
【牙皇子】 しない。この先にいるのは、幽霊に決まってる。
【GM】 あ、そ(←いじけてる)。じゃあ、キミたちはT字路まで戻ろうとした。しかし、キミたちの背後には確かに何かがいて、ついてきているような気配がする。
【フィナーレ】 ふ、振り向いたら負けよ。
【牙皇子】 その時、スタジオに異変がッ!!
【GM】 スタジオ見学者のうちの何人かが、寒けを訴えて倒れたのだ! 騒然とするスタジオ。ゲストの顔にも、不安の表情が浮かぶ!
【牙皇子】 突然、ゲストのフィナーレさんが倒れ、うわ言のように何かをつぶやきはじめた! 「【フィナーレ】 く、車が……車が憎い……ッ!!」どうやら、交通事故死した霊が憑依したようだ!
【GM】 すぐに霊能力者が呼ばれ、フィナーレさんの御祓いが──。
【フィナーレ】 ひとで遊ぶなー! GM、T字路地の左側に行くんだけど、その先はどうなってるの?
【GM】 「臨兵闘者開陣列在前! 己のあるべき世界へ帰れ〜」(←聞いてない)
【フィナーレ】 ええぇ〜い、いい加減にせんかぁ!
【GM】 ぎゃーぎゃーうるさいなぁ。ええーと、T字路地の左側の奥に進むと、今度は右に折れた曲がり角がある。
【牙皇子】 そして右側と同じように、その先に寒けを感じる。
【GM】 ピンポ〜ン。
【フィナーレ】 は、はさまれたぁ〜。
【牙皇子】 慌てるな。とりあえず、まずは後ろを振り返ってみる。
【GM】 振り返ると、そこに半透明の男の幽霊がいた。足は薄くて消えかけてる。
【牙皇子】 ふむ、やっぱり幽霊だったな。
【フィナーレ】 落ちついてる場合じゃな〜い! あたしは、〈カメレオン〉の魔法で姿を消します。
【GM】 消してどうする。後ろの幽霊には、もうキミの存在はわかってるんだから。
【牙皇子】 〈カメレオン〉はまわりの風景に同化するわけだから、おまえ、動けなくなるぞ。
【フィナーレ】 う〜、どーしよう。
【牙皇子】 〈ターン・アンデッド〉をかける。せっかくだから、前から来る幽霊も範囲に入れてやろう。
【GM】 前から来るものは幽霊と決まったわけじゃないけど……。とりあえず、前方の気配はまだ、キミたちの前に姿を現していないよ。
【牙皇子】 じゃあ、こちらから近づいてやろう。
【GM】 大胆な奴だな(笑)。 曲がり角を曲がったところで、前方の気配の正体も幽霊だとわかった。キバちゃんとフィナーレは、2体の幽霊に前後を挟まれてしまったわけだね。
【牙皇子】 フッ、不浄なる者どもよ、私が地獄へ叩き落としてやろう! 〈ターン・アンデッド〉!
【フィナーレ】 昇天させるんじゃなくて、地獄へ落とすのね。
【GM】 キバちゃんらしいな。じゃあ、効果のほどをダイスで決めてくれ。
【牙皇子】 (ころっ)1匹はその場で凍りつき、もう1匹は消えてなくなった。みごと地獄へ送ってやったぞ。
【GM】 かわいそうな幽霊。
【フィナーレ】 出会った相手が悪かったね。
【牙皇子】 凍りついた幽霊にとどめを刺せ、フィナーレ。
【GM】 ちなみに幽霊は、武器とかでは叩けないからね。
【フィナーレ】 よぉ〜し、〈エネルギーボルト〉で殺しちゃる〜。死ねぇ〜、〈エネルギーボルト〉ぉ〜。
【GM】 幽霊はもともと死んでるんだけどね。はいはい、「ばしゅう〜!」と、幽霊は消えてしまった。
【フィナーレ】 そんじゃ先へ進もう。

 その先には、まっすぐ続く通路と、左に曲がる通路とが交わるT字路があった。牙皇子たちは、とりあえずまっすぐ進むことにした。

【GM】 まっすぐ進と、ひとつの扉があった。
【フィナーレ】 また扉か……。
【GM】 その扉は木製で、周りに鉄の枠がはめられている。ただし、木の部分は腐りかけて、隙間だらけになってしまってるけどね。
【フィナーレ】 キバちゃん、罠を調べろ。
【牙皇子】 罠はない(断言)。
【フィナーレ】 ほえ?
