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§烙印の天使:第23話§

命散る森

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン 地図:もよ
▽ 森の再会の事 ▽ 800年後の勇者の事 ▽ ティガーたちの敗北の事

森の再会の事

【GM】 キミたちは、ランダース南西の海岸にいる。
 目の前に広がる森を北東に抜けて行けば、5、6日で、王都ランダースに着くことができる。
【ジーネ】 船は、ここで待っていてもらえるのかな?
【GM】 斥候の役目もあるから、船はゴルドに戻るよ。
 離れていく船の甲板で、船員たちが手を振ってくれている。
「タコ、おいしゅうございました〜!」
【ティガー】 「うん、うまかったなー!」って、手を振り返す。
【ジーネ】 さて、ランダースへ向かいますか。
【シルヴィア】 道はないんやんな?
【GM】 ない。人の手が入ってない土地だと思ってください。
【ジーネ】 じゃあ、レンジャー技能で方向を確かめながら、行こう。1レベルだけど。
【ティガー】 カルファン騎士の中で、高レベルなレンジャーはいないの?
【シルヴィア】 “ちび”が頭がいいと聞いたけど。地理オタクだとか。
【GM】 地理に詳しいといっても、その地の伝承知識などを、よく知っているだけ。
「この森の中には、太古のエルフの鍛冶屋のアトリエがある、という言い伝えがあるんですよ」とか、嬉しそうにうんちくを語ってる。
【ティガー】 エルフの鍛冶屋? 弱そう〜。
【GM】 「何をおっしゃいますか。かつての魔法帝国の鍛冶屋なのですから、アトリエには、きっと魔法のアイテムがたくさん残されてるはずですよ」
【ティガー】 おー、じゃあ、見つけたらそこに寄っていこう。
【GM】 「ただ、そのアトリエがどこにあるのかは、知らないんですけどね」
【メイユール】 役立たず〜。
【シルヴィア】 ジーネ以外に、方向がわかるレンジャーはいない?
【GM】 “政宗”ことベルント・シュナイダーが、レンジャー技能を3レベル持ってるよ。
【ジーネ】 じゃあ、そのひとを先頭にして、ランダースをめざせばいいじゃん。
【GM】 「では、不肖私シュナイダーが、先陣つかまつる」
【メイユール】 がんばれ〜。
【GM】 というわけで、キミたち4人+9人は、ランダース南西の森に入った。
【シルヴィア】 合計で13人の旅か……。
【GM】 “政宗”の先導で王都ランダースをめざし、キミたちは、森の中の道なき道を進んでゆく。
 途中で野営をして1日過ぎたから、食料を減らしておいてください。昨日の夕食と、今日の朝食の2食ぶんだけでいいよ。
【ティガー】 そんなん、持ってへん。
【ジーネ】 なんであんたは……ゴルドでお菓子とか買ってたんやから、保存食ぐらい買っときなさいよ。
【ティガー】 お菓子なんか、その場で食うもん。持ち歩かへん。
【メイユール】 じゃあ、ティガーは2食抜き?(笑)
【シルヴィア】 ランダースまであと4、5日かかるのに、それじゃきついやろ。
【GM】 いくらかなら、カルファン騎士たちの予備でまかなえるけど。
 じゃあ、さらに時間は進み、森の木々がひらけて空が顔をのぞかせるところで、昼食となった。
