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§烙印の天使:第18話§

暁の街

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン
▽ 解放軍、出陣の事 ▽ 解放軍、快進撃の事 ▽ 森の中の刺客の事

解放軍、出陣の事

【GM】 広場には、王子やアルヌー参謀の他、出撃する解放軍約300人が集合している。
【ティガー】 フクロウはアルヌーの肩にとまってる?
【GM】 今はとまってるよ。
【シルヴィア】 さすがに今度は大軍勢やな。
【GM】 そうやね、ほとんど総出。ここに残るのは、必要最低限の防衛隊と、食堂のおばちゃんたちと、豚とか鶏。
【メイユール】 王子様や参謀もゴルドに行くの?
【GM】 もちろん。部下と危険をわかち合いながら、共に戦場を駆けめぐってこその大将だからね。
【メイユール】 さすがは王子様。
【GM】 しっかり武装したレギト王子は、「いよいよ、この日が来たね」と、前髪をバサーっとはね上げる。
「ゴルドを支配する大守、“暁の将軍”マンフレット・ヴィンケルホックを討つときが、ついに来たのだ!」
【ティガー】 前髪王子も、カルファンの剣を持ってるん?
【GM】 いや、王子はチェイン・メイルにサーベルといった出で立ちやね。
【ティガー】 「カルファンの王子なら、ツヴァイハンダーぐらい持っとけよ!」
【GM】 「あれは落城の際、失ってしまったのだ……。痛恨の極みさ」と、レギト王子は悲しそうに首を振る。
【シルヴィア】 あ、そうそう。僕はバスタード・ソードあたりが欲しいんやけど、ここでそういうのは売られてる?
【GM】 う〜ん、売られてはないけど、頼めば支給してもらえるかもね。(ころっ)残念ながら、シルヴァアの筋力より軽いものしかない。
【シルヴィア】 それでいいよ、予備のつもりだから。じゃあ、1本譲ってもらいます。
【GM】 さて、ゴルド解放軍は、100人ぐらいの3つの隊に別れて、さまざまなルートで進撃することになる。

 王都ゴルドは、南が断崖絶壁の海岸に閉ざされ、北、東、西に街門がある。
 3つの隊は、それぞれの門から突入するそうだ。すでに間者が紛れ込んでおり、突入を迎え入れる準備は整っているらしい。