【牙皇子】 罠はない。だから、さっさと扉を開けろ。
【フィナーレ】 調べてもないのにぃ〜。
【牙皇子】 ここは、もともと死刑囚たちの地下牢だったところだぞ。この扉はたぶん、衛兵かなんかの詰所の部屋の扉だったはずだ。現在、ゴブリンたちが寝床に使っているとしたらなおのこと、誰が好き好んでそんなところに罠を仕掛けるんだ。
【フィナーレ】 1回目の扉の時は調べてくれたのにぃ。
【牙皇子】 邪魔くさくなった。
【GM】 ゴチャゴチャ言うといて、それが本音かぃ!
【フィナーレ】 じゃあキバちゃんが開けてよ〜。
【牙皇子】 開けた。
【GM】 は? そんなにあっさりと?
【牙皇子】 そんなにあっさりと。
【GM】 ……罠はなかったし、鍵もかかってなかった。ただ──。
【フィナーレ】 ただ!?
【牙皇子】 何を期待してやがる。
【GM】 扉の向こうは部屋だったんだけど、その部屋の床は、ヘドロみたいなのがウジュウジュしてるんやね。
【牙皇子】 クロスボウの矢でヘドロをつついてみる。
【GM】 つついてみると、それは何かが腐って溶けてるような、すごい匂いの柔らかい正体不明のものだった。ちなみに部屋の中央あたりには、テーブルや椅子がはんぶん沈みかけで浮いていて、正面の壁には鞘に入った剣がかかっている。
【牙皇子】 やっぱりもと衛兵の部屋だったんだな。
【フィナーレ】 剣があるんでしょ。すごい剣?
【GM】 なにを基準にすごいんか知らんけど、ここからじゃよくわからない。手にとって鑑定してみないとね。
【フィナーレ】 他には何かないの?
【GM】 見える範囲には、なにもないね。
【牙皇子】 よし。部屋に入って調べろ、フィナーレ。ついでにあの剣を取ってこい。
【フィナーレ】 はい??
【牙皇子】 部屋へ入れ、と言ってるんだ。
【フィナーレ】 いやぢゃ、いやぢゃ〜!!
【牙皇子】 きさまに否応言える権利があるとでも思うか。聞く耳持たん。むんずと首根っこをつかまえて、部屋へ放りこんでやる!
【フィナーレ】 あ〜れ〜!
【GM】 じゃあフィナーレは、ちょうど部屋の真ン中あたりに落っこちた。ヘドロ状の床は底なし沼のように、フィナーレの身体をずぶずぶと引きずり込んでゆく。
【フィナーレ】 た、助けてぇ〜。ヘルプ・ミー!
【牙皇子】 馬鹿者、沈むな。さっさとあの剣を取ってこい。
【フィナーレ】 あう〜。
【GM】 それは不可能だね。フィナーレはハード・レザーを着ているから、容赦なく沈む。浮かびたかったら、鎧を脱ぐんだね。
【フィナーレ】 あう〜。たすけてくれぇ〜。
【牙皇子】 しょうがない。ロープを投げて寄越してやろう。
【フィナーレ】 ロープにしがみつく。
【GM】 つかまったことにしよう。キバちゃんはフィナーレを引きあげるのかい?
【牙皇子】 仕方あるまい。あの剣は取れなかったし、この部屋には何もないということがわかったしな。
【GM】 誰が何もないって言ったのかな?
【フィナーレ】 ってことは、お宝でも!?
【GM】 ピンポンピンポン、ブッブ〜! 引きあげられたフィナーレの足には、何やら触手のような物が絡みついている。その触手の持ち主は、ギザギザの歯がついた口がやたらと目立つ、人間の赤ん坊大のウジムシみたいな虫だった。
【フィナーレ】 うえええ〜!! どこがお宝だぁ! キバちゃん、何とかして〜!