 ここまでの行程は、かなり順調。気持ちのいい、秋の遠足みたいになっている。
【メイユール】 いいねぇ。
【ジーネ】 はあ〜。緊張感が削がれるなぁ。
【シルヴィア】 こういうときにこそ、思いもよらない事故にあうねん。
【ティガー】 なあ、GM。その辺の木に、果物とかなってるやろ? ウサギとかも飛んでるやろ。鹿とかも、いっぱいいそう。
【GM】 まあ、実りの秋ですからな。熟れた果実などがなってるでしょう。それらの果実を食べに、動物なんかが来てるかも知れへんね。
 そいつらを食うって?
【ティガー】 うん。ウサギを捕まえて、お昼ご飯にする〜。(ころっ)
【GM】 それは、逃げられまくってる(笑)。レンジャー技能もないのに狩りをするのは、かなり難しいな。
【シルヴィア】 普通に木の実を拾って食べれば?
【ティガー】 どれが食べれる果物か、わからへん。それに、肉が好き。
【ジーネ】 動物がいるんなら、私も狩りをするよ。鹿を狙おうかな。
【メイユール】 叩き潰さんようにね。
【ジーネ】 なんで、モーニングスターで狩りをするの! ダガーがあるってば。
【GM】 ダガーで狩りをするのか? なかなかワイルドやけど、そいつはムリでしょ(笑)。
【メイユール】 じゃあ、わたしの弓を貸してあげるよ。
【シルヴィア】 メイユールもレンジャーなのに、狩りはしないのかい?
【メイユール】 うん。ネネが卵を産んでくれるし、ちゃんと保存食を持ってるし。
【ジーネ】 私も保存食は持ってるんだけどね、節約しようかと……。
 じゃあ、鹿を狩りま〜す。(ころっ)
【GM】 鹿は、ジーネが発するオーラに気づいて、逃げ去った。
【ティガー】 「やばい! ()られるッ」って(笑)。
【メイユール】 ジーネは、茂みの奥でニタ〜っと笑いながら、獲物を狙ってたんやな。
【ジーネ】 なんでじゃあ!
【GM】 その様子を後ろで見ていた“政宗”が、「まだまだだな」と言う。
【ジーネ】 こっちのレンジャー技能は、1レベルなんじゃー!
【シルヴィア】 だから、「まだまだ」なんでしょ(笑)。
【ジーネ】 レンジャー技能を成長させる気はねえ。
【GM】 ジーネがそう言うと、アドバイスしようとしていた“政宗”は、肩をすくめて、皆のところに戻ってしまった。
【ティガー】 あ、待って。3レベルの“政宗”に、鹿を捕まえてもらう〜。
 (ころっ)おー、これはいけたっぽい。
【GM】 うん、見事な牡鹿をしとめたよ。さっそくさばいて、調理してくれる。
【ティガー】 食べる、食べる。
【シルヴィア】 僕も食べていいかな? できるなら、保存食を浮かしておきたいし。
【ティガー】 うん、いいよ〜。みんなで食べよう。
【ジーネ】 13人で食べるなら、全然足りないんじゃないの?
【シルヴィア】 鹿を丸ごと1頭食べるのに、足りないなんてことはないと思うけど。
【メイユール】 じゃあ、鹿をさばいてる間に、わたしは、木の実やキノコでも集めてこようかな。レンジャー技能なら、食べれるものを見分けられるよね?
【GM】 可能でしょう。ひとりじゃ大変やろから、ファンリーも手伝うよ。
【メイユール】 やりぃ!
【GM】 もちろん、ロートシルトも、もれなくついてくる。
【メイユール】 えー? じゃあ、護衛で“くまさん”も連れていく(笑)。
【GM】 なんの護衛や(笑)。「信用ないなぁ」と、ロートシルト。
