≪REV / EXIT / FWD≫

§久遠の旅人:最終話§

時の果ての約束

著:龍神裕義 イラスト:林田ジュン
▽ ゴブリフィーバーJ ▽ オレンブルクへ ▽ 過去の別離、未来の邂逅

ゴブリフィーバーJ

【GM】 さてと、始めよか。
【ルミオス】 あれ? ファンリーが冒険者技能を持ってる!
【GM】 そう、前回の経験点で、冒険者技能を会得した。トラウマだらけで毎晩悪夢にうなされるファンリーは、その中で大地母神ミフォアの声を聞いたらしい。ただし、〈キュアー・ウーンズ〉1回使うと気絶するけど(笑)。
【バルバッツァ】 ダメダメやな。
【GM】 ま、どのみち呪文は唱えられないけどね。口がきけないから。
【ルミオス】 あ、そうなんや。
【GM】 あまりの精神的ショックのせいやろね。カリーニョ村を出て以来、笑ったことなど一度もないし。
【カノン】 果して、まともに成長できるんだろうか。
【GM】 さあね。なんせ、バルバッツァが遊び相手になってるらしいからなぁ。おかげで、ファンリーはシーフ技能も取得している。
【バルバッツァ】 とどめの刺し方とか、鍵のあけ方とか教えてやってるからな。鍵あけ練習用の箱とかあげてるし。「これで遊んどけ」って。
【ルミオス】 最悪やな。
【バルバッツァ】 そんなことを言いつつ、オレンブルクに向けて着々と進むで。
【GM】 はいはい。前回の冒険から、2週間が経過しとります。その間に年が明け、レムリア暦520年となり、ファンリーは5歳になった。この世界では、みんな正月に歳を取ることになってるからね。極端な話、1月1日生まれと12月30日生まれが、同い年ということになる。
【カノン】 じゃあ、誕生日はそんなに重要じゃないんですね。
【GM】 まあ、一般人にとってはね。高貴な身分だと、誕生日が特別な日ということになる場合もあるやろけど。
 さて、秘宝を取り戻してあげた村を後にしたキミたちは、やがてハーストの少し北あたりから、街道に入った。
【バルバッツァ】 おう、街道をどんどん進むで〜。
【GM】 そしてハーストの街を経て、ダンフリーズ王国の王都ガルレークを発ち、オレンブルク王国との国境近くまで来た。
 その辺りは、ダンフリーズ王国にもオレンブルク王国にも属していない、いわば空白の地。安全とされる街道だけど、人通りは少なくなり、野盗やモンスターなどがたまに出現する少し危険な区域やね。
【カノン】 こんなところは、さっさと抜けてしまいましょう。
【GM】 ところが、街道の向こうからキミたちに近づいて来る、おかしな一団がいる。
【バルバッツァ】 目も合わさずに通り抜けよか。
【GM】 否。あちらはヘラヘラしながら、キミたちのほうに来るよ。
【ルミオス】 じゃあ、こっちもヘラヘラする。
【カノン】 ファンリーを背中に庇っとこか。
【バルバッツァ】 相手は何者や?
【GM】 ゴブリンやね。その数5匹。「あ? コラ。お? コラ」と、メンチを切りながらやって来る。
【ルミオス】 なんや、それ(笑)。
【GM】 バルバッツァはそれにビビって、目をそらすんやな(笑)。