【牙皇子】 まったく使えん奴だ。そいつがオヤジの言ってたワームだな。では、マトックで叩き潰してやろう。フィナーレ、動くなよ。失敗するときさまの足を潰すことになるからな。
【フィナーレ】 ちゃんと狙ってよ。
【牙皇子】 (ころっ)当たったぞ。
【GM】 じゃあ、ダメージ判定するまでもない。ウジムシはぶちゅっと潰れて、その体液がフィナーレにかかった(笑)。
【フィナーレ】 あう〜……。
【牙皇子】 ま、それだけ汚れていれば、今さら関係あるまい。
【GM】 すでに頭の先から足の先まで、臭いヘドロでぐちょぐちょだしね。
【牙皇子】 フィナーレ、身体を洗うまで、あんまり私に近づくんじゃないぞ。臭いし。
【フィナーレ】 こ、こ、こんな女に誰がしたァ!
【牙皇子】 とりあえず、先に進めないないなら、もと来た道を引き返そう。
【GM】 なら、来るときに差しかかった、ふたつ目のT字路まで戻ってきた。来るときとは逆向きだから、まっすぐ行く道と、右に曲がる道とに分かれてることになるね。どっちへ行く?
【牙皇子】 では、右に曲がってみよう。
【GM】 右に曲がると、少しばかり廊下がまっすぐ伸びていて、その左右の壁に3つずつ、鉄格子がはまっている。いちばん奥のふたつの鉄格子の扉だけが、なぜか開いている。ちなみに、そこで廊下は行き止まりだ。

冒険者たちに報酬を

【フィナーレ】 きっと、地下牢だったところね。扉が開いているところが気になるけど。
【牙皇子】 アンデッドでも出るかな。奥へ進んでみよう。
【フィナーレ】 あたしは、T字路のところで待ってます。キバちゃん、がんばってね〜。
【GM】 キバちゃんが奥へ進むと、牢屋の中身が見える。どの牢屋にも白骨死体が1体ずつ入っている。
【牙皇子】 置き去りにされた死刑囚たちだな。こいつらが動きだすと、この洞窟に入った直後に出会ったスケルトンになるわけだ。とりあえず、いちばん奥の扉が開いた牢を覗いてみる。
【GM】 左右にひとつずつあるけど、どっちを先に見るのかな?
【牙皇子】 奥に向かって右側。
【GM】 では、そこの牢屋にも白骨死体があるのがわかる。その死体はなぜか、体育座りして死んでいるよ(笑)。その指にはキラッと光る指輪がはまっている。
【フィナーレ】 キバちゃん、指輪取れ〜。
【牙皇子】 (無視して)反対側を見る。
【フィナーレ】 ああ、冷たい……。
【GM】 反対側にもやはり白骨死体がある。それは大の字に寝ているんだけど、その腹のあたりに、子供の二の腕くらいの大きさの、金色に光る物が見える。
【牙皇子】 入って行ってみよう。
【フィナーレ】 スケルトン、動け〜。
【GM】 動かない。
【フィナーレ】 ああ、冷たい……。
【牙皇子】 金の物を拾ってみる。拾う前に白骨の頭を踏み砕いておこう。動いてもらうと困るからな。
【GM】 慎重だね。キバちゃんが拾ったものは、奇妙な衣装をまとった人間の像だった。その死刑囚が盗んで捕まる前に、呑みこんでいたんだろうね。
【牙皇子】 けっこうでかいぞ、これは(笑)。
【GM】 根性で呑みこんだ(笑)。
【フィナーレ】 根性ねえ……。
【牙皇子】 とりあえず[宝物鑑定]してみるか。
【GM】 OK。(ころっ)それは東方で有名な『仏像』というものだとわかった。けど、評価価格まではわからない。
【牙皇子】 バックパックに入れておこう。もちろんフィナーレには内緒だ。
【フィナーレ】 あう〜。
【牙皇子】 指輪の骸骨のところにも行ってみよう。で、同じように白骨を砕いてから、指輪を拾う。ついでに[宝物鑑定]。
【GM】 (ころっ)その指輪にはまっている宝石は、紫水晶のように見える。
【牙皇子】 『ように見える』か。
【フィナーレ】 鑑定に失敗したね、キバちゃん。
【牙皇子】 では、これもこっそり懐に入れて、フィナーレの待つところまで行こう。
【GM】 しかし、牢屋を出てT字路のほうへ向かうキバちゃんの背後に、突然、1匹の幽霊が現れた!
【フィナーレ】 よっしゃ!!
【牙皇子】 そこの汚れて臭い女、死というものが怖くはないか?