【ジーネ】 信用できるわけないでしょうが! ファンリーに手を出さないように、注意しといてよ。
 っていうか、なんでティガーがついてかないの?
【ティガー】 俺? だって、今は鹿に夢中やもん。「早く食べたいな〜」って、目をキラキラさせてる(笑)。
【GM】 そんな感じで、期せずして、豪華絢爛なランチとなったわけやね。
 昼食が終わった頃には、すでに3時をまわってたりする。
 満腹になったキミたちは、思い思いの場所でくつろいでいる。「つーか、今日はここで野営しようか?」とか、言いながら。
【ジーネ】 こんなにのんびりしてて、いいんだろうか?
【シルヴィア】 ま、別に急ぐ旅でもないし。もうじき日が暮れるんなら、今からここで野営の準備をしてもいいね。
【GM】 ──と、そのとき。
 ペドロ・チャベスと剣技について語り合っていた“政宗”が、ハッとして顔をあげる。
【ティガー】 どうしたん?
【GM】 “政宗”が答えるより先に、右手の茂みからある人物が姿を現した。
 それは、キミたちがよく知ってる男です。
【ジーネ】 前髪の男?
【ティガー】 前髪王子は、オレンブルクに帰ったやん。
【GM】 その50代ぐらいの男性は、ガリガリにやせ細って目玉がポコっと飛び出た男が強そうなファイティング・ポーズをとっている、変な彫像を背負っております。
【シルヴィア】 ニョムヒダの像か。
【ジーネ】 ああああ〜!
【ティガー】 サンチョスーっ!
【GM】 「いいえ。私は、“生まれ変わった”ズバンチョです」と、その人物は応える。
「探しましたよ、ティガーさん」
【ティガー】 鹿の残りをぺっと投げて、「これやるから、帰れ」って言う。
【メイユール】 「知り合いなん、ティガー?」
【ティガー】 「うん、知り合い」って、サンチョスのことを教えてあげる。
【GM】 「だから、私はズバンチョですってば」と、ズバンチョ。
 鹿の肉の残りを飲み込んでから、「まあ、いいでしょう。お遊びは、ここまでです」。
【ティガー】 なにが?
【GM】 「そろそろ、ファンリーさんを渡していただきましょう」
【ティガー】 ダメ〜。
【GM】 「いやいや、ランダースのオネットたちも、『儀式に時間がかかる』とかで、本気でファンリーさんを手に入れようとしてますしね。そうなると、こちらも困るのです」
【ティガー】 「キミ、ひとりで来たん?」
【GM】 じゃあ、指をパチンと鳴らそう。
 すると、ズバンチョの背後の茂みから、11人の男たちが現れる。その瞳は赤く、口には牙も生えている。
【ジーネ】 それって──。
【シルヴィア】 バンパイアやろ。
【GM】 「そう。できの悪い量産型ですけどね」と、ズバンチョは答える。
 バンパイアたちは、傷んだ羽帽子をかぶってたり、ティガーやカルファン騎士と同じ剣を持ってたりする。
【メイユール】 ひょっとして、山賊団のひとたち?
【ジーネ】 ズバンチョが彼らをバンパイアにしたんなら、もはや容赦はせん。脳ミソ叩き潰してやる、って感じやな。
【シルヴィア】 レッサー・バンパイアからレッサー・バンパイアが生まれる、ってこと、あったっけ?
【GM】 ズバンチョは、「くっくっく」と笑ってる。
 彼の要求はただひとつ。
「ランダースに奪われる前に、ファンリーを私に渡してください」