【ティガー】 王子はどの門から突入するの?
【GM】 北の門から。キミたちが配置されたのは、東門から突撃する部隊で、率いるのは参謀のアルヌー。
 キミたちの隊は、道すがら、アゴーンという村を支配するランダース軍を掃討し、解放して行くことになるらしい。
【シルヴィア】 なるほど。
【GM】 単にランダース王国軍に支配されてるだけなら、とっとと王都に行って中央を制圧してしまえばいいんだけど、スパイの情報によると、やっかいなことに、進駐軍の中には妖魔が混じっているらしい。指揮系統を失った妖魔に暴れられても困るからね。
【シルヴィア】 妖魔か……そういえば、ずーっと前、そんな噂を聞いたことがあったね。
【ジーネ】 あの噂は真実だったんだな。
【ティガー】 ゴルドにも、妖魔が入ってるんかな?
【GM】 スパイの情報だと、王都でも妖魔の姿が確認されている。
【シルヴィア】 妖魔というのは、具体的にどんな奴なん?
【GM】 おなじみのゴブリンをはじめ、オーガーやダークエルフといった面々らしい。
【メイユール】 ダークエルフは厄介やなぁ。
【GM】 それじゃ、出発しますよ。向こうでは、レギト王子が「さあ、皆の者、ついてまいれ」バサーっと、号令をかけてる。
【ティガー】 ちゃんとたどり着けるんかな、あっちの隊は。
【GM】 大丈夫。有能そうな元カルファン騎士たちが、そばについてるから。
 キミたちの隊も、アゴーン村に向けて出発するよ。住民全員、顎がしゃくれてる村をめざして。
【ティガー】 イヤやな〜、助けたくないな〜(笑)。
【GM】 ちゃんと2列に並んで、恥ずかしがらずに隣の人と手をつないで歩くようにね。交差点で信号が黄色になったら止まる。前の人が渡ったからといって、ムリに渡らないように。
【ティガー】 幼稚園児か!(笑)
【GM】 そんな感じで諸注意を受けて出発するキミたちを、留守番隊やまかないのおばちゃん、豚やニワトリたちが帽子を振って見送ってくれる。
【メイユール】 豚たちまで見送ってくれるんか(笑)。
【GM】 「期待してるブー。おまえたちなら、きっとできるブー」と応援してくれてるかのように、盛大に鳴いてるよ。
【ティガー】 「任せとけブー」
【GM】 まかないのおばちゃんは、「ゴルドが解放されたら、ごちそうだからね!」と励ましてくれ、豚たちが「ブヒっ?!」と驚いてる。
【ティガー】 トンカツやー!
【GM】 さて、基地を発ったキミたちは、森を抜け、道なき平原を進んでゆく。
 3日後、アゴーン村が見えてきました。
 すでに小麦の収穫を終えた、ジーネの故郷のようなごく普通の小さな村です。それじゃ、さっそく強襲してもらうよ。
【シルヴィア】 強襲といっても、具体的にどこを攻めればいいのかな?
【GM】 どこというより、手向かってくる武装した兵士すべてを。ランダース軍には妖魔も混じってるから、戦うべき相手はすぐにわかると思うよ。
 ちなみに、「降伏した人間の兵士は捕虜にしてもいいけど、妖魔は必ずしとめるように」とのこと。
【ジーネ】 そりゃ、そうやろう。もとより私は、妖魔を見逃すつもりはない。
【GM】 「既に間者が村長に連絡をつけており、戦闘が始まると、村人たちはすみやかに裏山へ避難する手筈になっている。思う存分、暴れてこい!」と、アルヌーさん。
「そうは言っても、民家を荒らしちゃダメだよ」
【ティガー】 OK! 行くぜ〜。
【GM】 解放軍が鬨の声をあげて攻め入ると、待ってましたとばかりに、あちこちの民家から村人が飛び出て、「きゃ〜」と、悲鳴だか歓声だかを発しながら、裏山へ逃げてゆく。
【ティガー】 楽しそうに逃げてるんやな。
【GM】 そして「すわっ、討ち入りか!」と、ランダース兵がやってくる。
 あちこちで、解放軍と進駐軍の戦いが始まった。
【ティガー】 「吉良上野介はどこだ!」(笑)
【メイユール】 「額に刃傷のある男を探せ!」(笑)
【GM】 そんな感じで、キミたちは武器を振るいながら、村を駆けめぐる。
 ティガーは、元カルファン騎士のおっちゃんと肩を並べて、ツヴァイハンダーを振り回してる。
「やるじゃねえか、小僧」と、おっちゃん。
【ティガー】 「あんたもな」
【ジーネ】 『小僧』って……そのおじさん、何歳なの?
【GM】 見た感じ、30代前半ってとこかな。見るからにベテランやね。
【シルヴィア】 それやったら、たしかにティガーは小僧やな。
【GM】 ふたりは「ぬおおおーっ」と雄叫びをあげながら、向こうに行ってしまった。
【メイユール】 わたしもクラブを投げては拾い、投げては拾いしながら、進んでゆく。
【シルヴィア】 僕はバスタード・ソードを振り回そう。まだ、魔法を使うのはもったいない気がするからね。
【ジーネ】 私は何もしません。ただ、詰所に向かって走ってるだけ。トテトテと。
【シルヴィア】 トテトテというより、ガシャガシャでしょ。
【ティガー】 重装備で走ってくるジーネを見て、みんなビビるで。
【GM】 そうやな、ランダース兵たちは「鬼が来た、鬼が来た」と、恐怖におののいてる(笑)。
 そこへ鹿に乗った若者が現れて、「鎮まりたまえーッ」と叫びながら、ジーネに弓矢を射かけてくる。
【ティガー】 ジーネは祟り神(笑)。
【ジーネ】 なんでやねん!
【GM】 やがて、カルファン騎士と別れたティガーは、村を一周してシルヴィアたちと再合流した。
 そのとき、キミたち5人の行く手に、ゴブリン3匹、身の丈2メートルほどの野人が2匹、黒いエルフ1匹が立ちはだかった!
【シルヴィア】 報告にあった、オーガーにダークエルフやな。
【GM】 ダークエルフはニヤニヤ笑い、「なるほど、あの娘か。たしかに、闇の祝福を受けし烙印の者、我が主の聖杯にふさわしい」とか言ってる。
【ジーネ】 問答無用で殴りかかることはできるだろうか。
【GM】 向こうも問答無用で戦いを挑んでくる様子やね。
「ゆけっ、オーガーたちよ。黒髪の娘は無傷で捕らえよ。残りは食ってもかまわん!」と、ダークエルフは言い、2匹のオーガーたちは、「やった〜」と、小躍りしながら襲いかかってくる。
【ティガー】 「食えるもんなら、食ってみろ〜」
【GM】 「食ってやる。ハンバーグにして食ってやる」
「じゃ、オレ、焼き鳥〜」
【ティガー】 俺らは鳥と違う〜。
【シルヴィア】 わざわざ料理して食うのか。グルメなオーガーめ。
【メイユール】 来るのはオーガーだけ?
【GM】 ゴブリンも2匹やって来る。ゴブリンCはダークエルフのそばにいて、「いいですな〜、あのオーガーの動きはいいですな〜」とか言ってる。
【ティガー】 オーガーAに攻撃、ゴブリンは無視。(ころっ)当たり、ダメージはヘボいですぜ。11点。
【GM】 ダークエルフは今回、腕組みして様子を見ている。
【ジーネ】 ゴブリンBに攻撃。(ころっ)当たって、ダメージは14点。
【メイユール】 ダークエルフに〈デストラクション〉。(ころっ)抵抗された。
【GM】 ダークエルフは「何かね、それは。はっはっは」と、笑う。
【メイユール】 くやしい〜!
【シルヴィア】 ティガーとジーネに〈フィジカル・エンチャント〉をかけて、器用度を上げる。(ころっ)かかった。
【GM】 オーガーA、ゴブリンAがティガーに反撃。オーガーB、ゴブリンBがジーネに攻撃。──ティガー、ジーネ共にすばやく回避した。
 次のラウンド。