【フィナーレ】 怖いで〜す。
【GM】 幽霊はキバちゃんに言う。「わたしの指輪を盗ったのは、おまえか?」
【牙皇子】 そうだ。
【GM】 正直な奴(笑)。「返せ〜!」
【牙皇子】 (あっさりと)返す。
【GM】 え?? 抵抗とか、戦闘とかしないの?
【牙皇子】 抵抗とか、戦闘とかしない。返す。
【GM】 じゃあ、幽霊は指輪とともに消えた。
【牙皇子】 では、フィナーレのところへ行こう。「いや〜、指輪があったんだけど、さっきの幽霊に取られちゃったよ。ハッハッハ」
【フィナーレ】 わざとらし〜。仏像はぁ〜。
【GM】 それはプレイヤーは知っていても、キャラクターは知らないことだ。
【牙皇子】 お宝がなくて、残念、残念(笑)。
【フィナーレ】 あう〜……。

 ふたりはその後、最初のT字路の右側に再挑戦し、ゾンビの部屋を鑑賞したあと、鉄製の扉の前に来た。

【牙皇子】 とりあえずフィナーレ。扉、開けろや。
【フィナーレ】 いやぢゃ〜! キバちゃん、ワナを調べてよぉ〜。
【牙皇子】 なんとなくヤバそうだから、いやだ。ではこうしよう。ジャンケンで負けた方が扉を開けるのだ。
【フィナーレ】 う〜……ワナがあったらどうするのよぉ。
【牙皇子】 私が扉を開けるときは、当然[罠発見]を試みる(笑)。
【フィナーレ】 不公平だぁ! きさま、それでもシーフかぁッ!
【牙皇子】 残念。私はドラゴンプリーストであり、おまえの飼い主だ。
【フィナーレ】 うぐぐ……わかった。──って、ちょっと待てぃ! 誰が飼い主だって?
【牙皇子】 フッ、死にたくなければ深く考えるな。
【GM】 (しかし、こいつらホントに仲間か??)
【牙皇子】【フィナーレ】 ジャンケン、ホイ!
【フィナーレ】 ああッ、負けた。
【GM】 じゃあ、フィナーレが扉を開けようとするんだね?
【フィナーレ】 はい。ワナにじゅう〜ぶん注意します。
【GM】 罠はないけど、鍵がかかってるよ。
【フィナーレ】 鍵よ。開けて、キバちゃん。
【牙皇子】 いやだ。ジャンケンで負けた、貴様がなんとかしろ。
【フィナーレ】 あう〜。……じゃあ、〈エネルギーボルト〉でぶち壊します。
【GM】 (な、なにぃ!? バ、バカなッ!)壊すの?
【フィナーレ】 うん、魔法で壊す。鍵、開かないし。
【GM】 ……いいよ……。
【フィナーレ】 そんじゃ、〈エネルギーボルト〉!! (ころっ)ダメージ9点。
【GM】 扉は少しへこんだようだね。
【フィナーレ】 一発で壊れないなんて……。
【牙皇子】 鉄の扉がそんなに簡単に壊れるかい。
【フィナーレ】 もう一発かまします。(ころっ)今度は11点行きました。
【GM】 じゃあ、扉にキミたちの頭くらいの大きさの穴が開いたよ。
【牙皇子】 変だな。鉄のわりには、あっさりと……。
【フィナーレ】 GMが適当に処理したんでしょ。このGM、いーかげんだから。
【GM】 (違うわい! こいつはドア・イミテーターだったんだよッ。せっかく、鍵を開けようとする牙皇子を襲ってやろうと思ってたのに、正体を明かす間もなくやられてしまうなんて──運のいい奴らだ)穴の向こうは、暗くてよく見えない。扉の穴に手を突っこんで、内側から鍵をはずすことは可能だね。
【牙皇子】 GMがそんなふうに提言するってことは、手を突っこむと、ロクなことにならんということだ。[聞き耳]してみよう。
【GM】 特に何も聞こえない。
【フィナーレ】 あたしが扉に穴を開けたから、後はキバちゃんがやってね。
【牙皇子】 バカ言え。『ジャンケンで負けたほうが、扉を開ける』って言ったろ。きさまがやったのは、穴を開けたことで、扉を開けたことではない。
【フィナーレ】 あう〜。じゃあ、〈オーク〉の魔法でウッド・ゴーレムを作ります。
【GM】 材料は?