【バルバッツァ】 ゴブリンめ〜。誰かゴブリン語話せる奴、おらへんか?
【カノン】 ゴブリン語は持ってないよ。
【GM】 いや、大丈夫。キミたち以上に向こうは言語に精通してるから。共通語で話しかけてくるよ。
【バルバッツァ】 おお、しゃべれるんや。ちょっと偉いな。ホブとかロードとかおるんかな。
【GM】 体格がいい奴ばかり。精鋭って感じやな。装備もチェイン・メイルとか、ハードレザーとか、ソフトレザーとか、なかなかいいものばかり。武器だって、ヘビー・メイスとか、ビッグ・クラブとか、ピックやからね。
【ルミオス】 やって来たんは、そいつら5匹だけ?
【GM】 いや、ソフトレザーのゴブリンのそばには、背中に蝙蝠みたいな羽を生やして、先が矢尻みないな尻尾のある小さな生き物もいる。
【ルミオス】 インプや。使い魔や。
【バルバッツァ】 で、そのゴブリン・ゴレ○ジャーは何を言うてくるんや?
【GM】 ゴレ○ジャーじゃないよ。「ゴブリオレン!」「ゴブリカルファン!」「ゴブリバイル!」「コブリコペル!」「ミスメカリア!」「ゴブリフィーバーJ!!」ばこ〜ん! ──と、自己紹介してくる。
【ルミオス】 そいつら、何をしに来たん? ただの追剥?
【GM】 ゴブリオレンは、「よ〜、おめーらよぉ、よくもオネットさんの研究の邪魔をしてくれたな。おまえらが奪い取った魔神の書、返してもらおうか」と言う。
【バルバッツァ】 なんや、その『魔神の書』とかいうのは?
【ルミオス】 そんなん、知らん。
【GM】 「とぼけるな! あの後、研究材料を回収しに行ったら、大事な宝があらかたなくなってたんだ。他人の物を勝手に持っていくなんて、ドロボーだぞ!」
【ルミオス】 知ら〜ん。うちらが奪ったんはドラゴンの鞘やし。
【カノン】 それに、それは村の秘宝だったんでしょ? 奪い取ったも何も、そっちが盗んだものじゃない。
【GM】 「どうでもいいから、とりあえず死ねや〜」と、ゴブリフィーバーJは殺る気満々の様子やね。
【ルミオス】 じゃあ、〈スリープ・クラウド〉。(ころっ)ゴブリカルファンとインプが寝た。なんで全員寝えへんねん。寝ろっちゅうねん。
【GM】 ただのゴブリンやと思って、なめとるやろ。
【ルミオス】 だって、ゴブリンやねんもん。
【GM】 こいつら、マッチョな奴とか、賢そうな奴とか、普通のゴブリンとは一線を画してるんやぞ。
【ルミオス】 そんな変なゴブリン、イヤや!(笑) 人間かぶれや。
【カノン】 走って行って攻撃したいんだけど、ファンリーから離れちゃうと危ないよなぁ。
【バルバッツァ】 大丈夫、死なへん。仮にもシーフ技能1レベル持ってるんやから。
【カノン】 じゃあ、攻撃しに行こう。寝てる奴からやったほうがいいんでしょうか。
【バルバッツァ】 それは好きなように。ゴブリンごときに負けるようなパーティじゃない。このレベルで負けてたら、恥さらしやからな。
【カノン】 では、ゴブリカルファンに攻撃。(ころっ)当たり、ダメージ13点。
【バルバッツァ】 ほんなら、俺はなぎ払い〜。ゴブリバイルとゴブリコペルを攻撃。(ころっ)バイルにだけ当たり〜、ダメージ14点。