 剣を振るうティガーは、オーガーAに順調に手傷を負わせる。
 そのティガーの剣に〈ファイア・ウェポン〉を唱えようとしていたシルヴィアは、ダークエルフの〈ミュート〉によって、呪文を封じられてしまった。

【シルヴィア】 しゃあない。〈ファイア・ウェポン〉はキャンセルします。「くそっ」と言うけど、声にならない。

解放軍、快進撃の事

【ティガー】 「あれぇ? 剣が燃えへんぞ」って、シルヴィアを見る(笑)。
【GM】 じゃあ、柄にあるボタンを押してみ。
【ティガー】 そんなんあるんや。押したらどうなるん?
【GM】 剣身がすぽーんと飛んでいく。
【ティガー】 そんなん、イヤ〜!(笑)

 ジーネのモーニングスターは、ゴブリンBを捕らえきれずに、虚しく地面にめり込んだ。

【GM】 ひょいっと避けたゴブリンBは、おしりペンペンして、ヘラヘラ笑ってる。
【メイユール】 なめられてる(笑)。
【ジーネ】 うぬれ〜。

 メイユールは、ダークエルフに〈ミュート〉をかけて呪文を封じようとしたが、高い抵抗力を誇る妖魔には効かなかった。

【GM】 「はっはっは。それで〈ミュート〉のつもりかね?」と、ダークエルフ。
 では、モンスターたちの反撃。しかし、オーガーAがティガーに1点のダメージを与えただけで、大した戦果はあげられなかった。
 それじゃ、第3ラウンド。
【ティガー】 オーガーAに攻撃。(ころっ)はずれ。
【GM】 オーガーAは、ひょいっと身軽に攻撃をかわした。
【ティガー】 おお〜、うまい、うまい。(ぱちぱち)
【メイユール】 拍手されてる(笑)。
【GM】 そのティガーに、ダークエルフが〈バルキリー・ジャベリン〉をかけてくる。──光の槍は、的確にティガーを貫いた。ダメージは……へぼっ、12点。くっそ〜。