800年後の勇者の事

【ティガー】 イヤだよ。
【ジーネ】 おとといきやがれ。
【GM】 「『おととい』どころか、私は、わざわざ800年後から来てるんですよ」と、ズバンチョは応える。
【ティガー】 800年後??
【メイユール】 どういうこと?
【GM】 語りましょう。
 ズバンチョことサンチョスは、800年後の世界から、大竜巻に乗って時空を越えてやって来た、ヴァンパイアなのです。
【ティガー】 おー、そうなんか。何しに来たん?
【GM】 800年後の世界において、レムリア大陸のほぼすべてを支配している、悪名高き新魔法帝国オレンブルクを打倒するため。
 ズバンチョの故郷は、レムリア大陸サリア地方のはるか南に浮かぶ、“ヴァンパイアの島”。
 その島のヴァンパイアは、大陸でいうところのバンパイアとは異なり、妖精・妖魔の類の一種としての吸血鬼なんですな。
 ズバンチョは、その島にあるゼーエンブルク・ファームのヴァンパイアです。

 レムリア暦557年に、オレンブルク魔術師ギルド長プリシラシェル・パメラルース・オレアーナが理論を確立させた新しい系統の魔法は、997年に完成、実用化された。
 マナの消費を4割も減少させたプリンの新魔法は、強大な効果を持ちながら著しい魔力消費のために使用できなかった遺失古代魔法を復活させ、オレンブルク王国の大陸制覇の大きな武器となった。
 ただし、新魔法には大きな欠点があった。
 生まれつき体内に強大な魔力を有する者でないと、扱えない魔法だったのだ。
 古代魔法帝国時代の末期、究極の破壊魔法〈ザンナール〉の暴走により巻き散らされた魔力を浴びたオムスク人は、生まれついて体内に魔力を秘めていることが多かった。つまり、新魔法を使いうる資質を持っている者が、数多くいたのだ。
 だが、オレンブルクが大陸全土の支配を達成した後、他人種との交配が進んだこともあり、彼らの体内の魔力はしだいに薄れ、新魔法を扱うための資質を持たないオムスク人が、増えていった。

 あるとき、新魔法帝国オレンブルクは、生物の体から魂を結晶化して取り出す魔晶石の一種、『魂晶石』を発見した。
 長寿な妖精・妖魔の類からは、強大な魔力を秘めた魂晶石を作ることができ、それを体内に取り込むことで、帝国の支配者たちは、新魔法を保持し続けることができた。
 しかし、乱獲された妖精・妖魔――とくにエルフやダークエルフなどは、やがて大陸から姿を消してしまう。

 オレンブルク帝国は、魂晶石の材料を求めて、外の世界に目を向けた。
 ズバンチョの故郷であるヴァンパイアの島にも、すぐに帝国の魔手が伸びた。
 ズバンチョたちヴァンパイアからは、とくに強力な魂晶石が作ることができた。
 オレンブルク帝国は、乱獲にるヴァンパイアの絶滅を防ぐため、彼らの繁殖を計画、管理し、安定して魂晶石を入手しようと企んだ。
 そうして築かれたのが、ヴァンパイアのファームである。
 ズバンチョは、そうしたファームのひとつで生まれた、ヴァンパイアである。

 殺されるために飼われる身となったヴァンパイアたちは、かつての自由と平和を取り戻すための闘争を行う決意を固めた。
 だが、強大な帝国に対して、抗う術がない。
 そこで、途方もない賭けに出ることにした。
 12人の精鋭たちをファームから脱出させ、伝説に聞く大竜巻に乗せて、オレンブルク王国が力を持つ前の過去の世界に送る。
 弱小国家だった頃のオレンブルク王国を滅ぼし、災厄の元凶となった新魔法の誕生を未然に防ぐのだ。
 時空を越える竜巻に乗っても、狙ったとおりの時代、場所に行けるわけではない。過去ではなく、未来に行ってしまう場合もある。
 勝利の確約がない賭けだが、彼らには、これしか方法がなかった。