 ゴブリフィーバーJの反撃が始まる。バルバッツァはゴブリバイルの攻撃を避けたが、カノンはエース・ゴブリオレンに2点のダメージを与えられた。

【GM】 ただのゴブリンやと思うなよ。銘持ちの強化新型やぞ。

 第2ラウンドでは、ルミオスが〈ライトニング〉を唱え、クリティカルをくらったゴブリバイルは昇天。ミスメカリアも痛手を負う。
 ゴブリオレンとゴブリコペルを狙ったカノンのなぎ払いは空を斬る。バルバッツァは、目を覚まして起き上がろうとするゴブリカルファンにダメージを与えた。
 ゴブリフィーバーJは、ゴブリオレンとゴブリコペルがカノンに攻撃し、ダメージを与える。その間に、ミスメカリアがファンリーのところへ行ってしまった。

【GM】 ミスメカリアはファンリーを捕まえ、その喉元にダガーを突きつけて「動くな!」と言う。「おとなしく武器を捨てて、あたいたちに殺されろ!」
【バルバッツァ】 「バカか、おまえは!」
【ルミオス】 〈パラライズ〉をかけたいけど、失敗したらファンリーが死ぬから、様子を見ておく。
【カノン】 体当たりしようかしら。
【バルバッツァ】 そんなことしたら、間違いなくファンリーは死ぬな。サクっとやられる。
【カノン】 足狙いで攻撃して、相手が転倒したらどうなるかなぁ、とか。
【バルバッツァ】 ファンリーの足ごと切るわけやな、ズバっと。なかなかや。
【ルミオス】 命が大事か、足が大事か(笑)。
【GM】 足切断となると、命にかかわるなぁ(笑)。あの小さい体だと、急激な血圧の低下に耐えられずに、ショック死する可能性もある。
【バルバッツァ】 じゃあ、ファンリーが死なんよーに足を切ってな。
【カノン】 そーじゃなくて、ミスメカリアだけをどうにか攻撃できんもんやろか。
【GM】 それは難しいね。密接した時点で、不可能になったと思ってくれ。不意を突いての攻撃なら可能やろけど。
【バルバッツァ】 俺の素早さで何とかできんかな、この敏捷度24をもって。シャッと消えたと思ったら、ミスメカリアの後ろに立ってるねん。
【GM】 いやいや、ミスメカリアは目で動きを追うわけじゃないから。気を読んで相手の動きを察知してるからな。
【バルバッツァ】 強いな、おい。ゴブリンのくせに。
【GM】 そりゃ、強化新型やぞ〜。角も生えてるし。センサー系はとくに優れてるね。
【バルバッツァ】 ちくしょー、誰かにミノ○スキー粒子を撒いてもらわんと。
【カノン】 [パリィ(防御姿勢)]して、様子を見ときます。
【バルバッツァ】 しゃあないな、GM、先に進めてみ。奴らが何をするか、聞いてやろ。
【GM】 それじゃ、おとなしくしてくれたということで、ゴブリフィーバーJは喜々として、キミたちを殺しにかかります。殴られたからといって、動いたらアカンで。「うっ」とか、「あっ」とか、悲鳴をあげるのも禁止。
【ルミオス】 なんでやねん!
【バルバッツァ】 そら、叩かれたら言うやろ。叩いたほうが悪いからな。
【GM】 言うんやったら、しゃあないな。メカリアの足下に、バラが1本突き刺さろか。
【カノン】 バラですか。
【GM】 そう、真っ赤なバラ。ミスメカリアが「誰だ!?」と振り向くと、木の上に、偉そうな女エルフが腕組みして立っている。そして、カノンたちに「ゴブリン相手に、何みっともない戦いをしてるのかしら?」と言う。

オレンブルクへ

【ルミオス】 ムードロか。過去と未来と、どっちのムードロやろ。
【GM】 続いてバラの茎がしゅるると伸びて、ファンリーを抱えるミスメカリアに巻きついた。メカリアは思わずダガーを落とし、彼女の使い魔のインプは、慌てて飛び去った。
【ルミオス】 薄情な使い魔やな(笑)。
【バルバッツァ】 インプやからな。そんなもんや(笑)。
【カノン】 バラの茎だと、ファンリーが棘でケガしちゃうんじゃない?
【バルバッツァ】 そのへんは前もってちゃんとしてくれてるやろ。
【GM】 じゃあ、そういうことにしとこか。きっと、敵を縛る用のバラと、味方を救出する用のバラの2種類を常に携帯してるんやろな(笑)。
【バルバッツァ】 仮にもムードロ・ペーニンやし。
【GM】 ムードロは「ルミオス、バルバッツァ、やっておしまい!」と、言ってるよ。
【ルミオス】 偉そーに。

 ムードロ・ペーニンの加勢を受けた冒険者たちは、次のラウンドでバルバッツァがゴブリカルファンを倒し、ルミオスはゴブリコペルを〈パラライズ〉で麻痺させた。
 第3ラウンドに麻痺させられたゴブリコペルがバルバッツァに倒され、エースのゴブリオレンはカノンに倒された。
 残るはファンリーを抱えたまま、バラの蔓に縛られてしまったミスメカリアのみ。もちろん無傷なわけはなく、ムードロの〈ウィル・オー・ウィスプ〉の連打を、しっかりくらってしまっている。