 ジーネは、またまた攻撃をはずし、メイユールも、もう一度ダークエルフに〈ミュート〉をかけたが、効果をあげられなかった。
 呪文を封じられたシルヴィアは、バスタード・ソードを抜いて、ゴブリンAに白兵戦を挑むことにした。
 第4ラウンド、オーガーAにダメージを与えたティガーに、2発目の〈バルキリー・ジャベリン〉が炸裂する。抵抗には成功したが、12点のダメージを受けて、ティガーは倒れてしまった!

【ジーネ】 げっ、前線が崩壊するやんか。
【ティガー】 もう、崩壊したよ。
【GM】 じゃあ、ティガーには[生死判定]をしてもらおうか。2Dで5以上の出目が必要やね。
【シルヴィア】 ランディと同じ状況やな。
【ティガー】 (ころっ)成功!
【GM】 なら、虫の息で生きてる。
【ティガー】 ファンリーに〈キュアー・ウーンズ〉をかけてもらおうっと。
【ジーネ】 ゴブリンBを、モーニングスターで殴ります。(ころっ)当たって、ダメージは10点。
【GM】 鼻くそをほじってたゴブリンBは、鼻血を吹き出しながら「痛いやんか、何すんのん」と、倒れてゆく。
「ちゃんと取れてないのに〜」
【ジーネ】 やっとしとめたか。
【メイユール】 ティガーの前のオーガーAに、〈ストーンブラスト〉。(ころっ)効いて、ダメージ12点。
【GM】 ファンリーはティガーに〈キュアー・ウーンズ〉。(ころっ)8点治した。
【ティガー】 ちょっとヘボく治ったな。
【GM】 動揺してたんやろね。
 ティガーは倒れてるから、次のラウンドは、起き上がるぐらいしかできんよ。
【ティガー】 OK〜。
【シルヴィア】 ゴブリンAに攻撃、(ころっ)当たって、6点ダメージ。ファイター技能1レベルやと、ま、しょせんこんなもんか。
【GM】 モンスター側の反撃。
 ゴブリンBが倒されてしまったので、ダークエルフのそばで、「行けー、行けー」と応援していたゴブリンCが、「おまえも行けッ」と前線に蹴り出されて来た。目標はジーネ──それは回避やね。
 シルヴィアも、ゴブリンAの反撃をかわした。

 こうして、互角に進められた戦闘だったが、それもダークエルフの精神力が尽きるまで。
 ダークエルフの魔法がガス欠になると、冒険者たちの猛攻が始まった。
 第10ラウンド目、オーガーA、Bはすでに打ち倒され、メイユールの〈シェイド〉をくらったダークエルフは、気絶して倒れてしまった。
 それを見たゴブリンA、Cは、恐怖におののいて逃亡を図る。

