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§短編§

ある日のファンリー助祭の日記 1

著:もよ
● 登場人物紹介 ●

 午前4時半、起床。ミフォア神殿は、今日も静かな朝だ。冬なのでまだ暗い。
 ネネはまだ眠っている。彼女は雌鶏なので、朝、鳴いてくれない。卵がひとつ、産み落とされていた。
 身だしなみを整えて、礼拝所へ赴く。そして、他の神官の方々とともに、大地母神ミフォアへ今日最初のお祈りを捧げた。

 午前5時、お勤めのはじまり。今朝は食事当番長なので、当番のみんなと一緒に朝食を作る。パンとスープのいつものメニュー。
 大聖堂に運ぶとき、シューシャがスープの入れた桶をひっくり返して、イリア上助祭に叱られた。
 急いで作り直した。ヤエルがぶつぶつ文句を言っていた。彼女はとても口が悪い。

 午前6時半、朝食作り終わり。礼拝所でラーシャ大司教さまの説教を聞いて、ミフォア神へお祈りする。その間に、神官の方々が食堂の準備をして下さっている。

 午前7時半、朝食。大聖堂には、大勢のひとたちが集まる。
 施しを希望なさったり、宿を求められた信者でない方も一緒に、ミフォア神へ糧の感謝を捧げる。他教徒の方には、まず、ご自身の神に祈られたあと、ミフォア神へ感謝を捧げていただく。

 朝食が終わると後片付けをする。それがすむと、昼食当番と交代して、午前の農作業に参加。今年は麦の発育がよくないようだ。

 正午、お祈りと昼食。
 昼食後、薬園を見てまわっていたら、フアリバの実がなっていた。ちょうど頭痛薬が切れたところだったので、園長のノーマン侍際に許可をいただき、5つ摘ませてもらった。

 1時からは、修道所で孤児たちにオムスク語の文字の読み書きを教える。教室は無償解放なので、お年を召した外来の方もおられる。年上の方にものを教えるのは面映い。

 午後3時、休息時間。ティガーが来た。また鍵開けを教えてほしいというので、教えてあげることにした。今日は教えることが多い。
 神殿の扉を使って練習していたら、イリア上助祭に叱られた。ティガーはふてくされていた。
 3時半からは、ある方の呪いを解く儀式に参加しなくてはならない。子供の頃、バルバッツァにいただいた鍵開け練習用の箱を部屋から持って来て、ティガーに貸してあげた。

 呪いの患者は、赤髪の男性だった。
 何でも、怪しげなダガーを手にして以来、それを捨てても不幸なことばかり起こるそうだ。もしかしたら、先日ティガーたちと探した、あのダガーのことかも知れない。
 しかし、フィルス司祭が調べたら、それとは別のところで、別の呪いを受けてしまっているらしい。
 ダガーの呪いは手放した時点で消えてるそうなので、ティガーたちが呪われてることはないだろう。ちょっとホッとしたが、この男性は気の毒だ。

 解呪の儀式を行なっていると、ティガーが来た。
 鍵開けの箱を壊したらしい。
 たぶん、力まかせに鍵をねじこんだのだろう。鍵穴に折れた鍵が刺さっている。今夜、寝る前に修理しよう。 「後で、高級レストランでオムレツをおごるから」と、ティガーは謝ってくれた。
 それはいいけど、儀式の邪魔をしないでほしい。赤髪の男性が「かんべんしてくれ」と呻いていた。

 午後5時、儀式成功。赤髪の男性はとても機嫌がよく、神殿に多額のお布施をしてくださった。街に戻るとのことなので、外までお見送りすることにした。
 神殿前のいわし通りに出た直後、男性はメイユールさんが駆る馬にはねられた。彼女はいつも、街なかですごいスピードを出す。
 男性はけっこう飛んだ。
 メイユールさんがすぐに〈ヒーリング〉をかけようとしたが、男性にも馬にもケガはなかった。
 とても幸運なことだ。これもミフォア神が彼の呪いを解いてくださったおかげだろう。男性は涙していた。

 イリア上助祭から外出の許可をいただいていたので、そのままメイユールさんと一緒に“青い波の美し亭”に行く。1週間ぶりの外出なので嬉しい。
 酒場に入ると、ティガーがテーブルにもたれかかって、ヒマそうにたれていた。
 7色の鶏ヒデヨシと、“たま”と名づけられた霊食(たまぐ)いネズミは、酒場の隅で戦っていた。店のご主人は迷惑そうだったが、他の客たちは、雄鶏と変なネズミの戦いを見て盛り上がっていた。
 別のテーブルでは、シルヴィアさんと、見慣れない魔術師ふうの若い女性が、古い地図のようなものに見入っている。とても熱心な様子で、挨拶しても気づかれなかった。
 その女性魔術師は、昨日ティガーの新しい仲間になった方とのこと。
 明日から、ティガーたちは1ヶ月ほど冒険に出るらしい。女性魔術師が持ち込んだ地図の、怪しい印がつけられた地点を調査するそうだ。
 もっと早くに聞いてれば、イリア上助祭に出立許可を願い出てたのに。しかし、旅に出ると決まったのが今日とのことなので、しかたがない。残念。

 ティガーと“青い波の美し亭”を出たとき、港のほうから、ジーネさんが地響きをたてて歩いて来るのを見た。筋肉が、いちだんとたくましくなったようだ。
 ティガーが「やばい、隠れろ」と言ったので、一緒に近くの樽の後ろに隠れた。
 ジーネさんはこちらに気づかず、そのまま街の中心部へ消えて行った。ねぐらにしているシルファス神殿に帰るのだろう。
 なぜ隠れる必要があったのかは知らないが、ティガーがホッとした様子だったので、私も安心した。

 劇場の前に差しかかったとき、演出家のジュノさんと出会った。
 去年の夏の、あの事件以来閉鎖になっている劇場が、4月から再開される。
 その最初の演目は、私とティガーたちとの冒険を描いたもの。役名が実名になっているのは嫌だが、この劇が評判になって遠くまで噂が届けば、カノンたちが約束よりも早く会いに来てくれるかも知れない。

 午後6時、ティガーと一緒に高級レストランに着く。
 ティガーは国王陛下から賜ったフリーパスを店員に示した。彼と顔見知りになったらしい店員は、非常に慣れたようすで、私たちを席に案内してくれた。
 とてもおいしいオムレツを食べた。

 午後7時半、閉門に間に合わなかった。外泊許可まではいただいてないのに……。

÷÷ おわり ÷÷
©2002 Moyo
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