【バルバッツァ】 メカリアがもうじき死ぬな。
【GM】 そうやな、もはや虫の息。今際の際に、最後のひと言を残しとこっか。
 ファンリーを抱えたかっこうのままのミスメカリアは、「我が主、暗黒神クートラよ。この娘の行く末に、大いなる災いあらんことを。我が命をもって、この無垢なる魂が世界を滅ぼす器とならんことを乞い願う!」とでも言っとこか。
【バルバッツァ】 呪いやな、呪い。
【GM】 そして、ムードロの鞭にしばかれて死んだ。「ぐはぁ! 鞭が痛い〜」
【ルミオス】 かっこわる(笑)。
【GM】 というわけで、戦闘は終わりました。あとは戦場に一陣の風が吹くのみ。血なまぐさい風が。
【バルバッツァ】 じゃあ、何事もなかったかのように、オレンブルクへ行こか。
【カノン】 ゴブリンの死体はそのままにしとくの?
【バルバッツァ】 ゴブリンなんか、いちいち埋葬せんでもええやろ。
【ルミオス】 次に通るひとが「なんじゃ、こりゃあ!?」って言うだけや。
【GM】 それじゃ、ムードロ・ペーニンも合流して、キミたちは再びオレンブルクをめざしまして旅をします。この先にあるバウツェンの街から、オレンブルク領となる。
 バウツェン、メミンゲンを経て旅すること30日、キミたちはついにオレンブルク王国の王都オレンブルクに到着した。カノンやバルバッツァ、ルミオスの故郷でもあるね。
【バルバッツァ】 帰ってきたな、故郷に。
【GM】 日はすでに沈んでおります。街のほうからは、街門を閉ざす合図の鐘の音が聞こえてくる。カラ〜ンコロ〜ンと。
【カノン】 街に駆け込もうか。
【ルミオス】 「その門、待ったぁー!」
【GM】 キミたちは、街壁の外に展開する貧民街の雑然とした大通りを抜けて、街門をめざした。しかし、非情にも「ギ〜、ばたーん」と、キミたちの目の前で門は閉ざされてしまった!
【バルバッツァ】 貧民街には入れたんか。
【GM】 そこは24時間解放やからね。貧民街にも宿場があり、キミたちのように閉め出された旅人が寝泊まりしてるよ。宿場には冒険者の店を兼ねてる宿屋も多く、そこを根城にしている冒険者がたくさんいる。門限があると、何かと不便だしね。
【カノン】 なるほど。
【GM】 ちなみにカノンは城壁の中のオーシュ神殿で生まれ育ち、バルバッツァは貧民街で生まれ育っている。
【バルバッツァ】 そうなんか。
【GM】 また、貧民街には、賭場だとか、お姉ちゃんと遊べる宿屋だとか、そういった施設も完備されていて、盗賊ギルドの重要な収入源になってたりする。
【カノン】 そんなところにファンリーのような子供を連れてきて、果していいんだろうか。
【GM】 通りには、ファンリーのような子供の姿もちらほら見えるよ。靴磨きしてたり、単に乞食をしてたり、それなりに働いて小銭を稼いでいる。
【カノン】 乞食って仕事じゃないでしょ?(笑)
【GM】 仕事です。この街で靴磨きをしたり乞食をしたりする者は、盗賊ギルドに所属してなくちゃいけない。そして儲けのいくらかを、ギルドに上納するんやね。まあ、金銭的な儲け以外にも、街で何かしらの情報を集めることも、彼らの大切な役目のうち。
【ルミオス】 世間話とかして、情報収集するんやな。
【GM】 そういうこと。きっと、バルバッツァもそうやって育ってきたんやろね。
【バルバッツァ】 そのおかげで、効率的な恵まれ方を身につけてるから(笑)。
【カノン】 でも、ファンリーをこんなところに置いていくわけには、いかないよね。
【バルバッツァ】 「こんなところ」とは失礼な。ちゃんと俺がシーフ技能を伝授してやってるから、ここで生きていけるはず!
【カノン】 ミフォア大神殿に預けるはずでしょ。
【ルミオス】 神殿はどこにあるん? ……うわっ、街の北側やん。明日の朝にならんと、行かれへんな。んじゃ、宿屋に泊まる。
【GM】 というわけで、キミたちは手頃な宿を求めて、貧民街の雑踏をさまよう。夜になっても、かがり火の焚かれる通りの活気は衰えることがなく、宿の呼び込みや娼婦の誘いや乞食の物乞いなどが、キミたちに投げかけられる。
【カノン】 賑やかなんやな。
【GM】 内側育ちのカノンやルミオスは、夜の貧民街を通るのは初めてやから、目を白黒させてるやろね。ムードロ・ペーニンは「なんて汚らしい街なんでしょう」と、ハンカチで鼻と口を押さえながら、顔をしかめている。