【ジーネ】 後ろからゴブリンCを攻撃。ゴブリンなんぞを、許しておくわけにはいかん。(ころっ)1ゾロ。
【シルヴィア】 ゴブリンAに攻撃。(ころっ)当たったけど、はじかれてダメージはなし。
【GM】 難を逃れたゴブリンA、Cは、どこかへ逃げて行った。
 後に残ったのは、気絶していい夢を見て、「へへへ」と笑ってるダークエルフだけ。
「ミーア様、ファンリーを持って帰ってきましたぜ〜。これで、小結に昇進」
【ティガー】 なんか、変な夢見てるぅ(笑)。
【ジーネ】 ふん縛ろか。それとも、殺してしまう? さくっと。
【メイユール】 「妖魔は許すな」って言われてたしな。
【ティガー】 んじゃ、さくっと殺る。
【GM】 ダークエルフは、幸せな夢を見ながら逝ってしまった。
【シルヴィア】 とりあえず、その他の戦闘はどうなってるの?
【GM】 他の場所でも、キミたちの仲間が勝利をおさめている。どうやら、解放軍の快勝のようやね。
「えい、えい、おーっ」と、勝鬨が上がってるよ。
【シルヴィア】 作戦は成功やな。
【GM】 では、解放軍は村の広場に集合させられる。
「みんな、よく頑張ってくれた。これでアゴーン村は、ランダースの支配から解放された。
 明日は、再びゴルドに向けて進軍するので、今日はゆっくり休んで、疲れをとっておくように」と、アルヌーがねぎらってくれた。
【ティガー】 村人たちは?
【GM】 解放軍のひとりが、作戦終了を告げに行ってるんで、間もなく帰ってくる。
 そして、戻ってきた村人たちが、ささやかな宴で歓待してくれた。
 そんな感じで、翌朝になったよ。
 ここで、投降したランダース兵を捕虜として秘密基地に後送する班と、王都に向かう班とに分かれる。キミたちは、もちろんゴルドに行く班ね。
【シルヴィア】 了解。
【GM】 それでは進軍していただいて、3日後の真夜中、王都ゴルドの東の丘に到着しました。
 昼間なら街が見えるところだけど、電気などないこの世界、夜の帳に閉ざされたゴルドの街は、深い闇の底で寝静まっている。
【ジーネ】 ここまで、明かりなしで来たんだろうか?
【GM】 そうやね、かがり火なんか焚いてたら、向こうにバレてしまうから。
【シルヴィア】 別働隊も、ちゃんとゴルドに来てるんかな。
【GM】 予定通りならば、それぞれの配置についているはず。伝達要員たちが、すぐに他の隊の到着予定ポイントに駆けて行った。
 キミたち戦闘要員は、しばらくここで待機。すべて順調に状況が進行してるなら、夜明け前とともに、街へ突入することになる。
【ティガー】 じゃ、待機する。
【GM】 やがて、連絡員が戻ってきて、作戦は問題なく進んでいることをアルヌーに告げた。
 というわけで、戦闘要員は、なるだけ音を立てずに、街門まで行ってください。キミたちは、東門から突入するからね。
【ジーネ】 どんなに頑張っても、チェイン・メイルだから、音が出るんだよ〜。
【GM】 だから、なるべくでいいって。
【ティガー】 『なるべく』ね。善処します(笑)。
【メイユール】 「へっくしょん!」とか言うたりして(笑)。
【GM】 メイユールは「音をたてるな!」と、ささやき声で叱られた。まあ、街の内外に潜んでる工作員が、すでに見張りなどを始末してくれてるから、よほどのことをしない限り、大丈夫やろけど。
 ついでに工作員は、戦闘員が突入できるよう、門を開けてくれることになっている。
【シルヴィア】 門の前まで来たよ。
【メイユール】 あとは、夜明けを待つだけ。
【GM】 やがて、東の空が徐々にピンク色に染まってきた。周囲は朝もやに包まれている。
【ティガー】 おお、ちょうどいい。
【シルヴィア】 それも計算のうちに入っての計画なんやろ。
【GM】 ちなみに、キミたちに向かってもらうのは、ゴルドの港です。港の施設に潜む敵兵の掃討が、キミたちの任務。
 もちろん、敵の中には妖魔も混じってるから、じゅうぶん注意するように。
【ジーネ】 私たちは城攻めじゃないんだね。
【GM】 そう。敵の大将、ゴルド大守“暁の将軍”ヴィンケルホックがいる王城は、別の精鋭部隊が向かう。
【シルヴィア】 きっと、元ゴルド騎士とかが行くんやろ。
【メイユール】 城のこととか、よく知ってるやろし。
【ティガー】 俺らが攻める港は、どこにあるの?
【GM】 街の南の小高い丘の中腹に、港におりる地下通路がある。蟻の巣のようにはりめぐらされた通路らしい。
 そこから攻め入ってください。
【ジーネ】 地下通路?
【GM】 そう。ゴルドの街は、海面から数十メートル上の盆地に築かれている。
 南の海岸は断崖絶壁になっており、その麓の大洞窟の中に、ゴルドの港はある。地下の通路は、そこに行くためのもの。
【シルヴィア】 海抜数十メートルの断崖絶壁か……。
【メイユール】 自殺の名所って感じ?(笑)
【ティガー】 崖の上に人生相談の電話が置かれてそう。
【ジーネ】 しかし、わざわざ地下通路を掘ってまで、そんなところに港を作らんでもよさそうなもんやけど。
【GM】 地下通路は、大昔のドワーフ住居跡を利用したもの。港は、人間たちがゴルドの街を築いた後、100年近い歳月をかけて造りあげた施設。
【ティガー】 この辺、昔はドワーフがいっぱいいたんや。