【フィナーレ】 前回のセッションのが残ってます。
【GM】 そりゃいいけど、オークの身長は、1メートルはあるんだよ。その穴の大きさじゃ、ちょっと入らないね。
【フィナーレ】 じゃあ、ちっちゃいのを作ろう。
【GM】 できん、できん(笑)。それにオークは、戦う以外に能がない。鍵開けすら難しいだろうね。
【フィナーレ】 じゃあ、オークにドアの鍵を壊すように命令して、作るならいい?
【GM】 だから、キミが開けた扉の穴じゃ、オークは中に入れないんだって。
【フィナーレ】 それは、ウッド・ゴーレムの材料を穴から中へ入れて、外から魔法をかけて作るから大丈夫です。
【GM】 う〜ん、それならよしとするか。(普通に〈アンロック〉使えよ(笑))
【フィナーレ】 じゃあ、〈オーク〉の魔法をかけます。
【GM】 オークは扉の向こうで出来あがったようだ。
【牙皇子】 ……ホントは、樫の木の枝に接触してなきゃ、いけないんだけどな。
【GM】 ああッ、しまった! ま、いいか。
【フィナーレ】 よ〜し、オークよ、鍵を壊して開けなさい。
【GM】 しかし、部屋の向こうで「バキッ! ボキッ! グシぃ!!」って音がしたかと思うと、しんと静まり返った。フィナーレのオークが、フィナーレの命令を実行している様子はない。
【牙皇子】【フィナーレ】 ……。
【フィナーレ】 ぎゃあ! あたしのオークちゃんがッ……。
【牙皇子】 中に何かいたようだな。こんだけゴソゴソして出てこないってことは、向こうもゴーレムか何かの人形のようだな。
【フィナーレ】 うう、あたしのオークより強いなんて……。
【牙皇子】 それより、扉を壊させるんなら、別に外からでもよかったんじゃないのか?
【フィナーレ】 ……ああッ、しまった〜! あう〜……。
【牙皇子】 しょうがない。では、私が[鍵開け]をしよう。
【フィナーレ】 最初からそうしろーッ!
【GM】 フィナーレの開けた穴から腕を突っこんで、内側から鍵開けすることができるけど?
【牙皇子】 誰がするか! 普通に[鍵開け]するに決まってるだろ。(ころっ)開いたぞ。戦闘準備を整えて、中に入る。
【フィナーレ】 後ろで待機してます。
【GM】 中は部屋だね。小柄な人間くらいの大きさの人形がある。ちなみに材質は石のようだね。
【フィナーレ】 ストーン・サーバントッ!!
【GM】 あったりー。魔術師のフィナーレになら、すぐわかるね。
【フィナーレ】 オークがやられるわけだ。
【牙皇子】 叩き壊してやろう。
【GM】 ストーン・サーバントもキバちゃんに向かってくる。イニシアティブだッ!
【フィナーレ】 あたしが1番! キバちゃんのマトックに〈ファイア・ウェポン〉をかけるよ。
【GM】 あんなにヒドイめにあわされたのに、健気だねぇ。
【フィナーレ】 献身的な愛があたしのモットーなの。
【牙皇子】 何が愛だ、何がっ!
【GM】 モットーって……。
【フィナーレ】 こんなあたしだから、人気者。
【GM】 次はストーン・サーバントの番だな。キバちゃんに攻撃、当たった! ふはははッ、キバ公、敗れたり! ……ダメージは1点……。
【牙皇子】 私の反撃だな。
【フィナーレ】 マトックの打撃力が(あたしのおかげで)あがってるるからね! ガムバッテ。
【牙皇子】 くらえい! ヘビーメイス・アターック!!
【フィナーレ】 マトック使わんかいッ!
【GM】 お約束やな。
【牙皇子】 マトック・アターック! (ころっ)クリティカルして、36発いったぞ。
【GM】 ばこーん! ストーン・サーバントは砕け散って、ただの石になってしまいました。
【牙皇子】 その部屋は他に何かないのか?