 こうして、ズバンチョたち12人のヴァンパイアが、希望の勇者として、それぞれ竜巻で別時代に旅立ったのだった。

【GM】 ──というわけです。おわかりいただけたかな? ぜいぜい。
【シルヴィア】 お疲れさま。
【メイユール】 あのひとは、未来人だったのか。
【ジーネ】 他の仲間たちがどの時代に行ったのかは、わからんねんな。
【GM】 そう。少なくとも、今より過去において、他の勇者たちが戦果をあげてないのは確かやね。オレンブルク王国が存在してるし。
【シルヴィア】 そうやな。今よりも過去に行けてないのか、計画が失敗したのかは、わからんけど。
【GM】 とにかく、オレンブルク王国が存在している以上、ズバンチョは、彼のできることをやるだけ。
『魂晶石』でバンパイアを生み出して、軍団を組織し、新魔法の理論を打ち立てた魔女プリンを倒し、未来の祖国を救うわけやね。
【ジーネ】 そこにバンパイアがいるってことは、少なくとも、魂晶石を作れてるわけだよな。ファンリーを狙う必要なんて、ないじゃん。
【GM】 いや、これらは試作のできそこない。
 作品第1号のバンパイア紳士の館で、8個ばかり魂晶石を作ってみたものの、いずれも質の悪いものばかり。
【シルヴィア】 なるほど。紳士の部屋に飾ってあった頭蓋骨は、魂晶石の材料にされた犠牲者たちやったんやな。
【GM】 やはり、質のいいバンパイアを量産するためには、良質の魂晶石が必要。暗黒神クートラの烙印を持つファンリーの魂は、最高の材料というわけなんやね。
「ファンリーさん、プリン、オレンブルク。この時代には、未来を救うための3つの鍵が、すべてそろってます。この機を逃すわけにはいかないのです」
【ティガー】 なんか、12人の勇者の中で、ズバンチョが当たりを引いたっぽい(笑)。
【シルヴィア】 たいそうな目的を持ってたんやな。
【ティガー】 「にょ〜」って言ってるだけじゃなかったんや。
【GM】 はっはっは。あれは、ズバンチョの世を忍ぶ仮の姿だったのさ。おかげで、すっかり油断したやろ、キミら。
【ティガー】 うん(笑)。
【シルヴィア】 「してやられた」と、しとこうか。
【GM】 で、ここまで聞いても、ファンリーを渡す気にはならないわけね?
【ティガー】 ならない!
【GM】 「ともに旅した仲間を殺すのは心苦しいですが、しかたありませんね」と、ズバンチョは言い、その背でニョムヒダの像が「にょ〜」と泣く。
【ティガー】 「ニョムヒダの像をあげた仲間を殺すのは、心苦しいなぁ」
【ジーネ】 さ、戦闘しよか。

 かくして、ティガー軍団13人と、バンパイア軍団12人の戦闘が始まった。
 冒険者たちは、かつてない大規模な戦闘に悲鳴をあげたが、じつは、敵はこれだけではなかった。
 3ラウンドが経過したところで、前方の茂みが揺らぐ。
 そこから姿を現したのは──。

【GM】 久々に登場。ツヴァイハンダーを携え、真紅のプレート・メイルを着た騎士。
 そして、懐かしの黒ずくめたちが9人、おなじみとなったダークエルが3匹いる。
 さらには、愛娘を殺されたレイモンド・バイヤー、“椅子かじりの予言者”カバンタの姿もある。
【ジーネ】 カバンタもいるの!?
【GM】 いるよ。後ろでヘラヘラ笑って、「やってますな〜、親びん」とかなんとか、真紅の騎士に言ってる。
【メイユール】 総動員って感じ。そんなに出して、大丈夫?
【シルヴィア】 総勢30人か。
【ティガー】 フィギュアを並べたら、テーブルがめっちゃ狭くなった!(笑)
【メイユール】 なんか、オペラの舞台みたい(笑)。
【GM】 真紅の騎士たちの要求も、ズバンチョと同じ。
「ファンリーを渡していただきましょう、レギト王子」とか言ってる。
【ティガー】 えっ、俺が王子って知ってるの?
【GM】 知ってるよ。ファンリーの魂には暗黒神クートラの烙印があるから、魔法の水晶を通して、すべてを見させてもらってた。あんなことも、こんなことも。
 三日月の夜のドラマもね(笑)。
【ティガー】 見られてたんや。顔が赤〜くなってる(笑)。
【メイユール】 「ティガー! これ全部、知り合い!?」
【ティガー】 「うん、ほとんど知り合い」(笑)
【GM】 で、黒ずくめたちにファンリーを渡す気は?
【ジーネ】 あるわけがない。
【ティガー】 ズバンチョに渡すより、そっちに渡すほうが、もっとイヤ。
【GM】 「何を言うか」と、黒ずくめ。
「ファンリーは、どうしても必要な、クートラの祭器なのだ。世界から悲しみを消すための」
【ティガー】 それって、すごいうさんくさい。
【GM】 要求を呑まないのなら、黒ずくめたちも襲いかかってくるよ。
「今から降臨の儀式に入らないと、連合軍の総攻撃に間に合わんのでな」
「すぐにでも、王城に連れてゆかねばならんのだ」
【ティガー】 黒ずくめたちとズバンチョって、違う目的でファンリーを狙ってるんやんな?
【GM】 そう。だから、黒ずくめ軍団とズバンチョ軍団の間でも、戦闘が始まる。
【ジーネ】 共倒れになるのを見とこうか。
【GM】 そんな余裕はないな。両軍団は、キミたちにも襲いかかってくるから。
【シルヴィア】 つまり、三つ巴の戦いになるわけやね。