森の中の刺客の事

【メイユール】 秘密基地にも、ドワーフの住居跡があったもんな。
【シルヴィア】 港に攻め込むのは、僕らだけ?
【GM】 いや、他にも何チームか、港に向かうよ。そうそう、誤って同士討ちしないように、キミたちは、解放軍の合言葉を教えてもらった。
【ジーネ】 はちまきか何かにしといてくれや。戦闘中に、いちいち合言葉なんか叫んどれるかぃ、そんなもん。
【シルヴィア】 はちまきだと、見えないこともあるでしょ。とくに僕らは、地下通路に攻め込むんやから。角や扉の向こうに潜む人物が敵か味方か、どうやって識別すんの?
【ティガー】 ジーネは、はちまきを見に行く!
【メイユール】 そして、グサっと刺される(笑)。
【ジーネ】 「我々の味方か?」って聞けばいいじゃん。
【GM】 ……「味方だ」と、答えが返ってくるかもね。でも──。
【ティガー】 ──どっちの?(笑)
【シルヴィア】 そんなバカな質問するぐらいなら、合言葉を言ったほうが、はるかに効率いいよ。
 で、どういう合言葉なん?
【GM】 合言葉は3種類。「森」と言われれば「エルフ」と答える。「岩」と言われれば「トロール」と答える。「みはた」と言われれば「たてなし」と答える。
【ジーネ】 3種類も? 1種類でええやんか。
【メイユール】 1種類だけだと、敵に覚えられてしまうかも知れない。
【GM】 さて、いよいよ街門が開けられた。キミたち戦闘員は、鬨の声をあげて街へ突入していく。
 一般市民たちはその声で飛び起きるけど、市民に扮した工作員が、あらかじめ「鬨の声が聞こえたら、絶対に外に出ないように」と伝えておいたので、家の中で息を潜めている。
 もちろん、ランダース兵たちはあわてて駆けつけ、すぐに迎撃体勢に入るけどね。

 ティガーたちは、指令どおりに、ゴルド港へおりる地下通路に入った。
 そして、立ちふさがるランダース兵を倒しながら、最下層の船着場までやって来た。
 そこには、3匹のダークエルフと、2匹のオーガーがいた。さらに戦闘に入ってすぐ、背後から、オーガーとダークエルフが1匹ずつ襲いかかってきた!
 冒険者たちは、ダークエルフの〈ミュート〉や〈バルキリー・ジャベリン〉と、頻繁に出る1ゾロに苦しみながら、16ラウンドかかって、何とか勝利することができた。