 ファンリーはいつもながら無表情で無感動。カノンのズボンを掴んで、ついて行くので精一杯な感じ。
 ひとり懐かしんでいるのは、バルバッツァ。「あの娼館、昔、よく通ったな〜」とか言ってる。「バーバラ、元気かなぁ」
【バルバッツァ】 そうなんか。
【GM】 そう、13〜14歳の頃から通ってるから。
【ルミオス】 若いときから行っとんねんな(笑)。
【バルバッツァ】 ごっついワルやな。じゃあ、会いに行ってみるか、そのバーバラとやらに。というか、そいつは今、子供やないか!
【ルミオス】 今は過去やもんな。バルバッツァは未来を懐かしんでるんやな。
【カノン】 ああ、ややこしい……。とりあえず、なるだけ感じがよさそうな宿屋に入りましょうか。
【GM】 キミたちが1軒の宿屋を選んで中に入ろうとしたとき、通りの向こうから、ハンカチで鼻と口を押さえて、「なんて汚らしい街なんでしょう」と顔をしかめている女エルフがやって来る。
【ルミオス】 過去のムードロか!
【GM】 そして、キミたちと一緒にいるムードロに、どんっとぶつかるわけや。
【バルバッツァ】 ああ、運命のクロスや! 同一の時間軸に現れた同一人物が、触れてしまったらアカンのに。時間の流れが狂う(笑)。
【GM】 ぶつかってしまったムードロたちは、「あんた、何よ! 何、同じ顔をしてるのよ!?」と罵り合う。
【ルミオス】 わけわからん(笑)。
【バルバッツァ】 ドッペルゲンガーやとは思わんのか!
【GM】 その瞬間、キミたちと一緒にいたムードロ・ペーニンの体が、まばゆい光に包まれる。光は渦を巻きはじめ、やがて竜巻さながらに天高く舞い上がる。
【ルミオス】 なんや、それ(笑)。
【GM】 すべてが終わった後、そこにはキョトンとしている過去のムードロの姿しかなかった。キミたちと一緒にいたムードロは、消えてしまったよ。
【カノン】 えらいこっちゃ。
【GM】 過去のムードロは、「何よ、今のは!」と、プリプリしながら雑踏の中に去って行った。街門のところに行って、「開けなさいよ!」と衛兵にごねてるかも知れない(笑)。
【カノン】 消えたムードロは、やっぱり自分の時代に戻ったんだろうか。
【バルバッツァ】 まあ、そうやろな。
【カノン】 ということは、未来に帰るためには、過去の自分を捜し出してタッチすればいいんやな。でも、その方法だと私は帰られへん。
【ルミオス】 カノンはまだ生まれてないもんな。うちとバルバッツァは大丈夫やけど。
【バルバッツァ】 過去の俺は、この貧民街のどこかにおるんやしな。
【ルミオス】 うちはちょうど生まれたてか。カノンは1年待てば、生まれてくるで。とりあえず、今日は寝よう。
【GM】 では、宿屋に泊まって、翌朝になりました。街門は開けられております。
【ルミオス】 じゃあ、ミフォア大神殿に行くよ。
【カノン】 観光コースを通って、ファンリーにオレンブルクの街の解説をしながら。「あれがお城だよ」とか。
【ルミオス】 「21年後、あの店潰れてるな」とか思いながら、通りを歩いてる(笑)。
【GM】 そんなこんなで、街を歩くこと数時間、ようやく北のはずれのミフォア大神殿にやって来ました。神殿は北の街門の外、漁村の近くに建っていて、門限に間に合わなかったまぬけな旅人などが、一夜の宿を求めたりすることが多々あるようです。
【ルミオス】 ここの神殿長って、ハーフエルフやんな。
【GM】 そのとおり。よく覚えてたな。
【ルミオス】 いや、何となく。ハーフエルフやったら、未来の神殿長と同じひとかな〜って。
【GM】 そうやね、同一人物。見た目もさほど変わらないでしょう。
【カノン】 でも、ハーフエルフなんかが神殿長になってもいいんだろうか……。
【GM】 オレンブルク王国は冒険者が作った国やからね。1回目のセッションで説明したように、ハーフエルフの騎士だっている。無論、他国から見れば、異質この上ないけどね。事実、かつてアリステア帝国から、「ハーフエルフを騎士にするな!」とクレームが来たことだってあったし。
【バルバッツァ】 内政干渉やな。
【GM】 それに対しオレンブルク王国は、「こいつは戦場で戦ってるときに、耳を引っ張られてみょ〜んと伸びただけや! 名誉の負傷や!」と、小バカにした返事を送ったんやね。これがオレンブルク王国の力を天下に知らしめた、かの有名な『帝国バカにされた事件』やね。
【ルミオス】 オレンブルクって、おもろい国やな。好きになりそう(笑)。