 ティガー軍団13人vsズバンチョ軍団12人vs黒ずくめ軍団15人の、総勢30人が入り乱れる戦いが始まった。
 あまりの大人数のため、各軍団のリーダーが1Dを振り、イニシアチブを取ったグループから行動する変則戦闘とした。
 これが、後に悲劇を生むことになる。
 3つのグループの中でもっとも劣勢だったのは、ズバンチョ軍団だった。
 ティガーたちや黒ずくめたちが、バンパイアと化したカルファン騎士・ファラリア騎士たちを、どんどん斬り伏せてゆく。

【ジーネ】 ズバンチョ軍団はイニシアチブを取れないから、ボコボコにされてるんやな。
【GM】 何かする前に倒されてるからな。実力はあるのに、かわいそう。
【ジーネ】 いや、とろくさいのが悪い。

ティガーたちの敗北の事

【ティガー】 (ころっ)バンパイアDに、クリティカルで当たった。3回まわって、ダメージは39点ね。
【GM】 そんなもん、真っ二つやがな。
【メイユール】 すげー!(笑)
【ジーネ】 絶対、ティガーのほうが凶悪やと思うねん、私。
【ティガー】 別に人間を殺してるわけじゃないもん。相手はバンパイア。

 そして、4ラウンド目。
 黒ずくめリーダーの真紅の騎士が、ズバンチョに襲いかかる。

【ティガー】 ズバンチョ、逃げろー!
【GM】 (ころっ)おおっと、ティガーの声も虚しく、クリティカルが出てしまった。
 真紅の騎士は、一撃でズバンチョを討ち果たした。
【ティガー】 ズバンチョ〜。
【GM】 ズバンチョは倒れた。
「なぜ、我々だけが、こんな目にあわねばならんのだ。人間たちなど、滅びてしまうがいい……ぐふっ」と言い残し、息絶えた。
【ティガー】 あーあ。
【GM】 飛び散ったズバンチョの血が、ニョムヒダの像にも降りかかる。まるで、血の涙を流してるかのごときニョムヒダは、はずみで「にょ〜」と、泣いている。
【メイユール】 かわいそうに。
【ジーネ】 ま、自業自得っちゅーもんや。
【GM】 黒ずくめ軍団の攻撃は、まだ終わってないぞ。
 ティガーに黒ずくめEが攻撃──はずれ。
 ジーネには、レイモンドと黒ずくめCが攻撃する──こっちは両方とも当たり。ダメージは、7点と6点。
【ジーネ】 さよなら。
【メイユール】 あら〜?
【GM】 それじゃ、[生死判定]をどうぞ。1ゾロ以外なら、死んではいません。
【ジーネ】 (ころっ)うん、かろうじて生きてる。半分、霊界に行っとりますが。お花畑と川が見えてる。
【メイユール】 頭を潰されたランダース騎士が、おいでおいでしてるんやな(笑)。
【ジーネ】 誰か回復させて。
【メイユール】 次のラウンドで、わたしの〈ヒーリング〉で全快させてあげよう。
【GM】 では、第5ラウンド目のイニシアチブを決めようか。
【シルヴィア】 ここでイニシアチブを取らないと、ジーネはやばいんじゃない?
【GM】 いつもキミたちがモンスターにやってるように、黒ずくめがジーネにとどめを刺すでしょうな。
【ティガー】 怖いから、このラウンドのイニシアチブは、ジーネが振って。
【ジーネ】 なんでやー! 私が振るほうが怖いわ。
【ティガー】 生死が懸かったひとが振ったほうが、いいと思います。
【メイユール】 負けたら、何を言われるかわからんし(笑)。
【GM】 じゃ、ジーネは1Dを用意。ダイスを振るよ〜ん。(ころっ)
【ジーネ】 (ころっ)あっ、負けた。
【GM】 では、半死半生のジーネは、サクっととどめを刺された。
 ご愁傷さま。
【メイユール】 とうとう川を渡ったか。
【ティガー】 頭を潰されたランダース騎士に、連れて行かれたんや(笑)。