【ジーネ】 えらい時間がかかったな〜。
【シルヴィア】 戦闘が始まって、いきなり僕とメイユールの呪文が封じ込められてしまったからね。
【メイユール】 あと、1ゾロ出まくり(笑)。
【ジーネ】 いちおう、とどめを刺してまわるよ。
【GM】 というわけで、ジーネは倒れた妖魔たちの頭を、モーニングスターで叩き潰してゆく。
 船着場は、あっという間に血の海になった。
【メイユール】 うわ〜、いいもん見た……。
【ジーネ】 だって、しゃあないやん。シルファス信者やもん!
【GM】 ファンリーは、それを見ないふりして、ティガーの傷を治してる(笑)。
【ティガー】 じゃあ、作戦終了ということで、地上に戻ろう。
【GM】 戻った。そろそろ日が高くなっている。他のチームも、あらかた作戦を終了してるようやね。
【ティガー】 もう、ゴルドは解放できたの?
【GM】 いや、まだ王城の一室にたて籠もるヴィンケルホック将軍と、その部下たちが抵抗を続けてる。城攻めの連中が、脱出路から逆に城内に潜入して、戦ってる最中。
 キミたちは、港施設攻略の作戦を終えてるので、とりあえず、広場かどこかの神殿かで休んどいてください。午後からまた、別の最後の作戦があるからね。
【シルヴィア】 う〜ん、働き者や。
【メイユール】 でも、これが終わったら、解放軍との契約も切れるよね?
【GM】 そう。あと、もうちょっとの辛抱。
【ジーネ】 その前に食事がしたいな。
【GM】 もちろん、食事は出るよ。トレーに乗せて配られる。固いパンにスープ。
【ティガー】 肉は? 肉ぅ。
【GM】 肉もあるよ。干し肉だけど。パンともどもスープでもどして、食べるといい。
【メイユール】 めっちゃワイルドや。
【シルヴィア】 戦場だからね。
【ティガー】 んじゃ、メシも食ったし、休む〜。
【GM】 では、8時間ほど休んだので、精神力は回復した。現在の時刻は、午後4時ぐらい。
 さて、最後の作戦というのは、敵残存勢力の掃討。
 7人ひと組になって郊外に出かけ、ランダース軍の逃亡兵を捕らえるなり、倒すなりしてきてください。
【ジーネ】 もう夕方やろ〜? 明日でいいやんか。
【GM】 これは、夜を徹して行われると思って。たいまつが8本支給された。
 キミたちの割当は、ゴルド西に広がる森の中。いちおう、近郊の村につづく道や古道などがあるけど、それ以外のところも捜索するように。
【ティガー】 7人ってことは、誰かふたり入ってくるねんな。どんな人?
【GM】 (ころっ)どっちとも人間の男性。シーフのフィリップ・アダムスさんと、アゴーン村でキミと肩を並べて突進した、元カルファン騎士のペドロ・チャベスさん。
「おっ、またおまえか、小僧」
【ティガー】 「また、あんたか」
【GM】 それでは、キミたちは掃討作戦に移行した。もちろんキミたち以外にも、たくさんの解放軍戦士が参加している。
 班ごとに四方八方に散らばって、薄暗い森の中を、ザクザク捜査していきます。
【ティガー】 探せ、探せ〜。
【GM】 やがて、晩夏の太陽は傾きはじめ、森の緑を朱に染めてゆく。あちこちから蜩やツクツクホウシの鳴き声がする。
 ティガーが無遠慮に茂みに入っていくと、「ツクツクオー……ギッ」と、驚いた蝉が小便をひっかけて飛び去ってゆく。
【ティガー】 ひょいって避けるねん。
【GM】 避けられませ〜ん。
【ティガー】 回避成功〜。
【GM】 そんな感じで茂みや藪を捜索しながら、古道が見えるあたりに来たとき、街のほうからやって来るふたつの人影に気づいた。
 ちなみに、キミたちは茂みの中にいる。
【メイユール】 人影って、ランダース兵?
【GM】 そんな感じやね。チェイン・メイルを着込んだ騎士で、20代後半の男性と、30代前半の女性のふたり組です。
 と、女性騎士が立ち止まる。男性騎士が振り返って、「パティ様、いかがなされた? 追手が来るやも知れませぬ、お急ぎくだされ」と、言う。