過去の別離、未来の邂逅

【バルバッツァ】 そんなことを言いつつ、神殿に入ろう。んで、ファンリーをどっかにやっといて、孤児院に預ける手続きをしよう。
【カノン】 そばに置いといてもええやん、別に。
【バルバッツァ】 いや、ファンリーをだましてここに置いて行かなアカン。「帰ってくるから〜」とか言うたりして。それが基本やろ(笑)。
【カノン】 ひどいなぁ。
【バルバッツァ】 だって、ファンリーに事情を話してみたって、素直にここに残るはずがないやん。とりあえず、誰に「ファンリーを預かってくれ」と頼めばええんや?
【GM】 じゃあ、偶然にも神殿長アジャン・ラーシャが通りかかったことにしよか。レベル10のひとなんで、普通はめったに会えるもんじゃないけど、たまたま、裏の茶畑の作業を終えて私室に戻るところやったんやね。
【バルバッツァ】 おお、レベル10か。んじゃ、ファンリーの姿をちらっと見ただけで、すべてを悟ってくれるはずや。
【GM】 というより、呼び止めて事情を話さないと、さっさとどこかに行ってしまうよ。
【バルバッツァ】 じゃあ、呼び止めた。「かくかくしかじか」と話をする。
【GM】 「かくかくしかじか」じゃダメやね。何をどこまでどんなふうに話すかによって、相手の態度も変わってくるから。
【ルミオス】 タイム・スリップして来たことも、話してしまったほうがええんちゃう? 「未来に戻らなアカンから、預かって欲しい」って。
【バルバッツァ】 そういうことも含めて、全部話す! ファンリーを連れてきた理由も。
【GM】 なら、神殿長は理解してくれた。
【カノン】 タイム・スリップを信じたの!?
【GM】 このひとは元々冒険者やからね。「そんなこともあるでしょう」と、信じた。「ウソを言ってるかどうかは、目をみればわかります」
【カノン】 それじゃ、「この子を神殿の司祭になれるよう、育ててくれませんか」と、よく頼み込んでおこう。
【バルバッツァ】 ということは、21年後のファンリーは、ここの司祭になってるかも知れへんわけやな。
【ルミオス】 それやと、未来に帰った後も、会いに来やすいよね。
【カノン】 私はすぐにでも会いに行くつもりやけど。ところでファンリーは、私たちが未来の人間だってこと、知ってるの?
【GM】 知らんやろね。誰も話してなかったみたいやし。
【ルミオス】 言うて理解できるやろか。自信なし。
【カノン】 とりあえず、「いつまでも一緒にはいられない」ということだけは、教えといたほうがいいよね。
【バルバッツァ】 じゃあ、教えてあげて。
【GM】 それを聞かされたファンリーは、無言でカノンのズボンをはしっと握る(笑)。
【カノン】 「今まで一緒にいてわかったやろけど、危ないことがいっぱいあるんやしさ、ここにいれば安全だから」と言う。
【GM】 ファンリーは、離れる気はないみたいやね。
【カノン】 困ったな。
【ルミオス】 「ファンリー、じつはオレたちは、遠い星から来たんだ」って言うてみる?(笑) 「光の竜巻で帰らなアカンねん」
【カノン】 それなら、「遠い国から来た」で別にかまへんのでは?
【バルバッツァ】 そんなこと言うたって、「ついてくる」でしまいやんか。もう、ファンリーが寝てる間に去るしかないな。
【ルミオス】 手紙置いて?(笑)
【カノン】 私はきっちりと「じゃあね」と言って、別れたいです。
【ルミオス】 うちも「じゃあね」に1票!
【バルバッツァ】 なんてことや! バルバッツァはすねて街に行くわ。
【ルミオス】 逃げたな、卑怯なり。
【カノン】 一緒にファンリーを説得してよ〜。
【バルバッツァ】 だから、俺はファンリーに気づかれんよーに出ていく派なんやって。じゃあ、街で人形を買ってくるわ。その人形で遊んでる隙に、出て行くわけや。
【GM】 (ころっ)ファンリーは人形を受け取ったけれど、警戒した眼差しでバルバッツァを見上げてるよ。何せ、よからぬ企みを秘めた笑みを浮かべてるし(笑)。