 このラウンドのティガー軍団の行動で、仲間を殺され怒りに燃えるシルヴィアが、逃げようとするカバンタの背中を袈裟掛けに斬り裂いた。
 黒ずくめ軍団に寝返ったカバンタもまた、命を落とした。

【シルヴィア】 こいつが逃がしたグリフィンのせいで、ランディは死んだんやしな。
「仇はとったぞ、弟よ!」って感じ。
【GM】 これで第1話からの生き残りは、ティガーだけになってしまった。
【メイユール】 恐ろしいキャンペーンや。

 しかし、悲劇はまだ終わらない。
 リーダーを失ったズバンチョ軍団が壊滅した8ラウンド目、真紅の騎士がティガーに襲いかかる。

【GM】 真紅の騎士は、「王子。おとなしくファンリーを渡してください」と言う。
「そうすれば、もはや戦う必要はないのです」
【ティガー】 「だめ」
【GM】 「王子は、世界からすべての悲しみを消したいと思わないのですか?」
【ティガー】 それは──。
【GM】 「あのバンパイアのように、悲運に泣く者をなくすためにも、どうしても、ファンリーが必要なんです」
【ティガー】 う〜ん……「やっぱり、ダメ!」。
【GM】 「あいかわらず、わがままでいらっしゃる」と、真紅の騎士。
「ならば、腕ずくでいただきますよ」
【ティガー】 やれるもんなら、やってみろ〜。
【GM】 なら、行くよ。イニシアチブは、黒ずくめ軍団。
 真紅の騎士は、当然、ティガーに攻撃──当たった。
【ティガー】 (ころっ)あっ、防御で1ゾロ!
【GM】 ならば、ツヴァイハンダーの剣先がキミの青い鎧の隙間を貫き、17点のダメージがいく。
【ティガー】 そんなん、生きてるわけがない。向こうにジーネが見える。
【メイユール】 頭が潰れたランダース騎士に、足を引っ張られてるジーネが(笑)。
【GM】 そのそばでは、カバンタが椅子をかじってる(笑)。
【ティガー】 なんじゃそりゃー!? 行きたくねえー!
【故ジーネ】 はいはい、帰り、帰り。「しっし」とやっとこか。
【GM】 向こうに行きたくなければ、[生死判定]に成功してください。出目が6以上なら、ティガーはなんとか生きてる。
【ティガー】 出ない! 今から宣言する。そんなん、出ない。(ころっ)……あっ、出た。
【メイユール】 あー、よかった〜。
【シルヴィア】 でも、状況はかなりまずい。黒ずくめ軍団のダークエルフたちは、後ろで待機したままやし。
【メイユール】 相手は戦力を温存してる……。
【シルヴィア】 本気になれば、〈バルキリー・ジャベリン〉とかが飛んでくるかも知れへん。
 こっちのカルファン騎士たちは疲労してるし、回復役のファンリーの精神力も減ってるし、耐えきるのは難しいかも。
【メイユール】 わたしの〈ヒーリング〉は、あと1回で打ち止め。
 どうしよう?
【シルヴィア】 困ったな。
【GM】 なら、倒れたティガーの喉元に剣先を突きつけた真紅の騎士が、
「レギト王子は、まだ生きている。とどめを刺されたくなければ、武器を捨てろ」と、キミたちに言う。
【ティガー】 卑怯な!
【メイユール】 う〜……でも、しょうがないよね。
【シルヴィア】 従おう。
【GM】 7人のカルファン侍やロートシルトも、武器を捨てる。
 そして、真紅の騎士は、「ファンリー、こっちへ来るんだ」と、言うわけやな。