【シルヴィア】 僕らのことが気づかれたのかな?
【GM】 いや、シルヴィアたちに気づいた様子はないよ。
 女性騎士は街を振り返り、「アレックス。やはり、私は将軍の下に戻る」と、言っている。
【メイユール】 ドラマや、ドラマ。息をひそめて、なりゆきを見守る。
【GM】 「むちゃをおっしゃいますな。もう日が沈みます。最後の突撃は、間もなくです」
「しかし、私は“暁の将軍”の妻だぞ。このまま、おめおめと本国に逃げ帰れようか」
「ならば、本国で待つヨアヒム様は、どうなります?」と、アレックス。「父とともに母まで失うお子が、不憫だとは思われませぬか」
「しかし、このまま逃げても、本国まで無事にたどり着けるかどうか……」
【シルヴィア】 メイユール、まだ、ドラマを見とくの?
【メイユール】 あと少しだけ(笑)。
【GM】 そのとき、青白く光る蝶がヒラヒラと飛んでくる。山賊団殲滅作戦のときの道中で見た、あの蝶やね。
【ティガー】 ファンリーが捕まえた奴(笑)。
【GM】 「やや、パティ様、あの蝶をご覧あれ」と、アレックスが蝶を指す。
「あの蝶が、必ず、我々を本国に導いてくれるはずです!」
 パティは、夫が最後の突撃を行っているであろうゴルドの街を再び振り返り、アレックスとともに、古道をキミたちが潜む茂み付近に駆けて来た。
【ティガー】 古道に出て、女騎士たちの前に立つ。
【ジーネ】 ひとりで行っちゃったの?!
【GM】 女騎士たちは、驚いて立ち止まった。このまま、戦闘ラウンドに移行するよ。
 そっちの不意討ちになるから、ボーナスつきで攻撃できるけど?
【ティガー】 攻撃はしない。剣を抜いて「いや、恨みはないねんけどな、任務やから」って言う。
「捕まってくれる?」
【GM】 茂みでは、シーフのフィリップが、「おい、隊長行っちまったぜ!?」と、あわててる。ジーネたちはどーすんの?
【ジーネ】 次のラウンドに飛び出すよ。
【メイユール】 茂みから顔だけ出して、ドラマの結末を見る(笑)。「どうなるんやろ?」って、ハラハラしながら。
【シルヴィア】 僕は、いつでも〈エンチャント・ウェポン〉をかけれるようにしておく。
【GM】 では、第2ラウンド。男騎士が剣を構える。
 ティガーの行動は?
【ティガー】 降伏しないんなら、男騎士に攻撃。(ころっ)当たった、14点というてダメージを与えてみる。
【GM】 少しくらった。男騎士アレックスの反撃──しかし、かわされた。
 そして、ジーネ、ファンリー、フィリップ、ペドロは、茂みから古道に飛び出した。
 女騎士パティがティガーに攻撃──当たったけど、青い鎧にはじかれた。「強い!」
【ティガー】 いや、鎧がいいねん。
【メイユール】 謙虚やな。
【シルヴィア】 ティガーの剣に、〈エンチャント・ウェポン〉をかける。(ころっ)あっ、ごめん、1ゾロ。
【GM】 シルヴィアは呪文の途中でくしゃみをしてしまったんやね。
 では、次のラウンド。
【ティガー】 男騎士に攻撃。(ころっ)はずれ〜。
【GM】 しかし、アレックスのティガーへの反撃も、はずれてしまった。
【ジーネ】 男騎士を、モーニングスターで殴ります。(ころっ)よっし、クリティカル! ダメージは23点♪
【GM】 それは生きてられない。アレックスの頭ははじけ飛び、目玉や脳ミソが散乱し、大量の血と脳漿が恐ろしい勢いで地面に溢れていく。
【ジーネ】 やった〜!
【ティガー】 「やった〜」というか、これは……。

÷÷ つづく ÷÷
©2003 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2003 Jun Hayashida
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