【バルバッツァ】 洞察力の鋭い奴やな〜。
【カノン】 とりあえず、ファンリーがOKしてくれれば、神殿に預けて行くことができるんだよね? ファンリーは何がイヤなんだろう。私たちと別れることなのか、ここに預けられることなのか。
【バルバッツァ】 両方やろ。
【GM】 そりゃねえ、人口200人程度の村で育った子が、いきなり人口10万の大都市の大神殿で暮らせと言われてるんやから。それにたった3ヶ月とはいえ、キミたちと危険を分かち合い、生死を共にして過ごしてきたんやからね。強烈な思い出だけに、別れがたいでしょうな。
【カノン】 そんなこと言ったってねぇ。一緒にいると危険なことばかりだ、ってことぐらい、ファンリーにもわかってると思うんやけど。
【GM】 その危険よりもイヤなことがあるんでしょう。「ひとりはイヤ!」ってファンリーは言うよ。
【バルバッツァ】 おっ、ついにしゃべれるようになったか。
【ルミオス】 ドキっとしとこ。声がかわいかったから(笑)。
【カノン】 まあ、これからここで他の孤児たちと一緒に暮らせば、ひとりじゃなくなるんやし……。
【ルミオス】 同年代と一緒にいたほうがおもしろいで。いちおう、ルミオスはオレンブルクにおるんやけどなぁ。赤ん坊やけど。
【バルバッツァ】 貧民街の子供バルバッツァに、ファンリーと友達になるように頼んでみるか?
【GM】 参考までに聞いとくけど、バルバッツァはそういうことを頼まれて、引き受けるような子供やったんかね?
【バルバッツァ】 引き受けんなぁ、仮にもバルバッツァやし。
【ルミオス】 13歳で娼館に通ってたもんな(笑)。
【カノン】 なんでそこで「引き受ける」って言わないの!
【ルミオス】 もう、ファンリーにもタイム・スリップのことを話そうや。詳しく、わかりやすいように説明して、「一緒にいれない」って言う。
【GM】 ファンリーは理解してるのかしてないのか、とりあえず、ルミオスの言葉をうなずきながら聞いてるよ。
【ルミオス】 んで、ファンリーに「自分の時代に帰ったら、すぐに会いにくるから」と言う。「21年後の今日、会いにくるから」
【GM】 じゃあファンリーは、ルミオスのその言葉を胸に刻みつけた。一生忘れへんからな(笑)。
【ルミオス】 あとは、ここに住む不安を消してあげればええんやな。どういうところで生活するのか、神殿のひとに見せてもらおう。
【GM】 キミたちは、ファンリーと一緒に神殿の中を案内してもらった。まあ、孤児院といっても、普通の住み込みの司祭と変わりない生活やね。奉仕活動をしつつ、一般的な教育も受けられる。だいたい3〜4人の子供に、ひとりの年長の司祭が世話役を担当する。
 今はちょうど畑仕事の時間なので、老いも若いも種まきの準備をしてるところ。明るい雰囲気で、ごく普通の農村の風景のような感じやね。
【バルバッツァ】 それを見たファンリーの反応は?
【GM】 悪くはなさそうやね、農村の出やし。おかんを思い出して泣いてたりして。
【バルバッツァ】 あとは神殿の奴らに任せよう。他の孤児とかが慰めて、さっそく友達になってるやろ。
【GM】 まあ、そんな感じかな。
【カノン】 今日は神殿に泊めてもらって、ファンリーと一緒に過ごそう。未来に帰るのは、明日でいいよね。
【GM】 というわけで、孤児院の歓迎会も兼ねたささやかなお別れパーティが開かれた翌朝、キミたちはファンリーと別れてミフォア大神殿を後にします。
【ルミオス】 「じゃあ、また21年後ね〜。カノンの乾いた大根が目印やから」(笑)
【GM】 神殿の前でキミたちを見送っていたファンリーは、やっぱり追いかけようとして、世話役に就いた若い女司祭に止められてたりするんやね(笑)。
【バルバッツァ】 「昨日やった人形を俺やと思うとけ、ボケ〜」
【カノン】 さ、あとは未来に帰るだけやね。