【故ジーネ】 行って欲しい?
【GM】 『欲しい』も何も、ファンリーは要求に従うに決まってるやん。
 真紅の騎士に近づいたファンリーは、倒れたティガーの上に、恩人に買ってもらった古い人形をそっと置いた。
【ティガー】 「行くなーッ!」……と、俺の魂が言ってる。ヒデヨシ、伝えるんだー!
【GM】 「コケーっ」
【メイユール】 ニワトリの言葉なんて、誰にも理解できないよ(笑)。
【GM】 真紅の騎士は、ファンリーを連れて、ダークエルフたちのところへ後退する。
 黒ずくめたちも、キミたちを警戒しながら、同じようにじりじりと後退。
 黒ずくめ軍団が集まったところで、茂みの奥から、怪しげなサークレットをはめた魔術師が現れた。
 そして、魔術師が〈テレポート〉の呪文を唱え、黒ずくめ軍団とファンリーは、姿を消した。
【メイユール】 あーあ。
【シルヴィア】 えらいこっちゃ。
【GM】 あとは、死屍累々の森に、わびしい風が吹くのみ。
【メイユール】 〈ヒーリング〉で、ティガーを回復させます。(ころっ)成功。
【ティガー】 起きた。ファンリーの後を追いかけようとして、たぶん、カルファン騎士たちに止められる。
【シルヴィア】 で、これからどうする?
【ティガー】 う〜ん……とりあえず、死体たちやなぁ。
 カバンタはどうでもいいとして、ジーネとズバンチョは、何とかしてやりたい。
【故ジーネ】 私はともかく、ズバンチョも?
【ティガー】 うん。なんか、かわいそうやもん。
【シルヴィア】 〈リザレクション〉を使えるのは、オレンブルクのミフォア神殿長だけやったな。
【メイユール】 でも、ランダースに行かないと、ファンリーが……。
【ティガー】 「王城で儀式をする」って言ってたから、ランダースに連れて行かれたんは確かやんな。
 GM、ここからランダースまでは何日かかる?
【GM】 4日ほどかな。
【ティガー】 とりあえず、ジーネの死体は持って行こう。ズバンチョは──埋めちゃおうか、やっぱり。
【シルヴィア】 そのほうがいいかもね。生き返っても、また、未来の祖国のために戦い始めるやろから。
【ティガー】 じゃあ、埋めとこう。ニョムヒダの像を墓標にして。
【GM】 そうそう。次回のセッション、ジーネは、カルファン騎士たちの中から1名、好きなのを使ってもらってかまわないよ。
【故ジーネ】 なら、“アンディー”を使います。
【メイユール】 じゃあ、時間もないし、すぐにランダースに向かおう。
【シルヴィア】 いや、もう夕方近くやんな? 今夜はここで休んで、精神力を回復させといたほうがいい。
【メイユール】 そっか。
 でも、ここで寝るのはイヤだな〜。死体だらけやし(笑)。

÷÷ つづく ÷÷
©2003 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2003 Jun Hayashida
Map ©2002 Moyo
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お名前
ひと言ありましたら
 
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