【GM】 部屋の奥の壁に扉がある。それは両開きの扉で、何かこう、ボスの部屋って感じがする(笑)。
【フィナーレ】 これだけ近くで騒いでたら、もうあたしたちのこと、気づかれてるんだろうね。
【牙皇子】 この洞窟に入った時点で、気づかれてただろう。ストーン・サーバントの寿命は、1時間ほどしかない。だから、さっきのストーン・サーバントは1時間以内に作られたもので、私たちをターゲットにしていたはずだ。
【フィナーレ】 なるほど。
【牙皇子】 よし、〈ファイア・ウェポン〉の効果が切れないうちに、ボスのところへ行くぞ!
【GM】 OK、扉を開けるとその向こうも部屋になっていて、2匹のゴブリンと、ひとりの男が立っていた。「ふははは! よくぞここまで来た!」
【フィナーレ】 やっぱりバレてたんだ。
【牙皇子】 ところで何で──。
【GM】 「死ね〜い!!」
【牙皇子】 聞く耳持たんというわけか。男に攻撃、(ころっ)当たって13発。
【GM】 「ぐわっ!」男は死んで、2匹のゴブリンは逃げてしまった。
【フィナーレ】 あらま。あっさりと……。じゃ、『魂の壺』を取り返そう。
【GM】 部屋の奥の台座の上に、宝箱があるよ。
【フィナーレ】 開けてみる。
【GM】 フィナーレが開けると、箱の中から、太さが人間の腕くらいある鉄の矢が飛び出してきた! 矢は、幸いにもフィナーレに当たらなかったが、背後の石の壁に突き刺さって、ビヨロロロ〜ンと震えている。
【フィナーレ】 さ、最後の最後でなんて陰険な……。
【GM】 ふっふっふ。油断しちゃ、いけないってことだよ。
【フィナーレ】 で、壺はあったの?
【GM】 あったよ。あと、〈エネルギーボルト〉のスクロール(=巻物)。
【フィナーレ】 はあ、あたしいらない。キバちゃん、いる?
【牙皇子】 いらん。私には〈ファイアブレス〉がある。
【フィナーレ】 じゃあ、売ってしまおう。
【GM】 見当たるぶんでは、そんだけだね。
【フィナーレ】 壺には何が入ってるのかな?
【牙皇子】 開けてみるか?
【GM】 蓋には封印の紙が張られていて、開けると破けてしまうよ。物が破損していたら、報酬は出ないからね。
【フィナーレ】 ちぇ。
【牙皇子】 それでは、引き返そう。
【フィナーレ】 うん。
【GM】 ところでフィナーレは、そのヘドロやワームの体液まみれのまま、街へ帰るのかな?
【フィナーレ】 黙ってれば忘れると思ったのにぃ〜。帰りに水浴びしときます。
【GM】 そんなこんなで、街に帰ってきました。
【牙皇子】 オヤジ、金払え。
【GM】 え、エラソーに……。では270フィスを手渡そう。
【フィナーレ】 じゃあ、見つけたお宝も売りにいこう。
【GM】 何を売るのかな?
【フィナーレ】 まずはスクロール。
【GM】 それは140フィスで売れた。
【牙皇子】 なぜそんなに安い!? スクロールは最低でも1000フィスで売れるはずだぞ。
【GM】 じつは、〈エネルギーボルト〉の呪文書じゃなくて、〈エネルギーポルト〉の魔法だったんだ。
【フィナーレ】 それは幻の魔法として、すごいのでは?
【GM】 いや、どうも唱えても何にも起きそうにないから、きっとあの魔術師が勝手に作った同人スクロールなんだ。で、同人スクロール・マニアに売れたわけ。
【フィナーレ】 ぶぅ〜。
【牙皇子】 おっと、そうだった。私はこっそりと金の仏像を持ってきたんだった。古物屋にでも持って行こう。
【GM】 うん、それはなんと670フィスで売れた。
【牙皇子】 魔法のスクロールより高いとは(笑)。
【フィナーレ】 スクロールの売上げと仏像の売上げを合わせて、ふたりで山分けして、ひとり頭405フィスだね。
【牙皇子】 何言ってんだ。フィナーレは金の仏像のことは知らないから、ふたりで山分けするのは、スクロールの140フィスだけだ。ほい、分け前の70フィス。チャリン、チャリンと地面に落として、「拾え」と言ってやろう。
【フィナーレ】 あ、あたしって、いったい……。

÷÷ つづく ÷÷
©2000 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2000 Jun Hayashida
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