 魔術師ギルドの図書館で調べた結果、過去や未来に飛んだ人物が、その時代にいる自分と触れ合うと、そこに時空の歪みが生じてあるべき時間に押し戻されるらしい。つまり、光の竜巻となって消えたムードロは、やはり本来の時代に帰還してたのだ。
 バルバッツァとルミオスは、過去のオレンブルクにいる自分にタッチすることで、光の竜巻となって未来に帰ることができる。
 まだ自分が生まれていないカノンは……?
 図書館の書物によると、この時代にいる父と母に触れることによって、未来に帰ることができるらしい。これが祖父母だと、4人もいて集めるのが大変なので、ラッキーだった。
 ちなみに、このときオーシュの司教であった父は、母に片思い。

【ルミオス】 思いきって、告白しちゃえ(笑)。
【カノン】 してもらわないと、困りますわ(笑)。

 こうしてカノンが強引にひき合わせたのがきっかけで、両親は付き合うようになり、やがて結婚してカノンを産むのだった。

【GM】 というわけで、キミたちは本来の時代、レムリア暦541年のオレンブルクに帰ってきたよ。最初にオレンブルクを出発してから、1ヶ月後ぐらいかな。
【ルミオス】 じゃあ、親書を持った自分らが、まだどこかを旅してる途中やん。
【カノン】 追いかけていって触ってみたら、どうなるんだろう……。
【バルバッツァ】 『無』に帰すかも知れんな。
【ルミオス】 怖いからやめとこ(笑)。
【カノン】 そやな。やらなアカンことは決まってるんやしな。
【ルミオス】 ミフォア大神殿に行く! ファンリーが待ってるはず。
【GM】 キミたちがミフォア大神殿の礼拝堂に入ると、ステンドグラスから入る極彩色の光の下、奥の祭壇に向けて、ひざまずいて祈りを捧げている黒髪の女性がいる。
【バルバッツァ】 「ファンリー!」と呼ぶ。まちがいなく、ファンリーやからな。
【GM】 その女性は振り向いて、驚いたような顔になる。若い女性やね。20代半ばといったところかな。
【ルミオス】 「ほらほら、これを覚えてるかい?」って、カノンの大根を見せる(笑)。
【GM】 するとその女性は立ち上がって、たまらず駆け寄ってくる。両手を広げて待つバルバッツァとルミオスの横を通り抜け、カノンに抱きついた(笑)。
「あのときの記憶のままのお姿……本当に未来の世界から来られてたんですね」
【ルミオス】 そう。だから、うちらはさっきファンリーと別れてきたばかりやねん(笑)。
【GM】 「わたしは21年待ちました。会いたかったです、カノン、ルミオス、おじさま」
【バルバッツァ】 おじさまって、そっちのほうが年上やないか〜。
【カノン】 そっか、もう、ファンリーのほうが年上になってるんだなぁ。
【GM】 ファンリーは、今はオレンブルクに住んでるわけじゃなく、534年に再興したカルファン王国に住んでいる。キミたちとの約束を信じて、今年に入ってから、ちょくちょくオレンブルクに通ってたみたいやけど。
【ルミオス】 今は故郷に帰ってるんや。
【GM】 それだけじゃなくて、結婚して、子供が2人生まれてたりしてる。お相手は、カルファン王国の王様。
【カノン】 えー!?
【ルミオス】 めっちゃ出世や。
【バルバッツァ】 何があったんや、いったい。
【GM】 そりゃあ、いろいろと(笑)。21年前のキミたちとの旅を除けば、12年前の邪神の眠る島での冒険が、彼女の人生の大きな転機やったらしいね。
【カノン】 私たちとの旅であれだけ怖い思いをしとったのに、さらにそんな島を旅しようとするのが、ようわからん。
【GM】 それはもう、旅立つ運命を背負っての冒険やったから。どんな旅だったのかは、ファンリーから聞かされるでしょう。
 今夜は語り明かすんやろね。
「あれは、12年前の7月。暑い夏の昼下がりのことでした――」

÷÷ おわり ÷÷
©2001 Hiroyoshi Ryujin
Illustration ©2001 Jun Hayashida
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